ふたりきり惑星再生   作:小沼高希

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012: 似姿像は電流を経させる

「いやぁ金属ってそうやって混ぜるんだ」

 

ピオの進めていく鍛冶作業を見ながらエッフィが感慨深く呟く。

 

「……そちらの世界では合金の作製技術はどうなっていたのですか?」

 

「基本は純度高めるか、あるいは青銅ぐらいかなぁ。あまり混ぜすぎると通りが悪くなるし」

 

「しばしば貴方は『流れ』という概念とそれの周辺概念を用いますが、それについて本官は深い理解を手にできてはいません」

 

「うーん、これについては()()()()()()、としか言えないし」

 

「同語反復ですね」

 

エッフィはピオが溜息をついたように見えたが、すぐに気のせいだと考え直す。ピオがそんな冗長な行動をわざわざするほどの存在ではないことぐらいエッフィは既に飲み込んでいた。

 

「ところで、手伝っていただきたい事があるのですが」

 

「なになに?」

 

「これを別けるのを手伝っていただけませんか?」

 

ピオが空中に浮かべるのはキラキラと光を細かく反射する灰色の球体。還元された表土に含まれている金属や亜金属が混ざったものだ。

 

「いいよ、触っても大丈夫?」

 

「重力場が操作されているので奇妙な感覚があるかもしれませんが、問題ないはずです」

 

「こわいなー」

 

そう言いながらエッフィはジャリジャリとした粒の塊に手を入れ、指をもぞもぞと動かす。

 

「ええと、私の手の中の方に引き寄せる……じゃないな、途中から集めるってできる?」

 

「手が十分引かれたところで重力場を調整すればよろしいでしょうか」

 

「たぶんいいよ」

 

「やってみます」

 

ピオが精密操作専用の処理系を起動させ、エッフィが手の中に掴んだもの以外を分離するように引力を調節する。

 

「ええと、なんか輝いてるやつを中心に取ったけどこれでいい?」

 

そう言ってエッフィは手を開く。

 

「鉄ですね」

 

紫外反射スペクトルを観測してピオが言う。

 

「よっし」

 

「とはいえ、これでは時間がかかりすぎます。もっといい方法があればいいのですが……」

 

「ええと、前にやったみたいに熱を与えて流れを作ればいいんだよね」

 

「……貴方の言う流れと、本官が分解のために用いた電気はおそらく別のものですが」

 

「流れは流れでしょ?」

 

「我々……ではなく、本官はそれを違うものとみなします」

 

「うーん」

 

首をかしげるエッフィ。

 

「ええと、電気だっけ。それってどういうもの?」

 

「……我々が触れる自然物質の多くを構成する原子は、一次要素として電子と原子核を持ちます」

 

「分解第一層における構成要因、ね」

 

「ああいえ、細分化において働く物理法則が変化するために複数層が存在するかと」

 

多くの初歩的な化学の教科書ではその性質を保った最小要素を分子としているが、これはあまり正しくない。固体物理学におけるフォノンのように、ある程度の繰り返し構造があって初めて観察される現象の存在からもわかるように、物質によって層がどのように存在するかは様々だ。

 

厳密に言えば複数原子からなってその中で原子の動きや振動を閉じ込められるほどの「位置エネルギー」を持つもの、とでもするのが正しいがこんな定義はIUPACの科学用語便覧(ゴールドブック)ぐらいにしかない。本題に戻ろう。

 

「んー、じゃあ別素材でも階層手繰って同じ要素が出る、でいいかな」

 

「原子核は異なりますが、電子は同一です。そしてその電子の流れが電流です」

 

「はいはい、つまり熱を流して、その電子ってやつを流せばいいんだよね。あとは源があれば……」

 

そう言って、エッフィはピオの方を見る。

 

「ちょっとわけて」

 

「具体的に、どのようにすればよろしいのか説明をいただけると幸いです」

 

「わかんないか……」

 

「理解できておりません」

 

「こう……私に流れを作ればよくって……」

 

「人体の耐えうる上限程度では、表土の融解に必要なだけの熱量を与えることはできません」

 

例えば電子レンジが600ワット程度だが、大抵の人は数十ワット程度心臓に流れ続けると死ぬ。

 

「つまり私が受け流せばいいんでしょう?慣れてるから」

 

「……そういう問題、なのですか?」

 

「たぶん」

 

ピオはマニピュレータの一つを伸ばして、エッフィの手に握らせる。もう一つは先程エッフィが掴み取った球体にまとめられている砂状の鉄に。

 

「もし危険でしたら止めます」

 

「お願いね」

 

何かを呟きながら、エッフィは球にマニピュレータを持っているのと反対側の手を当てる。

 

ピオはゆっくりと電流を上げていくが、ほとんど電圧がかからないことに気がつく。いや、流れてはいるのだ。しかし人間と鉄からなる回路にしては異常に抵抗値が高い。もちろん、途中で空気が挟まれて断線したと言うには低いのだが。

 

「もっと上げていいよー」

 

エッフィの言葉にピオは流れを強くしていく。次第に発熱していく鉄の熱放射を観測し、ピオは理論的な理解を諦めた。本来であれば心臓が止まるどころか抵抗加熱で大火傷を負っているはずの電力だ。

 

微かに彼女の長い髪が浮かび上がってくる。帯電したことによって髪同士が反発し始めているのだ。そういうことが起こる水準をとっくに通り越しているのだが、ピオはもう気にしない。ある種、()()()ことを()()()()()したのである。

 

鉄が融点に達し、エッフィは手を離す。少しだけ指先から溶けた鉄球に火花が飛び、その後急激に抵抗値が上昇した。

 

「……便利ですね」

 

「私からするとこういう事なしで製錬とかしているほうがわからないんだよな……」

 

そう言ってからエッフィは自分の髪の状態に気が付き、戻そうとあたふたし始めた。

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