建物から出てきた道を戻るように五人は進む。
カヨコがアルの持つファイルを見ながら言った。
「まさかそれをもらえるとは思わなかった」
「えぇ、この子のおかげよ」
「え?」
自分のおかげだと言われて驚いて少女は顔を上げる。
「そうだ。その子はどうするの?だいぶ、その、入れ込んでるみたいだけど」
ムツキが面白そうに笑った。
「あはは~!膝にのせてナデナデしてたね!」
「えぇ。おかげであちらもだいぶ油断してくれたみたいよ。こんなファイル渡してくれるぐらいに、ね」
その言葉に、カヨコはハッとした。
確かにあの場でのアルの態度はとても普段とは違っていた。
突然膝の上に少女をのせたり、しきりに頭をなでるなど。
その姿はとても
それがアルの狙いであった。
市長に自分たちを所詮は子供のグループだと思わせるための演技。
結果的にアルは犯罪ファイルを借り出すことができた。
カヨコは驚きながら聞いた。
「じゃぁ、そのためにこの子を連れて行ったの?」
「結果的にうまくいったというだけよ。本当はただ逃がしたくなかっただけ」
「うぅ」
アルはまだ少女の頭をなでていた。
今度は演技ではなく、いろいろな意味を含ませた撫でである。
少女は震えた。
話を変えましょうか、とアルは三人の方を向く。
「市長が作ったというダイラタンシーの布・・・あなたたちはアレを知っているはずよ」
「え?」
「ムツキとハルカは実際に触れてもいたわね」
「え?え?」
ムツキとハルカは困惑する。
そしてゆっくりと思い出した。
爆弾でも、銃でも壊れなかったものを。
「「路地裏の黒い壁!!」」
二人の声が重なった。
アルはこくりとうなづいた。
「垂れ幕のように頭から足元まで布がかかっていたのでしょうね。私が先に通った時からその布はそこにあったのよ。あまりに自然な感触で気が付かなかったわ」
「そっか!ただ通るだけならただの布!わたしが勢いよく通ろうとしたから固くなって壁になったんだ!!」
ムツキが走って通ろうとした時に固さを変えたのだろう。
「あ、あらかじめ仕掛けておいたということですか?ちょうどあの場所に?」
「そこは私も知りたいわね。なぜ、あの場所にかかっていたのかしら?」
アルの質問に、少女は恐る恐る答えた。
「あそこは、わたしの、いえ、です」
その言葉におどろく四人だったが、中でも一人が大きく反応した。
ハルカだ。
「そう、そうですアル様!あの場所!なかった!何も生えていなかったんです!雑草も何も!あんな柔らくていい土なら、日陰でもちゃんと生えます!」
「ひっ、抜いちゃいました、ごめ、ごめんなさ」
少女が突然大声を出したハルカに怖がっていた。
カヨコが補足する。
「逆に”何かある”というのは人の痕跡ってことか。よくわかったね、ハルカ」
「すみませんすみません怖がらせてすみません!!」
カヨコの誉め言葉が耳に届かないほど、ハルカは怖がらせてしまったことをそれはそれは深く謝っていた。
ムツキが話をつづける。
「でも、なんであそこにあったの?まだ量産してないって言ってたよね?」
「あれは、わたしの、です」
「・・・え?」
少女は小さく手を挙げた。
「わたしがつくったもの、です」
「え?え?え?」
「すっごい!この子も賞をとれるじゃん!」
「賞どころではないわね」
アルはつづけた。
「あの布と手触りが似ていたわ。今着ている服も、ダイラタンシーの布、でしょう?」
「は、はい。普通の服に、編み込んで」
「手作り!?というか量産してるってこと!?」
服装がおかしく見えたのも、それが理由だろう。
なぞの素材が編み込まれて、色に若干変化が出ていた。
そしておそらく、事件の報告に書いてあった黒い姿とは、ダイラタンシーの布をそのまま頭からかぶった時の姿だ。
犯罪を起こすのにこれ以上ないほど優れた黒装束だ。
カヨコが若干震えながら言った。
「じゃ、じゃぁその速く動ける靴も手作り?」
「は、い。配線を組んでつくりました」
「一体、どうやって」
「パパとママがおしえてくれて・・・」
絶句するするカヨコ。
ほかの三人も似たような反応だ。
賞を取るほどの布、身体能力を格段に引き上げる靴。
それをこの少女が、手作りした?しかも、あんな路地裏で?
突然黙る四人に少女は困惑して、え、え、と目を泳がせる。
ようやく状況を飲み込めたハルカがアルに聞く。
「となると、えっと、どういうこと、でしょうか?」
アルが眼を細めながら言った。
「この事件は、親を亡くした少女が起こした事件、という報告書では終わらないかもしれないわね」
アルは深く考えこむ。
ダイラタンシーの布
天才少女
手作りの発明品
市長の受賞
推理を始めようとしたその時だった。
だれかのお腹がなった。
「ご、ごめんなさい!」
少女が顔を赤くしてお腹を押さえる。
張りつめていた四人は、ふっ、と表情を柔らかくする。
市長と話していた時間が長かったのか、もう夕食が近い時間であった。
「ふふっ、とりあえずご飯にしましょう。あの定食屋さんでね」
「この子の無事も伝えないとね。きっと心配してるよ」
「やった~!こんどは何頼む?おすすめ教えてよ!」
「えっと、よるは、カレーがおすすめ、です」
「カレーですか、いいですね!楽しみです・・・」
五人は笑いながら、定食屋に向かった。