ふたりきり惑星再生   作:小沼高希

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032: 似姿像は合金を銘打つ

「調子はどう?」

 

エッフィは非与圧作業空間に入りながら言う。床と壁と屋根はあるので外から風は入ってこないが、酸素がないためエッフィには少しだけ辛い環境だ。

 

「現在基本的な構造を構築しています。後ほど意味的な側面からの修正をお願い致します」

 

そう返しながらしゃがんだ自らと同程度の大きさの機構を弄っているのはピオ。

 

「あそこのなんかいっぱい腕みたいなものが伸びているやつ、使わないの?」

 

エッフィが視線を向けるのはマニピュレータが壁と床と天井から伸びる空間。

 

「構造上の不均一さから制御がどうしても困難であるため、今はこうやって慣れ親しんだ腕を使っています」

 

「うーん、まあそういうものか。腕って二つぐらいがちょうどいいからね」

 

「……増やせるのですか?」

 

「慣れるまで時間がかかりそうっていうのはピオと同じ」

 

エッフィはぱたぱたと腕を動かして言う。

 

「で、ええと私が今のうちやっておくべきは」

 

「こちらですね」

 

ピオが指先を伸ばした先には小型の電気溶銑炉があった。高さは2メートルほどで、上部から素材を投入できるように足場がついている。

 

「現在行った基本的な成分分析と、本官の知る合金組成については目を通されましたか?」

 

「ちょっと答えるのが難しいかな」

 

「……意味的に、理解しないほうが結果を決めやすい、ということですか?」

 

エッフィは何も言わず、少し目を細めて満足げな笑みをピオに向ける。ピオが頷きを返したのを確認して、改めて炉に向き合った。

 

「欲しい特性は?」

 

「自己磁場圧縮性です。説明は必要ですか?」

 

「いらない。任せて」

 

「お任せします。ご武運を」

 

ちょっとものものしすぎるんじゃないかな、と思いながらエッフィは材料とする金属のブロックを見る。表土を電気分解して得られた金属たちだ。

 

「さて、ええとまずは磁石に引っ付くかどうかだよね……」

 

そう言ってエッフィはブロックを軽く持って振っていく。ピオの分析では生体磁場変化を検知しているのではないかという仮説であるが、エッフィはそういった物性の違いをなんとなく感じることができる。そして、そのなんとなくを意味づけしてしまうのだ。

 

「鉄が主成分のほうがいいかな。あとはこれと、これと……」

 

本来、自己磁場圧縮性という特徴はかなり計算された、そして限定的な状態でしか現れないものだ。その基本原理は超伝導電力貯蔵装置と似ていなくもないが、自身の生み出した磁場によって既存の磁場を閉じ込めるようにするという方法でエネルギー密度をかなり高めている。

 

「あとは、これを一欠片」

 

(たがね)を叩きつけて金属を削り取り、材料を細かく砕いて炉に放り込む。

 

「で、まずは強火。あとは弱くしておけばいいか」

 

エッフィはきちんとピオから受け取った冶金手法について目を通したが、具体的に合金を作るための組成や温度の条件をそこまで確認したわけではない。もちろん意味的には近くなるように最低限の情報を入れてはいるが、詳しい特徴については理解を避けていた。

 

もちろん、これはピオの根幹にある還元的技術からすればただの愚行である。先行研究を読み込まないで新しいものが作れるほど、現実というものは甘くない。

 

しかしながら、エッフィの認識では逆であった。眼の前の現象と向き合わないで、過去の決まった記号だけを追ってもあまり意味がないのだ。少なくとも、エッフィにとってはそうである。

 

「ええと、ここを回せば溶けた金属が出てくるっと」

 

溜まった液体金属が型に注がれて、ゆっくりと冷えていく。

 

「よし、まず第一段階終わり。次は第二段階」

 

そう言って、エッフィは冷めていく金属の上に手をかざす。

 

「貯めるために歪め、冷めずに熱を内に持て、っと……」

 

方向づけと、そのためのエネルギー源の指示。まだこの世界では意味づけのための記号をどのように統辞するかも決まっていない。だからこそ、単純な言葉を用いる必要があった。

 

エッフィは自分の知識と眼の前の状態を引き合わせて、ぜんぜん違うなと笑みを零す。

 

もしエッフィがかつていた世界であれば、この作業はもっと大規模なものとなっただろう。既に金属一つ一つに意味が与えられており、周辺環境が与える影響も考慮しなければならない。ここまでの無茶な素材を作るならば、それなりの犠牲も必要だったはずだ。

 

しかし、ここではそれは必要がない。なにせ彼女は火と生命と鍛冶を司る存在の伴侶なのだ。星を率いる存在であるピオは、星の意味に結び付けられている。

 

「だから、ピオ。力を貸して」

 

『なにか助力が必要でしょうか?』

 

呟いたエッフィに対し、ピオは無言で言葉を送る。

 

『そういう意味ではないからね、記号的なやつ』

 

そう返しながら固まった合金を確認すると、もう十分冷めて固まっていた。

 

「はい。アニモたちのための合金ができたよ」

 

「……確認します」

 

「疑ってるの?」

 

「当然です。この程度の処理でこの物性が出せるのであれば、本官の知る技術史の大半が無為な努力となってしまいます」

 

「まあ私はちょっと横着をしているからね」

 

かつての世界でもここまで強い存在と親密な結びつきがなければこの結果は出せなかっただろうな、と考えながらエッフィはピオが分析装置の準備をする様子を見守った。

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