ふたりきり惑星再生   作:小沼高希

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023: 先駆者は生命を探る

「……何してるの?」

 

「再分析です。先程の確認では貴方由来の汚染が発生した可能性があるため、より精密に調査します」

 

「具体的には?」

 

「生物であれば持つはずの燐酸配糖体です」

 

「私にはそういう生き物の流れは感じられなかったけど」

 

「貴方のいた世界における生物学の理解について正確な情報は把握できていないので、いくつか質問をしてもよろしいですか?」

 

スカートから取り外された検知器を、更に分解したものにガラスでできたアンプルを挿入しながらピオは言う。

 

「いいよ」

 

「生物はその活動のために共通の物質を利用します」

 

「……その口ぶりからすると流れってわけじゃないのか。他のもの?」

 

「ええ。私が知る生物は共通祖先から進化しましたが、その共通祖先が用いていた代謝系が子孫となる全ての生命に引き継がれています」

 

高速で詰め込まれていく異なる世界の概念の輪郭を想いながら、ピオは小さく頷いた。

 

「ですので、私が知る生命の類型であればこれで検出できるはずです」

 

「なるほど。で、そっちは?」

 

「含まれている化学物質の分析です。原子同士の結合は特定の波長の光を吸収しますが、それを検知するものです」

 

「共振、だっけ」

 

「はい。それについては発見されていたのですか?」

 

「ピオの言葉を使うとね、流れには固有振動数があるからそれに合わせて働きかけるっていうのは結構基本的な技法なの」

 

「……便利な概念ですね」

 

「そうだよね。たぶん発見され方とか、使われ方とかは全然違うんだろうけど」

 

装置たちに繋がったケーブルがピオの処理系に情報を送り込む。

 

「……説明が困難な現象を確認しました」

 

「どういうこと?」

 

「加圧空間に行きましょう」

 

後ろから聞くエッフィに、ピオは振り返って答える。二人がいたのは専用の窒素で満たされた無塵作業空間だ。ここからエアロックを通して抜けると、投影機のある部屋に出る。

 

「ふかふかの椅子みたいなものが欲しいな」

 

「素材原料の問題があり、しばらくは難しいですが十分な水があれば可能です」

 

「よし今度は氷をもっといっぱい持って帰るぞ」

 

「それで、分析結果です」

 

ピオは複雑なグラフや複数の化学構造式を提示する。

 

「私にはちょっと難しいから修正していい?」

 

「構いません」

 

ピオの確認を取ってエッフィは何回か指を鳴らす。その度に情報が集約され、エッフィに馴染んだ表現も交えながら書き直されていく。

 

「つまり、十分複雑な何かがあるはずなのに、そこには生物はいないってこと?」

 

「その通りです。確かにある程度の有機分子は電気やある種の触媒的反応によって生命に由来せず存在できますが、この水準まで到達する可能性は非常に低いと言えます」

 

「確かに意味が深いね。ここまであるとなると命とその流れを私も見たくなる。でも、なかったんだよな」

 

「遺骸だった可能性はどうでしょう」

 

「それでも残留するものはあるし、ピオのほうでも検知できなかったんでしょう?」

 

「はい。本官の保有するいくつかの分析機器は再補充が困難な試薬を使用するため、全ての測定を行ったわけではありませんが」

 

ピオの知る生物であれば必ず持っているような構成要素について、その多くが検出されなかった。アミド結合を持つ高分子があったが、それはアミノ酸ではなくもっと雑多な分子が重合したものだった。様々な種類の脂質があったが、それは生物で一般的に見られるものとはかなり構造が異なっていた。

 

「でも、生き物じゃなくっちゃこんな複雑なものを作れない、っていうのがピオの結論」

 

「その通りです。矛盾ですね」

 

「……単純に、ピオの使っている生物って言葉の意味が違うだけじゃなくて?」

 

「違う、とはどういうことでしょうか?」

 

「ピオの知っているような生物じゃないけど、ピオの言うような生物、って言えばいいかな」

 

「……代替生化学、ですか」

 

「なにそれ」

 

「本官の製造された世界では人々は星を渡っていましたが、それ以前に他の惑星に生命があるかどうかは知られていませんでした」

 

「私のところにもそういう解釈はあったよ」

 

「知られている生物の生存が困難な環境で、それでも生命のような現象が起こるとしたら、という前提のもと作られた理論です」

 

「それで、その面白そうな話はどうなったの?」

 

「面白くない結末を迎えました。相当な極限環境でも生物が生存できること、複数の惑星で発見された生命の、あるいはその痕跡は全て共通祖先から進化したものであることが判明して以降研究は下火となりました」

 

「……あれ、それってピオを作った人たちの遠い遠い祖先は星を渡ってきたってこと?」

 

「おそらくは」

 

「なるほどね。そういう考えはあまりなかったな。いやでもそう考えると訪れた部外者って側面で人間って記号と私達に共通点をもたせることができるかも……」

 

エッフィはしばらくぶつぶつと呟いた後、顔をピオの方に向ける。

 

「氷の中にいたのが、そういうものである可能性は?」

 

「全く別種の分析が必要になります」

 

「しよう」

 

「資源と補助が必要です。まずは大量の水が」

 

「持ってくるね」

 

エッフィはすっくと立ち上がって言った。

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