ビビリなセイレーンさんの悲鳴配信   作:とぅりりりり

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振り回して、振り回されて

 

 

 

「ご苦労だったな、荊儀」

 

 異能者用の手錠で柱に拘束され、取り引き相手だった下っ端を睨む。

 

「話が違う!」

 

「だが契約通りだぜ?」

 

 契約書を見せびらかしてくる下っ端はゲラゲラと下卑た笑い声をあげて俺を見下ろした。

 

「そっちが大人しく下請けしてたら始末する必要もなかったんだがな」

 

 きっかけは侵蝕地で霊鉱石を見て喜んでいたやつら。

 あいつらから霊鉱石を取り返したはいいが、オレはこいつらと適切な取り引きができているのか不安になった。

 侵蝕地で霊鉱石を夢中で見ていたメンダコ女。あの反応からして『1つ7万円』は安いのではないかと。

 

 そのことを追及したら不意をつかれてこのザマだ。

 

「頭が弱いと大変だよな。俺らには美味しい話だが」

「クソッ!」

 

 ガチャガチャと手錠から抜けようともがくが柱とぶつかるだけで抜け出せない。

 

「うちのボスもよ、防人衆の息がかかってない異能者をわざわざ捨てたくはないらしくてな」

 

 拳銃を突きつけながら男はにやりと笑う。

 

「吉田のガキじゃなくて俺らの方につけ。そうしたら殺さないでやるよ」

「騙してきた癖に今更信用できるかっつーの!」

 

 とはいえ、かなり危機的状況には違いない。

 異能者であるからそう簡単に死なないし、本当に殺されないとは思うが――

 

「まさか殺されない、なんて思ってるんじゃないだろうな」

 

 至近距離で銃口が突きつけられる。

 異能者でも、霊力が封じられていてこの至近距離なら恐らく死ぬ。霊力が封じられたら異能も制限されるし、一般人とそう変わらないレベルにまで落ちているだろう。

 

 どうしよう――。

 

 

「ぎゃあああああああああああああ!?」

 

 

 何か突破口がないか考えていると、耳を刺すような悲鳴。

 ハッとして声のしたほうを見ると、銃を突きつけていた男を屋根代わりの鉄板が押しつぶした。

 

「いったぁ……って、あ!」

 

 鉄板と一緒に落ちてきたのは侵蝕地で見たあのメンダコ女だった。

 

「荊儀流譜!」

 

 なぜかオレの名を口にして、鉄板ごと男を踏んでこちらに駆け寄ってくる。

 

「逃げるよ!」

 

 マヌケヅラした女が、オレに手を差し伸べた。

 

 

――――――――――

 

 

 

 事前に調べた闇市での情報網から辿った組織の足取りを霊術で地図の上に軌跡を描き出す。

 本来であれば体液か髪の毛みたいな体の一部、霊力持ちなら霊力の残滓とかが必要になるけれど、私の霊術改良と助手の魔眼による『個人情報抜き出し』で事足りる。

 半分くらい呪術になってるけどまあ霊術メインだしギリギリ霊術でしょ。

 

 という流れで吉田くんと筆頭にグループの数人と私、そして助手と現場に向かう。

 

 私は吉田くんと助手と一緒に天井上から様子を伺っていた。

 

「おーおー、ルフピンチじゃん」

 

 味方が危機的状況にも関わらず呑気に見下ろす吉田くんは少しだけ面白そうに言う。言ってる場合か!

 

「急いで助け――」

 

「んー……みこっちゃん、囮よろしく」

 

「えっ?」

 

 なるべく目立たないようにと思って霊術の準備をしようとした瞬間、自分がいた場所だけ天井が落ちた(・・・)

 

「ぎゃあああああああああああああ!?」

 

 さっきまで平気だった天井が急に抜けるとは思えない。つまり、吉田くんが私を囮にするためにわざと落としたのだ。

 助手がぎょっとしているのが一瞬見えるけど、それよりちゃんと着地しないと危ない。

 なんとか受け身と霊術で衝撃を緩和してみたけれど、何か踏んだようで転がってしまって少し体が痛い。

 

「いったぁ……って、あ!」

 

 目の前にいたのは荊儀流譜。金髪の髪、整った顔立ち。純日本人っぽくないその雰囲気は非常に目を引いた。

 びっくりした顔の彼と目が合って、もうこうなったら味方であると強く印象づけようと手を伸ばす。

 

 

「荊儀流譜!」

 

 なんかまた踏んだような感触がしたけど、それよりこっちが先だ。

 

「逃げるよ!」

 

 困惑したような荊儀流譜が「う、後ろ!」と言うので振り返ろうとすると結界が銃弾を4発ほど防いだ音。

 あっぶね~。結界張ってなかったら当たってたじゃん!

 

「どこのやつだ!」

「包囲網抜けてきたのか!」

 

 銃以外にも武装をした裏社会のやつらが一斉に私を威嚇するように構えてくる。

 まあね、私異能者だからいくら非能力者が束になったところで別に全然怖く――

 

 ないわけあるか! クッソ怖い! 帰りたい! 大丈夫、勝てる、勝てる勝てる! そう言い聞かせないと怖くて泣きそうなくらい怖い。

 とりあえず吉田くんはともかく助手は私を見捨てないだろうし、今上を確認したら助手までバレるからできるだけ気づかれないように助けが来るまで持ちこたえるか倒してしまうしか……

 

「異能者の女? 吉田のところのやつか?」

 

 にちゃにちゃ笑う男が前に出てきたかと思うと、明らかに他のヤクザとは違う気配。

 あっ、あれ異能者じゃん。終わり終わり、終了ー。

 

 霊術で押し切れるかもしれないけど、フィジカルが強いタイプか異能が強いタイプだと私は多分詰む。どうしよう。

 

 

「はい、ごくろーさん」

 

 

 一秒も満たない思考を遮ったのは目視できないほどの早さで下っ端ヤクザたちを倒して、異能者相手に念入りな重い一撃を食らわせた。

 ズンッと響くような攻撃に、見ているだけで痛そうと思ってしまう。

 そして、それだけでも十分だろうに、追い打ちのように異能者ヤクザの頭を掴んでドラム缶の山に片手で投げ飛ばした。

 

「こ、殺してないよね!?」

「ギリギリ。3分の2……いや、5分の4殺しくらい?」

「半殺し以上!」

 

 指折り数えてけらけら笑う吉田くんが「識文(しきふみ)ー、こっち終わったぜー」と外へ声をかけながら、他のところも無事制圧したようでほっとする。

 

 ぽかんとしている流譜の手錠を霊術で解錠して、他に残党がいないか確認しようとすると、助手からの連絡が入った。

 

 周辺に他の勢力や敵性存在はいないとのこと。魔眼で確認したなら確実だろう。

 

「……た、田吉はともかくお前は今度はなにしにきたんだよ」

「そんなの決まってるじゃない」

 

 散々振り回されたけどこうなったら恩を売ってしっかりメンバーに加えないとね。

 

「スカウトしにきたのよ、荊義流譜。あんたをね」

 

 

 

――――――――――

 

 

 その後、吉田くんたちのアジトに戻って話をすることになったのはいいけど、流譜はずっと不機嫌そうで、特に助手に見られるのが嫌とでもいうような顔をしている。

 まあ魔眼で特定してここまできたから警戒されるのも仕方ないけど。

 

「お前らがどんだけ大層な目的やくっだらねぇ理由があろうと、オレは協力はしない」

 

 嘘でしょ、あの恩があって秒で断られた。

 

「ルフ」

「助けてもらった礼は霊鉱石。それでいいだろ?」

 

 な、生意気〜。吉田くんが咎めるように呼びかけても譲らないという姿勢だ。

 確かに回収した霊鉱石ももらったし、こっちとしてはそこまで損はしてないからいいはずなんだけど釈然としない。

 が、話の流れを変えたのは吉田くんだった。

 

「流譜。お前、みこっちゃんのサポートやれ。詳しいことはみこっちゃんに聞けよ。侵蝕地出入りしてんなら問題ないはずだし」

 

 決定事項というように吉田くんは言うと、流譜はぎょっとして吉田くんのほうを振り返る。

 

「な、なんでだよ! 確かに借りはあるけど――」

 

「……あのさぁ、俺が一から説明しないと駄目?」

 

 呆れ、もしくは苛立ちの混じったため息とともに吉田くんはソファに座る。

 その動作の端々に怒りが滲んでいるようでちょっと怖い。ソファが軋む音すら、威圧感によって響いているようだった。

 

「俺に何も言わず他のoss勢力と取り引きをした。侵蝕地に勝手に侵入して厄介事まで持ち込んだ。他のやつらに心配かけた。今回の件で部外者を巻き込んだ。まだあるけど聞く?」

 

「もうこの時点で役満ですねー」

 

 遠くから茶化すような吉田くんの仲間の声がする。確か識文さんと呼ばれていた人だ。周りにお前ちょっと黙っとけと引っ張られて見えなくなったけど。

 

「俺の落としどころはこの件に協力してくれたみこっちゃんの要求をできるだけかなえてやることと、こんだけやらかしてもお咎めなしは他の奴らに悪いし、示しがつかないか、お前に何らかの仕事か罰を与える必要があるってこと。その両方に合致するのがみこっちゃんの探索手伝いな」

 

「え、ぇ〜……」

 

「えーじゃねぇよ。はっ倒すぞ」

 

 助手を盾にするように位置を変えて吉田くんと流譜の話を聞く。よその組織の内輪の話は怖い怖い。一つ問題があるとすれば私のその行動で助手が「水琴さんはかわいいなぁ」と呑気かつ気持ち悪い顔をしていることくらい。

 

「確かに俺は自由にしていいとは言った。まあね、ossなんてやってるやつは束縛嫌いだからね。そこはしゃーない」

 

 ボールペンを指先でくるっと回して何かに一筆書き込んだかと思うと、底冷えするような声で言う。

 

「自由にしたんならその対価はきっちり支払え。お前が騙されて霊鉱石を安値で買い叩かれた挙げ句、利用されて闇市に霊鉱石が出回った件、俺がこの後片付けなきゃなんねぇ。わかるか? お前も自分の行動の責任を取れっつってんの」

 

 霊鉱石が闇市で売り捌かれているのは吉田くんとしてはかなり激おこ案件なのか、その話題が出た途端殺気が一気に上がったような気がする。

 だいぶガチめにキレてるようで、いたたまれなくなった。いやでもことの重大さを考えれば当然ではある。防人衆がこれを知ったら卒倒して介入しないといけないような案件だし、そこから侵蝕地侵入の余罪がバレてしまうし。

 

 助手を盾にして様子を見守っていると話は済んだというように吉田くんは笑顔を作る。

 

「んじゃ、みこっちゃん。そっちの上の人間、後で話がしたいって伝えてくれる?」

「んー……話まとめるなら私でもいいよ?」

「だーめ。探索なんて危ねえことしてる本人じゃなくて、その上と契約取らないと俺らみたいなはみ出し者は死活問題でね」

 

 言ってることはもっともで、私や助手になにかあったら、誰が責任を取るのか、というのは主任になる。でも主任が知らぬ存ぜぬをしたら吉田くんたちみたいな後ろ盾がない存在は泣き寝入りするしかない。その警戒も当然と言える。

 けど、主任を彼と対面させることに多少の危機感はある。

 だって主任、能力は強いけど吉田くんみたいなフィジカル強者にはそんなに意味ないし。

 万が一主任になにかあったらその被害や影響は私にまで回ってくる。

 

 話をした後の吉田くんは親切ではあるが、妙に信用していいのかわからないものがあるし。てかさっき囮にしてきたしなぁ。

 

 すると、助手が小声で私に耳打ちする。

 

「水琴さん……あの男は信用しない方がいいと思うのですが……」

「まあー、気持ちはわかるよ。ちょっと怖いしね」

「それに、あの取り巻きも厄介なのが多いです。二人ほど上位防人クラスの強さがありました」

 

 つまりめっちゃ強い。そんなメンバーがたかだかチンピラの組織にいるのも解せないけど、そんな相手と敵対するのも嫌だし、手を組んで何か厄介事に巻き込まれるのも面倒。

 

 ……でもよく考えたらあとの責任は主任に丸投げして私は探索やってりゃいいか。吉田くんも上と話がしたいってことだし。

 

「とりあえず、こっちの上には話を通しておくから連絡先を交換しておこう? 私は探索に協力してくれる人が増えればいいだけだし」

「おっけー。じゃ、とりあえずルフについては最悪渋ったら俺が引きずってでも引っ張りだすから」

 

 本人(流譜と主任)の同意が一切ないまま話が進んでいき、助手が「大丈夫かな……」とぼやく中、ossの一派と契約を結ぶことにした。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「榧杜……あたしはお前が嫌いだ」

 

「奇遇ですね。私も主任のこと嫌いですよ!」

 

 

「なに面倒な契約引っ張ってきてんだてめぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

「部下の責任を取るのは上司の役目でしょぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

 つかみ合い取っ組み合い。

 戻ってきてすぐに報告したらこれ。

 

 私たちを遠巻きに見ているのは暇になったからと顔を出した雛美と、呆れている助手。

 

「また喧嘩してる」

「実に見慣れた光景ですね」

 

 

 閑話休題。

 

 

「はー……チッ、しゃあねぇな……。吉田組とか相手にしたくなかったんだが……」

 

 ぶちぶち文句を言いつつ、そっちの契約はやってくれるようで引き継ぎを済ませると、主任は追加の予算を置いていく。

 

「とりあえず、次の探索はメンツ増えて色々と変わるだろうから、しっかり準備しろよ。レスリーの整備も明日には届くってさ」

 

 じゃあとりあえず雛美の武装と、消耗品と、あと探索中に調査したい項目をまとめて……とやることをピックアップしつつ、雛美と第四室支店で装備品を見に行くことにした。

 

「いや~、めっちゃ高いやつでしょこれ? 買ってもらっていいの?」

「さすがに外部持ち出しはやめてね。予算っていっても侵蝕地での調査で使うものとして買うんだから……」

 

 といっても、武器を新調したくらいで、装備の方はインナーを買ったくらいだった。アクロバティックな動きをしてたし、重くなるような装備は好みじゃないらしい。

 

「他に必要なものある?」

「んー? いや、斬るものあれば十分~」

「ならいいけど……防人衆でも前線出る人の装備ってもっとしっかりしてるもんじゃないの?」

 

 私も実際の防人衆を知らないのである程度の推測だけど。

 

「いやぁ、あーしも最前線は多分出してもらえないだろうからさー。前線装備はよー知らんのよね」

 

 あ、これ絶対重たいアレじゃん。

 やめてやめて。私に背負えないよそういうの。

 

「ま、今までこれでやってきてたし? 必要になったらオネダリするってことで!」

 

 よかった、重い闇深掘りにならなくて。

 そうだ、一つ大事なことがあった。

 

「そういえばさ、この前霊鉱石持っていったやついたでしょ? あいつが仲間になるかもしれないけど、大丈夫?」

 

 人見知りとかするタイプには見えないけど、事前に言っておかないと当日びっくりするだろうし。

 そう思っての確認だったのだが、予想外にも雛美は驚いていた。

 

「えっ!? あーし前衛リストラ!?」

「違う違う!」

 

 流譜のやつが前衛だったとしてもどうせこっちは後衛だし雛美に前衛をしてもらうのは変わらない。だけど、なぜかやけに前衛にこだわる雛美は第四室支店のど真ん中で私にすがりついてきた。

 

「捨てないで~! 後方支援以外ならなんでもするから~~~~!」

「捨ててない捨ててない! 話をちゃんと聞いて!」

 

 

 この後、騒ぎを聞いて「なにしてんの……」と呆れたカオちゃんに引きずり出されたりしたけど、なんとか雛美の思い込みは解けたようで、当日までの準備は慌ただしく過ぎていった。

 

 ……思ったより探索してない日にのんびりできないね?

 

 

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