「増えたねぇ」
「まだ完全な生産体制が整っているわけではないことには留意してください」
エッフィとピオの拠点から少し離れた場所で、アニモたちの多脚機体は工場を作っていた。
「それでも、下手すると拠点よりも色々あるんじゃない?」
「構造が特殊になっているだけで、一つ一つの設備は一般的なものですよ」
操る機体が多脚であること、また制御系から直接機械を制御できることのためにアニモたちの組み上げる機械はエッフィはおろかピオの知る体系からも離れ始めていた。
「それで、今のところピオはどのくらい手を貸しているの?」
「全体の工程の半分ほどです」
「まだそんなにかかるか……」
ピオは溜息を吐く。
「できるだけ接触を早期に断ったほうが良い、でしたか」
「そうだね。神代って考え方があるんだけど」
「かつて神、あるいは神々が人間と共にいた時代、ですか?」
「そうそう。まあピオに言わせればなぜ現代に神がいないのに我々が神話を知っているのか、を解決するために生み出された概念だとか言うんじゃないかとか」
「……否定はしません」
「本当の信仰っていうものを定義するのはあれだけどさ、少なくとも私が流れとして認識しやすいのって自発的な指向性があるものだってわかる?」
「そういうものなのですね」
「今でも多少はあるんだけど、やっぱり利益があってその対価としての崇拝みたいなものはやっぱり違う感じがするんだよ」
「……そう考えると、我々は奇妙なことをしていますね」
「ピオから見れば、というか神が認められていなかったらそうかもね」
そう言いながら二人はわしゃわしゃと動く五本脚たちを眺める。
「今は何をしているかわかる?」
「少し待ってください。現状の進捗については共有されています」
あまりエッフィに合わせた記号化がされていなかったので、適切なフォーマットに変換してからピオはエッフィに共有する。
「うーん、やっぱり頭の中に直接送られてくるのは慣れないな」
「止めましょうか?」
「ううん、大丈夫。ああなるほど、あれで素材を作るのか」
そう言ってエッフィが見つめるのは塔のようになった精錬炉。解けた金属が密度差によって分離される構造をしている。
「ええ。ただ、どうしても偽真空焼淬かそれに類似した加工が必要となる加工についてはまだ困難なようです」
「あれはどうしても時間かかるからね」
「エッフィの知る歴史では、それはどの頃にできたのですか?」
「うーん、共通の史的理論がないから上手く言えないけど、時代だけで言うなら二千年ほど前。私に使われている暦ができてからそう経ってないころ、かな。それが広まるには時間がかかったけど」
「知的認識の変革、のようなものでしょうか?」
「そうだね。対応関係の知覚、って言えばいい?ここにあるものとあそこにあるものは実際には同じなのだ、違って見えるのは違って見ようとするからだ、かな。もちろん逆に、そこで同じと見なされているものは実際は違うと考えることもできるよ、みたいな」
「……本官の知る数学の歴史では、おそらくそれに対応する数学の構造自体を対象とし始めたのはもっと後でした」
「まあ、私のほうだとそもそも数学って体系だって纏められたのはもっと後だからさ。あまりそこらへんは安易に比べないほうが互いのためだと思う」
「その通りですね」
そういう話をしていると、作業をしていた機体の一つが二人に向けて少し頭を下げるように脚を曲げた後また去っていく。
「……前がないんだね」
エッフィは感心するように呟く。
「どういうことですか?」
「私たちは方向転換をする時に身体を回すけどさ、アニモたちはそれをしない」
「本来の物理的存在自体に方向性がないからかもしれません」
「敵がいないから逃げる方向がない、とかかもね」
「可能性はありますが、今のところ証明するのは困難だと考えます」
「そういう無意味に思える思索も、長期的には重要なんだよ」
「否定はしません。長期的に他分野の知見が有用となる例は本官の知識の中でも決して珍しいものではありません」
「……まあ、私もピオのやり方をちゃんと理解できるほど頭の中で考えたかって言われると怪しいけど」
少しだけ縮こまるようになるエッフィ。
「ただ、そういう意識の違いは新しい方向性を生み出す可能性はありますね」
「というと?」
「本官の技術は問題を細分化し、一つ一つ分析を重ねる還元的なものです」
「それに対し私のは全体を記号として捉えちゃうもの……部分と全体っていうので対立してるし、これに第三の可能性ってある?」
「例えば問題とその解決策が一体化しているというのはどうでしょう」
「……面白いね。ピオにそういう方向の発想力があるとは思わなかった」
「そうでしょうか?」
「うん。ああでもいいなそれ。どういう技術を使ったら私のやり方で近似できるかな」
「……やるべきことが生まれました。少しここを離れます」
「何があったの?」
「切削加工の部分で解決できない問題があったようで、本官の知識が必要なようです」
「いいね、頑張ってきて」
「先に帰っても構いませんよ」
「ここで見てるよ、ちょこまか動いているのを見るのは楽しみになるから」
歩き出して振り返るピオを、エッフィは小さく手を振って見送った。