ビビリなセイレーンさんの悲鳴配信   作:とぅりりりり

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天国と地獄を交互に展開されるとストレスマッハ

 

 

「なるほどねぇ。霊草の苗木……」

 

 持ち帰った苗木はほとんど手を付けていない。かろうじて鉢植えに植えているだけだ。

 

「カオちゃん、確か実家が霊草栽培してるとこだったよね?」

「うん。だから栽培のノウハウはあるし、研究室にあると助かるけど……いいの?」

 

 知識があることを含め、預けるならカオちゃんが適任だろう。主任や他の研究室もできなくはないだろうけど……

 

「ウチで育てることも考えたけど、育成の手間とか考えると効率悪そうだし。あと、もちろんタダじゃなくて、霊草が育ったらこっちにも分けてほしい。それと探索するときの物資や装備の提供に協力してほしいの」

 

「ハイハイ、そういうことね」

 

 他の研究室よりは協力しやすいと判断した下心もある。甘えている形だとは思うが元々同じ組織。部署が違うものだと考えれば協力し合うのが本来だが、色々とややこしい関係ができているのも察しているのでカオちゃんが一番安牌だ。

 電卓片手に何やら見積もりをしているカオちゃんに話を続ける。

 

「具体的には治療薬とか含めた消耗品や霊具の優先的な取り引き、防具や装飾品の購入優先権利……あたりとかどう?」

 

「ん~、優先的な卸しは可能。ただその内容だとこっちが得しすぎかな。もうちょい自分の持ってきたものの価値を考えて取り引きしなさい」

 

 諭すように言いながら霊草の売値を提示される。とんでもない額だ。研究室によっては予算吹き飛ぶんじゃ?

 

「んっとね、それも含めてカオちゃんに素材買い取りとかしてもらうのも考えているんだよね」

 

 正直、他の研究室に売るのも考えた。だが、現状二人しかいない研究室。複数の研究室と取り引きやらをするのはコストがかかる。

 その点で言えば相手を一つに絞った方がこっちも他の業務に専念できるし。

 

「今みたいにカオちゃんは適正な取り引きしてくれるって信じてるから。別にカオちゃんが他の研究室に売ったりするのは好きにしていいよ」

 

「今の褒め落としは悪くないね~。ま、随分高く評価されてるみたいだし? こっちも短期、長期ともに利益は出るからいいでしょう」

 

 パチッと電卓のボタンを押す軽快な音が響く。

 

「十七研究室は侵蝕地における魔物素材や採取したものを第四研究室に納品し、適正な報酬を得る。納品するものは第四研究室が判断する。ここはこれでオーケー?」

 

 こくこく頷くと、カオちゃんはにっこり笑って続けてタブレットを取り出す。

 

「ではもう一つ。この苗木を納めてくれるのであれば、報酬として今後、第四研究室の商品及びオーダーメイド品を優先的、安く提供する。苗木が育ったらその霊草もある程度第四研究室と第十七研究室で分け合う。これで構わないかな?」

 

 特に問題はない。用意してあったタブレットで契約書を作成してスッと差し出してくる。

 

「うん。取り引きはそれで」

 

 渡されたペンでタブレットに署名する。念の為あとで印刷してもらおう。

 

「オッケ~。じゃ、今後は僕に直接メールするか、組織端末で第四研究室のショップページから発注してね。今日中には水琴とそっちの助手クンのアカウントアプデしとくから。霊装の現物見たい場合は研究室じゃなくて四室支店の方に行けばいいよ。事前に言ってくれたらオーダーメイドもできるしね」

 

 何から何まで気配りが行き届いている。知り合いサービスとはいえ親切すぎて拝んでしまう。

 カオちゃんに抱きついて感謝を伝えたい気持ちをぐっとこらえていると、助手が何かきになるのか、口を開こうとしては閉じているのを察する。

 

「どうしたの?」

「いえ……今更で申し訳ないのですが……」

 

 助手は気になることがあるのか、じっとカオちゃんを見ている。目の前にいるのは本体じゃないから、魔眼でも読み取りきれないせいで気になっちゃうんだろうね。

 

「たしか第四研究室は少し前に代替わりしたばかりでしたよね? 最近就任したばかり……ってことでしょうか?」

 

「ああ、先代がなぜかたまたま(・・・・・・・)大怪我して引退をすることになったからね」

 

 なんでだろうなぁ、不思議だなぁ、めぐり合わせかなぁ。

 そんなわけあるか。

 

「カオちゃん……カオちゃん、なんかした?」

「僕は"前室長には"何もしてないけど? 前室長が引退するってなって誰が室長になるか争い始めた同僚はトバしたけどね」

 

 意訳、なんか同僚が前室長を追いやって上に立とうとしたから同僚を追放してついでに自分が室長になった。

 カオちゃんもやっぱり組織の人間であるなぁ……としみじみ思う。敵対はしたくない。

 

「ま、上に行けば行くほど争いは起こるもんよ。水琴みたいな零細研究室だと見向きもされないけど、第四研究室となるとさすがにね」

 

 第四研究室――。

 この組織における「霊具開発と生産の要」である。

 霊具とは主に治療薬から消耗品の霊術や霊力のこもった道具などで、第四研究室は全研究室の中でも最もその分野に強いとされていた。

 カオちゃんはそれに加えて霊装と呼ばれる異能者向けの装備品や装飾品も手掛けており、まだそちらは霊具よりも小規模ながら、徐々に表社会でも流通するようになる見込みだ。

 

「探索のときのアイテムも服もカオちゃんが作ったやつだよ」

 

 探索前に霊装を探してカオちゃんに泣きついたら少し前に展示してたサンプルの中から選んでいいと言われたのでペンギンパーカーを買い取った。

 そのついでに、探索に有用そうな道具も買っておいたのだが、初回はそこまで使うことがなかったなぁ。

 ふと、響介を見るとなんとも言えない顔をしていた。

 

「ああ、あのペンギンのやつですか……」

 

 すごく困ったような声で呟かれた……。何か悪いの?

 そう思っていたらカオちゃんにすら首を横に振られた。

 

「なんでよりにもよってあれ選んだの……他の衣装もっとかわいいのあったのに」

「え? かわいいじゃんペンギンパーカー」

 

 フードを被ればペンギン気分。私の武器がちょうど黄色のメガホンだからクチバシみたいでかわいいと思うんだけどな。

 

「ま、衣装含めた装備はお披露目やプロモーション代わりにもなるから、そういう意味ではできるだけ新しいものを選んで欲しいんだけれど……ま、それはおいおいでいいか」

 

 話がまとまったし、タブレットやらをしまったカオちゃんをじっと見る。

 ぱちっと目が合ったので「なぁに?」と微笑み返されてやっぱり私の拠り所はカオちゃんしかいないかもしれないと思えてきた。

 

「あのさぁ、カオちゃん……」

「うん?」

「一緒に侵蝕地探索……してくれたり、しない?」

 

 ものは試しと勢いで口にしてみたものの、カオちゃんの表情はよろしくない。

 

「正直、行きたいのは山々なんだけど……これでも結構やることが多くて、探索に行くほどのまとまった時間はしばらくは難しいかな」

 

 正直ダメ元で言ったのでそこまで悲しくはなかった。

 だってカオちゃんは研究に商品企画、製造やらほとんどの仕事をしている。しかもカオちゃんは霊装のコラボ企画とかも最近控えているとかだったはず。

 正直こうやって親身に対応してくれているだけでかなりありがたいことだ。

 

「だよねぇ……」

「でも僕としては直接探索したいのはあるから、少し落ち着いたら一緒に行けるかもね。いつになるかはまだちょっとわからないけど」

 

 数ヶ月先までまとまった時間が取れないようで、こういうやり取りくらいなら時間を作れても、探索となるとさすがに無茶だ。

 仕方ないね。

 時間を確認するとまだ少し余裕はあるけど、遅れないように次の十一研究室に行くことにしよう。

 

「お茶もなくなるし、そろそろ出るね。今日はありがとう」

「あれ、今日は装備か商品見ていかないの?」

 

 カオちゃんの作品は隣のショップにもあるので買っていくのもいいけど、この後挨拶に行くし荷物は抱えたくない。

 

「実はこのあと第十一研究室にお邪魔することになってて……」

 

「何やらかしたの?」

 

 そういう認識されるんだ……。

 ただでさえ行きたくないのに気が重くなってきた。

 

「いや、配信機材で室長さんにお世話になったからご挨拶しとかないとって……」

 

「今からでも遅くないからバックレた方がいい」

 

「そんなに」

 

 カオちゃんがここまで言うなんて……。

 知り合いみたいだけどどんな人なんだろう。

 

「あいつはなんというか……まあ……仮にも室長になるだけの理由はあるけど……うーん……」

 

 そもそも研究室とはうちの組織の場合『特別部署』という扱いになる。

 本来、開発やらの部署が会社にもあるし、なんなら研究室という括りではなくて組織側にも開発室が存在している。

 『第○○研究室』というナンバリングがされた研究室は、選ばれた一部の優秀な異能者がのびのびと研究に没頭できるように設けられた名誉ある特別な立場。

 といっても、さすがに一桁の研究室と二桁の研究室だと扱いが違う。後の方にできた研究室は実績が薄いから。私はほとんど異能や研究成果というより霊術方面が理由でもらえたようなもんだし。

 十一研究室というとなんとも言えないラインの数字。それでも室長になっている以上はなにかしらあるとは思うけど……。

 レスリーだって作ってるし。

 

「あいつ、変なものは作るけど未だに商品として出せるものやめぼしい成果はあげてないから……定期的に作ったり研究レポートは出しているけど」

「私より活動しているだけ上等じゃん」

「まあ……気をつけなよ? ヤバそうと思ったらダッシュで逃げなさい。追いかけては来ないはず。死んだふりしたら逆に危ないから」

「熊か何か?」

 

 そんなこんなでカオちゃんの研究室を後にして、十一研究室へと向かう。

 研究室では黙っていた助手が、ぽつりと呟いた。

 

「随分仲がよさそうでしたけど……」

「ああ、昔ちょっとね」

 

 ある意味お兄ちゃん……いや、アバターの見た目的にはお姉ちゃん? まあ本人のこと考えたらお兄ちゃんでいいか。そういう感じだと思っている。

 なんか助手がちょっと考え込んでいるようだったけど結局そのわけを話すことはなかった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 やってきた研究室の前は非常に静かだった。

 人の気配が感じられない。妙にひんやりとしている。

 研究室入口もシンプルで飾り気がないため、本当にここであっているのか不安だ。一応人の手が入っているのか、埃一つないけど、それに比べてなんというか……無人の感じがすごい。

 

「本当にここ十一研究室であってる?」

「はい、人間ふうに言うとレイの実家というところですっ」

 

 ポケットから顔を出したレスリーがない胸を張って肩に乗ってくる。リスかな。

 というか実家って……生まれた場所って意味ではそうかな……そうかも……。

 

 入りたくないなぁ……。

 入り口前でぼんやり突っ立っているとひやりとした感覚に襲われる。

 

 

「――入らないのですか?」

 

 

 耳元で、誰かが囁いた。

 

 

「ぎゃあああああああああああっ!?」

 

 

 助手がびっくりしたように私を見るけど私にしか今の囁きは聞こえていなかったのか、いきなり叫びだした私に驚いているようだ。多分、ほとんど無意識で異能が乗っかってしまったんだろう。

 慌てて周囲を見るけど何もいない。レスリーの声でもなかった。

 

「むぅ。製造者。イタズラはおやめください。マスターが警報音よりも人を驚かせてしまいます」

 

 レスリーがどこか不貞腐れたように言うと、霊力の揺らぎを感じ取ることができる。

 

 

「ふふ……いい反応を……ありがとう……ございます……生悲鳴です、ね……」

 

 

 蝶のような形をした霊力が集まって形を成していく。

 やがてその形ははっきりと実体化した。

 

「え、あ、あの……守屋室長……ですか?」

 

「はい……お待ち、していました……」

 

 そこにいたのは背が低い――わけではなく、車椅子に腰掛けた女性だ。

 長い真っ直ぐな金髪とほとんど肌を見せない出で立ち。顔と手くらいしか肌が見えない。

 一言で言えば美人である。しかし、ゆったりとした喋り方にどこか虚ろな目、そしてなにより――何の異能を使ったのかわからないから怖い。

 霊術も使っているとすれば私ですら知らないオリジナルのものか、複雑に組み合わせているかのどちら。どっちにしろろくなことはしていない。

 

守屋玲衣(もりやれい)、と……申します。先日の配信……楽しませていただきました」

 

 にっこりと穏やかに微笑むが、この人本当に楽しんでいたのか?という気持ちのせいでなんて返せばいいのかわからなかった。

 というか、よく見ると……レスリーによく似ている。まさか、レスリーのモデルは自分なんだろうか。

 髪色も目の色も一致しているし、なんなら顔も表情こそ似ていないけど顔のパーツはよく似ていた。

 

「立ち話もどうかと……思いますので、こちらへどうぞ……」

 

 車椅子を操作して研究室の中へと招き入れてくれた彼女は応接スペースを示し、さっきの蝶のような霊力に包まれて一旦どこかへと消える。あ、なるほどそういう仕組みね。

 守屋三姉妹の末妹……そういえば足が悪いとか聞いたことがある。車椅子が必要とまでは知らなかった。

 ちょっと最初はびっくりしたけど、噂の印象が先行しすぎて怖がりすぎたかもしれない。反省反省。

 

 落ち着いてよく見たら儚げな美人だし、最初のイタズラ以外は礼儀正しい。

 しばらくしてお茶を持ってきてくれた。

 

「アイスティーですが……よろしかったでしょうか……?」

 

「あっ、ハイ。大丈夫です」

 

 アイスティーと一緒にクッキーも添えられていて、ようやく対面に向き合う。

 レースで顔が隠れがちだが伏し目がちな瞳としっかり目があって、なぜか寒気がした。気にし過ぎ……だよね?

 

「3号は……お役に立っているよう、ですね」

「3号?」

 

 アイスティーに口をつける玲衣さんは微笑んではいるものの、どこか冷たい者を感じさせる。

 

「ああ……レスリー……レイ3号をわかりやすくした呼び名です」

 

 レスリーが「真ん中っ娘なのです」と言っているがなるほど、先に作った同型機がいるのかな。

 

「それで……ご挨拶とのことですが……」

「あ、はい。せっかくレスリーを使わせてもらったのに、何もないのは悪いかと思って……」

「フフ……そう気になさらずともよかったのですが……私、あなたのファンになってしまったので……嬉しいですね……」

 

 怖いなぁ……。なんでだろう。会話そのものは普通なのにずっと怖い。

 

「今後もレスリーを借りてもいいんですか?」

 

「ええ、こちらとしてもレスリーの改良とフィードバックは同型機、あるいは後継機にも役立つので構いませんが」

 

 ああ、実際に使ってるのも配信のあれでわかるし、ある程度レスリーが自分でフィードバックしてるみたいからデータは取れるもんね。

 そう考えると確かに――

 

「――薫には見返りがあるのに私には見返りがないのは、公平では……ないかと」

 

 あれ? 私カオちゃんとの取り引き教えてない……。

 

 サッと血の気が引いた。なんで? 読心……は違うか。今カオちゃんのこと考えてなかったし。サイコメトリーならありえるけど接触はしてないし……魔眼……でもなさそう。レスリーもその話をしていたときはスリープモードだったし……。

 異能の候補はいくつか浮かぶのにどれも当てはまらない気がして、得体のしれなさにぞわぞわくる。ちらりと助手を見て軽く小突く。意図を察したのか、助手は魔眼で読み取ろうとメガネを少しズラして……硬直した。

 

「女性のプライバシーを覗き見るものではありませんよ?」

 

 助手の魔眼を防がれた、というより魔眼妨害を食らってちょっとくらっとしているようだ。徹底している。助手が魔眼なのは配信でバレているしおかしくはないけど……。

 

「私もご協力したというのに……私より薫を先に贔屓にするだなんて……しかも魔眼で異能暴きまで…………ああ、悲しみで胸が張り裂けています……」

 

 全然悲しそうじゃないのにいけしゃあしゃあとよくもまあ。

 

「ですので、私の見返りですが……」

 

 もうもらう前提になってる!

 反動を食らった助手に霊術で少し治療を施しながら玲衣の話を聞く。

 

「魔物の体の一部……そうですね……素材でも構いませんし、それ以外でも構いません。定期的に一定数納めていただけたらな、と……」

「素材以外はどうするのよ。あんなの呪いの塊よ」

 

 魔物は素材になる部分以外は呪詛の塊であり、下手な扱いをすると呪いを浴びてしまう。侵蝕地以外での魔物も定期的に政府の異能者が討伐の際に呪われてしまったりと大変という話も聞く。

 

「そちらについては……こちらを」

 

 机の上に現れたのは透明なケース。何か術が仕込まれているようで、軽くつついてみたが随分と頑丈だ。

 

「これは完全に呪詛を遮断して……保管できます……。ただ……新鮮なものに限るので……倒してすぐ……採取してください……。私の研究の一つに……呪詛研究というものがありまして……その一環で魔物の呪詛についても解明したいと……」

 

「……まあそれくらいなら」

 

 色々怪しいけれど、魔眼で異能を含めた情報を勝手に見るのはマナー違反。それを先に私が指示してしまった以上、強くは言えない。

 それに、内容そのものもついででできることだし、個人的感情で嫌う以外断る理由もなかった。

 

「それにしても……」

 

 話は一応まとまったということでケースを受け取りながら、反動からなんとか回復した助手が頭を振る。相当きつかったのかまだ具合が悪そうだ。

 玲衣は相変わらず掴みどころのない顔で私を見る。

 

「異能血統でもない方が……あそこまで霊術に長けているとは……驚きました」

「あー……」

 

 よく言われる。異能はショボいけど霊術だけは他人より優秀だったから。一般人出身だし、どうしても代々異能者の家系の人たちとは微妙にウマが合わないのよね。

 

「いえ……悪気は……ないのですよ? 自己紹介の配信を見たあと……あなたのレポートや企画書を……拝見しまして……」

 

「えっ!? ちょっと待って! どうやって――」

 

 いや、よく考えればこの人は守屋専務の娘だ。その気になればいくらでも入手する経路はあるだろう。でもだいぶ前に出したものだから……今ならもう少しよくできると思う。

 

「ふふ……あなたは反応がわかりやすくて……本当に……」

 

 一拍の間。その間にどんな感情が込められているのかはわからない。

 

面白いですね(・・・・・・)

 

 彼女は表情一つ変えることなく呟いた。

 たった一言。そんな他意はなさそうな一言なのになぜかぞわぞわと悪寒がする。

 

「フフ……そう怖がらないでください……こう見えて……私、繊細なんですよ?」

 

 どのへんが?とは口に出さなかった。さすがにそこまで命知らずじゃない。

 

「今後も……よろしくお願いします、ね?」

 

 曖昧に頷きながら、ほとんど飲む気になれなかったアイスティーを残して、さっさと退散した。

 レスリーは製造者相手だというのに「ぷぅー」と不満そうに玲衣を見ていた。

 

 

 研究室からなんとなく早足で立ち去りながら、助手が不安そうに声をかけてくる。

 

「よくわからない霊術を使っていましたしね……大丈夫なんでしょうか」

「ああ、あれね。2回目見たらだいたいわかったわよ」

 

 カオちゃんとの情報をどうやって知ったのかはさすがにわからなかったけど、あの突然現れた霊術はだいたいどういうものかは察した。

 

「ほぼハ段術クラスのロ段……ってとこかな。まあハ段術でもおかしくはないけど……かなり制限とかつけて術のグレード下げてるって感じかな。でもあれは完全に個人用チューニングされててあのままパクるのは無理だね。どうせパクるならもっと……」

 

 術考察に耽っていると、横の助手がなぜか笑っていて一旦止める。

 

「何? なにかおかしいこと言った?」

「いえ、探索の仕事ができてから、水琴さんが昔みたいに活き活きしているなって」

「そぉ?」

 

 まあ、何もしてないときよりは……ちょっと、ちょっとだけ楽しいかもだけど。

 

 

 

 

 




次回は華麗に探索失敗します
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