もしもアルちゃんが本当にアウトローだったら   作:野口さん

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エピローグ

『R市の天才市長 逮捕』

『便利屋68 偽りの市長に勝利』

 

新聞の見出しを見ながら、アルは椅子の背もたれによりかかった。

 

既に日が登っている。

 

便利屋の四人は、貸し切り状態の定食屋にいた。

もちろん、犬の店主の定食屋だ。

 

しかし、いつもの店内とは違って、やや暗い雰囲気を感じる。

理由は二つ。

物理的に店内の明かりがついていないことと、いつも元気な店主が机に突っ伏しているからだ。

 

来店した便利屋の四人は、それを気にせず椅子に座って思い思いに休んでいる。

ハルカはアルの肩に頭をのせて寝息を立てていた。

 

「結果的に、今日を休みにしてよかったぜ。眠くて仕事どころじゃねぇや」

 

店主は大きくあくびをした。

定食屋の扉にはCLOSEDの看板が立てられている。

アル達が入れたのは特例だ。

 

アルは新聞をめくりながら眠気にあらがう店主を見る。

目をこする店主の隣には少女が座っていた。

 

すこし怒っているように見えるのは、幻覚ではないだろう。

 

「嬢ちゃん、ごめんな心配かけて」

「!! !!!」

「わるい、わるかったって!」

 

カヨコはまるで二人が親子のようだと感じた。

帰りが遅かった父に怒る娘、といったところだろうか。

 

「さて、私達がここに来たのは、何も食事をとりたかったわけではないの」

 

ちがうの!?とムツキががっかりとしている。食べたかったらしい。

アルは鋭い目で店主と少女の二人をみつめる。

 

「お嬢さん。どういった経緯であれ、あなたが盗みを働いたのは事実。

 そして店主さん。あなたが包丁を人に突きつけていたことも事実」

 

「両方とも、れっきとした犯罪よ。無罪放免とはいかないわよね?」

 

二人が視線を落とす。

アルの言うことはもっともだとわかっているからだ。

 

「犯罪を繰り返している私が言うのもなんだけど、罰をうけてもらうわ」

 

ごくりと唾を飲み込む二人であったが、そのあとのアルの言葉で拍子抜けすることになる。

 

「まずお嬢さん。あなたは住む場所を変えてもらうわ。慣れ親しんだ場所が急に奪われる喪失感。さぞつらいでしょうね。

 次に店主さん。あなたには子供を一人引き取ってもらうわ。突然始まる子育て生活。さぞストレスがかかるでしょうね」

 

アルの言ったことを理解して二人は互いに見つめあう。

 

「つまり、しばらく二人で生活しなさい。それが互いのためになるわ」

 

店主にとって、それはとてもうれしい罰であった。

先輩の忘れ形見ともいえるこの少女を、守ることができる。

 

少女にとっても、それはうれしい罰であった。

雨風しのげる場所に住める上に、相手は信頼のおける店主である。

 

喜ぶ二人に苦笑しながら、アルは眠っていたハルカの頭をなでた。

 

「ハルカ」

「!!はい!!はいい!!」

 

寝ていたハルカが飛び起きた。

 

「くつを返してあげて」

「わかりましたぁ!」

 

ハルカが少女に渡した靴は、例の高速移動が可能になる上に、サイズ可変な少女の靴であった。

アルが膝をついて少女と視線を合わせる。

 

「すばらしい性能だったわ。おかげでとても依頼が楽になった」

「ありがとう、ございます」

「これはそのお礼。受け取ってくれる?」

 

そう言ってカヨコに目配せをすると、カヨコはこくりと頷いて、机にアタッシュケースを置いた。

中身は・・・

 

「な、なんだこの金!??」

「!??」

 

綺麗にケース一杯詰められたお札。

目を回すほどの大金が入っていた。

 

驚きのあまり、眠そうだった店主の目がこれでもかと開き、少女は声を出すことができなかった。

 

慌てて両手を前に出し、アタッシュケースを突き返す少女。

 

「こんなに、もらえない、です!」

「拾ったと思って受け取りなさい。これは便利屋68からのお礼よ」

 

組織としてお礼するのだから、これぐらいは妥当よ。とアルは何でもないかのように言い放った。

少女はそれでも躊躇っているようで、視線が落ち着かない。

店主に助けを求めているようだが、その店主も驚いていて助け舟を出せない。

 

「なら、このお店に置いておくわ。使うも捨てるもあなたたちで決めることね」

 

そう言うと、要は済んだとばかりにアルは立ち上がり出口に向かっていく。

ほかの三人もその後ろについていく。

 

「それじゃぁね。R市での依頼も終わったし、私たちは事務所に帰るわ」

「そんなに長居もできないしね~!風紀委員が来ちゃうかも!」

「ごはん美味しかった。ありがとう」

「あ、ありがとうございました!!」

 

そう言って手を振り、便利屋の四人は出て行こうとする。

すると慌てて少女が呼び止めた。

 

「あ、あの!!

 お、お財布を」

 

取り出したのは、以前少女に盗ませたアルの財布。

68円の偽札しか入っていない綺麗な財布だ。

 

アルはそれを受け取らず、少女に背を向ける。

 

「またどこかで出会ったら返してちょうだい。その時まで、あなたに預けておくわ」

 

「またね。お嬢さん」

 

そう言って今度こそ、出ていってしまった。

 

突然静かになってしまった店内。

綺麗な財布を少女はじっと見つめている。

 

店主はそんな少女の頭をなでながら指を折って何かを数え始める。

 

「えっと、まずは学校・・・いや、戸籍か?いやそれよりちゃんとした服を買って・・・」

 

そうブツブツと呟く店主の裾を少女は引っ張った。

 

「まずは、パパとママの。お墓がほしい、です」

「あぁ、そうだな。まずはそれからだ」

 

形だけでも、祈れる墓は欲しい。それか仏壇か。

先輩二人の写真も撮ったことがある気がする。どこかに仏壇と写真でも置いて、店の料理を食べてもらおう。

 

店主はしゃがんで少女と目を合わせた。

 

「ま、これからよろしくな!嬢ちゃん!」

「はい!!」

 

少女は笑って、大きく返事をした。

 

ーーーーー

 

 

「・・・これ、どうしましょうね」

「あははっ!アルちゃんなにやってるのー!!あはっ!」

「返したいところだけど・・・でも社長は市長に返すって言っちゃったよね」

「あわわ、どどどうしましょう!?」

 

便利屋68の事務所にて、アルが最近最も困ったような顔をしていた。

ムツキは笑い、カヨコは呆れ、ハルカは銃を構えている。

日常風景のように見えるが、アルの表情が日常ではない。

めずらしく後悔の表情が見えた。

 

机の上に置かれたそれが、ことの原因であった。

 

『R市 犯罪ファイル』

 

市長から借りたあのファイルだ。

 

「一連の事件が終わったら、市長(・・)に返す・・・そう言ったわね」

 

アルの正直な感想は、いらない、であった、

困った。本当にいらない。

仮にも市の重大なファイルである。持っているだけでリスクを生む。

 

口約束といえど市長に返すと言ってしまった。

R市の市長に返せばいいのだが、最近逮捕されたばかりでその職を解任された。

 

では新市長にと思うが、当然まだ決まっていない。

 

「どうするの?すてちゃう~?」

「いえ、返すといった手前、それはできないわ・・・」

 

打つ手なし。

新しい市長が決まるまで保管しておくしかないか。

 

そう決断しようとしたとき、偶然窓から入ってきた風が、ファイルをめくる。

開いた事件は、ちょうど今月の数字が書かれたページ。

おそらく今月の事件が記載されるところだったのだろう。、

 

ムツキがそれをみて何かひらめいたようで、ペンを持って突然書き込み始めた。

 

「ちょっとムツキ!?」

 

慌てて三人がやめさせようとすると、ムツキは笑ってこたえた。

 

「わたしたちでこの事件のこと書いちゃおうよ!」

 

きっとたのしいよ!と続けた。

ページの頭には『わるい市長がたいほされた!』と書かれていた。

 

アルはそれをみて、ふふっと笑った。

 

「いいわね、書いちゃいましょう。書き込んでいけないとは言われていないわ」

「えぇ・・・それでいいの?社長」

「いいのよ。ムツキ、私にもペンを頂戴」

 

そう言ってアルが書き込みを始めると、それに続いてハルカもペンを持った。

カヨコもやがてあきらめたのか、ペンを持つ。

 

四人でファイルを囲んで落書きと言ってもいい報告書を書く。

落書きのように見えるも、事件の過程や犯人などはしっかり描かれているのがたちが悪い。

 

結果出来上がったのは、妙にカラフルで落書きまみれで、そして難しい言葉の一切ない『R市連続窃盗事件』の報告書であった。

 

 

 

数か月後、ファイルを返された新市長はそのページを見て腹を抱えて笑った。

 

「ったく、探偵の嬢ちゃんたちだな?はははっ」

「おとうさん?どうしたの?」

「おう、見ろよここ!『便利屋登場』だってさ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

R市連続窃盗事件

   

依頼達成

 

 

 

 

 

 






次章はアビドス編の予定です。原作が始まりますね。
少し間を空けてからの投稿となります。ご了承ください。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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