しばらくして、ムツキとカヨコ、ハルカの三人は食べ終わった。
だが、アルの前にはまだ料理が残っていた。
「アルちゃんそれたべないの~?私がたべちゃおっか!」
「ごめん、夢中になって早く食べすぎちゃった。ゆっくり食べてていいから」
「あわわわわ」
三人はそれぞれアルに言葉をかける。
しかし、ムツキは、わずかにアルの食べ方に違和感があることに気がついた。
わざとゆっくり食べているように見えるのだ。
「・・・?」
しかし、わざわざそれを口にする必要もないかと、背もたれによりかかる。
すると、店主の声が聞こえてきた。
「おう、ゆっくり食べてくれよ!なぁに、誰もせかしちゃいない!」
なんせ並ぶ客がいないからな!と笑って店主は語った。
カヨコは店主がいるうちに質問をしておこうと、店主に聞く。
「あの子が例の常連さんですか?」
「うん?あぁそうだ。なぜか放っておけなくてな」
「ジュースサービスしてたね!」
「ははっ、まぁ毎日食べに来てくれるんだ少しサービスするくらいいいだろ」
「ま、毎日!?」
ハルカが驚きで声をあげると、店主はシーっと口に指を立てた。
たしかに聞こえる声で話すような内容ではない。
「なにか、複雑な家庭?」
「かもな。ネグレクトってやつかもしれん。毎食食べに来てるってことは、飯を作ってもらえないみたいだしな」
店主は心配そうにうなった。
「でも、金だけはちゃんとあるみたいでな。財布もきれいなの使ってるし、万札が何枚も入ってたのが見えたぜ」
「でも、あの子、ちょっと服とか髪型がその、えーっと」
「うん?あー、言われてみれば・・・よく気付いたな、嬢ちゃん」
少女の格好は、不自然ではないものの、女子高生の目から見れば違和感に気づいたようだ。
言葉にするのが難しいが、若干の違和感を感じる。
再び推理を始めようとしたその時、
「ごちそうさまでした」
小さな声だった。
それは風が吹けば飛んでしまいそうな声で、便利屋の4人は聞き逃してしまったようだが、店主は大きな声で返事をした。
「ん、おう!今行くぜ!」
「え、今あの子何か言った?」
「おう、なぜかあの嬢ちゃんの声はよく聞こえるんだよ」
なんて笑いながら、店主は少女のもとに向かう。
そして慣れた手つきでレジを操作する。
少女も会計をしようと、立ち上がってポケットにガサゴソと手を突っ込む。
代金を払おうとしているようだ。
しかしなぜか財布を取り出そうとせず、ポケットのなかで財布を開いてお金を取り出すという、妙な動きをしていた。
まるで財布を見せたくないといわんばかりに。
当然それがうまくいくはずもなく、もたついていた。
「じょ、嬢ちゃん?どうした?」
店主が心配そうに声をかけるが、少女はその動きを止めようとしない。
なぜかアルたちの方向をちらちらと見ていた。なにか焦っている様子。
そしてなんとかポケットの中で財布を広げるのがうまくいったようで、1000円札と思わしき紙幣を引っ張り出す。
「こ、これでおねがいしま・・・え?」
「嬢ちゃん?これは、えっとどういうことだい?」
少女と店主は困惑の表情を浮かべた。
1000円札だと思われたそれは、68円と書かれたただの紙であった。
偽札、ということすらもおこがましい。
形だけが本物に寄せられた、ただの68円と書かれた紙である。
その光景は、便利屋の4人の目にも届いていた。
カヨコは先ほどアルが財布を盗まれたという話を思いだし、なるほど。とつぶやいた。
そしてムツキもアルの狙いに気が付いたようで、ゆっくりと食事を食べていた理由にも合点がいく。
ハルカのみが不思議そうに少女を見ていた。
「あ、あの子どうしたんでしょうか・・・あ、アル様食べ終わりましたか?」
「えぇ、おいしかったわ。お支払い、しましょうか」
そういって箸をおいてアルが立ち上がり、レジの方向へ、いやいまだ困惑している少女のほうへ歩いていく。
「店主さん、ごちそうさま。お会計を頼めるかしら?」
「お、おう!あー、ちょっと待ってくれ探偵の嬢ちゃん、今ちょっと・・・」
「た、探偵!?」
店主の探偵という言葉にビクッっと反応する少女。
アルたちはそれに気が付かないふりをしながら言葉をつづけた。
「いえ、この子の分も払うわ。
「カード?」
少女は首を傾げてアルの手元にあるカードを見つめている。
店主は訝し気にアルを見つめた。
「いいのかい?まぁそんな高ぇ料理でもねぇがよ」
アルは笑って答えた。
「えぇ、いいのよ。そのかわり、あなたとは少しお話をしたいのだけれど・・・」
アルはここで初めて少女と目を合わせ、肩に手を載せた。
少女はビクリ震えて服の裾をつかむ。
「は、い」
震えながら返事をする少女を見ると、店主が慌てて止めた。
「おいおい待ってくれ探偵の嬢ちゃん!!その子に何かするつもりなのか!?」
「いいえ、少しお話をするだけよ。誓ってけがをさせることはないわ」
アルは今度は店主と目を合わせて言った。
「そう、か」
店主はまっすぐなその視線に嘘はないと判断するも、やはり不安なようで少女に耳打ちをする。
「何か怖い目にあったらすぐ大声で俺を呼べ いいな?」
「だ、だいじょうぶで、す」
そうして支払いを終え、アルたち4人と少女は外に出る。
ハルカが困惑しながら震える少女とアルを交互に見る。
「え、えっと?」
しかしどう聞いていいのか、そもそも聞いていいことなのかわからず、質問を口に出すことはできなかった。
アルはその様子をみて、ハルカに聞く。
「ハルカ。聞きたいことがあるのならば、何でも聞きなさい。私はそれを決して咎めたりしないわ」
「は、はいぃ!どうしてその子を連れてきたんですか?!」
背筋をピンと伸ばしハルカが聞いた。
その緊張具合に苦笑しながら、アルは答えた。
「この子が今回の窃盗事件の犯人だからよ」
「うぅ・・・」
アルの言葉に、少女は小さい体をさらに小さくし、泣きそうな声を出す。
「なるほど!!さすがアルさ、ま・・・」
思わず返事を返してしまったハルカだが、だんだんとアルの言った言葉をかみ砕き・・・
「え」
「えええぇぇえぇえええぇええぇぇぇ!!!!???」
ハルカの声が町中に響いた。