「探偵の嬢ちゃん!」
「こんばんわ店主さん。とても派手な
アルは店主を見ながら、日常会話をするようにそう言った。
この状況をまるで危機と認識していないのだろう。
撃ち抜かれた拳銃を捨てて市長は黒服ロボットに指示をだす。
「撃て!!」
黒服ロボットがアルに発砲しようとするも、それより先にアルが筒状の何かを投げる。
床に転がったその筒からは白い煙が噴き出し、部屋中を煙で支配した。
店主を踏みつけていた市長も同様に周囲を把握できない状況であったが、踏みつける足の力を強めて店主を逃がさないようにする。
「耳をふさぐことをお勧めするわ」
「おう!!?」
突然の事態に驚いているのは、店主も同じであったが、アルの指示に即座に従って耳をふさぐ。
すこし遅れて言葉の意味を理解したのか、市長も耳をふさごうとする。
だが、それより早く耳が破れるような爆音。音爆弾だ。
これにはたまらず、市長もロボットたちも耳を抑えた。
そして一瞬拘束が緩んだうちに、店主は這いながら逃げ出し叫ぶ。
「探偵の嬢ちゃん!犯人はあいつだ!六か月前からの犯罪も!嬢ちゃんを一人にしたのも!全部あいつが犯人だ!」
「そのようね。お手柄よ店主さん」
アルはこの煙の中でも部屋内の状況を正確に理解しているようで、這っていた店主をお姫様抱っこで抱えて窓に向かって走った。
店主はだんだんとアルが何をしようとしているのか理解し、冷や汗を流す。
「じょ、嬢ちゃん!?まさか飛び降りるとはいわねぇよな???」
「行くわよ」
「嬢ちゃん!?!!?」
悲鳴を無視し、アルは店主ごと窓から飛び降りる。
大きな建物だったこともあり、かなりの高さである。
「ぎゃあああああああ!!!!」
涙が混ざった声を上げたのは店長だ。
この高さから飛び降りるとは思っていなかったらしい。
一方で飛び降りながら、アルは店長に指示を出す。
「店主さん、怖いようなら目と耳を閉じ・・・もうやってるわね。着地するわよ」
アルは店主を抱えて軽やかに着地した。ダメージはなし。
ヘイローを持った彼女たちには、この程度の高さは問題にならない。
しかし、店主はそうではない。
彼にとっては致命傷になる高度であった。
アルが抱えていたおかげでダメージはないが、怖かったようだ。
店主を建物から少し離して下ろし、アルはスマホを取り出して誰かに電話する。
「ハルカ」
『は、はい!もう1つ目は準備できてます!!』
「そう、流石ね。なら2つ目に取り掛かってちょうだい。悪いわね、今日はあなたが1番仕事が多いわ」
『あ、謝らないでくださいいい!!!
何かの指示を出し、建物を見上げる。
先ほどまで自分たちがいた部屋の窓からは、煙幕の煙が上がっていた。
店主は呼吸を整えながら聞いた
「探偵の嬢ちゃん、助けてくれてありがとよ!何か、できることあるか?先輩たちに報いるためなら、俺は、なんでも!」
覚悟が決まった目をアルに向ける。
死んでも報いるのだという力強い目。
死んでこいと指示すれば迷いなく実行しそうだった。
その目を見て、アルはため息を吐いた。
「なら、お嬢さんのそばにいてあげなさい」
店主は固まった。
殺意で埋まっていた脳内に、少女の顔が浮かぶ。
「今、あの子にはあなたしかいないのよ。
またあの子を一人にする気かしら?」
「!!」
忘れていた少女の顔を思い出し、店主の血走った目が落ち着いてくる。
「そうか、俺は、あの子を、また一人に・・・」
そう呟いたあと、店主は自身の顔を両の手で叩いた。
冷静さを取り戻したようだ。
おかげで思案する余裕ができたのか、アルに疑問がわく。
「それで、なんで探偵の嬢ちゃんがここにいるんだ?」
「私達は、ただ発信機を辿っただけよ」
「は、発信器!?いつの間に!!」
「あんな別れ方をしたのよ?悪いけど勝手につけさせてもらったわ。
それに、お嬢さんが泣きそうになりながら私に
「そう、か。あとで謝らねぇとな・・・」
店主は少女の悲痛な表情を想像し、自分がいかに残酷なことをしようとしたのか改めて理解した。
自分の頭をガンガンと叩きながらアルを見る。
「探偵の嬢ちゃん。あとは任せてもいいか?」
「えぇ任せなさい。これからは私たちの仕事よ」
ドッカァン!
その瞬間、再び爆音。
しかし今度は本当の爆発であった。
さらに音は一度だけでは止まらず、ボンボンと連続して爆発している。
アルは再びスマホに耳を当てた。
『すごい爆発の連鎖・・・たぶんロボット全員そっちに降りていってる。市長もいるだろうね』
『あははっ!すっごい必死だね(笑)』
賑やかな声が2人分聞こえてきた。
どうやら別の場所に待機しているムツキとカヨコのようだ。
「ムツキ、カヨコ。タイミングはそちらに任せるわ」
『おっけ~!』
『わかった』
返事を返してから、アルは建物の入り口を見る。
いくつかの建物の窓から煙が噴き出しているのを見て、店主が慌てたように声を出した。
「た、探偵の嬢ちゃん!?」
「大丈夫よ。全員生きているわ」
「いや、別に無事じゃなくていいんだが、あれは爆弾か?いつの間に仕掛けたんだ?」
「店主さんのおかげで警備兵の全員があの部屋に集まっていたの。トラップを仕掛けるのは簡単だったようね」
「にしても、この数の爆弾を!?集まってから一分もたってねぇ!」
「ウチの社員はすごいのよ。それに、
しばらくすると、入り口から体に黒いすすをつけたロボットたちが出てきた。
全員が銃を構えており、その数は100はいるだろう。
隊列の後ろの方には怒り狂った表情の市長もいる。
「あんなに爆発受けて無事なのか!?」
「あの黒服のロボット。あれらは意志を持たない正真正銘の機械のようね。装甲が固いわ」
それでも音爆弾は聞くのね、とアルが呟く。
市長はその黒服ロボットに守られながら進んできたのだろう。
店主は拳を前に構えてファイティングポーズをとる。
この数相手に、まったくひるむ様子はない。
「探偵の嬢ちゃん!指示をくれ!何でも聞くぞ!!」
先ほどと似たようなセリフだが、含まれた意味は違う。
今度は命を捨てるような真似は間違ってもしないだろう。
生きて帰る
そのためにアルの指示を待っている。
そんな戦闘態勢をとる店主とは対照的に、アルは銃を構えてすらいなかった。
そのままの体制で店主に指示を出す。
「なら、その場から動かないこと、ね」
「え?」
店主が指示を聞き返す前に、空から小さな何かが降ってきた。
垂直に落ちていき、黒服ロボットの隊列に落ちていく。
それはカバンだ。
肩に掛けるカバン。
ムツキがいつも肩に掛けていたカバンである。
ドッカーン!!
ロボットの隊列のど真ん中。
今日一番の素晴らしい威力の爆発であった。
いくら装甲の堅いロボットでも、ひとたまりもない。
先ほどのアルの指示はこれのためかと、爆弾による風を受けながら店主がぼやいた。
「いったい今日はあと何回爆発をみるんだ・・・?」
「ふふっ、あともう一度だけ見てもらう予定よ。それも特大なものを、ね」
「耳が壊れそうだ・・・」
建物の屋上にはこちらに手を振るムツキと、ロープをもったカヨコ。
アルがあの部屋に入れた方法はシンプル。
屋上からロープで降りてきたのだ。
ならば一体どうやって屋上まで登ったのか?
店主が聞く前に、空から音が聞こえる。
『見えますか!?今!爆発しているのはR市の市役所です!便利屋68が爆破テロを引き起こしたようです!!!』
「クロノススクール!?」
店主が見上げた先にはクロノスのヘリコプターとそれに乗るクロノススクールの生徒数人。
そしてマイクで現在の状況をカメラに伝えていた。
「じょ、嬢ちゃん!便利屋68って探偵の嬢ちゃんたちのことだろ?大丈夫なのか?」
店主は心配したように言う。
だがアルは普段通りの態度で答えた。
「あら、お気遣いありがとう。でもあれは私たちが呼んだのよ。
それに、アレは本気で言っていないわ。番組を盛り上げるためそれらしい事を言っているだけ。きっと生放送よ」
「だ、だがあんな風に言われたら、悪者は嬢ちゃんたちになっちまうぜ?」
「大丈夫よ。まるで便利屋が悪いかのように私たちと市役所を報道する。そのために呼んだのだから」
そう言ってヘリコプターを見上げながら、アルは爆発で倒れた市長のもとに歩いていくのだった。
黒服ロボットさんのちょっとした裏設定
ただの黒いスーツを着た頑丈な機械。
本当は「黒服のロボット」と記載する予定だったがそうすると"黒服"のロボット!?と書いてて混乱したので「黒服ロボット」に名前を変更した。