「ごちそうさま。おいしかったわ、店長さん」
「おう!ありがとうな探偵の嬢ちゃん!」
店主の涙の跡に気が付かないふりをして、アルは話を始めた。
「一度この事件のことをしっかり整理したほうがいいわね。お嬢さんのご両親のことも」
その言葉に、店主はおう!と元気よく返事をした。
そしてガラガラと隣の机から椅子を持ってきてアルたちの机に並べて座る。
「俺にも手伝わせてくれ。まさか先輩方に子供がいたとはな・・・」
「ごめんなさい、はやく、つたえておけば、よかったです」
「うん?嬢ちゃんは俺のこと知ってたのかい?」
「優しい後輩だって、パパとママが言ってました。
はじめてこのお店に来た時、店主さんのことだってわかりました。
「パパとママの言う通り、やさしくて、いろいろ、たすけてくれて、えっと、ありがとう、ございました、いつも、いろいろ」
少女は照れながら店主にお礼を言った。
いつもの食事のことだけではない。
毎日会話してくれた事。気にかけてくれていた事。
初めてこの店に来た時、みすぼらしい格好の自分に対して、優しい笑顔で迎えてくれた事。
店主は目頭を押さえた。
笑った顔は先輩そっくりだな、と一人思う。
「いいんだよ嬢ちゃん。俺の方からも毎日来てくれて、いや生きていてくれてありがとうな」
そう言って笑うと、少女も笑って応えた。
その少女の顔を見て、店主は決意を再びみなぎらせたようだ。
「探偵の嬢ちゃん、俺にも協力させてくれ!盗人を絶対捕まえる!!何か力になれないか?」
店主からの決意にアルは笑って頷いた。
「ありがとう。でもそちらの事件は解決済み。犯人はここにいるもの」
「わた、わたしです」
「はぁ!?」
驚く店主を尻目に、アルは犯罪ファイルを開き、話をつづけた。
「お嬢さんが犯人だった窃盗事件は、三か月前から現在のものまでよね」
「ゆびわは、とってないです!」
「失礼、三か月前から現在の財布を取られた事件のみ。さらに盗ったお財布はすべて持ち主に返却済みなのよね?」
「は、はい!あ、でもお姉さんのは、まだ返してないです」
「マジで犯人なのか・・・」
店主が頭に手を当てながら、まぁ両親がいなくてそれしか生きる道がなかったのか、と少女の頭をなでた。
「私のは後でいいわ。それで、お嬢さんが事件を起こす前から、この町ではさまざな事件が起きていたのよね」
「うん。それも破壊銃撃不法侵入暴行窃盗多種多様」
「治安わっる~い!!」
店主はがりがりと頭をかいた。
「俺は当時研究所にいたからなぁ。全然しらなかったぜ」
被害にあったこともなかったしな、と続ける。
たしかに研究所周辺は事件が少なかった。
カヨコは推理をつづけた。
「おそらく、この子と活動時期がかぶっていたから、一緒の犯人だとひとくくりにされたんだろうね」
「最近の事件も、別のひとが犯人でしょー!!指輪とか腕時計だっけ?」
アルはそうねと頷いて、今度は新聞紙を広げた。
そこには市長が発明で賞を受賞した旨が書かれている。
だが、どのような発明で受賞したのかは書かれていなかった。
「それの犯人も気になるけど、私はこちらも気になるわね。市長が発明したとされるダイラタンシーの布」
「でも、本当はこの子の両親が作ったものなんでしょ??」
「はい、作り方も、おしえてくれました」
「あん?ってことは嬢ちゃん理解できたのかい?作り方を?あれめっちゃくちゃ難しくて理解できないって研究所の四人目が言ってたぜ!?」
「は、はい。作れます」
「すげぇな嬢ちゃん!!」
店主がほめると、少女は照れ臭そうに笑った。
やはりこの子は天才なのだろうと、カヨコが少女に対する認識を改めながら新聞紙を見る。
「えっと、この子が言うにはダイラタンシーの布ができたのは半年前。一気に市長が怪しくなった」
「市長は三か月前にできたって言ってたよね?その功績で市長になったって」
「わりぃな。俺がもっとテレビを見ていれば・・・知らねぇロボットだったし気にしてなかったぜ」
「いや、店主さんのせいじゃない。どこのテレビでも市長がどのような発明をしたのかは放送してなかった」
「それでもだ。もっとちゃんと見てればわかったかもしれねぇ。あんのロボット・・・ロボット?」
「あの市長さんが功績を奪った、と見れそうね」
「絶対そうじゃん!!この子のパパとママが作ったのに!!」
「となると、あの市長はどうやってダイラタンシーの布のことを知ったの?」
「・・・店主さん、なにかわからないかしら?」
しかし店主は答えない。
汗を流し、目を見開いている。
「布・・・研究所・・・ロボット・・・!!」
何かを呟きながら、震えている。
尋常でない店主に、ムツキが心配そうに聞いた。
「だいじょうぶ?店主さん?」
「!!お、おう!わりぃ、ぼうっとしてたよ!ちょっとわかんねぇな、ハハッ」
ぼうっとしているだけではなかったのは、誰の目から見ても明らかだった。
少女も心配そうに店主を見ている。
「そう・・・」
アルはしばらく考えながら、ファイルを閉じて手を叩く。
眠りそうになっていたハルカが飛び起きた。
「もう、夜も遅いし一度休みましょうか」
「は、はいぃ!!」
「ほんと!?もちろん宿泊するのはR市の高級ホテルだよね!?」
「もちろんよ。きっとキヴォトス1のホテルでしょうね」
「社長、節約・・・まぁ折角だしいいか」
先ほどの雰囲気とは違って、笑いながら今晩の宿について話している便利屋。
店主が申し訳なさそうに少女の背中を押しながら言った。
「あー探偵の嬢ちゃんたち。悪いがこの嬢ちゃんも」
「もちろんよ。一緒に泊まりましょう?」
「え、あ、は、はい!」
アルは快く答えた。少女はいまいち高級ホテルをイメージできていないのか、首を傾げている。
店主は少女の生活環境がどういったところなのかを知らなかった。
だが、良いところではないだろうと考えていた。
ならば、せめて今日一日ぐらいは、いいところで眠ってもらいたい。
そこで便利屋の四人に頼むことにしたのだ。
店主は今までの会話や、少女の反応から、彼女たちを信頼していた。
もしも自分の身になにかあっても、少女を任せられる。
「よかったな嬢ちゃん、きっといいところだぜ?ありがとうな!探偵の嬢ちゃん」
「いいのよ、また明日も来るわ」
アルたちが店を後にしようと立ち上がると、店主が視線を落としながら言った。
「あー、明日はわりぃが休みなんだ。飯食うなら違う店にしてくれ」
「あら?年中無休だと思っていたのだけど」
「確かに年中無休なんだがよ、ちょっと仕入れの兼ね合いでな。たまにこうして休むんだよ」
「え・・・?」
少女が何かに気が付き顔を上げる。
そのあがった頭をなでながら、店主は笑って言った。
「ごめんな、嬢ちゃん。でもここよりも美味い飯屋はたっくさんあるからよ!これからはそっちで食べてくれ」
「てんしゅ・・・さん?」
「じゃぁな!探偵の嬢ちゃんたち!嬢ちゃん、体を大切にな!!」
そう言って店主は厨房に帰って行ってしまった。
残された五人はその後姿を見送る。
しかし、少女は店主のその姿に何かを覚えたようだ。
「あ、あの」
言葉も表情もいつもの元気な店主だが、どこか違う。
なにか妙な違和感を感じる。
怒り?焦り?
少女はアルに相談しようと呼び止めた。
「行きましょうか」
「あ、いや、店主さんが」
「行きましょう」
しかし、アルは聞こえていないのか、はたまた聞こえないふりをしているのか。
少女の言葉に反応せず、手を引いて店を出ていった。
破壊銃撃不法侵入暴行窃盗多種多様
リズムがいいですね。