"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第80話

 今日も星野家は平和である。

 夕食を食べ終え、テレビを観ながら全員で寛いでいる。

 母さんはソファーに座りながらいつもの如くスマホを弄っており、妹のルビーもまた最近は良くスマホを弄る事が多くなった。まあアンチとのリプ合戦が過熱する様になったのかもしれない。

 テレビに映っているバラエティー番組に、シークレットゲストでカズヤ君が登場した。

 出演する映画の宣伝らしい。

 メインを飾る役ではないみたいだが、それでも番宣で引っ張りだこなんだから彼はすごい。

 あ、特別コーナーでカズヤ君が一緒に番組に出てるアイドルを口説いてみるらしい。

 何やら緊張気味のアイドルの前に立って、企画がスタート。

 カズヤ君はアイドルの顎を指で上げて、耳元に顔を寄せる。

 

『俺には惚れないでね? じゃないと、君を離したくなくなるから』

 

 顔を真っ赤にしたアイドルが膝から崩れ落ちて、慌ててカズヤ君が支えた。

 しかしアイドルは力が入らないのか、カズヤ君に凭れかかったままで動けない様子。

 正に骨抜きという言葉に相応しい状態であった。

 何やら先程から二人の、スマホをタップする指の音が聴こえる様になったが……まあたまにある事だ。

 カズヤ君が出るコーナーが終わったので、俺もスマホに視線を落とす。

 今日も星野家は平和である。

 

 

 

 

 あくる日、小学校から帰宅した俺は、真っ直ぐに自宅ではない場所へと向かってた。

 目的地に着き、中に入る。

 そして、途中で出会った人物に挨拶し、目的の部屋へと辿り着いた。

 ドアを開ければ、そこには一人の男性。

 

「ん?」

 

 そう言って彼は振り向いた。

 

「何だ、早熟か」

 

「早熟かじゃないだろ、そっちが呼んだ癖に」

 

 俺の言葉に「あーそうだったそうだった」とから返事を返してくる男。

 

「それで? 結果はどうだった」

 

 質問をすれば、男は机の上に置いてあった封筒を俺に投げてくる。

 中身を取り出して、入っている紙を確認した。

 

「……くそっ、またはずれか」

 

 書類の内容に思わず悪態を吐いてしまう。

 三年以上、成果が無かった。

 

「全く、良くやるもんだよマザコンが」

 

 不意に声を上げた男性を睨み付ける。

 

「それを言うならあんたもだろ、実家暮らしが」

 

「はっ? 全然ちげえしっ、俺はまだ自分の才能を信じてるから余計な事に金出すの面倒だから便利な実家にいるだけだしっ! というか俺みたいなの多いからなっ、クリエイターあるあるだぞっ?」

 

 何やら言い訳がましく捲し立てる子供部屋おじさんを無視。

 五反田泰志。ドラマや映画の監督をしている。

 俺の、俺たち双子の父親を捜す協力者だ。

 

「そんで? 次はどこのどいつを調べるんだ?」

 

 一度咳ばらいをした彼が、仕切り直す様に問いかけてくる。

 調べるとは、DNA鑑定の事。

 基本的には彼に、指定した人物のサンプルを専門機関に郵送してもらい、検査してもらう。

 そして結果が届いたら彼から連絡を貰い、確認。

 俺の家に届けるのは他の二人にバレる可能性が高いので、こうして五反田家にお邪魔して作業をしている。

 この男は前から俺ら双子と母さんの関係をかなり疑っており、仕事で一緒になる機会も多かったので把握しかけていた。

 ならばと、この男のDNA検査をして血縁関係が否定された事を確認し、協力者にした。

 ――俺はアイの子どもだ。

 そう暴露した際に「だろうなと思ったよ」なんて返してくるもんだから、どちらにせよ時間の問題だったと思う。

 この男は最初アイを観察していたらしいが、あまりにもぼろを出さないので俺たちにシフトした。

 そして俺やルビーの態度からほぼ確信したらしい。

 まあルビーは特に母さんと同じ現場じゃないと騒いだりした事もあったから、そのせいが大きいと思っていた。

 だが俺も俺で母さんに視線を向け過ぎていたらしく、深く反省したのが記憶に新しい。

 

 アイが俺たちの父親に殺されるかもしれない。

 そう告げれば彼は、渋々とだが協力者として了承してくれた。

 この男はアイに役者としての可能性も感じており、自身の作品にもたまに参加させる程だ。

 俺とも最初の出会いから色々と面倒を見てくる部分もあった。

 そしてアイを主役に抜擢した作品が話題となったり、アイに感謝する事はあれど恨む可能性が無い人物。

 故に裏切る心配も無い為、協力者として候補に挙がった。

 円滑に父親探しをするにあたり、幼児である俺だけでは無理で、やはり大人の協力が必要だったというのもある。

 

 そしてDNA鑑定だが、如何せん金がかかる。

 子役である俺には出演したギャラは入るが、それでも雀の涙程度でしかない。

 なので出世払いとして、この男の私財も投げうってもらっている。

 彼が依頼したら必ず作品に出演するという条件のもと。

 また、出演以外の裏方の勉強をする事も併せて。

 だがいざ協力者として活動させてみればこの男、然程金も無く全く使い物にならない。

 故に、DNA鑑定を始めてから三年以上経つが、鑑定した件数は満足いくものではなかった。

 それでも俺一人よりはかなりマシな成果が出ているのは事実なので、こうして現在に至っている。

 

 彼の言葉を思い出す。

 次のターゲットか。

 基本は地毛が金髪の人物を優先的に選定している。

 何せ母さんは青みがかった黒髪に対して、俺と妹は金髪。

 ならば地毛が金髪の人物が、可能性として非常に高くなる。

 けれども、俺のDNAと親子鑑定をしても一致する人物はいなかった。

 身近な金髪といえば事務所の社長である斉藤壱護だが、彼は真っ先に鑑定を行い白だと確定した。

 スマホを操作し、俳優の画像を表示。

 

「次はこの男にする」

 

 そう言って画面を見せれば、彼が覗き込んでくる。

 

「おお、中々有名な俳優じゃねえか」

 

「そういった部分から、まずは潰していかないといけないしな」

 

 彼の言葉にそう返した。

 アイは俺たちを一六歳の時に産んだ。

 その時のアイは今ほどの活躍は出来ておらず、有名になり始めたといった具合。

 しかし母さんはプライベートで交友が広い訳ではないので、必然的に業界関係者の可能性が高くなる。

 なのでまずは名の知れた俳優や男性アイドル、有名なプロデューサー等から潰していき、その後徐々に無名な人物へと対象を広げていく予定だ。

 金があれば、片っ端から鑑定を行うが、俺たちには資金がなさすぎる。

 なので毎回対象をピックアップしてから、行動に移さなければならなかった。

 ちらりと、目の前の男に目をやる。

 この男が金さえあれば。何度そう思った事か。

 だが無いものねだりは意味が無い。

 考えを切り替えて、次回の対象について考える事にした。

 今回のターゲットはアイと過去に数度共演した経験があり、今度アイが出演するバラエティー番組で共演する予定。

 その際にこの人物のサンプルを入手する、そういった算段になっている。

 今までのターゲットに関しても同様の方法や、五反田監督作の映画やドラマに出演する人物からサンプルを入手してきた。

 これが、今の俺たちに出来る最大限の方法だった。

 

「そういやよ」

 

 不意に声が上がり、顔を向ける。

 

「有名どころから行くっていうのは別に賛成なんだが」

 

 やけに勿体ぶる言い方に、首を傾げる。

 

 

「――有名どころならまず、あのお兄様に行かないのは何でだ?」

 

 

 心臓が大きく高鳴る。

 この男の言う"お兄様"。

 つまりはカズヤお兄様。

 カズヤ君の事である。

 確かに、一番の有名どころといえば、恐らく大半の人が真っ先に彼の名前を挙げるに違いない。

 

「あのお兄様は子役の時に、CMでアイと共演した事もあるらしいしよ」

 

 彼の言葉を反芻する。

 確かに、カズヤ君が小さい時に母さんとCMで共演したのは、さりなちゃんから聞いた事がある。

 彼女がアイとカズヤ君が一緒のCMに出てると、はしゃいでたのが懐かしい。

 だが、カズヤ君は……。

 前世の思い出。

 さりなちゃんを含んだ三人での記憶。

 そして病院の屋上での彼との会話。

 彼は愛に溢れている優しい子だ。

 その印象は今でも変わっていない。

 それに彼の地毛の色についても、俺の候補から真っ先に外れる。

 だから、俺は……。

 

 

「彼は髪の色も元々黒だ。だから最後でいいだろ」

 

 

 カズヤ君が俺たちの父親ではないと信じている。

 

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