ありがとうございます!!
「おはよう、市長さん。よく眠れたようで何よりよ」
気絶していた市長をロープで縛りつけてから叩き起こす。
最後の爆発から、時間はそう経っていない。
市長はゆっくりと目を開けてから、周囲の状況を確認した。
目の前には、銃を持ったアルと腕を組んだ店主。
両側には屋上から降りてきたムツキとカヨコが同じく銃を持ったまま待機している。
後ろには誰もいなかったが、どうせ逃げられはしないだろうと、市長はあきらめたのか下を向いた。
「私のロボットは・・・全員消し飛びましたか」
「えぇ。ムツキの爆弾は建物のトラップの数倍の威力よ」
「よくあの局面で指示を出せたわね『守れ』だなんて、ムツキのカバンを見た瞬間にだしていたあれがなければ、あなたが目覚めるのは日が昇ってからになってたわ」
ムツキの爆弾が降ってきたあの瞬間に、市長は黒服ロボットに指示を出していた様だ。
おかげで彼の体はボロボロではあるが、まだ走って逃げられるだけの体力はある。
無論、目の前の彼女たちがそれを許すはずもないが。
年貢の納め時、と言ったこの状況の中、市長はやはり落ち着いていた。
「いったい私をどうされるのですか?そこの馬鹿犬に殴られる?それとも貴方たちの手で罰を下されるのでしょうか?」
いまだにそんな煽る様な口調を叩ける様だ。
すこし黙らせようかと店主が拳を鳴らす。
「ヴァルキューレに突き出す?それもいいでしょう。しかし無駄ですよ。私がやったという証拠はない」
市長の言うとおりだ。
仮に店主の証言があろうと、市長は天才学者として世界に認識されている人物。
それにアル達便利屋は裏社会の組織。信じてもらえるわけがない。
「えぇ、確かに証拠はないわね。
だから、作ることにしたの」
何を言っているのだ。
市長がポカンと口を開ける。
すると建物の方からハルカが歩いてきた。
ちょうど市長の背後である。
「あ、アル様、おわりました!!遅れてすみません!!」
「ちょうどいいタイミングよ、ハルカ。点けていいわ」
「は、はいぃい!!」
いったい何の会話だ、と市長がハルカの方に体を向けた。その先にいるのは、自身の権力の象徴ともいえる大きな市役所と、なにかのスイッチを持っているハルカ。
「筋書きはこうよ」
アルが建物を見上げながら淡々と続ける。
「偉大なる発明家として知られるR市の市長であったが、その正体は自分より上の天才を事故死に見せかけ殺した最低な人物。
それを見破った便利屋68と勇敢な市民が市役所に向かうも、口封じのために市長は爆発物を用いて対抗。
爆発物を用いた理由は、便利屋に全ての罪をなすりつけるため、最後に市役所ごと爆破して彼女達を消そうとしたが、敢えなく失敗し捕らえられてしまった」
まるで報告書を読み上げるように、滑らかにそう言い切った。
「これが明日の朝刊になるわ」
「何を言って・・・」
「店主さん」
アルが市長の言葉を遮って、店主を呼んだのと、ハルカが持っていたスイッチを押したのは、ほぼ同時であった。
「最後の一発よ」
「!!!」
ドッカァン!!
轟 音
市役所の根元周辺から響いたその轟音は、やがて市役所全体から低くずれるような音を呼ぶ。
ズズズと音を立てながら、市役所がおもちゃのように縦に潰れていった。
土煙を浴びながら、彼女たちはそれぞれ口をこぼした。
「市役所が・・・」
「崩れてらぁ・・・」
「あはは〜すっごーい!!本日最大ってやつ!?」
「音がすごいね。キヴォトス中に響いてるんじゃない?」
「それぐらいが丁度いいのよ」
呆然とする市長と店主。
笑って見上げる便利屋の三人。
「『崩れたのは市役所か、それとも偽りの市長の権威か?』くぅ~!いい記事が書けそうです!」
そしていつの間にか降りてきていた記者たちが笑って何かをメモしていた。大方、記事に関することだろう。
「流石の手腕だったわね、ハルカ」
「そ、そんな!この靴のおかげで!わたしではなく!」
ハルカは、かつて少女が使っていた靴を履いていた。
高速移動を可能にする靴。なんとサイズが伸縮自在。どんな人間でも履くことができるものであった。
並みの靴でさえこういった機能はついていないというのに、天才少女はやり遂げた。
ハルカが爆弾を大量設置できたのは、これのおかげでもあった。
もちろん、本人の技巧による部分が大部分ではあるが。
アルはその技巧を惜しみなく称賛した。
「それでも、よ。素晴らしかったわ」
「えへ、えへへ、恐縮です、えへへ」
ハルカの頭をなでながら、アルは今もカメラを向けている記者に目を向けた。
「近くの住民の避難は済んでるわよね?」
「はい!もちろんです!今日も特ダネに感謝しますよ!!」
「探偵の嬢ちゃんはクロノスと知り合いなのかい?」
「ちょっとした取引相手よ。たまにこうしてヘリコプターと周辺住民への避難誘導を出してもらう代わりに」
「我々は特ダネをゲットする!『天才市長は嘘だった!』きっと素晴らしい記事になりますよぉ!!」
その取引の中には、面白い記事が書けるなら情報操作を許す、という一文が隠れているのだが、両者ともそれをわざわざ口にしなかった。
アルの筋書き通りの記事が、明日の朝には発行されるのであろう。
先ほど、クロノス生徒が便利屋を悪く報道していたのも、その筋書きを強固にするため。
”便利屋を悪く見せようとする市長に騙された”という記者の像を作るため。
市民がより市長が悪者に見えるようにするための演出であった。
”騙されてしまった記者”という評判がクロノス記者についてしまうが、彼女たちはそれを気にしない。
面白い記事が書けるから。
「あまりメディアを使いたくはなかったけど、あの市長に一番効くのはこれでしょうね」
「爆弾で手に入れた名誉が、最後は爆弾によって砕ける。なんか皮肉だね」
なんて会話をしていると、遠くからサイレンが聞こえてきた。
さすがにこれほどの爆音を響かせていれば、足が遅いヴァルキューレも慌てて飛んでくるのだろう。
「では、我々はこれで!次の取引をお待ちしていますよ~便利屋さぁん!」
そう言ってクロノス生徒はヘリコプターに乗って飛んで行ってしまった。
いいネタがもらえてホクホク顔である。
サイレンが近づいてくるのに気が付いて、放心状態であった店主が気を取り戻したようだ。
アルが土煙を払いながら店主を呼ぶ。
「さぁ、店主さん。早くお嬢さんのところへ行ってあげなさい」
「そ、そうだ!嬢ちゃんは今どこにいるんだ!?探偵の嬢ちゃんがここにいるってことはあの娘は一人か!?」
「えぇ、でもあの娘の希望だったのよ。『店主さんを待ちます!』と言ってあの場所にいるわ」
その言葉でピンときたのか、店主は駆け出して行った。
するとそう時間を置かず、パトカーが数台到着し、銃を持ったまま警官が降りてきた。
中でも一番階級が高そうな警官が先頭に立ち、アルたちに銃を向ける。
「便利屋68・・・」
「遅かったわね。ヴァルキューレさん」
アルは懐から紙を取り出し、警官に見えるように向ける。
それはヴァルキューレが便利屋へむけた依頼書であった。
連続窃盗事件を解決してほしいことの旨などが記されている。
「契約通り、事件は解決よ。R市連続窃盗事件の首謀者はこの市長。証拠はないけれどね」
そんなふざけた主張に弾丸をもって返答することは容易であった。
しかしヴァルキューレは便利屋に対してある種の信頼を向けていた。
彼女たちは依頼に一切手を抜かない
その一点においてだけは、信頼していた。
なので市長が犯人であることは間違いないであろう。
アルはわざと少女のことは話さなかった。
それに嘘も言っていない。
市長が少女の両親を殺さなければ窃盗事件なんて起こらなかったため、彼が元凶という主張にどこも嘘はない。
ヴァルキューレは縦に潰れたがれきの山を見ながら言った。
「この市役所の惨状はどう言い訳するつもりだ?」
「ある程度、過去の事件は目をつぶってくれるのでしょう?事件を解決したのは今。爆破は過去のお話よね?」
目の前にいる犯罪集団をとらえられないことに、警官が奥歯を噛みしめる。
先にそう言った内容の依頼をしたのはこちらであるため、反論することもできない。
アルはそんな彼女たちの態度を気にせず、背を向けた。
「では、また会いましょうね。『次のご依頼をお待ちしております』」
「!!!」
その言葉はヴァルキューレへの挑発であった。
どうせまた私たちの手を借りるのでしょう?
アルは言外にそう言っているのだ。
ヴァルキューレは青筋を立てつつも、いまだ呆然としている市長のもとに手錠を掛けに行くのであった。
次話はエピローグです。