「説明を要求します」
与圧室で、ピオはエッフィを見つめて立っていた。
「……怖いよ、ピオ」
「本官に適切な情報共有がされなかった疑いがあります。このような行為は長期的な信頼を損なうものであると警告します」
「……怒ってる?」
「本官に憤怒、あるいはそれに類似した感情は搭載されておりません」
不用意な威圧感を与えないよう、ピオは笑顔を浮かべる。
「ええと、はい。神になりました」
歯切れ悪くエッフィは言う。
「……神。超越的な、あるいは超自然的な存在」
「そう。ええと、ピオのいたところでも神っていた?」
「様々な神が崇拝されており、信仰は権利として認められていました」
「だよね。それで、ピオに紐付けられた神っていたの?」
「開発計画の秘匿名称として神話に由来するものが使われた例はありましたが、本官自体が特定の宗教的思想や儀礼のために作成されたわけではありません」
「ふーむ、独立性か……」
「質問してもよろしいでしょうか?」
「いいよ」
「エッフィの作成、と言っていいのでしょうか、その際に何らかの神の影響があったのでしょうか?」
「私もピオと同じ、神の要素自体は直接は入ってないよ。そういうものに捧げられるための存在だったから」
「……神は、存在するのですか?」
「……しなかったの?」
信じられないようなものを見る視線をエッフィはピオに向ける。
「本官の知る限り、神と呼ぶのにふさわしい超越的現象を引き起こせる存在のうち、人格や判断能力を持つものがいるという根拠は発見されていませんでした」
「崇拝はあったんでしょ?それなのに生まれないの?」
「何らかの信仰を持つ人は大多数を占めていましたが、その神話、伝承、あるいは『奇跡』の主張のほとんどは特別な存在を仮定することなく、あるいは創られた物語であるとして説明できました」
「……やっぱり、私のいたところとピオのやり方は違う」
「気がついていなかったのですか?」
「いや感づいてはいたけど、根本的に違うとは……」
エッフィはそう言いながら指を伸ばし、自分の両こめかみを右手で押す。
「まず大前提。神はいる」
「定義の問題であるとして、同意します」
「それがどういった形を取るかは、どのように信じられるかによる」
「……そのようなものであると、受け入れます」
「で、私とピオは神になる条件を満たした。一応互いに互いを縛ったことでそれなりには準備はできていたんだけれども、私たちに依る存在が生まれたから」
エッフィの言っていることを、ピオはなんとか飲み込む。
「アニモは、自身を本官と貴方の被造物ではないか、と確認をしていました」
「そうだね、確かに材料から捏ね上げられたような形での被造物ではない。でも道を示して、目を開けるようにさせた。だから十分、私たちはアニモの神となる資格を得ているんだよ」
「倫理上の問題は、ないのですか?」
「被造物から創造者に逆らう権利を奪うのは無理だよ、大抵は反抗される」
「……本官の知識にあるいくつかの宗教における伝承では、確かにそのような形で人間は自由と、何らかの制約を受けています」
「面白いね。ピオの世界のそういう話を聞きたくはあるけど、今は他の事を考えないと」
そう言ってエッフィが指を鳴らすと、空中にいくつかの文書が投影される。
「私のほうの神話に基づいた、神、あるいは神々の存在を維持するための方法。たぶんこの分野では、ピオより私のほうが専門」
「……本官には直接送って頂いても構いませんが」
「こういうのは魅せるのも大事なんだよ」
とはいえわざわざ指で触って文書を移動させるあたり、ピオも配慮してくれていることにエッフィは気がつかないほど鈍感ではなかった。
「……形を与えること。接触を断つこと。見える印を用意すること」
「だから、あの五本脚のやつをいっぱい作ればいいんだよ。たぶん私たちの共通理解を読んでいるから、それをどう扱えばいいかもわかっているはず」
「自己複製機構、ですか」
ピオは呟くように言った。
「なにそれ」
「自らを作ることのできる加工装置を備えた自動装置、のようなものです」
「……それ、相当難しくない?ピオの作った工房を見たけど、一つの機械を作るのに二つの機械が必要、みたいになってたし」
「可能ではあります。更に、自ら判断し、改良を重ねることのできる存在を組み込めばそれはさらに容易となります」
「……人間、ね」
「本来はそうでした。今後は彼らがその役目を担うことになるかと」
「ピオもけっこうアニモを高く評価しているよね」
「できるだけ客観的に分析したまでです。判断能力と情報の理解の点では、一部本官を上回る速度と精度を出すことができているでしょう」
「……嫌じゃないの?」
エッフィは少し不安そうに言う。
「何が、でしょうか?」
「自分より優れた存在が現れることとか、自分が一番とか特別じゃなくなってしまうこと、とか」
「本官の存続という観点から、それらが確かに問題になることは考えられます。しかし、今回の場合は問題ないかと判断します」
「……なら、いいか。でも忘れないで、私の一番で特別な存在はピオだから」
そう言って、エッフィはクッションに顔を伏せる。
「本官にとっても、貴方の重要性は変化しておりません」
ピオの言葉を聞いて、エッフィはクッションを抱きしめる腕の力を強くした。