ふたりきり惑星再生   作:小沼高希

22 / 50
022: 似姿像は機材を評する

「……まずはこれを」

 

少し落ち着いたピオはエッフィにある装置を手渡す。

 

「なにこれ」

 

半円の弧の形をして両側に耳掛けがついたそれは、無線の骨伝導イヤホンとどことなく似ていた。

 

「本官の処理系との接続用端末です。本来は脳-機械接続としてより複雑な測定系が必要となりますが、貴方であればこれで問題ないのではないでしょうか」

 

「ちょっと試してみるね」

 

そう言ってエッフィは肩甲骨程度までに伸びた白い髪をふわりと持ち上げて両耳に装置の両端を引っ掛ける。

 

「これでいいかな?」

 

『本官の発言が聞こえますか?』

 

「うわっ気持ち悪い」

 

一切発話をしていないエッフィの意思が後頭部から脳に流れ込んでくる感覚にエッフィはぴくりと背中を伸ばす。

 

「いやあの気にしないで、ちょっとあの慣れない感覚だったからびっくりしちゃって」

 

『問題ありません。この種の装置は接続時にどうしても違和感が発生するものです。調整をかけていますので、少しお待ち下さい』

 

「いいよ。あと普通に話してくれたほうが私は好きかな」

 

「了解しました」

 

「で、これって話せるだけじゃないよね?」

 

「はい。例えばですが」

 

そう言ってピオは空中に三次元投影された立方体を浮かべる。

 

「……あ、こっちに来た」

 

指をひょいと動かすと、立方体がふわりとエッフィの方に動いた。

 

「形や色を思い浮かべれば、そのように変形します」

 

ピオが説明したように、エッフィは投影された立体を変えていく。

 

「面白いねこれ」

 

「貴方ならば、これで地図を共有することも可能なのではないでしょうか?」

 

「ちょっとやってみるね」

 

ピオが表示させた今までの範囲の地図に、エッフィが重ねるようにして南北に伸びる領域を追加で投影させる。

 

「今回氷が回収されたのはここらへん、って言ってわかる?」

 

「十分です。使用に慣れたようで何よりです」

 

「……まあ、ピオと繋がって共有してもいいんだけれども」

 

「必要であればそのように対応します」

 

そう言ってピオはずっと一歩エッフィの方に踏み出した。

 

「いや、やっぱ今はいい」

 

「そうですか」

 

「あとそうだ、何作ったか教えてよ。私なんてただ歩いて氷持って帰ってきただけだよ?」

 

「……説明というのは、その機構に意味を与えることではないのですか?」

 

「私からの干渉を気にしてる?」

 

「その通りです。本官は記号的技術について原理的な理解を得ていないので、どうしても齟齬が発生すると考えられます」

 

「うーん、大丈夫じゃないかな。そもそも何やってるか最低限はわからないと介入もできないし。でも効率上げたりとかならできるかも」

 

「わかりました」

 

そう言ってエッフィは拠点の三次元情報を投影するとともに、エッフィの端末経由で必要な前提概念を送り込む。

 

「あっちょっと、これってそういう事もできるんだ」

 

「前に貴方が本官と接続した時の方法を逆解析したものを流用しています」

 

「便利には便利だけどなんかすごい失礼なことしちゃった気がするな……」

 

エッフィはピオの世界で数千年かけて積み上げられてきた全く異なる技術体系を理解しないままに把握する。自分の根幹を支える観測者としての情報の根幹を書き換えないようにしつつ相手の法則を飲み込むのは本来であれば至難の業なのであるが、エッフィにはそれが可能である。

 

「なるほどね、強い鋼のための準備になるのか」

 

「その通りです」

 

「私が気がついた点について指摘してもいい?」

 

「ぜひお願いします」

 

「こっちの機械をそっちと入れ替えて。あと多分これは意味的に単純だから私の範囲に入っていればかなり効率の良い抽出ができると思う」

 

エッフィが手を動かすと移動のシミュレーションが走る。これはピオの処理系で並行して行なった演算結果を投影しているものだ。

 

「後者については納得しました。前者については?」

 

「……なんとなく!」

 

ピオの認識は家相の考え方に近い。それぞれの装置の意味を幾何学的に処理して、最適なパターンを構築する技術。それは動線管理にも近いが、より概念的なものだ。

 

「他にはございますか?」

 

「……これって、食べ物が作れる?」

 

エッフィが指すのは超臨界流体反応槽。触媒とエネルギーを注ぎ込むことで原子レベルでの反応を操作できる、ピオのいた世界における化学工業における到達点の一つだ。

 

「基本的な糖類までであれば可能ですが、本官は適切な生化学系を保有していないためそれ以上は困難です」

 

「ダメかぁ。私も多分そういうのはできないし」

 

残念そうなエッフィであったが、思い出したように氷の入った金属容器を手に取る。

 

「これに含まれる要素の分析をしてもらえる?私には変な味がするとしかわからなかった」

 

「やってみましょう。どのような処理が必要ですか?」

 

「私にはよくわからないから、ピオに任せる」

 

ピオはエッフィの言葉を聞いて処理系を働かせる。小型の生物・化学兵器分析系を用いれば基本的な分析は可能であるが、要求されるのはより高精度なものだろう。

 

濾過と遠心分離を実行すべき処理に追加し、ピオは容器を受け取った。

 

後ろでピオが見つめる中、分析が進められていく。ほとんどは水。しかし赤外線分光は特殊な結合を示唆していた。

 

「炭素鎖高分子が含まれています」

 

ピオは静かに呟いたが、それが何か意味のあることらしいとエッフィにも理解できた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。