ふたりきり惑星再生   作:小沼高希

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014: 似姿像は多脚を駆る

体高4メートルほどの躯体が、砂埃を引きながら灰黄色を飛ぶように走る。蜘蛛の脚にも似て、五本の細い骨組みは低重力に合わせて調整された制御系によって振り回されるように、しかし的確に地面を蹴ってゆく。

 

その上部には、エッフィを花嫁のように腕で抱きかかえたピオがいた。

 

「もう少し右かな」

 

エッフィはピオの首を腕で絡めるようにくっつきながら、前方を見て言う。

 

「了解しました」

 

そう返したピオは、少しづつ進む方向をずらしていく。

 

よく観察している読者がいたとすれば、かつて武装が収められていたスカートが骨組みとなってピオの下半身の周りにあることがわかるだろう。

 

ピオは降下戦闘機械工兵である以上、非飛行状態でも荒地踏破能力を求められていた。そのために編み出されたのは、凹凸を乗り越えられるほどの脚を彼女につけることであった。

 

逆圧電アクチュエータによって複雑な関節角を精密に実現する制御を、ピオは惑星の表面が比較的平坦であることと低い重力を前提に速度を上げる方向に切り替えて使っている。それに加えてピオが作った金属によって脚を伸ばすことで、一回の脚の動きで進める距離を延長していた。

 

「それにしても快適だ」

 

上下に揺られながらエッフィが言う。

 

「ヒトが苦痛と感じる水準の加速度が複数回かかっているはずですが、大丈夫なのですか?」

 

「あんまし気にならないな……」

 

進む速度は概ね時速100キロメートルほど。時折想定外の接地によって脚先が滑り、あるいは刺さらずにバランスを崩すがその度に姿勢の変化を前方への加速に切り替えて飛ぶようにエッフィは進んでいる。

 

その過程でかかる力は、致死域には及ばないもののかなりの衝撃をピオとエッフィに与えているはずだ。耐衝撃性の高いピオはともかく、解剖学的構造がヒトの雌未成体と大きく変わりないエッフィにとってはかなりきついはずではある。

 

「事故発生時に致命的な衝撃をもたらす可能性があるため、これ以上の速度を出すことは推奨しません」

 

「いいよ、別にそんな急がなくちゃいけないわけじゃないでしょ?」

 

「……ええ。ただ、本官はどうも焦っているようで」

 

「そういうことができるの?」

 

エッフィは疑いではなく驚きの声色でピオに聞き返す。

 

「本官の処理系は、大量の情報をもとに最適化された関数を基本としています」

 

「川を流れる水によって水底の砂が揃うようなもの?」

 

「近いところはあります。そして、それは自然ともととなった情報の作成者、すなわち人間の特徴を取り込みます」

 

「なるほど、だからピオは色々考え込んだり、私を悲しませないようにしてくれるんだ」

 

「……後者については民間人の精神的苦痛を避けるための処置に由来していると考えます」

 

「そういう時に規則ではなくあなただからそういうことしてるんだよって言うのは許容される嘘だよ?」

 

「……本官はそのような繊細な判断を得意としません」

 

「学ぼうよ」

 

「その必要性が高いことは理解しています」

 

しばらく無言のまま、二人は大地を駆けてゆく。ピオがエッフィを支える腕は細いが、関節ロックがかかっているので見かけ以上にしっかりと抱えられている。

 

「一旦止まってもらえる?」

 

「ここででしょうか?」

 

「もう少し先でもいいけど、ここらへんで」

 

「かしこまりました」

 

脚が曲げられ、重心が下がるとともにブレーキがかけられていく。脚が止まるとエッフィは身体を上下逆さまにして、エッフィを抱きかかえなおす。

 

ピオが脚部を曲げて脚の中にゆっくりとエッフィを降ろすと、エッフィは腕を離した。

 

「ここなら大丈夫。ありがと」

 

「何をするのですか?」

 

「前にピオと繋がったの、覚えてる?」

 

「ええ」

 

「あれを大地に対してやる。地面の中の流れは限られるから」

 

そう言ってエッフィは目を閉じ、しゃがんで地面に手を当てた。

 

「……このくらいだと、わかるのは方角と流れてる向きぐらいかな」

 

「具体的にはどうでしょうか」

 

「待ってね、私が前通った時と場所が違うから、そこから場所が割り出せるはず」

 

「三角測量ですか」

 

「そうそれ」

 

何かを探るような顔をする上下反転したエッフィを見ながら、ピオは自分ならどうしていたかを考える。

 

人工地震などを起こして地殻内部を調査する方法はあるが、必要な地質モデルを構築するためにはかなりの時間がかかるだろう。ボーリングのような調査を併用することもできるが、必要な機材の作成も容易ではない。

 

宇宙線や放射線などの透過を用いた調査もできるが、そのために必要な検出器は特異点制御に用いられているものだ。不可能ではないが、かなり困難である。

 

いずれにせよ、ピオにとってエッフィはもはや不可欠な存在になりつつあった。微妙な表現や機微を捉えるために専用の処理系を割り当てながら、ピオは立ち上がったエッフィに声をかける。

 

「どうでしょうか」

 

「んー、もう少し移動して再度確認しよう。あっちで」

 

エッフィは指を移動してきた方向から右に向ける。

 

「かしこまりました」

 

ピオはエッフィを掴みあげ、また駆ける準備をした。

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