"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

90 / 182
第89話

 俺の目の前には金髪蒼眼の男の子が立っている。

 その右目には、見覚えのある星形のシルエット。

 星野アクア。

 確か本名はアクアマリンだったっけ。

 アクアでしか覚えてないから、うろ覚えだった。

 彼の中には、雨宮先生がいる。

 原作通りの流れでそうなるんだろうとは認識していたが、今名前を呼ばれて確信した。

 妙に懐かしさを感じさせる声のトーンが、彼を雨宮先生だと俺に教えてくれた。

 それにしても、双子揃って全く同じ登場の仕方をするもんだ。

 ならば、こちらも同様に。

 

「ありゃ、もしかして部屋間違えちゃったかな?」

 

 俺の言葉に、彼は冷静な表情のままで僅かに眉を上げた。

 アクアに関してもルビーと同様に、前世の人物として接して欲しいならそうするが、そうでないなら初対面として接するつもり。

 彼が、口を開く。

 

「いや、さっき妹がこの部屋から出てくるのが見えたから、誰と一緒なのかなって思ってさ」

 

 おけ、了解。

 

「あ、ルビーちゃんは君の妹なのか。確かに、見れば見る程似てるなあ」

 

 初対面として、彼とは接する。

 まあ普通に考えて、雨宮先生は大人だったんだ。

 生まれ変わったよ、なんていきなり言ってしまえば相手に信じられなかったり、気味悪がられる可能性だってある。

 故に、その対応は当然だと思った。

 

「まあ双子だしね」

 

 アクアの言葉に頷きを返した。

 情報を小出しにしてくれる感じだ。

 

「んじゃ、ルビーちゃんの双子なら、良かったら何か飲んでく? 奢るよ」

 

 そう伝えて、空いた席に視線を送れば、アクアはしばし迷ってからルビーが座っていた席に腰掛けた。

 

「何飲む?」

 

「コーヒーでいいよ」

 

 おっとなー。

 

「ブラックで大丈夫?」

 

「……砂糖とミルクは欲しい」

 

 まあ、味覚は精神年齢じゃ誤魔化せないしね。

 オッケーと伝えて席を立ち、カウンターへ。

 比較的甘めの豆を選んでコーヒーを注文し、砂糖とミルクを用意してもらう。

 出来上がった商品を受け取り、個室へと戻った。

 

「ほい、お待ちどうさま」

 

 そう告げて彼の前にコーヒーとミルク、砂糖を置けば「ありがと」という言葉が返ってくる。

 若干子どもを演じている雨宮先生が面白く、つい苦笑してしまった。

 砂糖とミルクを混ぜてゆっくりと飲み始めたアクアを見やり、話しかける。

 

「そういえば君の名前は?」

 

「……星野アクア、です」

 

 何やら名乗りに僅かな詰まりを感じたが、気にしない。

 とりあえず俺の認識通り、アクアと呼べる様になった。

 

「んじゃアクアは、妹のルビーちゃんが心配でここに来たのかな?」

 

「……まあ、そんなとこ」

 

 その言葉と共に、僅かに視線を逸らした。

 とりあえず、今世でもシスコンは確定と。

 そんな彼に、笑みを持って返す。

 

「ま、確かに可愛い可愛いルビーちゃんがこんなおっさんといたら、お兄ちゃんとしては気がかりで仕方ないかー」

 

「いや、別にっ……まあ、そんなとこかな」

 

 一瞬慌てて否定しようとしたが、すぐに撤回し肯定した。

 もしかしたら前世の雨宮先生に言ったロリコンという言葉を、結構気にしていたのかもしれない。

 素が出そうになるが、何とか演技に戻した彼。

 中身を知っているからか、アクア弄りがちょっと面白い。

 微妙な表情を浮かべていたアクアだが、咳ばらいをした。

 

「そんな事より、ここにカズヤ……さんがいて驚いたよ」

 

 どうやら話題を変えるらしい。

 

「さっきみたく、カズヤ君でいいよ」

 

 言い辛そうにしていたので、訂正の言葉を伝える。

 俺としても彼には、そう呼ばれた方が馴染みがあり違和感を持たなくて済む。

 俺の言葉に、アクアは頷いた。

 

「カズヤ君は妹とはいつ頃知り合ったんだ?」

 

 若干口調が前世に引きずられてる様に思えるが、俺は大人なのでスルー。

 

「んー、多分二年くらい前かな」

 

 振り返れば、まだそんなもんかという感想を抱く。

 なんか毎日メッセージでやり取りしてるし前世からの付き合いもあるから、個人的にはもっと長く感じていた。

 しかし俺の言葉にアクアは「そんなに前から……」と、神妙な表情を浮かべる。

 まあ、認識の違いだろう。

 やがてアクアは、真剣な表情で俺を見てきた。

 

 

「……あの子は、君に何か変わった事を話してきたりはしたかい?」

 

 

 おい、せんせ丸出しになってんぞ。

 けどまあ、スルーしてあげよう。

 恐らくは、それ次第で自分の正体を明かすか悩んでいるんだろう。

 そして言い方的には、双子がお互いにそれぞれ前世の記憶があるという事は、共有済みなのかもしれない。

 でも、その質問に何と答えようか。

 俺としては別に、雨宮先生だと知っている事を伝えても何ら問題ない。

 だが、ルビーの事を考えると、難しくなる。

 彼女は、これまでの話しぶりからして、アクアに自分の前世の正体を明かしていない。

 何せルビーが明かせば、アクアの中にいる雨宮先生も明かすはずだから。

 そうなれば、せんせが生きてたとかそんな連絡が来てもおかしくない。

 まあ、反対に実の双子になってしまったから、彼女の好意を向けられる訳にはいかないと、雨宮先生だけが隠している可能性は無きにしも非ず。

 

「変わった事って、どんな事かな? アクアが少し前までおねしょしてるってのは、聞いた様な気はするけど」

 

 故に、確かめる。

 俺の言葉に「……あいつっ、何でこの人にそんな事話してんだよっ……」と顔を赤くし俯いたアクア。

 ブラフだったが、合っていたらしい。

 ルビーからは双子の兄がいるという話すら聞いたことが無い。ごめんよせんせ。

 ……ま、とりあえず把握した。

 

「それ以外には……あいが大好きでめっちゃ応援してるとかって事くらいかなあ」

 

 そう続ければ、彼は顔を上げた。

 

「他に、何か変わった事はあるの?」

 

「……いや、無いなら大丈夫だよ」

 

 やや間を置いてアクアの声が返ってくる。

 彼の言葉を聞いて確信した事。

 それはこの双子が、互いの前世の正体をまだ把握していないという事。

 理由としては、ルビーの場合はせんせがいる事が分かれば、俺に連絡してくるだろう。

 何せ彼女の前世の正体を、俺は既に明かしたんだから。

 なのでルビーがアクアの正体を知らないのは、今日まで接してきた反応で明らか。

 そしてアクアに関して。

 これは先ほどの彼の呟きで、はっきりとした。

 彼の口から出た、ルビーの事を「あいつ」と呼んだ二人称。

 それは一度たりとも、雨宮先生の口からさりなに対して、向けられた事はなかった。

 そしてその直前に、ルビーの事を「あの子」と呼んでいる。

 つまりルビーの事を、さりなと少し重ねながら見てはいるが、正体は知らない可能性が非常に高い。

 そしてやはり、ルビーが前世の正体を彼に明かしていないのなら、俺の口から言う事は出来ない。

 まあルビーの方から前世はさりなだよって話された訳でもないしね。

 よって、二人がそれぞれの正体を明かし合うまで、俺からは何も触れない事にする。

 そこは俺が関わっていい問題じゃないから。

 

「まっ、ルビーちゃんには俺と会ったって事、黙っててくれると助かるかな。今やってるあいの番組観てないのバレちゃうし」

 

「ああ……まあ、あいつなら確かに怒りそうだな」

 

 俺の言葉に、げんなりとした表情で呟いた。

 ご愁傷様アクア君、君もきっと帰れば怒られるんだろう……。

 内心で、目の前の彼に両手を合わせておく。

 そうだ、雨宮先生なら知ってるだろうけど、一応ルビーとしては知らないだろうから、言っておくか。

 

「アクア」

 

 名前を呼べば、視線を合わせてくれる。

 

「ルビーちゃんは、きっとあいみたく嘘で本当の自分を隠しちゃう、本当の自分に気付けないかもしれないから……その時は助けてあげてね?」

 

 そう告げれば、アクアはきょとんとした顔を向けてくる。

 確かに、何の脈略もない話だ。

 その表情になるのも無理はない。

 だが、俺は知っている。

 

 

「……気が向いたら、考えといてやるよ」

 

 

 さっすが、せんせ。

 

「頼んだよ、お兄ちゃん?」

 

 そう返せば、無言でコーヒーを飲み始めた。

 そんなアクアを見ながら、俺も残ったコーヒーを飲み干す。

 子どものアクア、大人の俺。

 随分と状況が変わったもんだ。

 でも、変わらないものもある。

 

 この部屋に流れる……昔、病院の屋上で感じた空気とかね。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。