ふたりきり惑星再生   作:小沼高希

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031: 先駆者は外界と結いつける

「情報生命、ねぇ」

 

加圧空間の中央に浮かぶ資料を見ながらエッフィは言う。

 

「ええ。本来はあくまで生体電場変動の分析のために接続していたのですが、どうやら侵入を覚えたようで」

 

「私の力が強すぎたからかな……」

 

変異と増殖と淘汰を伴う生命は、時に思いもよらない方法で問題を解決する。今回二人の扱っているものも、同じようにして新しい世界に足を踏み入れていた。

 

「どうやら内部の多数決によって、どの化学処理を行うかが選択されているようです」

 

「生命としては、このかなり単純な段階で知性を持っているのか……」

 

「貴方はこれを『知性』と定義するのですか?」

 

「目的に向かって変わっていこうとするなら、それは意思があるということで、そこには弱くとも知性が伴うでしょう?」

 

「……本官の言語理解と齟齬があるのは、単純にどこまでの広さで用語を使っているかの問題、ということですか?」

 

エッフィの確認に対し、ピオはズレの原因をすぐさま推測する。短くない関係で得られた相互理解は、互いの哲学や理念といったものの違いを認め、把握し合おうという流れを作っていた。

 

「そうそう。確かに、人間みたいなことだけを知性って呼ぶことはできるよ?でもそれはけっこうな傲慢だし、ピオとか私にはもっと知性があることになっちゃう」

 

「本官の理解では、進化の過程は単なる偶然の積み重ねであり、方向性を見出すのはある種の誤謬であるとされていました」

 

「因果関係ってやつだね。私の認識では結果はしばしば原因に先行するからさ」

 

そういった会話をしながら、二人は「生命」の生み出している情報を分析していく。

 

「何か仮称をもたせたほうがいいでしょうか」

 

「ピオとかエッフィとか、そういう?」

 

「その通りです」

 

「んー、あまり名前つけすぎてもあれだしね。生命(アニモ)とか?」

 

「……意思、息、活力。かなり意味の広い単語ですね」

 

「わかるんだ」

 

「記号処理系と貴方からの知識の組合せです」

 

「ピオも記号が実存を決定するってわかってきたようで何より」

 

「貴方も本官の基となる理論の把握については、とても素晴らしいものがあります」

 

「そう?よかった」

 

エッフィは改めて宙に浮かぶ光点が織りなすパターンを確認する。

 

「これ、安易に潜るとよくないな」

 

「なぜでしょうか?」

 

「個、って言うべきかな、そういうのがない」

 

「確かに、アニモの分析は明確な境界が存在しない緩やかな構造を示唆しています」

 

「そういう形だからこそ、外側っていう概念がないのかもしれない。無と有があって、有は全て自分、って言えばわかる?」

 

「ある程度は把握可能です」

 

「だから、向こうから繋がるようなものを作ってそこ経由でやりたい。ピオとやったように繋ぐと、多分私は私じゃなくなっちゃう」

 

「そこまで、ですか」

 

「そう。混沌を経由した侵入者の破壊みたいな方法が私がもといた所にあったけど、その亜種として捉えられそう」

 

「外界観測用の何かがあればいい、と」

 

「何かいい発想、ある?」

 

「いえ、本官はもともとそういう用途のために作られた機体製造技術を応用しているので、これを利用できないかと」

 

「どういうこと?」

 

「本官が人間と非常に近い構造をしているのは、人間による遠隔操作を前提としていたからです」

 

「精神を乗らせていた……ってことでいいのかな、言葉通じてる?」

 

「近いとは思います。しかし、精神を切り離して移したというよりも、本官の理解では遠隔での操作や同期、といったものに近いはずです」

 

「ふむふむ。じゃあ、そういう人形を作ればいいか」

 

「……人形、ですか」

 

「そうだよ。私の意味的な部分から切り取った要素を乗せて、ピオが処理系だっけ、それを用意すればいいと思う」

 

エッフィはそう言ってピオのほうに手を伸ばし、指を鳴らす。表示されるのは設計図。五本の脚を持つ機体。

 

「これは、本官の多脚移動状態を模しているのですか?」

 

「そうだね。ええと、アニモと繋がる部分がここ。目と耳があればいいかな」

 

「なら、一部修正する場所がありますね」

 

ピオとエッフィが高速で青写真を互いに上書きしていく。実際のエンジニアであれば数日かかるだろう設計作業も、この二人であればそう時間はかからない。

 

「必要なものはできそう?」

 

「部品製造の過程で、基本的な加工設備はできています。動力蓄積部の微量元素が不足している程度ですね」

 

「どこに行ったら手に入る?」

 

「鉱床が存在すると考えられますが、ひとまず必要な量であれば抽出で間に合うと計算しています」

 

「つまり砂をいっぱい集めて、その中から選び出せばいい?」

 

「その通りです。あるいは既存の素材を貴方が上書きしても構いませんが」

 

「合金の意味、ね。まだこの世界では決まっていないはずだから、試してみていい?」

 

「具体的な計画について、教えていただけますか?」

 

「ええと、金や銀、鉄や銅に意味があるように、それらを合わせた合金にも新しい意味をもたせることができるのはいい?」

 

「理解します」

 

「だから、意味を先に用意してその条件を満たす金属を作って、さらにそこに意味をつけるの」

 

エッフィの説明についてピオの記号処理系は理解することは可能であったものの、その具体的な方法については把握できなかった。

 

「……任せてもよろしいでしょうか?」

 

「任せて!」

 

エッフィはそう言って、少し自慢げに胸を張った。

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