「はぁ・・・はぁ・・・」
夜を照らす街灯が、パリンと銃に撃たれて割れた。
先ほどまで明るかった道が、突然暗く染まり、先が見えなくなる。
ヘルメット団の彼女は全力で走っていた。
今日はなんて散々な日なんだ。
アビドスの黒見セリカをさらったところまではいい。そこまではよかった。
しかし、彼女を奪還にきたアビドスの生徒にそれはそれはボコボコにされた。
違法改造の武器で包囲網を敷いて、カイザーにもらった戦車まで出した。
だが、負けた。逃げられただけでなく、団員のほぼ全員があのアビドスの五人に敗れた。
そしてさらに今、自分は何かに追いかけられている。
姿も見えない誰かに追いかけられているのだ。
「うわあああ!」
銃声
最後の仲間が倒れた。
アジトまで逃げてきたというのに、どこまでも追いかけてくる。
もはや立っているのは自分一人、壁を背にして震えることしかできない。
すると、暗闇の中から誰かが出てきた。
顔はよく見えないが、銃を持った誰かがこちらに歩いてくるのがわかった。
ヘルメットの少女はもう銃を構える体力もなかった。
「うぅ・・・何者だ、貴様らは・・・まさかアビドスか!?」
ヘルメットの少女が叫ぶも、目の前のそれは返事もせずに距離を詰めてきた。
当然彼女はそれを妨害することもできない。
いつの間にか、二人の距離はもう手の届くところまで来ていた。
ここでようやく、ヘルメットの少女は目の前の相手の顔を確認できた。
何度も手配書や新聞で見たことのある、あの組織のトップ。
「そ、その顔!まさか便利屋のっ!」
自分が言い終わる前に、相手は銃を頭に突きつけていた。
便利屋68
社長 陸八魔アル
自分たちのような半端な不良とはワケが違う、裏社会の超大物。
そんな相手が、目の前にいる。
呼吸が荒くなり、立っていられなくなる。
「あら、そこまで怖がらせるつもりはなかったのだけど・・・」
アルはしゃがみ込んだヘルメット団の少女を見つめて、構えていた銃を下ろした。
「すこしお話がしたかっただけよ。仕事の引継ぎって、大事なことでしょう?」
「なに、を」
ヘルメット団の少女が聞き返す前に、ふたたび暗闇から誰かが出てくる。
「終わったよ~アルちゃん!」
「なんで逃げたんだろう。おかげで連れてくるのに時間がかかった」
「わ、わたしが、わたしが悪いんです!わたしが、声をかけたから!」
全員知っている顔だった。彼女たちもまた、便利屋68の人間。
便利屋68の全員が今、目の前にいる。
しかし、ヘルメット団の少女を怖がらせるのはそれだけではない。
三人はずるずると何かを引きずっていた。
それは、ヘルメットをかぶった少女達。
ピクリとも動かないヘルメット団の団員が、引きずられてきていた。
殺される。
自分も、殺される。
もう悲鳴も出てこない。
震えて涙を流すことしかできない。
「・・・」
アルはゆっくりとしゃがみ込んで、震える少女と視線を合わせた。
「殺しなんてしないわよ。あの子たちも気絶しているだけ」
震える少女は恐る恐る口を開いた。
「はなし、とは?」
「えぇ。アビドスについてわかったことを教えてくれる?」
アビドス?
あのアビドス?なぜ便利屋がそれを知りたがるのか、ヘルメット団の少女はわからなかった。
便利屋68ほどの組織が、なぜアビドスを?
「な、なんで」
「現時刻をもって、アビドスは私たちが引き受けるわ」
合点がいった。
カイザーが便利屋に依頼をしたのだろう。
確かに便利屋なら、あのアビドスにも勝てるかもしれない。
「つ、つまり、私たちは、用済み?」
「?そうね。便利屋が引き継ぐから、あなた達は解放されるわ」
アルの言葉にヘルメット団の少女は再びガタガタと震え始めた。
便利屋の三人も、首を傾げる。
ヘルメット団の少女はガタガタと震えながら言った。
「引継ぎ、解放・・・く、口封じ!」
「え?」
「やっぱり殺される!!」
なにやら変な勘違いをされているようだった。
後ろに控えていた三人も集まり、ヘルメット団の少女に問い詰める。
「殺しなんてしないよ!」
「べ、便利屋は口封じのために今までたくさん殺しをしてきたって・・・」
「えぇ・・・なにその勘違い。今まで殺しとかしたことないんだけど」
「そ、そういうことならわたしが殺りましょうか?アル様」
「ヒィイイイ!!」
「ハルカ、ちょっと静かにして。えっと私たちは本当に話を聞きたいだけで・・・」
「殺さないでくださいいいい!!」
「・・・はぁ」
この後めちゃくちゃ説得した。
―――
「あははっ!!口封じに殺すんだってわたしたち!あははっ!」
夜道を歩きながら、ムツキは笑ってそう言った。
「笑い事じゃないわムツキ。殺しはしないのが私たち便利屋よ」
アルがため息を吐いて頭を押さえた。
便利屋68は殺しはしないということになっている。
「情報はもらえたからいいけど・・・どこからの噂だろうね」
「わたしたちに恨みのある人かな?」
「たくさんいるわね」
「やっぱり全員消し飛ばしておくべきでしたか?」
「噂が本当になるだけだよハルカ」
便利屋に恨みを持つものは大勢いる。
会社の役員、社長。裏町のギャングたち。
ヴァルキューレ警察も恨んでいるのは間違いないだろう。
それが便利屋68
キヴォトス有数の犯罪組織である。
「私たちが依頼を受けにくくするために、誰かが流したのかもしれないわね」
「となると競合他社?うーん・・・」
四人が頭をひねるが、犯人の特定はできそうになかった。
アルが手を叩いて、話を切り替える。
「この件は後にしましょうか。今はアビドスについて考えましょう」
「そうだね。情報は手に入った。戦闘要員が四人で、モデレーターがひとり」「モデレーターいるんだ!いいなー!私たちもほしい!」
「前線に出てくるのが私たちとおなじ四人なら、最悪一対一で対処できるけど・・・」
「モデレーターの後方支援が厄介ね。ドローンを使うと聞いたわ」
「わたしが撃ち落としましょうか?」
「おそらく前任の彼女たちもそれを試したはずよ。それでも敗北したというのなら」
「ドローンの予備が大量にあるのか、もしくは撃ち落とす余裕もなかったのかだね。一応何回か壊してみてもいいかも」
後方支援要員がいるのはこちらとの大きな差である。
しかし、アビドスとの戦いにおいて、アルが最も警戒しているのはそれではない。
「一番の問題は、なによりも『先生』よ」
「早速会えるってことじゃん!どんな人なのかな?たのしみ!」
「牢屋の中でゆっくりお話しする、なんてことになるかもね」
「えぇ。シャーレと不用意に接触することはできないわ」
アルは今朝の新聞を懐から取り出して、『先生』の記事を再確認する。
「ヘルメット団の敗北には、その『先生』も大きく関わっているでしょうね」
「指揮能力がずば抜けているって記事には書いてあった」
カヨコがあごに手を当てて、アビドスを冷静に分析した。
「強い戦闘要員と、モデレーター、そして先生」
「・・・もしかしてこの依頼めちゃくちゃきつい?」
「ひええええええ」
戦闘能力で言えば、アビドスはもとから高い能力を持っていた。
それが今は『先生』という存在も追加されている。
「十分に策を練りましょう。幸い、依頼の期限まで余裕はあるわ」
アルは普段と同じような態度で、指示を出した。
冷静な社長の姿を見て、三人も安心したのか息をつく。
「明日はどうする?作戦会議?」
「そうね。それと場所の確認」
「場所?・・・あぁ戦場のこと」
「えぇ、地形の把握よ。ムツキ、ハルカ。帰るわよ」
「はーい!」
「はいぃ!!」
お待たせしました。
ひとまず数回分の予約投稿ができましたので、毎日0時投稿、始まります。