"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第7話

 正直、目下一番の悩みがこれである。

 ただまあ、これは言わば余計なお世話感が強すぎて、自分から前に進めていない状態である。

 それに本編を見ていないからさりな――ルビーが彼に対して抱く心境に変化があるのかどうかが全く分からん。

 というかそこは本編で語られてんのかね?

 結局分からんのだから、それは置いといてと。

 

 

 本編を見ないにわか活動をしていて個人的に一番救いたいと思ったのは、間違いなくあいちゃん。

 もしかして書いている内にあいちゃんの存在が邪魔になりここで消しとかないと、という理由なんじゃないかと思わせる程に、個人的にはそれ以前とそれ以降で別の作品じゃないか思うくらい世界観が違く感じてしまった。

 本編ではもしかしたら違うのかもしれないが、数多の二次創作を読んで統計的にそう思っただけ。

 

 まあそれ抜きにしても、ここは創作の舞台だが、ここにいる俺もあいちゃんも実際に生きている人間だ。

 創作の舞台だったとしても、ここは死んだら決してやり直しがきかない現実。

 あいちゃんが転生出来るのか保証もない為、絶対に死なせる訳にはいかない。

 というか転生出来るんだとしても、現実の知り合いが殺されるという事実にまず遭遇したくない。

 

 

 そして作品を通して、一番可哀そうだと思ったのがルビーである。

 彼女は、本編では伝わっているのか分からないが大好きな吾郎せんせーが亡くなり、推しであり愛していた母、星野アイもまた目の前で凶刃に斃れた。

 彼女視点で考えると愛した人が次々と殺されていく、自分の前世も含めて死兆星に愛され過ぎいッ、と思わず叫んでしまいたくなる程に、大切な人たちが死んでいく。

 そして極めつけは兄であるアクアマリンよ。

 

 ――大好きな兄は前世で愛した先生!?

 

 なんて乙女ゲームになりそうな展開だ。

 だが、そんなのゲームや漫画、アニメといった創作物だからこそ成り立つ物語。

 しかしここは俗に言う"リアル"だ。

 ここは世界観としては二次元の舞台ではあるが、決して俺が二次元の世界に迷い込んだ訳では無い。

 それは、俺が俺として今ここにいるから。

 そうなると俺の視点としては、ここが二次元の"想像"ではなく前世と同じ"現実"になる。

 即ち俺からすれば、原作では決して見えない、存在しない声や気配、雰囲気等が全て感じ取れてしまう。

 何も自分がこの世界を知っている全知全能だという俺ツエー的な話ではなく、もっともっとスケールが小さく、そして身近な話。

 

 原作に一切登場していない人間が、この世界では圧倒的だ。

 何せ人類は数十億といるんだから。

 俺がここにいて生きているという事は、原作に登場しない人類もまたこの世界では普通に生きているという事。自由に考える事が出来、話す事が出来る。

 施設で働いているおばちゃんや他の人、学校ならば教師や生徒、外を歩けば働いている人や道すがらですれ違う人たち。

 そんな、原作には登場しないであろう彼らの日常を、俺は今日まで目にしている。

 言ってしまえばこの世界において『推しの子』のストーリーは局所的な話題でしかない。

 何故ならアイドルといった芸能界に興味が無い人からすれば、『推しの子』という物語が現実に起きたとしても、一切の興味が湧かないから。

 そんな実際に生きている人がいる世界では、原作として美しい部分を美しいと思わない可能性だって大いにある。

 あいちゃんが将来ストーカーに刺されたとしても、この世界は何も変わらずに回り続ける。

 

 

 一つの事柄に対して無数の意見がある、それが現実だ。

 

 

 本編では互いに互いの前世を知っているのかは分からないが、分かったからといってどうしようもない。

 近親婚なんて現実じゃまず無理。

 まあ互いが家族の縁切って戸籍上他人になれば不可能ではないのかもしれないし、事実婚だって可能ではあるが、次のハードルは子供。

 二人から生まれてくる子供は奇形児といった何かしら障害を持った子になる可能性が近親婚の場合高くなる。

 正直な話、近親婚で子供を作るのはこれから産まれる子に対して「奇形児になっちゃうかもしれないけど、それでもいいよねっ?」なんて言ってるのと同義だと思ってる。

 一代の近親婚ではそこまで心配ないという話も聞いた事はあるが、仮に子供が無事健常児だったとしても、やはり許さないのは実の兄妹を異性として思い子供まで産んだという世論。

 そしてその二人は有名人であり、必然的にマスコミが追う。

 

 正直な話、原作においてはストーリーの流れで双子の存在がバレなかっただろうが、現実世界でそのルートを辿るならば、マスコミや一般人全員にプライベートが一切バレないだけの、アイドル(嘘吐き)として星野アイが圧倒的に輝き魅せるしかない。

 星野アイにはプライベートなんて存在しないと思わせる程にアイドルとして魅了し続け、世間から嘘という眩しさで完璧に双子の存在を隠すしかない。

 そんなの現実的じゃない。けれど彼女にはそれを可能にしてしまう圧倒的なカリスマと才能がある。

 

 けれど、いくら彼女とて双子が芸能界に入り世間の目に認知されたなら、その双子の今後について隠す事は不可能。

 何せ彼女は最強で無敵のアイドル(嘘吐き)ではあるが、決して全知全能の神なんかではないのだから。

 星野アイは自分をより良く見せる、見られる為であれば神の如き才能を有している。

 故に自分に対して他人がどう思うのか、言っている事と思っている事に差異がある事を感じ取る事が出来る。勝手な推論だが、俺はそう思っている。

 

 だが彼女にも、存在している"他人"を隠すのは無理だろう。

 彼女が、我が子である双子の事で世間に対して行えるのは、あくまでも"星野アイに子供はいない"という事だけ。

 双子が芸能人として活動してしまえば世間は、星野アイとは無関係に二人を認知する事になる。

 そうなればマスコミは、一般人は星野アイとは一切関係なく、彼らの事に対して興味を抱く。

 

 故に二人が恋愛関係になったとしても、彼女にそれを隠せるスキルは存在しない。

 

 仮に双子を実の子だと世間にバラしたとしても、恐らくそれは変わらないと思う。

 何故なら、彼女はこの二人に対して本当の愛情を持つから。

 本当の愛を抱く二人に対して、彼女は果たして世間に対して二人の恋愛関係は無いと、否定の"嘘"をつけるのか。

 彼女は二人が本気で抱く想いに嘘はつけるんだろうか。

 

 "嘘はとびきりの愛"と確か彼女は言うんだったか。

 果たして嘘というとびきりの愛と、やっと手に入れた絶対に嘘じゃない愛。

 真実の愛を向ける二人に対して、彼女はどちらの愛で応えるのか。

 

 ここまで考えておいて、正しい答えは分からない。

 何せ俺は"にわか"だ。真相なんて分かるはずもない。

 

 そしてどちらにせよ、もしそうなれば彼らは実の兄妹で愛し合い子供を産んだ人として世間からは認知される。

 近親婚は現代の日本人の価値観においては、言わば禁忌。

 世論としては物議を醸す事間違いなしだ。

 原作でも多分SNS等での世論の反応が出ていたとは思うが、この現実においてはその世論がマジョリティーであり圧倒的な主役だ。

 芸能ニュースに興味が無い人でも"実の兄妹で子供を産んだ"というワードはインパクトがあり、どうしても耳に残る。

 何せ滅多に聞かない言葉であり、倫理観的に禁忌だと思っているなら、その事実に対して人は"おめでとう"ではなく"やばい"と捉える。

 そうなるとこの件について世論は"良くない事をした"と判断し、そういった世論に流されるメディアは視聴者が食いつきやすい"マイナスな面"を大々的に報道するだろう。

 結果、見事に炎上。

 彼らがどこかでひっそりと暮らそうとしても、人間が現代社会で生きる以上は必ず外部とのコミュニケーションが発生する。

 そして人の口には戸が立てられない故、どこにいても彼らの噂は立ってしまう。

 そんな世間に怯える人生は果たして、幸せと言えるんだろうか?

 未来の事だ、同じルートで進んだとしても結果はそうならないかもしれない。

 

 

 だが、かなりの確率でそうなりやすいのが"現実"である。

 

 

 自分より不幸な人がいて欲しい。

 根本的にそう思う人が多いのが、現実のマジョリティーなのだから。 

 

 

 本編だとルビーは生まれ変わってから誰か好きな人を見付けるんだろうか?

 それとも一途に、吾郎せんせーの事を胸に秘めて生きていくんだろうか。

 にわか的思考だと、『推しの子』のルビーを取り巻く環境はあくまでも作品の中だからこそ輝くのであって、現実世界でそんな事が起きれば残酷過ぎる、悲劇にもならない惨劇だ。

 意を決して前世の想い人に会いに行ったら、実はかなり昔に死んでいました。

 もしくは前世の想い人は、実はもうこの世にはいないと知る。

 その想い人は実は転生しており、実の兄でした。

 その兄もいずれは結婚するだろう。現実的に考えれば実の妹ではない他の誰かと。

 家族なのに、妹なのに、彼女は兄の晴れ舞台をどの様な想いで見るんだろうか。

 そんな"作品"を見ているなら、それはそれは感動するだろう。何て一途で健気な素晴らしい子なんだろうって。

 しかしここは"現実"であり、俺からすれば自分にとって関わりが生まれるかもしれない状況であり、殊更そんな未来を変えられる状況下にある。

 

 しかし言ってしまえばこれはあくまでも他人の、しかもただの色恋沙汰。

 あいちゃんの様な、死といった解決が必須となる案件でもない。

 それに人様の色恋に顔を突っ込むと馬に蹴られて死ぬと相場が決まっている。

 

 

 でもなあ……。

 

 

 なんて考えが昨日から堂々巡りだ。

 この考えはやはりお節介、いやそれを通り越して図々しいんだろうか。

 原作に沿うのがやはり正しいんだろうか。

 原作よりも、ほんの少しでも彼女の心が軽くなる選択肢は無いんだろうか。

 

 

 ……どうしよっかなあ……。

 

 

 堂々巡りは恐らく、寝落ちする直前まで続いていたに違いない。

 

 

 

 

 ……ああ、全く、キッカケがないと動けない自分が嫌いになる。

 

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