もしもアルちゃんが本当にアウトローだったら   作:野口さん

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第Ⅹ話 月明り

 

綺麗な満月が空高くに浮かんだ深夜。

日付が変わるまで、あと1時間。

 

民家の電気も消える時刻であった。

 

それはこの市役所も例外ではない。

長身のロボットが立ち上がって、部屋の電気を消した。

 

市長である。

 

こんな時間になるまで、彼はノートになにかを書き殴っていた。

 

電気を消して、公務室から出ていこうと、ドアノブに手をかけた時、

 

「・・・今日の面会予定はもう無いと記憶していましたが」

「黙れ」

 

市長の背中に、何かが突きつけられた。

 

包丁だ。

 

部屋の暗闇の中でもきらりと光るそれは、間違いなく殺傷に事足りるだろう。

たとえ相手がロボットであっても。

 

絶体絶命の中、市長はゆっくりと自身のネクタイを整える。

 

「警備の者たちはどうされたのです?今も建物内に待機しているはずですが」

「黙れと言った」

 

包丁を構える何者かは、殺気を隠そうともせず、市長に向ける。

 

市長は慌てる様子もなく、言葉をつづけた。

 

「ほう、なるほど。外壁を登って窓から入ってきたのですね」

「黙れっつってんだろ!」

 

包丁が、背中に当てられる。

後ろの者の気分次第で、自分は死ぬというのに、市長は笑って言った。

 

「さすがの馬鹿力ですね。馬鹿犬」

 

包丁を持っていたのは、店主だった。

いつもの仕事着のまま、包丁を持っていた。

 

格好だけ見れば、定食屋の主人にしか見えない。

しかし、彼の表情は、定食屋にはひどく似合わない。

殺意と怒りがまざった、憤怒の表情であった。

 

市長の言葉に、店主は叫ぶ。

 

『馬鹿犬』と呼ぶのは、店主の知る中で彼だけだった。

 

「!!てめぇ!やっぱり!!」

「声の大きさは研究所のころから変わっていませんね。私は顔も変えたというのに」

 

その言葉に、店主は目の前のこいつが、研究所で共に働いていた四人目だと確信を得る。

 

店主の記憶の中にいた研究所の仲間に、市長の顔をしたロボットはいなかった。

確かにあの研究所にロボットはいたが、顔が全く違う。

しかし、体格はそのままであった。

 

市長は店主に背中を向けたまま笑う。

 

「あのままちんけな店を開いたままであれば見逃してあげてもよかったのですがね。

 やはり、あの時にしっかり殺しておくべきでした。あの二人のように」

 

市長のその言葉に、店主は大きく動揺する。

彼の言った言葉は、とんでもない仮説を証明するものであった。

 

「まさかあの事故は、てめぇが!?」

 

「ふふっ、事故ではありませんよ。私が殺したのです。

 爆破試験のとき、あなたたちが装備していた布は、ただの布です。手触りを普通の布に近づけすぎたのですよ。色を似せてただけで、最後まで気が付けなかったようですね。

 まぁ、あなたは少々頑丈だったようですが。まさか生き残るとはね」

 

店主が強く包丁を握り締める。

殺意がどんどん増して止まらない。

 

市長は笑い声を混ぜながら話をつづけた。

 

「奴ら二人が死んだあと、本物の布を私が回収し学会に提出しました。

 革命的な発明をした私に、学会はとても素直に私の要求を聞いてくれましたよ。

 私の顔を変え、賞を授与し、マスコミをも操作してくれた。

 そのあとはあなたも知る通りですよ。私はこうして市長となり、権力を手に入れた」

 

店主は奥歯をギリギリと音がなるほど噛み占めた。

 

「なんでだ。

 なんで、先輩を、殺した!」

 

普段の彼からは想像もつかない表情と声色。

しかし市長はやはり焦ることもなく言葉を返して見せる。

 

「邪魔だったのですよ。私の計画に」

 

「あの二人が消えたおかげで、私は金と地位を手に入れた。

 この二つがあれば、私はさらに大きな実権を握れる。

 そしてゆくゆくはキヴォトスのすべてを支配して見せる、そして正しい社会を・・・」

 

「嘘つくんじゃねぇよ」

 

市長の言葉をさえぎって、店主は叫ぶ。

このロボットがそんな綺麗な目的意識なぞ持っていないことを、彼はよく知っていた。

 

「実権?支配?てめぇが欲しかったのはそんなでけぇものじゃねぇだろ!

 お前はただ羨ましかっただけだ!!先輩が!」

 

「机の上にあったノート!あれ全部あの布に関することだろ!!

 今でも、あの布の構造がわかんねぇんだろ!!」

 

「それを作った先輩が許せなくて、殺したんだ!!

 自分が一番の天才でありたかったんだろう!!?

 なにが正しい社会だよ!!てめぇの醜い妬みを!そんな大きな名前にすんじゃねぇ!!!

 お前は!自分より上の人間がゆるせない!どうしようもねぇちっせぇ器のクソ野郎なんだよ!!!」

 

そう言って包丁の持ち手から音が出るほど握り締めた。

目の前にいるこいつはただのクソ野郎だ、と言い放った。

 

店主の言葉に、市長は何も言い返せなかった。

自分の人間性を見破られたように感じたからだった。

 

違う、自分はそんな矮小な人物ではない

そう言い返そうとするも、なぜか声が出ない。

 

代わりに拳を握り締めて、低い声で言った。

 

「・・・黙れ、馬鹿犬」

 

突然、扉から銃を持った黒服ロボットが大量に部屋に入ってきた。

店主は一瞬で囲まれ、銃を向けられる。

 

「なっ!?」

 

「このネクタイ、特別でしてね。裏にあるスイッチを押せば、警備の者たちを呼べるのですよ」

 

市長はここでようやく振り返った。

 

店主は、やはりこいつは研究所のクソロボだと改めて理解した。

たしかに顔は変わったかもしれないが、目だけは変わっていない。

先輩に追いつこうとして必死こいて毎日毎日勉強してた、クソ真面目。

 

「ガッ!?」

 

後ろから後頭部を銃で殴られ、店主は前に倒れる。

同時に、包丁も落としてしまった。

すぐ拾って立ち上がろうとしたが、それよりも速く、市長が店主の頭を踏みつけた。

 

「ここであなたを殺します。そうすれば、以前の私を知るものはいなくなる」

 

懐から拳銃を取り出しながら、市長は言った。

 

立場が逆転したが、店主は笑っていた。

 

「ハッ!俺が死ぬためだけにここに来たとでも思ってんのかよ!

 この町には、あの嬢ちゃんたちが来てる!あの嬢ちゃんたちなら、俺が死んだあと絶対にお前を捕まえる!

 俺がここで死んだっていう痕跡を追って!必ずお前を見つける!!」

 

店主が睨むも、市長はひるみもせず、銃口を店主の頭に向けた。

 

「便利屋・・・あんな子供に何ができるというのでしょうか?せいぜいあの娘をあやすことぐらいでしょう」

「!!」

「あなたを殺した後は、あの娘です。あの二人の子供、この街に生かしておく理由はありません」

「やめろ!!嬢ちゃんには手を出すな!」

 

店主は頭を踏まれたまま吠える。

先輩も、先輩の子供もこいつに殺される。

そんな未来は到底許せない。

 

「ご安心ください。殺しはしませんよ。

 ただ、残りの人生の全てを牢屋で過ごしてもらうだけです」

 

市長は淡々と言い放った。

 

「罪状は、6ヶ月間にわたる連続窃盗事件の犯人、でしょうか」

「6か月前からの事件も、テメェが!?」

 

「えぇ。最近の事件も一部は私が手を打ちました。すべてはあの娘に罪を被ってもらうため。 ここまで時間がかかるのは想定外でしたが、これでようやく、あの一家の者全てがいなくなる」

 

「なんで!嬢ちゃんのことを知ってんだ!」

 

「あの二人のことを調べ上げていた過程で見つけました。あの二人も隠していたわけではないのでしょう。聞いたら恥ずかしそうに頷いていましたよ。あなたはまったく気が付いてなかったようですが。

 あぁ、そうですね。あなたを殺した罪もあの娘に被ってもらいましょう。終身刑にはまだ足りないでしょうが、そこはうまく操作します。それができるだけの金と権力を、私は持っている」

 

「て、めぇ!!」

 

市長が足の力を強めていく。

満足に喋ることすらできず、店主はにらみつけることしかできなかった。

 

「あの世で好きなだけ騒いでいなさい、馬鹿犬」

 

正確に狙いをつけて、市長が引き金を引いた。

 

ドドォン!!

 

銃声が、二度(・・)響いた。

 

「ッ!!」

 

市長の銃弾は当たらなかった。

 

店主を避けたかのように曲がり、床に突き刺さった。

いや、曲がったのではない。逸らされたのだ。

もう一つの銃弾によって。

 

「誰だ!!」

 

ドォン!

 

市長が窓際に銃を向けるよりも先に、再び銃声。

持っていた銃をきれいに撃ち抜かれ、使い物にならなくなる。

 

いつの間に窓際に立っていた誰かが、こちらにスナイパーライフルを向けていた。

 

市長が引き金を引いたと同時に彼女も発砲し、市長の銃弾に自身の銃弾を当てたのである。

拳銃の銃弾とスナイパーライフルの銃弾。衝突した際、動きが逸れたのは前者であった。

 

そんな神業を成し遂げた彼女は、月を背に微笑んだ。

 

「お昼ぶりね、市長さん」

 

「便利屋68 陸八魔アル 依頼を遂行するわ」

 




市長さんが自白してくれましたが、犯人は彼でした。
整形していた研究所の四人目でもあります。
まだ話していない部分もあるようですが、事件の全貌は後々アルちゃん達が教えてくれるでしょう
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