アビドスから撤退した後、便利屋の四人は装備の点検をしながら歩いていた。
「煙幕地雷の煙もっとふやしたいな~結構時間ギリギリだったよね?」
「そうだね。まだ増やせるの?」
「・・・正直わたし一人じゃちょっときついかなー 手伝ってよカヨコちゃん!」
「いや、私そっち方面そんなに器用ってわけじゃないし」
「ハルカ、ケガはない?」
「は、はい!五体満足です!!」
「最近、あなたに危険な役目を任せすぎよね。ごめんなさい」
「あ、アル様!?あやまらないでください!!わたしはお役に立ててうれしいですからぁ!!」
「私の気が済まないのよ。何か欲しい物とかある?シンプルにお金でもいいけど」
「そ、そんな、わたしなんかにぃぃぃ!」
ワイワイと騒ぎながら歩いている四人。
学校から十分に離れると、追っ手がないことを確認すると、今回の襲撃でわかったことについて話し始めた。
「アビドスのやつら、新聞って言ってた」
「じゃあクロノススクールが悪いってこと?」
「カチコミ、行きますか?」
「ハルカ、落ち着いて。社長も落ち着くよう言ってよ」
「そうね、行きましょう」
「アルちゃん!?」
まさか肯定されるとは思っていなかったのか、ムツキが驚いた。
ハルカとカヨコも声には出さずとも、驚いたのか目を見開いている。
「もしもクロノスが新聞になんらかの工作をしているならば、それはれっきとした私たちへの挑戦よ。潰すわ」
「えっと、社長。本気?」
「本気も本気。徹底的にやるわよ」
すると突然、アルの携帯に電話がかかってきた。
アル私用の携帯だったが、一部の仕事相手は番号を持っている。
相手が誰かと予想をつけながら、耳に携帯を当てると、何やら慌てた声が聞こえた。
『なにやら命の危機を感じました!!クロノススクールです!』
噂をすればと言ったところだろうか。
記者というものは稀に第六感といえるものを持っている。
「アビドス自治区のあなたたちの新聞について聞きたいのだけど」
『はい!私たちはもちろんそちらの地域にも新聞を発行していますが、スポンサーの意向で通常の物とはすこし内容を変えています!!!』
「なにそれ。偏向報道してるってこと?」
「やっぱり行ったほうがいいんじゃなーい?カチコミ」
偏向報道を認めたクロノス。
アルが電話越しに聞こえるように銃をリロードすると、再び慌てて返事をした。
『命の危機二度目!!偏向報道と言っても二週間ほどまえから便利屋68の欄を誇張したり噂話をまるで本当のことのように書いてるだけですので!!!』
「だめじゃん」
「最近の噂はクロノスのせいだったんだね」
「潰しましょうか?」
『すこし、ほんのすこし誇張しただけなのでぇ!』
最近、必要以上に便利屋が恐れられていた理由は、クロノススクールの新聞によるものだったようだ。
噂話が公に広がって仕舞えば、それは真実と世間に広まってしまう。
「そう。それで、言いたいことはそれで良いの?」
『へ?』
「遺言は、それで良いのかと聞いているのよ」
『ヒッ!?』
「冗談よ。私たち殺しはしないわ。それはただの噂話だもの。ねぇ?」
『は、はい!』
とても冗談には聞こえなかった。
アルは深くため息をついた後、表情を戻した。
「記事の改ざんについては以前私たちも頼んだわけだから強くは言わないけど・・・改ざんを要求したスポンサーというのはだれ?」
『さ、さすがに名前を出すわけには・・・』
「?答えない選択肢があると思っているの?」
『ひぃぃ!!しかし、それでも言うわけには・・・』
さすがにそこは口が堅いようだ。
社長結構ちゃんと怒ってるな・・・と会話を聞いていたカヨコは感じていた。
そして冷静にそのスポンサーを分析し始めた。
「・・・はぁ。改ざんした新聞をアビドス自治区に広げるなんて、なかなか大胆なことをしているみたい。かなり広いでしょ?」
『そうでしょうか?以前はアビドス自治区はかなり広かったですが、今はそうでもありませんよ?便利屋さんたちの今いるそこも違いますし』
「紫関ラーメンの近くのここが?アビドスの自治区じゃないの?」
『そうですね、今は我々のスポンサーであるカイザーコーポレーションさんが・・・あ』
「そう、カイザーね」
『ああああああああ!!!!!』
クロノスは簡単に口を滑らせた。
本気でクロノススクールとの関係を考え始めたアルは冷たい声で電話を続けた。
「そうそう、近いうちにあなた達に会いに行こうと思ってるの。歓迎はいらないわ」
『そ、それってまさか・・・』
「安心して?そんなすぐ契約を切るわけじゃ無いわ。最も、あなたたちの今後の態度次第だけれど・・・」
『わ、わかりました・・・』
そう言ってクロノスは震えた声で電話を切った。
R市では活躍していたというのに、今となってはそれが嘘のようだ。
今後の契約相手との付き合い方について、カヨコは頭を押さえていた。
「・・・やっぱりクロノスとは組まないほうがよかったんじゃない?信用できない」
「そうね・・・考えておくべきだったわ。良くも悪くも、面白い記事を書きたがる彼女たちだもの。こういったことになるなんて予想できることよね・・・私のミスよ」
そう言って珍しく気分を落としているアル。
元々カヨコはクロノススクールに懐疑的だったこともあり、責任を強く感じていた。
そんな様子を見ていたムツキは普段通りの明るい声で笑って言った。
「アルちゃん!柴関ラーメン行こうよ!」
突然の提案にポカンとするアルにムツキは続けた。
「美味しいもの食べて、楽しいことしよ!なにかの依頼でも良いし旅行とか行っても良いし!」
楽しそうな提案をしていると、ハルカも続けてやってきた。
「えっと、また隠れ家行きませんか?いっしょにガーデニングとか、しませんか?き、きっと、たのしいと思います!!!」
2人はどうやら、へこんでいるアルを慰めているようだった。
その気遣いに気がつき、アルは微笑んだ。
「そうね。ふふっ、確かに思い切り休暇を取る、と言うのも良いわね。ありがとう2人とも」
いつもの調子が戻ってきたようだ。
アルの顔色が戻ったことを確認して、カヨコは一連の事件のそもそもの原因について考えた。
自分たちへの依頼、そして悪評は、カイザーコーポレーションが関わっている。
「カイザーコーポレーション・・・いい噂は聞かないけど、
「そうね。目的はわからないけど・・・」
「とりあえず、カイザーにも
アルは低い声でそうつぶやいた。
「・・・
「待って、相手の目的もわからないうちに攻めるのは得策じゃない。最悪それを逆手に取られてもっとひどい噂を流される」
「確かに、今後の活動に関わってくるわね」
基本的に依頼はなんでもござれ(殺しを除く)の便利屋68。強烈すぎる悪評は危険な依頼を呼ぶ。
過去、それを経験したアルたちは知っていた。
「またどっかの戦争に繰り出されるのはキツイ・・・」
「レッドウィンターのクーデター依頼とか大変だったよね~寒かったし」
「単純な護衛依頼とかなら、楽なんだけど」
各々が、過去の苦労した仕事を思い出していた。
依頼達成率100%という称号を得るためには、途方もない苦労が必要だった。
「とりあえず、一旦事務所に戻りましょうか。また作戦を練らないといけなくなったわ」
「そうだね。依頼を続行すべきかどうか考え直さなきゃ」
「え?依頼破棄にしないの?カイザーにもいろいろされてたじゃん!」
ムツキはすぐに依頼破棄を提案した。
依頼人のカイザーコーポレーションは自分たちの悪評を流し、活動を妨害していたのだ。
なぜまだ従う必要があるのか。
「あちら側に『まだあなたたちに従っています』というポーズを見せておく必要があるの。カイザーの目的がわからない以上、そう大胆には動けないわ」
「・・・なんか窮屈!!騙されてるってわかってるのに!楽しくなーい!!」
「そうね。私も窮屈に感じるわ。ごめんなさい、ムツキ。あなたはこういう時が一番嫌だって私は知っているのに」
そう言って不機嫌なムツキの頭をアルは撫でた。
デジャヴだなと思いながらカヨコはその光景を見つめていると、こちらを同じように見つめるハルカがいた。
なに?とハルカを見つめると、笑いながら答えた。
「か、カヨコ課長も、撫でられたいのですか?」
「え?」
「わ、わかりますよ、えへ、えへへ、羨ましいですよね」
えへへ、と続けるハルカ。
「あら、そうだったの。おいでカヨコ」
「なーんだ!カヨコっちも撫でられたかったんだ!アルちゃんの片手空いてるよ!」
アルとムツキはそう言って手招きする。
なにやら妙な勘違いをされていると冷や汗をながすカヨコだったが、なにか反論する前に、背中をハルカに押された。
「ちょ、ちがっ、まって、」
「カヨコも頑張ってるわよね。いつもありがとう」
「ありがとねカヨコっち!」
「いつもお世話になっております!!」
「~~~!!!」
その後、顔を赤くして逃げるカヨコを追いかけながら、便利屋の四人は笑いながら事務所に戻っていくのだった。
すこしお休みします