報復をしようと爆弾と銃を構えたハルカを何とかおさえた後、
アルが突然、4人で昼食を取りましょうという提案をした。
頭を抑えるカヨコだったが、何か考えがあるのだろうと近場の定食屋に入っていた。
「いらっしゃい!なんにしようか?」
「定食を4人分で」
「あいよ!!」
アルが注文すると、犬の店主が豪快に答える。
店の中には4人以外誰もおらず、貸し切り状態。
先ほど大きな声で返事を返してくれた店長も厨房に入ってしまい、とても静かであった。
店内を見渡す3人。彼女たちは普段目にしない光景に、目を回していた。
傷ひとつない大きな絵画と、清潔感のある内装。
今座っている椅子も高そうで、机も何かの装飾がされている。
ハルカがガタガタと震え始めた。
「た、高そうなお店ですぅ。な、内臓!内臓を売れば払えますかね?」
カヨコとムツキも震えて声に出しはしなかったが、似たようなことを考えているのか、緊張している様子であった。こんな高級店で食べる機会などなかった。
珍しく緊張しているムツキに笑みをこぼしながら、アルはハルカに声をかけた。
「大丈夫よハルカ。私が払うわ」
「でもアル様はさっきお財布を・・・」
「大丈夫よ、それに値段を見てみなさい」
そういって渡されたものをハルカは震えながら受け取った。
それはこのお店のメニュー表だった。
ハルカはそれを見ると首をかしげる。
カヨコとムツキも気になったのか覗くと、同じように首を傾げた。
こんな高級そうな店には似合わない値段が書かれてある。
「えっと、確かに私たちが普段食べているものより少し高いけど・・・」
「ほんと少しだけってかんじだね。思っていたより安い・・・」
この店の雰囲気にはあわない値段であった。
三人が首を傾げていると、店の店主が料理を運んできた。
「あぁ、お客さん。市の外から来た人かい?んじゃぁびっくりするよなぁこの店は。ほら、定食四人分!」
「あ、ありがとうございますぅ!美味しそうですね!片目も売りますぅぅぅぅ!!」
出された定食は、確かにおいしそうであった。しかし、やはり違和感がある。
これもまた、自分たちが住む町の定食とあまり変わり映えしない。
「えっと、その、なんでこんなに安いんですか?ここは富豪の町、ですよね。メニューも私たちが見知ったものですし」
カヨコが言葉を気をつけながら聞いた。
店主は豪快に笑って答えた。
「おう!たまーにここの町の人が言うんだよ、庶民の料理を食べてみたいってな!だから建物をもらって店をだしてみたんだよ!この絵とか内装は全部前の店のもんそのまま残してるってだけだ!」
店主の言葉に、三人は再びあたりを見渡す。
確かに注意深く見てみれば、この机も椅子も、年季が入ったものであることがわかる。
「俺がこの店を建ててまだ2.3か月、それにしちゃぁ年季が入ってるだろ?おおっと心配すんな!その机と椅子も高いやつだから、簡単に壊れはしねぇ!!
そんで安さの理由は、嬢ちゃんたちみたいな外から来た人たちにも心置きなく食べてほしいからって理由だな!まっ、その人たちはみんなこの内装をみて逃げちまうんだけどよ!おかげで毎日常連の子ひとりしか来店してくれねぇんだ!」
店主は笑いながら答えた。
三人はその話を聞いてすこし肩がほぐれる。
「そうなんだ!それじゃぁいっただきまーす!」
すこし緊張が解けたのか、ムツキが元気よく声を上げる、
「いただきます」
「い、いただきます」
「そうね、あまり長く話していると料理が冷めてしまうわ、いただきます」
三人もそれに続いて手を合わせる。
そして料理を口に含むと、思わず目を見開いた。
「おいしい!!」
「すごい。このお肉、いままで食べたことないほど柔らかくておいしい」
「こちらのお野菜も甘くておいしいですぅ!両目を売りますぅ!!」
それぞれ驚きの声をあげる。
アルもわずかに目を見開いていた。
店主がそれぞれの反応を見ながら笑って言った。
「お、びっくりしたか?その肉はA5ランクだ!」
「それって最高等級の?」
「おう!そんでそっちの野菜もいいとこから仕入れてる!V市の野菜だ!」
「あ、あの高級食専門で作っているV市ですかぁ!?次はどこの臓器を売ればいいですか??」
聞けば、この定食に使われている材料のすべてが庶民では簡単には味わえない高級食材であるようだ。
先ほどアルが飲んだ水も、もっと言えば今使っているこの箸も。
「すっごーい!これ全部超高級食材?ハルカちゃん、そのお肉ちょーだい♡」
「は、はい!」
「あげなくていいよ、ハルカ。えっと、そんな高級食材使ってこの値段?大丈夫なんですか?」
カヨコが心配そうに聞くと、店主は大きくうなずいた。
「いいんだいいんだ。確かに利益はほとんどねぇけどよ。蓄えはあるからな!!俺にとっちゃぁ今の嬢ちゃんたちみたいに、美味しそうな顔見せてくれるだけで儲けもんだよ!」
わっはっはっはと店主は笑う。
素晴らしい店主だと、四人は店主を見つめる。
するとハルカが涙ぐんだ。
「うぅ・・・素晴らしいお店と店長さんですぅ!お礼はどうすればいいですか!?誰か消しましょうか!?」
銃を取り出してガチャンと音を鳴らす。
それを見てムツキとカヨコが冷や汗を流す。
こんないい店をつぶされてはたまらない。
店内で銃を振り回すハルカを慌てて止めようとムツキとカヨコが動くが、それより先に店主が答えた。
「ははは、じゃぁ最近暴れまわっている窃盗犯をとっつかまえてくれ!その銃があればきっと捕まえられるさ!」
アルがピクリと反応した。
社長の雰囲気が変わったことに気が付き、ほかの三人も落ち着く。
アルは店主と目を合わせる。
「あら、あの事件を知っているのね」
「この町にしらない奴はいねぇさ。幸い、ウチの店は何も盗られちゃいねぇがよ。市民のみんなが怖がって外に出なくなったら、うちの店にお客さんが入らなくなっちまうよ」
まぁもとから入らねぇんだけどな、と笑って言葉をつづけた。
アルは目を細めて店主を見つめる。
「そう、あなたは被害に遭ってないのね」
この店は外観も内装もまさしく高級店である。
盗みをするなら間違いなく選びたくなるような店なのに、この店は被害に遭っていない?
アルの冷たい視線に、店主は怯みもせず笑っていた。
「なんだい嬢ちゃん、俺を疑ってんのか?だがその推理はまちがってるぜ?なんてったて・・・」
そう言って店主は自身の右足を叩いた。
突然の行動に反応するより先にガン!と金属音がなった。
四人が驚いて店主の顔と足を交互に見つめる。
ロボットではなく、犬である店主からそんな音がするわけがない。
店主がニヤリと笑って右足のズボンの裾を少しめくる。
「ちょっといろいろあってな。3ヶ月前から太ももから先は義足なんだよ。こんな足じゃ、みんながやられたっていう俊敏な動きはできねぇな!」
空気が悪くならないようにする配慮か、店主は明るい口調で言った。
「そう・・・変な疑いを掛けてしまったわね。ごめんなさい」
「いいんだよ嬢ちゃん。ははっ嬢ちゃんたち、もしかして噂の外から来た探偵さんかい?ならもっと疑ってくれて構わねぇよ!」
アルが頭を下げると、店主は笑って返した。
さらにアルたちを探偵と呼ぶ。
「いえ、私たちは探偵じゃなくて・・・」
アルが言葉を否定しようとしたその時、店の扉が開いた。
店主がズボンの裾を戻し、腕時計を見る。
「おっと、そういえば時間だったな。いらっしゃい!」
店に入ってきたのは、小学生ほどのちいさな人間の女の子であった。
店主はしゃがみこんで少女と視線を合わせる。
「いつものでいいかい?」
店主の質問に少女はこくりとうなずいてテクテクと席に向かっていった。
四人はじっとその姿を見ている。
「常連の子ってあの子かな?ちっちゃい子だね。小学生だよね?」
「それに店主さんの言葉から察するに、いつもこの時間に来ているみたいだね」
「今ってえっと、小学校のお昼休みの時間でしょうか?食べに来ているんですかね?ひとりで大丈夫でしょうか・・・」
「いえ、R市の小学校は給食制だったはずよ」
今の時間は確かに小学校だったらお昼休みの時間ではあった。
しかし、アルの言う通り小学校は給食の時間。
給食と定食を両方食べているのだろうか?
「でも、あの子・・・」
少女の腕は、細かった。
不健康といえるほどではないが、給食と定食の両方を食べているとは思えない。もし彼女が常連だというのなら、頻繁に2食食べているということになる。
しかし、彼女の体から、そうは思えなかった。
もっと言えば最近の窃盗事件から町も当然警戒態勢を布いている。小学生を一人で外の店に食べに行かせることなど、ありえない。
そんな四人の視線に気が付いたのか、少女がこちらを向いた。
しかし目が合うと、少女はビクッと震えて、下を向いてしまう。
「・・・ゴメン、私のせいかも。怖がらせた」
カヨコは自分の目つきのせいだと視線を落とすと、ムツキが手を置いて背中をさする。
「カヨコちゃんのせいじゃないよ!四人から見られたら誰でも怖がっちゃうって!」
「わ、わたしのせいかもしれません!銃を見せてしまったからぁ!」
ハルカが再び暴れそうになるなか、店主が厨房から料理を持って出てくる。
少女はパッと顔を上げた。
「ほらよっ嬢ちゃん。ハンバーグ定食だ。ジュースはおまけ、な!」
少女の目は輝いていた。
そして消え入りそうな声で「いただきます」と言ってハンバーグを口に運ぶ。
途端に目が輝いて、幸せそうに笑う。
その様子を見て、四人も本来の目的を思い出し、食事に再び手を付けた。
その料理はやはりおいしくて、少女の顔と同じような表情になる。
店主はそれを見て嬉しそうに笑っていた。
R市やV市、A社B社C社など、アルファベット名の町や会社が出ていますが、これは覚えなくていい名前です。
誤字報告ありがとうございました