ふたりきり惑星再生   作:小沼高希

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030: 斯くして二人は接続を験す

エッフィにとって、観測者というのは自分を構成しなくとも影響を与える重要な要素である。

 

かつてエッフィの作成者たちは、作った人形たちを自分たちと同じには扱わなかった。自らに似せて作ったにもかかわらず、自らのような自由を与えなかった。

 

より詳細に言えば、そこには読者の皆様が考えるような人権意識に基づく自由はなかった。人間には自ずからそういう要素があるが、それを削って作られた人形たちに該当するものがないのはある意味当然だったと言えるだろう。

 

そういうわけで、縛られなくなったエッフィの在り方はどうしても不安定だった。ピオの連立(つれだ)ちという扱いでも、まだ満足はしていなかった。

 

だから、観測者を増やせる可能性には心が踊ったし、それだけ注意も払った。

 

「これでいい?」

 

装置を指示に従って組み立て終わったピオがエッフィに聞く。

 

作るのはある種の通信装置。この惑星で進化したものの氷の中にまで追いやられた生命と、二次元準結晶からなる任意子(エニオン)演算系の組合せ。

 

「ありがとうございます。本官の建造能力ではここまで巨大な機材を扱うことは困難ですから」

 

ピオは頬笑みを浮かべて言う。ここしばらくの関係性を再分析した結果、表情の変化を会話と併用することでより円滑で効果的なコミュニケーションを行うことができるとピオは判断したのだ。そのための処理には、エッフィから受け取った特殊な記号処理系も用いている。

 

「それにしても結構水って重いよね」

 

そう言いながらエッフィは肩を回すが、普通のヒトの肉体ではたとえ低重力となっていようが重量トンオーダーの重力を受けている物体を持ち上げることはできないことを完全に無視しているし、ピオもそういうものだと割り切っている。

 

「しかし、お願いしただけの価値はありました。大量の水素と複雑な化合物が手に入っています」

 

「とはいえ、殺してしまったというのは気が引けない?」

 

「……本官はもともと、そのように作られていましたから」

 

「そこはこう、表情要素をあまり入れずに言ってもいいと思う」

 

エッフィはそう言って暗くなりつつある雰囲気を払おうとする。

 

「しかし、貴方もいいのですか?」

 

「何が?」

 

「倫理的問題について本官は専門とはしていませんが、意識の拡張や新しい生命の創造について、本官がかつていた世界では様々な議論が行われていました」

 

「……まあ、確かに悪用されたら面倒なこともあるか」

 

エッフィはかつてピオに潜ったことがあるし、エッフィの知っている技術の中には生命という記号自体を色々と書き換えるものもある。それを使うに当たって、技術者たちは特に倫理というものに配慮していなかった。だから、そこに悩むという概念を把握できていなかった。

 

「おそらく、理解に齟齬が発生しています」

 

「なるほど。ピオのいたところでは、そういうのがあまり良くないってされていたの?」

 

「そうなります。意思や生命の神秘性と不可侵性、というものが重要視されていた時代もありました」

 

「……私の知る限り、あなたの方がそこらへんには詳しいと思うけど」

 

「たとえ意思が実質的に演算で代替できるものであったとしても、生命を生命と呼べないほどに単純な要因から組み上げることができるだけの蓄積があったとしても、人々はそれはそれとして悩みを持ったのです」

 

「私がいたところよりも、ある意味では記号的なものに縛られていたんだね」

 

「ええ。本官のいた世界では記号は実存と切り離され、独立に存在できるものでした。」

 

「あー、だからか。記号の方に巻き込まれた?」

 

「そうかもしれませんね。しかし、意識や認知の領域においては記号は重要な要素です」

 

どうやって人間は世界を認知し、推論し、行動に移すのか。認知科学と呼ばれた分野の知識は、カモフラージュや偽装を考慮せねばならない工兵としての仕事上ピオにも組み込まれていた。

 

「考えたことが世界を変えないの、面倒じゃない?」

 

「だからこそ世界を変えたのですよ。自らが望んだ通りに」

 

「……戦争、ね」

 

エッフィはそう呟いて、完成した巨大なプールのような装置を眺める。栄養素の入ったスープにふよふよと浮かぶ生命たちは、エッフィが作った流れを受けて変化を続けていた。

 

争い、生き残ったパターンが増え、また資源を求めて争う。基本的な自然淘汰を重ねて、より効率よく演算系を使うことのできた部分が生き残っていく。外部の変化していく刺激を推測し、様々な方法で処理を行う部分がより選ばれるようにピオとエッフィは方向を調節した。

 

それらは比較的ゆるく繋がっており、二人の知る生物の常識の多くは通用しなかった。しかしながら、徐々に演算系を通して外側と繋がろうとしていた。その進もうという力は、ある世界では「生命の飛躍(Élan vital)」と呼ばれるものに似ていた。

 

そして、それはついにある一点を突破する。処理系が持つ特徴を把握し、そこにあるものを「理解」できるようになったそれは、自らの存在を情報化し、二つの世界に同時に存在することに適応した。

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