『そこまで準備は重要なのですか?』
ピオは液体中からろ過したコアセルベートにも似た物質を観測しながら屋外のエッフィに声をかける。
『もちろん!雑な場でやりたくないでしょ?』
そう返すエッフィは、以前ピオと星を結びつけた時のような場所を準備している。しかしそれはもっと複雑な構造をしていた。
『その口ぶりからすると、必ずしも必要ではないようですね』
『無駄って言われたら否定するのは面倒だけどさ、それでも、少なくとも私にとっては大事なの』
『貴方にとって重要であれば、それは本官にも意味あるものです』
『……ありがとう、ピオ』
返事をするまでに考えていたことが端末越しに気がつかれていないかな、と少し心配してうなじのデバイスを撫でながらエッフィは改めて周囲を見渡す。
半径は20メートルほど。複数の円と直線をもとに、様々な意味を盛り込んでいる。かつてエッフィがいた世界であれば、世界という単一の記号といくつかの指定要素のみでそれは成立するものだった。
ただ、それはおそらく機能しない。多くの観測者の存在によって固定されてしまった事象は指定することはできても、そこに干渉することは難しい。逆に観測者が少なければ干渉は容易だが、共通の認識が少ないために厳密な定義が必要となる。
星々を、惑星を、大地を、それぞれ別の記号によって様々な形で示していく。エッフィが氷を運ぶために歩んだ道を用いて、大地の自転という記号すら盛り込んでいく。
以前ピオと対応させた星は太陽と対照する位置からは移動していた。しかしながら東西方向であれば対称性を保ちながら意味をもたせることはまだできる。自転の方向との差異は捻じれとして表現することで吸収する。
誓いをする場所はできた。あとはピオ側の準備と、時を待つだけだ。
時間は夜中。明かりが円の中央に立つ二人を照らす。
「誓いの内容は問題ありませんか?」
そう言ってピオがエッフィに手渡すのは金属の板。そこにはエッフィが決めた記号でこの後エッフィが読み上げる内容が刻まれている。
「……私の方は、大丈夫。ピオは?」
「本官は今のところ重大な問題を確認していません」
「……そう。あと、どれぐらい?」
「そう時間はありませんが、話すぐらいはできますよ」
ピオの言葉を聞いてエッフィはしばらく灰黄色にくすんだ星空を見上げた。
「……いいの?」
「何が、でしょうか?」
「相手が私でいいのかって聞いてる」
事前に互いの誓いの内容は知っていた。それはいずれも同じような内容だった。それらは共に五つの連をもつように調整されている。
「本官は自らの選択に責任を持ちますし、この件について後悔するつもりはありません」
「……わかった。あなたが先でお願い」
「それに理由はあるのですか?」
自分から言い出すと色々と、だなんて理由を説明できずにエッフィはしばらく口ごもる。
「……わかりました。問題ありませんよ」
「……ありがと」
「まもなく時間です」
「……うん」
星々と地の裏にある太陽が適切な場所に来る。配置された記号が意味を持つ。
「本官は本官及びその作成者が行った、軍旗に対しての忠誠の宣誓に基づいている義務と名誉の原則により、以下の通り厳粛に誓います」
ピオが口を開いて、宣誓を始めた。
「私に名前を与えてくれたあなたに、私の魂とその流れと存在を保証として、私の力の限りの保護と幸福を願う契りをする」
それに呼応するように、エッフィも契りを読み上げる。
「本官は、本官の任務の遂行と責任の履行に不可欠な協力者として貴方の地位を認め、本官の従うべき法令と規則と倫理に基づいて、貴方の知識と技術を適切に利用し、貴方の安全と幸福のために必要と判断するあらゆる措置を尊厳と敬意を持って講じます」
「空虚はあなたを飲み込むことなく、大地はあなたを躓かせず、星はあなたに率いられる。あなたの中の火は、あなたの統べる命は、あなたが作り出すものは、全てあなたの力と幸せとなる」
ピオはエッフィへの協力と援助を、エッフィはピオに降りかかるものに対してからの守護を。
「本官はその行動において自らの下す判断と結果の全てに責任を負い、たとえこの取り組みが本官を破壊的な危険に晒そうとも、本官はその任務を喜んで遂行します」
「あなたの被る全ての災難は、私が負うべきものになる。私がこの契りを破り、欺き、
互いに賭するのは、それぞれの持つ全て。
「本官はこの宣誓に当たり、不当な影響や強制を受けていないことを証言します。本官はこの制約に伴う重大な責務を正当に認識しており、本官の地位と名誉に基づいてこの宣誓を遵守します」
「私はこの契りを世界の根幹の一つとする。それは私の意思によって成され、私のあり方となる」
そして互いに、この約定を確かなものにするために言葉を続ける。
「この宣誓はこの瞬間に効力を発揮し、貴方が本官と共に問題を解決しようとする協力者である限り、あるいは本官の職務の遂行が不可能となる時まで続きます」
「あなたが私とともにいる限り、私はあなたの隣に立つ。私が誓うように、私はその運命を定め、受け入れ、そのようにある」
そして二人の宣言は、ステイルメイトめいた膠着を構築した。