ふたりきり惑星再生   作:小沼高希

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024: 似姿像は契約を持ちかける

エッフィが持ち帰った氷をもとに、ピオは様々なものを作り出した。

 

「器用だね」

 

そう言いながら新しい服を着たエッフィは腕を回す。

 

「製布は基本的な工業ですから」

 

「手触りがちょっと独特だけど、ピオが仕立ててくれたものだしね」

 

エッフィが纏っているのは白を基調とした上下が別の服。今後細かな活動をするに当たって裾のひらひらしていた今までの服だと巻き込まれる可能性があるということで身体の線が出ないまでもしっかりとフィットしたものになっている。

 

「私の方は明日ぐらいには回復するかな。そうしたらピオを守れるし」

 

そう言ってエッフィは新しく作られた大きなクッションに身を横たえる。

 

「具体的には、どのようなことをするのでしょうか?」

 

「……いくつか考えてはいるけど、どこまでピオに干渉していいかによる」

 

「本官の記号的意味に対して何か変更を行うのでしょうか?」

 

「言葉がちょっと違うんだよな。何ていうか、新しい関係を作る、っていうか……」

 

そう言ってエッフィは身体をくるりと回し、クッションに顔を埋める。

 

『もし言語化が難しいようであれば、貴方と繋がって直接内容を把握しますが』

 

「それは良くないと思う」

 

すっと真顔になってエッフィはピオに向き合う。

 

「こういうのは、本人が直接言わないと意味がないの」

 

「……ある種の宣言による誓いや、契約のようなものでしょうか?」

 

「ようというかそのものというか、でもここでそういうものがどこまで意味を持つかは正直わからなくて……」

 

エッフィは自分のしたいことを理解している。それはかつてエッフィがいた世界では普通にあった関係だったし、社会はそれに基づいて回っていた。

 

ただそうだとしても、その意味が特別であることには代わりはないわけで。

 

「……ピオのいたところではさ、そういうのってあったの?」

 

「軍旗忠誠宣誓でしょうか。本官の開発者がこの宣誓に従っている以上、その宣誓に本官は束縛されます」

 

「そうじゃなくて、個人と個人の」

 

「師弟に関しての誓いや結社における代表者との制約、他には婚姻についてのものもありますね」

 

「……じゃあ、ピオのほうは問題ないかな」

 

「厳密な法解釈を行う権限を本官が保有するかは曖昧ですが、本官は自己の判断で契約を締結する能力があると見なされていました」

 

「あなたのした約束が例えば……捕虜とかに対して安全を約束するものなら、あなたの軍がそれを守らなくちゃいけないって意味でいい?」

 

「その通りです。もちろん、その判断が不適切であったとなればより上位の法判断者が出てくることになりますが」

 

「ここにはそういうもの、ないよね」

 

「判断者は、今のところ貴方以外認識できていません。しかしながら、誰かを護ることは使命として与えられているため、それに逆らう可能性は低いでしょう」

 

「あなたの所有権……でいいのかな、それを私に渡すってできる?」

 

「本官は交戦法規において兵士、そして士官としてみなされるべき条件を満たしています。それゆえ、本官は誰にも所有されていませんし、本官の従う倫理規則上誰かに所有されることもないでしょう」

 

「ああそうか、私と違ってピオはそこらへんはけっこう自由だし面倒なんだよね……」

 

共に人による被造物であるが、その目的の違いを突きつけられたような気がしてエッフィは少し寂しさを覚える。

 

「ただ、暫定的なものであれば専任契約は可能であると考えられます」

 

「どういうこと?」

 

「貴方を本官の重要協力者として登録した場合、法規上相手のために可能な限りの便宜を図ることが可能となります」

 

「具体的には、どれぐらいまで?」

 

「本官の不可逆的破壊と引き換えに貴方を守れるのであれば、守護を選択しなければならない程度には強い束縛です」

 

「……もう少し緩いものはないの?」

 

「存在しますが、本官はこの条項を適用したいと考えています」

 

じっとピオはエッフィを見つめる。エッフィもしばらく視線を向け返していたが、ふいっと目をそらしてしまった。

 

「……わかった。私側も同じような契約をする。ただ、準備はさせて」

 

「契約の破棄条項や範囲については、きちんと相互の同意が必要であると考えます」

 

「それに誰に誓うかっていうのも。今回の場合、私達の他に観測してくれる人がいないから互いが相手に誓う形になるはず」

 

「ただ、本官の従うべき規則において貴方は戦闘員とは認められないため、どうしても契約自体は異なるものとなります」

 

「縛られる勤め人は大変だね……」

 

溜息を吐くエッフィ。

 

「いえ。もちろんそういったものに縛られないことは決して悪いものではないと考えられますが、方向性を定めることは本官の処理における無駄の軽減に有用です」

 

「自由は自由なりに大変だって?」

 

「端的に言えば、その通りです。もし必要があれば、本官は貴方に対して適切な指示や援助要請の形で方向性を与えることもできますが」

 

「やめとく。私が縛られるのはもっと曖昧な制約だけでいい」

 

「かしこまりました」

 

「ところで、例の生き物っぽいものってどうなったの?」

 

「必要な測定装置を構築している最中です」

 

「時間かかるね……。寝てていい?」

 

「構いません」

 

「わかった。起こしてくれれば起きるから」

 

そう言ってエッフィは自分の中の感情の高まりを抑えるように顔を両腕で隠して、仰向けにクッションに体重を預けた。

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