もしもアルちゃんが本当にアウトローだったら   作:野口さん

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第Ⅵ話 市長

 

市長の車に乗り、彼女たちは大きな建物に連れられていた。

そして案内されるままに、『市長公務室』と書かれた部屋に入っていく。

 

中は、まるで学校の校長室のようであった。

 

向かい合うように置かれたソファ2つと、その間に置かれた膝の高さほどの長机。

 

その奥には普段彼が使っているであろう、高そうな椅子とガラスで作られた机。

机の上には、便利屋の四人が理解できない記号や文字が端から端まで書かれているノートと使い古されたパソコンが開かれていた。

 

中でもひときわ目を引くのは、大切そうにガラスケースに保存された賞状と表彰盾。

テレビで放送されていた彼が受賞したという賞でもらったものだろう。

 

市長はアルたちをソファに座るように促し、自身も反対側のソファに腰掛けた。

 

「お茶でものみますか?」

「いいえ、結構よ。私たちのことは知っているでしょう?」

 

そう言ってアルはソファに腰掛けて、ほかの三人をソファに座らせた。

しかし、まだ立っている者がいる。

 

「な、なんでわたしも・・・」

 

犯人の少女だった。

 

少女は当初、逃げようとしたのだが、アルに肩をつかまれ、なぜか車に乗せられていた。

自身が場違いであると感じているのだろうか。あたりをキョロキョロと見渡しては、震えていた。

 

市長もその様子を見ていたのか、目を細めてアルに聞いた。

 

「・・・そちらの少女は、事件の関係者ですか?」

「いいえ、ただの通りすがりの子よ。事件には何も関係ないわ」

「え・・・?」

「ふむ、そうですか」

 

アルの返した言葉に、少女は驚いた。

そして便利屋の三人は、アルが少女のことを隠したいのだと理由はわからずも理解し、口を閉じている。

 

「あなたも座りなさい。それとも、ソファは嫌いかしら?」

「そ、そういうわけじゃ」

「なら、こっちに座りなさい」

 

そういうと、アルは少女を持ち上げて、自身の足の上に座らせた。

少女のお腹と頭に手を載せ、降りられないようにする。

 

その突然の行動にハルカが驚き、ムツキは笑い、カヨコはため息をついた。

 

「え、わ、わぁ」

「お話がおわるまで少し待ってなさい」

 

そう言って頭をなでる。

 

「はい・・・」

 

少女は小さくうなずいた。

 

その様子を市長は黙ってみていた。

アルはそんな市長の目を見て堂々と話しかける。

 

「あなたのことは知っているわよ。天才科学者、よね?」

「ふふっ、確かにそう呼んでいただいています。私がいまこうして市長となっていることも、その実績のおかげです」

 

ロボットは笑って答えた。

 

「誘われたのは私たちの方だけれど、事件のことについて聞きたいことがあるの」

「えぇ、どうぞ聞いてください。その事件解決のためにあなたたちをこの町に呼んだのです」

 

市長の言葉に、ムツキが首を傾げた。

 

「市長さんがよんだの?ヴァルキューレからの依頼だったよね?アルちゃん」

「あぁ、はい。正しくは、私がヴァルキューレに便利屋を呼ぶようにと頼んだのです。ヴァルキューレも事件を解決するためには、自分たちだけでは不可能だと薄々感じていたのでしょう。説得することにそう長くはかかりませんでした」

 

大変ではありましたが、とロボットは笑った。

犯罪組織をこの町に呼び込んだのは、彼のようだ。

 

「あなたが私達をよんだのはなぜかしら?」

「はい。私は少々そちら側の世界に覚えがありましてね・・・最近話題の便利屋68、依頼達成率は驚異の100%。さらに構成員は4人の少女・・・いつか依頼を頼んでみたいと思っていました」

 

そう言って便利屋の面面と目を合わせる。

彼の言う「そちら側の世界」とは、裏の社会のことだろう。

 

「失礼、少々話過ぎましたね。聞きたいことがある、とは一体何でしょうか?」

「まず、事件の詳細を確認しましょう」

 

アルは自分たちで聞き込みしたことと、ヴァルキューレの報告書で得た内容を話す。

 

六か月前から住居侵入および窃盗、三か月前から財布の窃盗、最近になって財布に限らず金品の窃盗・・・

この震えている少女がこの事件に深くかかわっていることを隠しながら、アルは事件を振り返った。

 

「ここまで、なにかおかしいところはあったかしら?」

「いいえ、正しいですよ。我々もそのように事件を認識しています」

 

そう、と返してアルは息を吐く。

 

「本題はここからよ。もしかしたら、一連の事件が始まった六か月前・・・その時に起こっていた事は住居侵入と窃盗だけでは無いのではないかしら」

「ほう?」

「当時はおそらく、ほかの犯罪も多発していたと思うのだけど、どう?」

 

アルの言葉に、少女たちは頭に?を浮かべる。

 

「ふむ」

 

市長はあごに手を当てて、秘書と思わしき人物に「持ってこい」といった。

しばらくすると秘書は分厚いファイルを持ってきた。

 

「こちら、今までR市で起きた事件の全データです。犯罪ファイルと我々は呼んでいます。六か月前の事件でしたら、間違いなく載っているでしょう」

 

そう言ってファイルをペラペラとめくって見せる。

今まで起こっていた事件と、その結末まで、きれいにまとめられている。

 

「私が市長に就任したのは二か月前ですが、それ以前の犯罪歴も、そのファイルには記録されています」

 

そういいながら、アルにそのファイルを渡す。

アルは六か月前の日付が書かれた部分を見ながら言った。

 

「コレ、しばらく借りてもいい?」

「な・・・」

 

市長は突然の提案に驚く。

アルはファイルから目をそらさずに言った。

 

「悪用なんてしないわ。事件の捜査に使うだけよ」

 

そう返したが、カヨコはこの提案は通らないだろうと予想していた。

自分たちは裏社会で活動している組織。

そんな相手に、市が管理している重要なファイル貸し出すわけがない。

社長の無謀を止めようと、カヨコは声をかける。

 

「社長、それはさすがに・・・」

「いえ、いいでしょう。少し貸し出す程度ならば」

 

カヨコの予想とは裏腹に、市長はうなずいた。

予想していた答えとは違い、カヨコが驚く。

 

「えぇ、ありがとう。一連の事件が終わったら市長(・・)に返すわ」

 

アルはパタンとファイルを閉じ、市長と目を合わせる。

 

「聞きたいこと、とは以上ですか?」

「そうねぇ・・・あなたたちから何かある?」

 

便利屋の三人は首を振る。

 

「あなたもよ。何かある?」

「へ!?な、ないです」

 

まさか自分に話が向いてくるとは思っていなかったのか、少女は慌てて答えた。

アルはその様子に苦笑しながら、顔を上げる。

 

「そう。なら、私から最後にひとつ。

 あなたが作ったという新技術。教えてくれるかしら?」

 

テレビではそこまで教えてくれなかったの、とアルは言った。

実際どこのテレビでも、なぜか市長がどのようなものを作ったのか、わかっていないようだった。

 

市長はその言葉に拍子抜けしたのか、ポカンとする。

しかしすぐに笑った。

 

「えぇ!いいですよ!アレをもってきなさい」

 

秘書にそう指示し、市長は手を組みなおす。

 

「便利屋の皆様は、ダイラタンシーという現象をご存じでしょうか?」

 

「強い力を加えると固くなって、弱いと液体のようになる現象のこと、です」

 

突然少女が声を出したことに、便利屋のみんなは驚いた。

市長は眉をピクリと動かす。

 

「・・・えぇ、そのとおりですよ。片栗粉と水の例が一般的ですね。

 その現象をもっと身近なものに生かせないかと、多くの学者が研究を重ねました。

 しかし、長らく研究は実を結びませんでした。実用は、不可能、そう結論付けされようとした時、私は3か月前にそれを実現してしまったのです。

 ダイラタンシーを取り入れた布。それがこちらです。まだ世に出回ってはいませんが」

 

市長は胸を張って秘書から渡された布を広げる。

 

「・・・?」

 

少女は市長の言葉に首を傾げる。

 

なんの変哲もないただの布。しかし、そのなんの変哲もないこと。それがこれのすごいところだった。

 

「実際にダイラタンシー現象が起こる布。ということかしら?」

 

その布を何度かなでながら、アルは聞いた。

その言葉に、市長は大きくうなずいた。

 

「はい!普段はただの布ですが、ひとたび強い衝撃が加わるとしばらくの間、銃弾はもちろん爆弾をも通さぬほど固くなります。

 もしこれを服として使用すればキヴォトスにおいてこれ以上ないほど有用であること。便利屋の皆さんはわかりますかな」

 

もしもこれがキヴォトスに広がったらどうなるだろうか。

もしこの布を服に編み込めば、それは普段はただの服として使えるが、戦闘時には緊急の防弾チョッキとなる。

もしこれを重要な拠点のカーテンとして使用すれば、その拠点は銃も爆弾も通さない強固な建物になる。

そしてそこまで工夫せず、単純に頭から羽織るだけでも、防御力は大きくあがるだろう。

 

前線で戦うことの多いハルカは、それの恩恵を大きく理解し目を輝かせた。

 

「す、すごい発明です!!これはいつ買えるようになるのですか?」

「お褒めの言葉、ありがとうございます。しかし、これはまだ世に出せないのです。量産が簡単にはできないものでしてね」

「どうして?」

 

少女が珍しく話に入ってきた。

市長は眉間にしわをよせる。

 

「この構造なら、従来の布製品の構成物質にすこし手を加えればいいだけ。硬化するときの圧縮される粒子の問題?元の構成元素が壊れることを危惧してるの?でもそれはだいじょうぶなはず、私はそこを・・・」

 

今までの少女からは考えられないほどの長文を、とても流暢に話していた。

便利屋の四人も目を見開く。

 

市長はそれを聞きながら、こぶしを握り締め、低い声で言った。

 

「・・・そこから先は企業秘密とさせていただきますよ。質問は以上でしょうか?」

 

なぜか市長は苛ついているようであった。

少女もそれに気が付いたのか、慌てて口をふさぎうつむいた。

 

「・・・えぇ、これで最後よ。失礼するわ。ファイルは借りるわね」

「わかりました。事件のこと、よろしくお願いします。」

 

五人は部屋を後にした。

 




ダイラタンシーの描写について、なにか間違った点がございまいましたら教えてくださると幸いです。
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