ビビリなセイレーンさんの悲鳴配信   作:とぅりりりり

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ボケどもが

 

 

 

「んで……」

 

 探索拠点である主任の研究所に転移で戻って来た直後、私と助手は床に座らされた。

 ほげーっとゆるい顔をした雛美がそれを斜め後ろからレスリーを抱っこしながら眺めている。

 

「渡辺んちの関係者拾ってきて、ossの野郎に目撃されたのになんの処置もせず逃して帰ってきたと」

「まあ、そうとも……とれるんじゃない?」

 

 もうちょっとプラスに考えてほしいよね。前衛が一人確保できたんだから。

 

「なめてんのかてめぇぇぇぇぇぇ!」

「なめてんのは主任の身長と態度でしょおおおおおお!」

 

 小柄な主任にアームロックをかけられた。どうせ貧弱なんだからやめてよね!ちょっとは痛いんだから!

 

「上等だ! ツラ貸せ榧杜! 久しぶりにボコボコにしてやる!」

「いーやーでーすぅー! だいたいあんたインチキ能力だからマトモに相手するだけ時間と労力と体力と霊力の無駄なんです!」

 

 アームロックを振りほどいて取っ組み合いをするがしれっと霊術使って身体強化術してる主任にこっちも身体強化術で応戦する。素のフィジカルはそのままなんだからお互い強化したら素のフィジカルが強い方が勝つ!

 

「なんか喧嘩してる?」

 

 レスリーと指をつきあわせながら「いーてぃー」と遊んでいる雛美は怒号に挟まれた助手に声をかける。

 

「わりとよくあることなので……」

「そっかー」

 

 閑話休題。

 

 座り直して雛美と契約を結ぶために書類を作成する。呪術が混ぜられたインクと霊力が練り込まれた特殊な紙を使う。

 これによって、口外しないように契約して万が一の事故を防ぐのが主任からの指示だった。

 

「よし……と。報酬の額とか禁止事項、他に確認あれば今のうちにね」

「んー、おっけー」

 

 ちょっと待って本当に目通した?

 

「あーでも、あーし一応手伝えない日とかもあるよ」

「まあそりゃそうよね」

 

 大学生らしいので覚悟はしていた。まあこっちも配信タイミングは自由だし、ある程度の都合をあわせることは可能だろう。

 やっぱりあの徘徊ボス的なのをあしらうためにももう一人欲しいけど……。

 改めて雛美についての詳細を本人に確認した。

 

 戦葉雛美。異能は【治癒】。シンプルに便利な異能で貴重ではある。

 得意なことは近接戦闘。双剣使いで高等学園は卒業し、現在は大学生(モラトリアム)をしている。

 たまにあるよね。異能と得意なこととやりたいことが一致しないタイプの異能者。

 まあ私たちは前衛が欲しいから問題なし。

 雛美の方はとりあえず片付いた。あとは……

 

「で、ossか」

 

 主任が話がまとまったタイミングで切り出してくる。主任は腕を組みながら面倒そうに呟いた。

 

「響介。お前確認できたのは名前くらいだったか?」

「はい。あまり長く視認する時間がなかったので……」

 

 魔眼は視ることで相手の情報を確認できる。逆に言えばちゃんと視れないと情報も全て視ることはできない。

 

「チッ……しゃーねぇな。疲れるからあんまりやりたかねぇが」

 

 そう言って配信アーカイブで該当の場面を再生する。荊儀流譜が少し荒いが映っている場面だ。

 主任はそこで動画を停止し、メガネを外して睨むように目を細める。

 魔眼は生身のものしか情報を読めない。助手も魔眼のランクは高いけどその例に漏れない。一応視界共有とかがあれば擬似的に離れた場所の光景でも魔眼は使えるらしいが、準備がいる。

 ではなぜ主任が私とそう大差ない歳で主任をやっているのか。それはこの能力によるもの。

 映像や別の媒体を挟んだ物の情報も読み取れるという『特別な魔眼だから』だ。

 

「荊儀流譜……あー、やっぱリアルタイムじゃない映像記録じゃ情報欠けるな」

 

 そうぼやきながらも画面を凝視しながら手元のメモにペンを走らせる。

 一通りメモし終えた主任は眉間を押さえながらレスリーにホットアイマスクを差し出されてそれをつけて「あ゛ー……」と疲れた声を出す。

 

「しんっど……とりあえず、手がかりになりそうなことはいくつかわかったぜ」

 

 荊儀流譜。第二江東市(だいにこうとうし)を拠点としたとある一勢力に身を置いている若者。異能は【茨の城】。細長い紐や鎖、イバラなどを自在に生成し操る能力。

 生成系かぁ。使いこなしてると厄介だから苦手なタイプだ。

 

「ある勢力まではわからない感じですか?」

 

 助手の疑問に主任はアイマスクをちらりとずらしてジト目で言う。

 

「一応わかったけど面倒っていうかあんまり触りたくないトコだな」

「まあ……第二江東市の勢力なんてどこもそんなものでは?」

 

 そう、第二江東()

 元江東区の一部と、海に作られた人工島を指して言う地域。

 現在はossや反社会勢力の根城となっている現代日本のスラム街。

 そんな場所の勢力に善良なものなんてそもそもないでしょ。

 

「……吉田組っていう若者の集団だな。これは前にoss調査のときに記録を見たことがある」

 

 なんでも、元は異能者による犯罪組織であったが、リーダーが変わって以降は第二江東市で中立を保つ集まりとなっているらしい。

 過激派でも穏健派でもなく、ただ所属している若者たちの思うまま行動することから厄介な集団としてoss内でも特殊な立ち位置にいるとのこと。

 

「ぜって~ろくなことにならねぇ連中だな」

「といっても……言っちゃなんだけどossってドロップアウトした異能者とか、申告逃れした異能者ばっかりなんでしょ? 若者っていうならなおのことなんとかなるんじゃない?」

 

 異能者は高校生になると異能者が通う特定の学園で異能や霊術について学ぶ。そして、その後に政府の管轄である防人衆に所属するか、認可を受けている一部の会社や工房などに就職するくらいしか就職先がない。警察とかも一応あるらしいけど。

 大学生なんかはモラトリアムだのエリートコース志望だので学園卒業後に防人衆に所属する前の最後の自由期間だなんて言われたりもしている。根本的に異能者に自由はあんまりない。

 そんな異能者の義務から逃げた人たち。つまり、本来受ける教育を受けていないか、受けていても落ちこぼれくらいでしょう。

 

「どうせしばらくはボス対策とか雛美都合とかもありますし、早めに直接荊儀とやらを探しに行っちゃおう」

「……水琴さん……大丈夫ですか? めちゃくちゃoss相手を舐め腐ってませんか?」

 

 助手の不安そうな顔に主任も頷いている。レスリーさらうんうん言っている。

 

「大丈夫大丈夫。別に一人で行くわけでもないんだし」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 私はossたちに囲まれている。

 

 あるぇー?

 

 全員ニコニコだったり、警戒だったり、困ったような顔だったりしているが、全員共通して『目が笑っていない』ってことが問題だ。

 ヤバい。ガチで殺気を向けられている。

 

「よくもまあのこのこと出てこれますね」

「それだけ自信があるってことじゃない?」

 

 明らかに未成年っぽい子供もいれば私とそう歳が変わらないであろう二十歳そこそこに見える人までいる。

 中でも2人くらいヤバいのがいる。他と比べても霊力だけで強いのがわかる。

 

「あ、あの~……ちょっと荊儀くんとやらに話があってぇ……」

 

「は?」

 

 ガチトーンの声音で圧をかけられて思わず黙ってしまう。圧をかけてきた穏やかそうな顔をして殺気が凄まじい茶髪の男になぜか首を傾げられる。

 

「ルフのやつが帰ってこないのはそちらが理由なのでは?」

「ええっと……ちょっと誤解がありそうなので一度話をですね……」

 

 助手が私を庇うように前に立つ。

 そう、私達は話をしにきただけなのだ。

 

 あの後、ossについて調査をし、吉田組についても調べ、第二江東市へとやってきた。

 霊術を使って怪しそうな場所をいくつか回り、2つ目で見事に吉田組の拠点らしき家へとたどり着いて……囲まれた。

 

 まさか呼び鈴鳴らす前に囲まれると思っていなくてマジ焦りしている。

 

 話を……話をさせて欲しい……!

 もっと言うと言い訳する余裕をください。

 

 

「あらら。なんか度胸あるやつらだと思えば、随分と変わった客が来てんね」

 

 

 緊張状態に変化を与えたのは一人の青年だった。私達を取り囲むossたちがその声に反応して、突如現れた青年を見る。

 

「で、ここがどこかわかって来たんだよな?」

 

 その青年は派手な服を纏い、亜麻色の髪と赤い目をした得体の知れない人物だ。

 が、周囲の反応と、あの口ぶりからして恐らく――

 

「よ……吉田組……の、リーダーであってる?」

「正解~」

 

 ニコニコと人当たりのよい顔でこちらに近づいてくると、助手が警戒したように構える。それでもリーダーである青年は冷静に私と助手に軽い調子で言った。

 

「そんな取って食うわけでもないのに怯えんなって」

 

 この取り囲まれてボスに接近された状況でどう落ち着けと?

 私が焦っているのもそうだが、助手も相当緊張しているのがすぐそばにいるからわかる。

 その焦りは、助手がリーダーを睨んで直後に形となった。

 

「……いっ!?」

 

 突然頭を押さえて蹲る助手に、リーダーの青年はけらけら笑う。

 

「覗き見ご苦労。野郎に見せるもんはねーよ」

 

 魔眼防止の効果。玲衣さんのところで食らったものより強い反応だ。

 魔眼相手に大量のダミー情報を与えて目と脳に負担をかける、魔眼対策としてはポピュラーな手段。シンプルだからこそ、厄介で効果的。

 

「とんだ秘密主義ですね……! そんなに視られたくないことでもあるんですか……」

「勝手に人のこと視といて随分とご挨拶なこった。んで、何しに来た? ことと次第によっちゃ帰すわけにはいかねーんだけど」

 

 青年の言葉に回りのossたちも動きを見せる。

 大人しくしていればこの社会不適合者どもめ……。

 ふと、カオちゃんと前に話したことを思い出す。

 

『交渉のテーブルにつくにはそれだけの立場、あるいは力があることが前提だよ。取るに足らない相手とは交渉する価値なんてそもそもないし、奪い取ればいいだけだからね』

 

 話をまともに聞くつもりがないチンピラどもに私が遠慮をする必要なんて――最初からないじゃない。

 

短縮動作(ショートカット)3、短縮動作(ショートカット)2、短縮動作(ショートカット)5。

 

それぞれ事前に登録しておいた術を決めておいた動作をするだけで発動させる技術。

強い術や規模の大きい術は登録できないが、時間稼ぎならこの術で十分。

 

 短縮動作(ショトカ)によって周囲のossたちを退けて、強めの術でリーダー以外の強いoss2人の動きを制限する。

 

「話を聞けって言ってんでしょうが! あんまりこっちを舐めてかかるならこっちにだって考えが――」

 

 視界が翳る。

 術で動きを止めたはずの茶髪の男が術を振りほどいて接近していた。一瞬接近していることに気づけなかったほどの早さ。

 

 あ、やば、死ぬかも。

 

 振りほどいたということは、よほど霊力が高いか、無理やり破れるだけの能力があるか。

 見極めが甘かった。マジで死ぬ――

 

 半ば死を覚悟したところで、茶髪の男の腕が止まる。それを止めていたのはリーダーだった。

 

「はいはい、全員ストップストップ」

「でもたっきー! 今この人が――」

 

「下がれつってんの。2度同じこと言わせんな」

 

 今までで一番低い声で牽制すると、茶髪の男は渋々引き下がった。

 リーダーは私に対してさっきの低い声を忘れたかのように明るい声音で話しかける。

 

「ごめんごめん。別に怒らせるつもりはないんだけどさぁ……。こっちもピリピリしててね」

 

 とりあえず話しをする椅子には座れた。ここからどうするか。

 

『交渉っていうのは自分が得をすればいい、なんて考えるだけじゃ大した利益は得られない』

 

 面倒だと思って聞き流していたカオちゃんとの雑談時の『交渉』についての話を必死で思い出す。

 

『まず相手が何を望むのかを考える。そして自分と相手、両方が得をするポイントを考えて、自分の手札を切る場面をしっかり考えなさい』

 

 こいつらが望むこと。そしてどちらも得をするポイントは何?

 私達は荊儀流譜の霊鉱石の行方と、侵蝕地に関する口止めが理由ではあるが、彼らはなんだろう。

 

『手札はただ並べるだけじゃ意味がない。自分の札はしっかり把握しておくこと。これ基本ね』

 

 手札、すなわち使える手段や情報。

 

『ルフのやつが帰ってこないのはそちらが理由なのでは?』

 

 さっき茶髪の男が言ってたことを推測すると――

 

「荊儀流譜と取り引きをしたくて探しにきた。彼と取り引きする場にそっちも加わっていいから、彼の居場所を知っているなら教えて欲しい。もし、知らないっていうなら――協力しましょう」

 

 リーダーはそれを聞いて数秒、思案するように視線を周囲の仲間に移し、息を吐く。

 

「一つ確認するけど、そっちがルフを捕まえているわけではないんだよね?」

「してたらこんな風に顔を出すわけないじゃない」

「それもそうか」

 

 ばつが悪そうに頭を掻いたリーダーは取り囲んでいた全員を下がらせるように顎で家を示し、私に微笑んだ。

 

「じゃ、改めて話をしよっか。俺は吉田(よしだ)田吉(たきち)。お察しの通り、このグループのリーダーだよ」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 アジトである家に通され、魔眼の反動も多少落ち着いた助手とともにリーダーである吉田くんと向き合う。多分……多分同世代、だよね?

 助手の魔眼も使える相手ではないのでほとんど推測だけど。

 

「ふーん、なるほどね。しっかしまあ……ルフのやつがねぇ」

 

 半分は賭けだったが、相手はoss。そもそも防人衆とは反目しているし、何より荊儀流譜の仲間ならそこを黙っていたら話がややこしくなりそうなので侵蝕地でのことを素直に伝えた。

 吉田くんは態度を崩さない。そこまで驚いた様子ではないが、知っていたというわけでもなさそうだ。

 

「彼は霊鉱石っていう希少な鉱石を持ち出していた。素人が持ってても別に得するものでもない」

 

 なら何のために? おおよそ3択まで絞れるが、今回の場合はほぼ1択。

 霊力か霊術あるいは異能のコストに使うか、霊鉱石を素材にした装備を作らせるか、シンプルに売るか。

 前の2つは恐らく今回の場合はないだろう。後者は霊鉱石を扱えるだけの職人に払う金がossにあるとも思えないし、ツテもあるか怪しいところだ。それに、量を考えると装備を作らせるだけの量ではない。

 となると売却1択。そしてその売却先はoss内の別組織。

 調べたところ霊鉱石の流通が裏社会で確認されており、そこを辿るととある組織へとたどり着く。規模はそう大きくないが、異能者関連で悪どく儲けている転売屋のようなものだ。

 

 この吉田組はossで中立を保つ変わった集団であることは既に把握している。つまり、そういった商売をしているわけでもない。

 

「あくまで推測だけど、荊儀流譜は霊鉱石をどこかに売り捌こうとして、なんらかのトラブルに巻き込まれた……ってところじゃない?」

「……………………有り得そー……」

 

 すごく、すごく実感の籠もった呟きだった。

 吉田くんはあごに手をやりながら助手と私を交互に見る。

 

「で、そっちの目的とやらはその霊鉱石と口止め?」

「一応ね。あと、今侵蝕地で探索を手伝ってくれる人間を探してるから……」

 

 可能なら一人で探索して生き残っていた荊儀流譜を勧誘……も考えていた。それどころじゃなくなっているので一旦横に置いておくけど。

 

「まあそっちはとりあえずルフの行方をはっきりさせてからね」

「……水琴さん。いいんですか? この人信じて……」

 

 助手が心配そうに、吉田くんに聞こえるような声で言う。吉田くんは気にしてないみたいだけど、少し離れたところで茶髪の男がちょっと睨んでくる。

 

「俺、女の子とお姉さんは大事にしたいんだよね。さすがに良心?ってもんが痛くて痛くて……」

「うわ……」

 

 ……吉田くんと助手は相性が悪いみたいだ。吉田くんに探索協力を求めるのはさすがにやめておこう。ギスギスされても困る。

 

「その良心とやらを信じさせてもらうけど、手がかりならいくつかあるんだよね」

 

 事前に調べておいて正解だった。

 そう、霊鉱石の流れの元である組織。そして、荊儀流譜が普段このアジトにいるのであれば、彼の私物の1つや2つ、手に入るハズ。

 

「私が彼の居場所、見つけてみせるから私の言うことを聞いてもらえるかな」

 

 私の異能はしょっぱいけれど、霊術であればだいたいのやつよりできることが多い。

 その真髄を見せてあげる。

 

 




探索は数話おやすみだけど事前準備しないと(水琴が)死ぬから許したって
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