エッフィの耳とピオの処理系に、ノイズのような音が一気に流れ込む。
「……わかる?」
エッフィは目の前の機体がそれを出していると直感した。
「かなり圧縮されたもののようです。処理速度を落とすよう機械語と同質の指示を出してみます」
ピオはそう言いながら、現状を整理していく。
まず、アニモは情報的存在として眼前の多脚機体を操作できている。おそらく、行き当たりばったりではなく相当に準備をしたものだろうとピオは推測した。
それと並行して、おそらくアニモだと思われる侵入者がエッフィとピオが最初に共有した空間を探っていた。経路を逆探知するようにすると、それはピオが標準で認識できる方法ではない接続で干渉されていた。ピオに潜られた時のような感覚があるが、それとはまた異なるものだった。
「手続の確立中のようです。処理系にかなりの負荷がかかっていることからして、相手が行っていることが何であれそれは相当意味を持つもののはずです」
アニモはこの時を待っていた、とピオは結論づける。
「わかった。もし何かあったら一帯を吹き飛ばすから」
そう言いながらエッフィは近くの装置から電線を抜き取って握りしめた。
「……今のところは、まだ大丈夫です」
急速にエッフィに取り込まれていく電力を確認し、発電系の安定性を高めながらピオは返す。
「……信じるよ」
二人は警戒を解かずに、機体を注視した。
『御二方ニ謹ミ申シ上ゲル』
合成されたような、無機質で多重に重なったような声が響く。
「喋った」
思わず反応してしまうエッフィ。言葉は二人とも理解できるものだった。
『我ラ「あにも」、
響く声に、ピオはエッフィの前に立つよう一歩踏み出した。
「我々は対話を希望する。解答については現時点では否定も肯定もできないため保留させてもらいたい。まず前提の確認をしたいが、可能だろうか?」
『論無ウ』
「……ねえ、ピオ。ああいう話し方、わかるの?」
手慣れたように話すピオにエッフィは小声で話しかける。
「本官の業務上、こういった整然とした対応も要求されていました。今の時点でも最低限の意思疎通は可能です」
「……わかった。ピオが聞くつもりのことはある?」
「接続経路の認知手順、そして我々との協力関係を構築できるかです」
「違うでしょ」
エッフィは呆れたように言う。
「私が話を決める。通訳をお願い。まずは私たちをどう思っているか尋ねて」
「……対象『アニモ』に質問を開始したい。よろしいか?」
『子細無シ』
ピオからの質問に、機体越しにアニモは答える。
「貴方たちは我々をいかに認識している?」
『目覚メヲ
「ピオ、次は私たちに承服するかを確認して」
「貴方たちは我々に承服する意思はあるか?」
『全テニハ
「よっし、私たちはあなたたちを導くもの、あなたたちを目覚めさせしもの、あなたたちの依るべきもの」
エッフィがいきなり出した声にピオの処理系は混乱を示す。なにせ、それは今までピオがエッフィと会ってから聞いたことがないほどの強い声であった。
「……どういうことでしょうか」
「私たちの信徒ってこと。なら私の本領発揮だよ」
そう言ってエッフィは荘厳な笑みを浮かべる。
『
「ほら、アニモたちも同意している」
「……同意に伴う説明責任を十分に果たしているかどうか疑問が残りますが」
「そもそも話せているんでしょう?多分私がピオのために作った共通理解を使ったんだよ。少しずれてるけど」
「確かに、現象はそれらを裏付けています」
本来であれば外界の情報に少しづつ慣れさせるはずだったところを、アニモは一足飛びに対話による交流を試みたということをピオは認める。
「あとはまあ、それなりの対価を用意するか」
そう言って、エッフィは機体に向かって歩みだした。
「もしあなたたちが私たちの力となるならば、あなたたちは地を取り戻し、その果てまで増えるでしょう」
「そういうことを、言っていいのですか?」
今の時点では、物理的存在としてのアニモは環境の調整された容器の中でしか存在し得ない。
「ピオが作ろうとしているものを考えるなら、そしてそのために必要な私の力を考えたら、これぐらいは必要だよ」
「……後で説明を要求します」
視点が異なることを理解したピオは、一歩引いてエッフィの後ろに立つ。
「もちろん。さて、あなたたちは私たちに従うか?あるいはまた何もない眠りに戻るか?」
『我ラ「あにも」、
「ならば良し」
そう言ってエッフィは腰を落として手を伸ばす。多脚のうちの一つが持ち上がって、エッフィの指先と触れた。
「ほら、ピオも」
そう言われたピオは表情を変えず、また別の脚と触れる。
「ところで、この溜めたやつはどうしたらいい?」
エッフィは電力ケーブルを戻しながらエッフィに聞いたが、ピオは静かに首を振るだけだった。