ビビリなセイレーンさんの悲鳴配信   作:とぅりりりり

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私の知らないところで色々あるのやめて?

 

「ああああああああああああああああああああああっ!?」

 

 

 探索初日を終えた次の日、二人揃って疲れていたためか遅めの朝を迎え、響介が朝食とコーヒーを準備をしていると、水琴の絶叫が聞こえてびくっとしていると水琴がタブレット片手に給湯室に入ってきた。

 

「ねえ! なにこれ!!」

 

 示したのはアップロードされている動画。サムネイルが絶叫しているときの水琴のもの。

 社内のサーバーであることは間違いないが、配信だけではまだ少なかった目撃者を遥かに超える数に晒されていることになる。

 

 響介は「え、ぇえ……?」と困惑したようにケトルを置いて動画を再生してみる。

 字幕やらの編集はされているが……響介には見覚えがあった。

 

「あれぇ……? これ昨日僕がまとめておいた探索でかわいかった水琴さんの動画ですね……。いやでもこんな編集はしてないよな……」

「なにしれっとそんな動画作ってんのよキモいわ! ていうかあんたじゃないなら――」

 

 2人揃って視線を感じた方を見る。

 そこにはじっと見ているレスリーが物陰に隠れるように様子をうかがっていた。

 

「あ・ん・た・かぁ~ッ!」

「そうでーす! 褒めてくださーいっ!」

 

 嬉しそうにきゃーっ!と言いながら頭を吊るされるレスリーは悪いことをしているとは思っていないようだ。優秀なAIではあるが頼んでもいないことまでやるなんて、と響介は眉間を抑える。

 

「さっさと削除して! あんたのアカウントでしょ!?」

 

 レスリーを吊るしたまま響介にビシッと指を突きつけるが、響介の方はスマホの方を見て「あ~……」と気まずそうな顔をする。

 

 再生数、およそ10万。異能者以外の社員まで見ていることが察せられる数字に水琴は魂が抜けたように口を開けながら「あ~ぁ~」と鳴き声をあげていた。

 

「今消しても多分これ誰かがもう保存してますよ……ダウンロード件数も見れるんですけどもう既に……」

「終わり――」

 

 自分の醜態を思い起こしながら水琴はソファにもたれ掛かって干されていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 絶望の縁からなんとか生還したわ。

 そもそも配信の時点で生き恥なんだし、もう諦めるしかないと判断して朝食を取りながら今日の予定について考える。

 横でレスリーがバッテリーパックから伸びるコードの先端をちゅうちゅう吸っているのが見えて思わず凝視してしまう。

 

「やみー、やみー。明日はアルカリの乾電池をぷりーずみーです」

 

「電池でもいいんだ……」

 

「本当は製造者曰く『商品化の際に子供が電池を飲み込むなどの真似をすると危険というクレームが来るのが面倒なため電池供給はやめましょう』とのことでしたが、たまには違うエネルギーをいただきたくなるのです♡ ちょっとワルな方がれでぃーは魅力的なんですよ?」

 

「ワルのレベルが低すぎる」

 

 まあでも製造者の考えもわかる。こんなふざけた人格AIつけておきながらそういうところはなんというか普通っていうかまっとうというか……。

 

「そういえば製造者に会ってなかったわね」

「お会いしたいのですか?」

「まあ一応は挨拶しておかないとだし……配信に協力してくれてるようなもんだしさ」

 

 主任からレスリーを借りたような形なのでどこの研究室だとか、誰が作ったとかまでは一切わからないまま運用していた。

 今後も使うなら挨拶やらはしておくべきだろう。

 

「ナルホドナルホド。では『あぽいんとめんつ』のため、このレイちゃんが製造者へ連絡してもよろしいでしょーか?」

「できるの? じゃあお願いするわ」

「はい。フィードバックのついでに送っておきます」

 

 びびびび……と相変わらず通信しているのを口に出しながら人間でいうところの力む動作をしてフィードバックを送信している。

 本当に、細かいところまで凝っているなぁ。

 

「あ、ところで製造者って誰なの?」

「おや、言っていませんでしたっけ?」

 

 聞いてない聞いてない。

 まあさすがに有名な人でもないだろうし――

 

 

「第十一研究室、室長の守屋玲衣(もりやれい)です」

 

 

 ダンゴムシになってしまった。

 あらゆる意味で頭を抱えてこのままベッドでお昼寝したい。

 嘘でしょ、なんで説明してくれなかったのよ主任!

 

「水琴さん、どうしました?」

 

 ミコトムシ状態の私に気づいた助手がコーヒーを持ってきてくれた。でもそれどころじゃない。

 

「も……守屋一族……怖い……きらい……」

「あー……お名前からして……三女の方……ですかね」

 

 守屋一族。異能者家系でありながら政府ではなく、この組織の重役について成果をあげている人たち。

 守屋専務。または守屋教授と呼ばれる老爺がその家長であり、その娘たち三人は守屋三姉妹と恐れられているのだ。

 次女はまだいい。長女と三女は下手に関わらないほうがいいと言われているほどに。

 

「なーに丸くなってんだお前」

 

 突然、主任の呆れた声がして顔を勢いよくあげると、研究室の入口に主任が立っていた。

 そのまま、許可も取らずずかずかと入ってくる。

 

「主任! 守屋玲衣さんってどんな人ですか!? 主任確か守屋さんのところで育ったんですよね!?」

 

「えー……まあそうだけど……玲衣? 触るな危険。終わり」

 

「ヤダーーーーーーッ!」

 

 主任がこう言う時点でもう終わりだ。

 この人、フィジカルは雑魚だけどそれ以外はかなりすごいし。認めたくはないけども。

 よくわかっていない主任が助手に事情を聞いて、「ああ……」と心底どうでもよさそうにつぶやく。

 

「別に、あいつは自由なやつだから挨拶とか気にしなくていいと思うけど……」

 

 そうかな……そうかも……。

 それならしれっと忘れるって手も……。

 するとこのタイミングでレスリーが「ぴこーん」とYの字のポーズをして激しく主張してくる。

 

「製造者からお返事が届きました。『十五時にこちらの研究室でお会いしましょう』だそうです。あ、返信不要だそうで」

 

「勝手に時間指定されてる!? イヤーーーーッ!」

 

 もう駄目かもしれない。

 やだよ〜怖いよ~。せめてどんな人なのかわかったらまだ怖くない。未知はなによりも怖い。

 

「怖がっても仕方ありませんよ。そういえば晴美さん(・・・・)、何しに来たんですか?」

 

「ああ、響介(・・)お前、メガネ昨日ダメにしてただろ? 魔眼用の予備メガネ貸してやろうと思って。あと昨日の探索のことについて――」

 

 

 えっ?

 

 

「あ、助かります。晴美(はるみ)さんも忙しいのにわざわざすみません」

 

「ん、別にもののついでだしな。つかお前は予備も作っとけよ。前のメガネとか何年ものだっつの」

 

 

 な、なんか気安いし親しげ……。

 

 なぜだろう。すごくもやもやする。今まで私の前だと主任のこと名前で呼んでたことないはず。

 いや、元々はあの人のとこから引き抜いたからおかしくはないはずなんだけど……。

 私の視線に気づいた助手が主任から預かったメガネをかける。前の分厚いメガネとは違う丸眼鏡は今までダサさはマシになっている。

 

「どうですか水琴さん。似合います?」

「まあ、まあ……似合うんじゃ、ない?」

 

 なんでこんなことでもやもやしているんだろう。

 でも今更名前で呼ぶの、恥ずかしいからきっかけが欲しい。

 

「しゅに……」

 

 主任と響介って仲いいですよね。

 そう言おうとしたのにいざとなると声が出ない。

 

「主任たちってデキてたりします?」

 

 言葉選びが最悪――!

 

 高校生でも言わないでしょうが!

 自分のコミュニケーション能力の悲惨さを思い出して思わずやっちまったという顔に出ないようにぐっとお腹に力を入れて我慢することしかできない。

 

「そんなわけないじゃないですか。晴美さんは事実上、僕の師匠ってだけで」

 

「へ~……」

 

 まあ私もそうだけど?

 同じ弟子同士なのに会ったことないってのも不思議だけどお互いの過去に触れかねないからこれ以上は聞けないやつだね?

 

「おう、てめーらの乳繰り合いはどうでもいいんだよ。切り抜き動画の反響が思ったより強くて一般社員からも次の配信への期待が高まってる」

 

 そう言って主任に届いたらしき要望などがまとめられた書類を渡される。

 死ぬほどどうでもいい要望も念の為後ろの方にあるが、主任が重要度が高いものをまとめてくれている。

 

「次回配信は一週間はあけないようにしろ。あと……まあ、すぐには無理だろうけど、メンバーを増やすことも視野にいれておけ」

 

「メンバーですか……」

 

 昨日はなんとかなった。でも二人とレスリーだとどうしても限界はある。

 せめてあと一人……二人くらいは戦闘ができる人間が欲しい。

 

 どうしたものかと考えているとレスリーが機材置き場へとぴょこぴょこ駆けていき、ガチャガチャやったかとおもうと、両手にごついアームを装備してドヤ顔で現れた。

 

「ふんっ、ふんっ! レスリーバトルモードです! いかがですかマスター!」

 

「あんたは配信担当だから下がってなさい」

 

 しょんぼりとアームを戻したレスリーの背中にはAIロボなのに哀愁が漂っている。あんな小さい体で霊力もないのに戦闘なんて無理無理。

 

「とりあえず人手は欲しいですけど、場所が場所なので慎重に決めようかなと……」

 

「最悪機密さえ守れるなら外部から引っ張ってきてもいいが……まあそううまくはいかないか」

 

 侵蝕地なんて本来即死クラスダンジョンに好き好んで近寄ろうなんて輩はいないだろうし……本当にどうしたものか。

 

 主任は用事が終わったので帰ったが、私は仲間を増やすことを、はじめとしたこれからのことについて思案する。

 

「苗木、結局どうします? 他の研究室に売るか取り引きするならとりあえず全室に通達とか出しますが……」

 

 助手が持ち帰った苗木を示しながら仲間よりも直近で解決するべき問題をあげたので先にそちらを片付けようと決心した。

 

「いや、苗木も含めて素材に関しては先に話をしたいところがあってね」

 

 元々カスリスナー煽りで自分で育てるとは言ったものの、探索とかの負担を考えるとこの二人しかいない研究室で育てるのは無謀だ。貴重な素材をドブ捨て行為はさすがにするつもりはない。

 

「断られたら他の研究室にも……とは思ってるけどカスコメントしかしないやつらが喜ぶことしたくない……」

「謎の意地……」

 

 主任に任せるという手もあったけどそれよりも、適任がいる。

 レスリーの製造者に会う前にそちらに話を通すため、急ぎメールを送りながら着替えと荷物を整理した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 レスリーを念の為ポケットに入れてスリープモードにしておく。この後そのまま製造者に会いに行くんだし。

 ちらちら移動中に視線を感じるのは多分配信か切り抜き動画のせいだ。

 フード被って隠れたい。でも今更やっても目立つから諦めてさっさと目的地へと向かう。

 

 

「ここは……第四研究室ですね?」

「そ。知り合いがいてね。ここなら他より遥かに信用できるから」

 

 持ち帰った素材を助手に任せてやってきたのは別の研究室。研究室の入口は室長の性格が出る、なんて言われているが一理あると思う。

 私の研究室は入口周りがごちゃついていて物置きみたいになっているのだが、ここ第四研究室は整頓されていて、入ってみれば他人を招き入れるのに慣れているのか華美ではない程度に飾られていて気遣いが行き届いている。

 

「すみませーん。連絡していた榧杜ですがー……」

 

 数秒の沈黙。パタパタと駆け寄ってきた少年がにっこりと微笑んで出迎えてくれた。

 

「お待ちしていましま榧杜室長。うちの室長はただいま他の案件が長引いておりまして、中でお待ちいただけますか?」

 

 礼儀正しいけど赤い髪に緑の目……そして異能抑制のメガネ。モロにあの血筋だ……。

 隣で助手も苦い顔をしているのがわかる。

 どう見ても中学生くらいにしか見えない少年がなんで対応を任されているのかとか気になることは多いが、ここの室長のことを考えると大丈夫だろう……多分。

 

「カオちゃん忙しいの?」

 

 案内された先でソファに座る。助手も隣に座って荷物はすぐ取れる床に置いた。

 内装からして室長の趣味っていうか……部外者との取り引き案件が多いからめちゃくちゃしっかりしてて居心地が悪い~。

 全体的に上品にまとまっていてソファも高そうだ。

 

 少年に出された紅茶は前に室長同士で会ったときに出されて私が美味しいと言ったものだ。覚えていてくれたことにちょっと嬉しくなる。

 

「まもなく室長がいらっしゃいますのでもうしばらくお待ちくださ――」

 

 少年が礼をするその直前、応接室に新たな人影が現れる。

 

 

「おっまたせー! コズミックにカワイイカワイイカオちゃん参上~」

 

 

 ふわふわの銀髪。バランスの取れたスタイル。可愛らしいパステルカラーと黒の差し色ワンピースに派手すぎないアクセサリー。

 バッチリ決まってる女の子の姿がそこにあった。

 お人形さんみたい、というよりまんまお人形さんなかわいさ。

 ウインクしてふわりと裾を翻すと少年にもういいとでも言うように出るようジェスチャーしてこちらに近づいてくる。

 助手が隣で呆然としていた。

 そういえば助手はここ数年幹部とか室長とかと直接会うこともなかったっけ。せいぜい主任くらいで。

 

「ほんっと、まいどまいど直前に連絡してくるんだから。次は早めに連絡するように」

 

 口では文句を言いつつもその表情は優しい。

 カスリスナーでささくれた私の心にはじわりとくるものがあった。

 

「カオちゃん~……」

「どしたの。ずいぶんと辛気臭い顔しちゃって」

 

 思わず涙声になってしまった。

 さすがに……さすがにないとは思うけど一応聞いておきたい。

 

「カオちゃん、配信見た?」

「それがねぇ、まとまった自由な時間がなくて見れてないんだよね~。配信してた日は出張してたし。無事だってのは配信見てた部下から聞いてたけど」

 

 困ったように手を頬に添える仕草。申し訳なさそうに目を伏せているが私にとってはそのほうが嬉しいのである。

 

「カオちゃん゛んんん! やっぱりカオちゃんしか勝たん゛んっ」

 

 一番信じていた相手がカスのリスナーではないことに安堵した。

 これでカオちゃんまでカスリスナーだったら立ち直れなかったかもしれない。

 しかもこの様子だと切り抜き動画も見てなさそうだった。神……。

 勢い余ってカオちゃんの腹部に抱きつく。ちょっと痛い。そういえばそうだった。

 

「え、なになに? とりあえずお茶飲んで落ち着いてよ」

 

 よくわからないけど引き離そうとポンポンと肩を叩いてくるカオちゃん。渋々離れると、カオちゃんは向かいの椅子に腰掛けた。

 

「……あの、失礼かもしれないんですけど……」

 

 ずっと黙っていた助手が怪訝そうな目でカオちゃんを見ている。

 あ、もしかして魔眼で全部わかるのかな。

 

男性(・・)……ですよね?」

 

 自分を疑うかのように目を細めているが特に間違っていない。

 目の前にいるのは銀髪美少女。何も知らなければ騙されてしまうだろうと思うくらいには精巧だ。助手は魔眼があるから気づけたにすぎない。

 

「うん、カオちゃん"本体は"男だよ」

 

 カオちゃんは男の人だ。

 今目の前にいる美少女はカオちゃんの分身(アバター)

 カオちゃんの異能によって遠隔操作しているカオちゃんお手製のボディのため、勢いよくぶつかると肉体と違って硬い。

 

「改めて――東京本社、第四研究室の室長、薬袋薫(みないかおる)分身(アバター)で悪いけど――ウチじゃいつものことだから慣れろよ、助手クン?」

 

 可愛らしい演技から一転して、素に近い男性的な口調で挨拶すると、助手のすぐ近くにある素材や苗木に一瞬視線を動かしてから私をまっすぐ見た。

 

「で、大方察しはつくけど、ご用件は?」

 

 

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