エッフィと違って、ピオは物理法則に逆らうことが難しい。もちろん物理法則の異なる偽真空を作ることができるが、自分自身を包み込めるほどの大きさを保つのは至難の業だ。
記憶処理中
そのために、ピオの記憶容量や処理速度には限界がある。もちろん人間の思考をシミュレートしたとしても常人と同程度かそれ以上の速度と精度を出す事はできるが、それでも人間の頂点級と争うのは難しい。
それでもできるだけ処理を効率化するために、ピオは夢を見る。もちろんこれは比喩的なものだ。実際はデフラグメンテーションにも似ている。
長期記憶を展開し、一時記憶と照合しながら記憶を更新していく。その中で、ピオは自己分析系を起動させながら処理を行うことを身に着けていた。
仮想空間への没入開始
かつてエッフィと繋がった時に見た真っ暗な空間にピオは仮想上の身を投げる。この処理はどうやら「自然」なことらしく、ピオの物理的な処理系にはほとんど負荷を与えない。
彼女の眼下に見えるのは横に倒された樹のような形をした金色の流れ。エッフィと共に感じた感覚を流用して、ピオは自らの記憶がどのように更新されるのかを確認していた。
暫定目標: 深部採掘機構の構築
ピオが仮想空間で目をしばたたかせると該当する記憶に相当する枝が強く光る。他の枝と繋がる淡い糸で関連する情報が表現され、時折枝が別の幹へと継がれて最適化がなされていく。
必要物資の列挙
膨大な情報から用語を抜き出して、必要となる情報の詰まった新しい枝を作っていく。
使える水のような液体はないが、微振動と十分な加熱によって代替することは可能なはずだ。地盤によって刃の角度をどのように変えるべきかは実際に試してみる必要があるだろう。できれば振動を検知できる測定系を周辺に配置したい。
時折、流れ込む知識の中に整理されていないものが含まれている。知らない用語であったり、知らない概念であったり、知らない理論であったり。それらはおそらく、エッフィと共有した時に流れ込んできたものだろうとピオは推測する。
言葉が通じるということは、共通の背景情報を理解しているということに他ならない。多少の齟齬があるものの十分意思疎通ができている状況を踏まえるに、ピオが考えられる可能性は二つあった。
一つは双方の世界の人間が近しいということ。同じように二本の足で歩き、火と言葉を扱い、建物を築き、真理を追い求め、手段を選ばず問題を解決しようとする意思を持っていた。
もう一つはエッフィが膨大な前提情報を共有していたということ。この場合だと、接続されている何かがピオが使える知識の源ということになる。
【未定義】への侵入について自己制限を設定
ただ、この先に進めばエッフィの中に入ることができるという直感にも似た何かがピオにはあった。最近作られた独特な記号処理系は結論を先取りするような奇妙な挙動を示しており、まだピオには扱い切ることができていない。
しかしながら、一種の
記号系と分析状況を共有
流された情報をまるごと把握してまるごと答えを返すような、全てを見通しながら細かなことを把握できないような、そういった矛盾的な出力を無理に噛み砕くようにしてピオは情報を整理する。
エッフィはこういった世界を観ているのでしょうか
自省にも似た自然言語処理が処理に混在する。整理された情報を確認して掘削施設の図面を作りながら、並行してピオはエッフィについて思いを巡らせる。
過去の移動についての情報を確認する限り、極地に氷がある場合にはそれを調査し、サンプルを回収するまでは期待できる。それまでの期間の間に進められることを進めておかないと、と処理を巡らせてピオは自身の論理にある種の齟齬が生まれていることに気がつく。
【言語化処理起動】
劣弱意識
本官に対するエッフィの期待は不明
不公正
適当な公正性の共有なし
自分を突き動かしつつある原因不明の衝動性について、もしエッフィと共有していたらエッフィは顔を赤くしながら説明してくれただろう。ただ、ピオはその質問自体が関係性の変化をもたらしかねないと考えてタスクの後の方に積み上げる。
「本官は義務と使命を果たすのみです」
誰にも聞かれない、無意味な声を出してピオは外界処理を再開する。今まで混沌としていた処理は整然としており、余計な記憶は整理されていた。
ただ、その過程で何か失ったものがあるのではないかという今まで感じたことのない可能性への注意を無視して、彼女は拠点の一室から立ち上がる。
計画はできた。不確定要素は多いが、実行しながら修正を重ねていけばいいだろう。
彼女は本来、戦争のために作られたのだ。変化し、適応し、反撃してくる存在を相手としていたのだ。
目標をはっきりと定め、あらゆる技術的支援を用いて友軍を支援する。それこそが本来、