もしもアルちゃんが本当にアウトローだったら   作:野口さん

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短めです


第Ⅶ話 天才少女

 

建物から出てきた道を戻るように五人は進む。

カヨコがアルの持つファイルを見ながら言った。

 

「まさかそれをもらえるとは思わなかった」

「えぇ、この子のおかげよ」

 

「え?」

 

自分のおかげだと言われて驚いて少女は顔を上げる。

 

「そうだ。その子はどうするの?だいぶ、その、入れ込んでるみたいだけど」

 

ムツキが面白そうに笑った。

 

「あはは~!膝にのせてナデナデしてたね!」

「えぇ。おかげであちらもだいぶ油断してくれたみたいよ。こんなファイル渡してくれるぐらいに、ね」

 

その言葉に、カヨコはハッとした。

 

確かにあの場でのアルの態度はとても普段とは違っていた。

突然膝の上に少女をのせたり、しきりに頭をなでるなど。

その姿はとても子供っぽく(・・・・・)見えただろう。

 

それがアルの狙いであった。

市長に自分たちを所詮は子供のグループだと思わせるための演技。

結果的にアルは犯罪ファイルを借り出すことができた。

 

カヨコは驚きながら聞いた。

 

「じゃぁ、そのためにこの子を連れて行ったの?」

「結果的にうまくいったというだけよ。本当はただ逃がしたくなかっただけ」

「うぅ」

 

アルはまだ少女の頭をなでていた。

今度は演技ではなく、いろいろな意味を含ませた撫でである。

少女は震えた。

 

話を変えましょうか、とアルは三人の方を向く。

 

「市長が作ったというダイラタンシーの布・・・あなたたちはアレを知っているはずよ」

「え?」

「ムツキとハルカは実際に触れてもいたわね」

「え?え?」

 

ムツキとハルカは困惑する。

そしてゆっくりと思い出した。

爆弾でも、銃でも壊れなかったものを。

 

「「路地裏の黒い壁!!」」

 

二人の声が重なった。

アルはこくりとうなづいた。

 

「垂れ幕のように頭から足元まで布がかかっていたのでしょうね。私が先に通った時からその布はそこにあったのよ。あまりに自然な感触で気が付かなかったわ」

 

「そっか!ただ通るだけならただの布!わたしが勢いよく通ろうとしたから固くなって壁になったんだ!!」

 

ムツキが走って通ろうとした時に固さを変えたのだろう。

 

「あ、あらかじめ仕掛けておいたということですか?ちょうどあの場所に?」

 

「そこは私も知りたいわね。なぜ、あの場所にかかっていたのかしら?」

 

アルの質問に、少女は恐る恐る答えた。

 

「あそこは、わたしの、いえ、です」

 

その言葉におどろく四人だったが、中でも一人が大きく反応した。

ハルカだ。

 

「そう、そうですアル様!あの場所!なかった!何も生えていなかったんです!雑草も何も!あんな柔らくていい土なら、日陰でもちゃんと生えます!」

「ひっ、抜いちゃいました、ごめ、ごめんなさ」

 

少女が突然大声を出したハルカに怖がっていた。

カヨコが補足する。

 

「逆に”何かある”というのは人の痕跡ってことか。よくわかったね、ハルカ」

「すみませんすみません怖がらせてすみません!!」

 

カヨコの誉め言葉が耳に届かないほど、ハルカは怖がらせてしまったことをそれはそれは深く謝っていた。

ムツキが話をつづける。

 

「でも、なんであそこにあったの?まだ量産してないって言ってたよね?」

「あれは、わたしの、です」

「・・・え?」

 

少女は小さく手を挙げた。

 

「わたしがつくったもの、です」

「え?え?え?」

「すっごい!この子も賞をとれるじゃん!」

「賞どころではないわね」

 

アルはつづけた。

 

「あの布と手触りが似ていたわ。今着ている服も、ダイラタンシーの布、でしょう?」

「は、はい。普通の服に、編み込んで」

「手作り!?というか量産してるってこと!?」

 

服装がおかしく見えたのも、それが理由だろう。

なぞの素材が編み込まれて、色に若干変化が出ていた。

 

そしておそらく、事件の報告に書いてあった黒い姿とは、ダイラタンシーの布をそのまま頭からかぶった時の姿だ。

犯罪を起こすのにこれ以上ないほど優れた黒装束だ。

 

カヨコが若干震えながら言った。

 

「じゃ、じゃぁその速く動ける靴も手作り?」

「は、い。配線を組んでつくりました」

「一体、どうやって」

「パパとママがおしえてくれて・・・」

 

絶句するするカヨコ。

ほかの三人も似たような反応だ。

 

賞を取るほどの布、身体能力を格段に引き上げる靴。

それをこの少女が、手作りした?しかも、あんな路地裏で?

 

突然黙る四人に少女は困惑して、え、え、と目を泳がせる。

 

ようやく状況を飲み込めたハルカがアルに聞く。

 

「となると、えっと、どういうこと、でしょうか?」

 

アルが眼を細めながら言った。

 

「この事件は、親を亡くした少女が起こした事件、という報告書では終わらないかもしれないわね」

 

アルは深く考えこむ。

 

ダイラタンシーの布

天才少女

手作りの発明品

市長の受賞

 

推理を始めようとしたその時だった。

 

 

 

だれかのお腹がなった。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

少女が顔を赤くしてお腹を押さえる。

 

張りつめていた四人は、ふっ、と表情を柔らかくする。

市長と話していた時間が長かったのか、もう夕食が近い時間であった。

 

「ふふっ、とりあえずご飯にしましょう。あの定食屋さんでね」

「この子の無事も伝えないとね。きっと心配してるよ」

「やった~!こんどは何頼む?おすすめ教えてよ!」

「えっと、よるは、カレーがおすすめ、です」

「カレーですか、いいですね!楽しみです・・・」

 

 

五人は笑いながら、定食屋に向かった。

 

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