ビビリなセイレーンさんの悲鳴配信   作:とぅりりりり

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問題解決で終わってくれればいいのに厄介事は次々湧いてくる

 

 戦葉雛美と名乗った女は乱れた朱色の短い髪を直しながらニッと笑って私達を見る。

 そして雛美の疑問であるなぜこんなところにいるのか、というものはこちらのセリフでもある。

 

「いや、あんたこそなんでいるのよ」

 

 立ち入り禁止になっているのはお互い様。だから向こうも咎める側なのはおかしいというより、同罪でしかない。

 

「え、あーしは自主トレだけど?」

「自主トレで立ち入り禁止エリアに入るアホいる!?」

 

 そんな学生スポーツマンが言うような軽さで言われて思わず突っ込む。

 

 私達が平然と出入りしていて感覚がおかしくなっているのは認めるが、本来入ったら生きて帰れない可能性がある危険地帯。政府が立ち入りを禁じているのも、過去にこの侵蝕地のせいで多くの異能者を失い、調査に向かった異能者たちも戻ってこなかったということから誰であろうと侵入を禁止しているのだ。

 

 それをこの女は自主トレ!?

 

「だって魔物が出るのってここ以外の表だとランダムじゃん? ある程度の予測は立てられる場合はあっても完全には難しいならトレーニングにならないし」

 

 すごい。言ってることはその通りなのにだからって行動がイカレている。

 私が内心ドン引きしている横で助手がメガネを直しながら雛美を見て、今までにない複雑な表情を浮かべていた。

 

「戦葉……ってあの……もしかして……」

「え? なに? 知り合い?」

「いえ……知り合いではありませんが戦葉っていえばあの……渡辺家の分家の一つで……」

「わたなべぇ?」

 

 なんだっけ。よくある苗字じゃない?

 異能者的にはなんか大事なアレがあるのかな。

 

「……異能者家系なら知らない人はいない、四天王一族の一つです」

 

 渡辺、坂田、碓井、卜部。

 この四家を纏める源家と合わせて五つの家系が四天王一族とその主とされている、らしい。

 要するになんかすごいとこね。

 

「現在防人衆の中でもトップクラスの戦力に数えられている上位防人にも渡辺家の後継者がいることで有名で……」

 

 あ、長くなりそう。私そういうの面倒で駄目。興味ないし。

 

「それはわかったけど何が問題なのよ」

 

「えーと……まあ……そのつまり……こういった違反行為には厳しいはずでは……? と思ったんですけど」

 

 

【悲報】みこっちゃんはアホ

マジで知らん臭くて怖

わかった(わかってない)

えぇ…

こいつ防人衆側ってことだよ

 

 

 

 ん? ああ、そういうこと!

 要するに血統的に名家と繋がりがあるから自然と防人衆の関係者がいるのでヤバいんじゃないのかってことね。

 よし、完璧に把握した。

 

 が、雛美は気の抜ける声で否定する。

 

「ああ、あーし、いわゆるふりょー娘だからね。多分バレたらめちゃくちゃ怒られるんだろうな〜。別に誰にも言うつもりないよ。あーしも怒られたくないし。自主トレできなくなるのやだし」

 

 ごめん、めっちゃ配信してる。一応身内向け配信だけどめちゃくちゃ身バレしてると思う。

 まあさすがにこの配信というか、うちの組織に関係者はいないと思う。いたらもっと荒れてそうだし。

 

「ところでそっちの名前は?」

「あ、榧杜水琴……」

 

 そういえばまだ名乗ってなかったことを思い出した。うっかり本名を出してしまったけど……最悪忘却術かければいいか。

 

「ミコちゃんね! んじゃお互いナイショってことでバァーイ」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 立ち去ろうとする雛美の袖を掴んで引き止める。

 体幹が強くて私の方が引っ張られかけたが、なんとか止まってくれた。

 

「私たち、ここの調査してるんだけど手伝ってくれない? お礼はするから!」

「水琴さん!?」

 

 その判断は軽率じゃないかと言わんばかりに助手が私を見て驚いた声をあげる。

 しかし、条件的にかなり条件が整っているし、お互い後ろ暗いところがあるから協力関係を結べるならかなり美味しい。

 当然、密告でもされたら厄介だけど、そんなの誰にだって言えることだし。

 

「う~ん……」

 

 雛美は悩んだ様子だが、それほど深刻そうではない。

 むしろ反応そのものは乗り気寄りのようで、手をパンッと叩いてからニコッと笑った。

 

「いいよ! あ、でも一個条件があるんだ」

 

 軽快に指を鳴らして、今までで一番真剣なトーンで条件を告げる。

 

「あーし、前衛しかやるつもりないから。それでもいいならよろしく~」

「むしろ助かるわ! いやったー! 前衛ゲットー!」

 

 全然気にするほどの条件でもないので即答すると、やけに嬉しそうな顔をされた。なんだろ。

 ここ最近の探索は不発続きだったけど、彼女を仲間にできた収穫でお釣りがくるかもしれない。

 

「あの……ところで」

 

 喜んで雛美とハイタッチしていると、助手が雛美を変なものを見るような目で睨んでいた。

 

「この人……異能が……」

「え? 異能が何か知らないけど、さっきあんなに動き回ってたんだし前衛向きとか身体強化系じゃないの?」

 

 身体強化系はシンプルに肉体を強化するもので、怪力や素早く動けたりとか、複雑なことはできないがわかりやすい前衛向けの異能の総称だ。さっきの戦闘で特に異能を使っていた様子もなかったので、身体強化系だと睨んでいたのだが……。

 

「いえ……治療系……ガッツリヒーラー能力です……」

 

「……マジ?」

 

 あの大立ち回りでヒーラー!? あれ、でも前衛しかやらないって言ってたね。

 

 

回復異能とか貴重じゃん

前衛求めてるときじゃなければSSR

絶妙に大当たりを外していくみこっちゃん

ガチャですり抜けるタイプ

 

 

 まあ、前衛系の異能なら一番よかったけど、異能抜きであれだけ戦闘能力が高いなら問題ない。

 でもまあ、なんでわざわざ前衛しかやらない宣言するんだろう? どう考えても適正と合ってない気がするけど――

 

「ま、いっか! 治療は私できるし、自分の治療できるなら私の仕事減るし! ねぇねぇ、いつからやれる? あ、報酬の話もしないとね」

「ふーん。ふーん……」

 

 雛美はなんだか嬉しそうにニマニマしているのを堪えているような顔だ。

 そんな雛美を助手はいまいち信用しきれないような顔で見ていたのでどついておく。

 

「とりあえず、もうちょっと探索したいからできれば――」

 

 付き合ってほしい、と言いかけてぞわっと鳥肌が立つ。それは私以外も同様だったようで、二人も表情がこわばった。

 三人揃って身を隠せる場所へと逃げ込み、私はケープの効果だけでは心もとなくて霊術を併用して気配を隠す。

 そして、さっきまで私達がいた場所を通る、5mほどの巨人。三つ目の巨人の手には剣とも棍棒とも言える武器があり、巨体に似合わぬ動きでそうそうに立ち去っていく。

 

「やっば~……」

 

 思わず感想が口からこぼれていた。魔物の凄まじい邪気と呪い。下手に相手にしたら殺されかねない。

 

「え、今のなに? 魔物だよね?」

 

 やっと気配が遠のいたところで、揃って息を吐くと、レスリーがひょっこり飛び降りる。

 

「さきほどのは~、並の魔物ではありません。製造者曰く、エリアボス的なものだと予想できます」

「さっきのねー。ちょくちょく見かけるけどさすがにあれは相手にしたらやばそーだから触ってないんだよね」

 

 雛美が真剣な様子でぼやくと、レスリーが気になるのかじっとレスリーを見つめていた。ひょこひょことレスリーが先程の巨人が歩いた場所を見ようと身を乗り出す。

 

「先程の気配は記録しておきますので、次はもっと早く察知できると思います」

「ねえ、この子なに? ほっぺ触っていい?」

 

 雛美がレスリーに興味津々なのは一旦放置して、助手の方を見る。助手の魔眼はこういうときに便利だ。魔眼による鑑定である程度の情報がわかる。

 

「3人で倒せそうだった?」

「正直なところ、無理をすれば行けなくもない、という感想ですね。ですがもう一人はいたほうが安全だと思います」

「だよねぇ……」

 

 いけなくもない、というだけで安全面の保証はできない。それくらい危険な相手だというのは私でもわかる。

 

「うーん、どうしよ。収穫全然ないけど、あの巨人の対策しに帰る? でもなんにも今日は手に入れてないしなぁ……」

「ん? 何か探してるの?」

 

 レスリーの頬をつつきながら雛美が振り向く。結局つついてるじゃんね。

 配信、というかこの状況をレスリーが撮影して別の場所で他人が見ている、とか……調査と探索で珍しいものを持ち帰っていたりとか……そういう事情を説明する。

 

「せめて何か価値がありそうな素材とか、霊草とか、鉱石なんかでもいいけど……」

「ああ、それならあーし見たよ?」

 

「えっ?」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 案内されたのは廃墟の中でも形を保っている場所だった。

 塵やガラス片などもほとんどなく、かなり整っている。

 

 まるで最近誰か出入りしていたかのような整いっぷりだが、雛美が示した先にあるものに釘付けになる。

 

「ぎゃーっ! 霊鉱石! 鑑定! 鑑定して!」

「すごい純度ですね……これ1つでかなりの値がつきますよ」

 

 箱の中には霊鉱石と呼ばれる、霊力がこもった鉱石があった。

 これらは異能者向けの武器として使われる貴重なものだが、どうしても数が少ないため高値で取り引きされる。

 ここにある霊鉱石だけで一軒家が立ちかねない。

 不思議なのはなぜか箱に詰められているって点だけど……雛美がここに集めていたんだろうか。

 

「へ~。そんなすごいものなんだこれ」

 

 いや、多分雛美じゃないわこれ。全然価値をわかってない顔だわこれ。

 

「たまたま自主トレ中にここ見つけたんだけど、なんか箱詰めされててさ。まあ興味なかったからスルーしてたんだけど」

 

 

大天使ヒナリエル

これもうヒナさんだけでいいんじゃないかな

みこっちゃんの5倍偉いの霊草生える

もしかしてこうやって回収してたから

 初日以外成果微妙だったんじゃ

霊鉱石売ってくれ

頼むから霊鉱石あとで組織内の競りに出してくれ

¥ 10,000       

  第二研究室に売ってください         

箱の中身だけでとんでもない額になるぞこれ

 

 

 

 まーた媚びリスナーどもめ……。

 にしても、この箱の中身を運ぶだけでも相当な重さになる。これを抱えて侵蝕地を歩き回りたくはないな。3人で分担しても重いだろうし。

 

「とりあえず何個か持って帰ろ! 純度高いの優先で――」

 

 助手に鑑定で質のいいものを見極めてもらおうと箱に手を伸ばし、殺気を感じて手を引っ込める。

 

 箱がその場から急に浮いて、宙で揺れる。

 よく見れば壊れた天井に人がいた。意識して視認してみると、箱に鎖が繋がっていてそれで引き上げられていることがわかる。

 霊力でできた鎖。恐らく異能だ。

 

「……なんだお前ら」

 

 金髪の青年は冷ややかな目で私たちを見下ろしている。

 赤いスタジャンを着ており、歳は私とそう変わらないように見える。

 

「おーい、そこのイケメンくーん! ここ危ないとこなのわかってる~?」

 

 雛美は呑気な声をかけ、一瞬緊張感が薄れるも、青年のピリピリした様子は変わらない。

 

「人のモンに手ぇ出してんじゃねーよ。勝手に持ち出そうとするならぶっ殺す」

 

 舌打ちした青年はそのままどこかへと去っていく。私達とは違う方面に向かっているけど……まさかそっちにも出入りできる入口があるのかな。

 

「えー……霊鉱石全部持っていかれちゃった……」

「あ、2つだけ最初に鑑定したやつ確保してありますよ」

 

 助手、前から思ってたけどしれっとこういうとこしっかりしてるというか手癖が悪いというか。

 助かるからいいけど。

 

「あ、さっきの彼ですが、一応魔眼で見た情報ありますが……聞きます?」

「あんまり魔眼のプライバシー侵害は気が進まないけど……口止めもできなかったし調べないといけないからお願い」

 

 魔眼で見た人の情報はプライバシーの塊だ。だから先日の玲衣さんみたいなのじゃない限り、私も助手に魔眼で鑑定をさせるのはあまり求めていない。

 が、今回はことがことだ。少しでも情報が欲しい。

 

荊儀(いばらぎ)流譜(るふ)という名前でした。一瞬だったので詳しいことまではわかりませんが……ossに属する生成系の異能者のようです」

 

 ossかぁ。ならすぐに防人衆にバレはしなさそうだけど……それでも放置は禁物かな。

 

「さって……どーしよっかな」

 

 雛美という味方を得たのは大きな収穫だが、エリアボスといい、別の異能者といい、次々と増える問題に頭を悩ませるしかなかった。

 

 

 

 

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