ふたりきり惑星再生   作:小沼高希

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037: 似姿像は星回を歪める

「大丈夫でしょうか」

 

加圧空間で仰向けになって空中の図形をぼんやりと眺めるエッフィに対し、ピオが声をかける。

 

「大丈夫に見える?」

 

「本官の分析能力には限度があるため、現状から貴方が肉体的、精神的にどのような状態にあるかを把握することには困難があります」

 

「えっ、これって本当に私を心配してくれたやつ?」

 

「……本官の発言が、皮肉や暗喩に類するものであると判断されたようであれば、それは本官の言振りの問題です」

 

「ごめんね、私は少し面倒事が溜まって参ってたみたい」

 

「かしこまりました。ところで、こちらは何を意味しているのですか?」

 

空間に描き散らかされたように散らばるのは幾何学的図形や文字のようなもの。

 

「惑う星の巡り」

 

そう言ってエッフィが指を鳴らすと記号は退けられ、星位図(ホロスコープ)にも似た図が表示される。

 

「必要な天文学的情報について、不足がありましたか?」

 

「星の場所がどうしても悪い。調和してないっていうか、不安定っていうか」

 

エッフィが指を回すと、それぞれの星が不規則に図を動いていく。その外側に広げられた線は天動説モデルを地動説モデルを幾何学的に変換する役割を果たしていく。

 

「本官の天文学的モデルでも、観測精度の不足と初期鋭敏性のために長期的予測が困難なのですが……」

 

「それぞれの星自体の記号を読み取れば、私は多少はなんとかなるけどそれでもね。まずそもそもこの私たちがいる惑星自体が不安定らしい」

 

惑星の動きが止まり、逆向きに動き出し始める。一年かけて移り変わる恒星の場所が目まぐるしく動き、周期的な惑星の軌道の変化が積み重なっていく。

 

「……ここ。だいたい十億巡りぐらいかな。この時点では悪くない並び方をしている」

 

エッフィがここで言っている並び方というのはその瞬間での惑星配置というよりも、相互に与え合う摂動要素の大きさというものが近い。実際はエッフィにとってはもっと直感的な概念だが、ピオが理解するためには数百の微分方程式と新設された処理系での計算を必要とした。

 

「以前、貴方は星の並びからどう意味を読み取るかは観測者次第だ、と定義していませんでしたか?」

 

「そうだけど、定義程度じゃ介入しにくいものがある。直列とか、調和とか、そういうの」

 

そう言ってエッフィは図にいくつかの記号を追加する。そのうちの一つは永年共鳴と呼ばれるものを示していた。これは惑星系の形成と進化に意外なほどに大きな影響をもたらすことが知られているのだが、この話については本題ではないために割愛しよう。

 

「つまり、この惑星は本質的に生命を安定して育むには適していないということですか?」

 

「そうなるね。だからどうにかして記号とかを書き換えようとしたけど、星を動かさない限りはもう無理。微妙な介入でどうにかしようといろいろ試したけど、ちょっとやそっとじゃ変えられない」

 

「……ちょっとやそっと、というものでなければどうでしょう」

 

「ピオには何か考えがあるの?」

 

「はい。一時的に権限を頂いてもよろしいでしょうか」

 

「いいよいいよ、そこにあるものを好きに使って」

 

「それでは」

 

ピオはエッフィの作っていた図を解体し、恒星を中心とした惑星系の状態を表示する。

 

「惑星の軌道を変更させればいいのですよね」

 

「山を動かすのとはわけが違うんだよ?文字通り星を動かすのに」

 

「本官を構築する技術の中には、文字通り星を操るものがあります」

 

「……全てを吸い込む、黒洞」

 

重力特異点、あるいはその現れである天体である黒洞星(ブラックホール)

 

「いや、それって本当に()()()()()()なの?」

 

「本官の特異点動力系に用いられている重力特異点は、適切に使用すれば惑星系を混乱させるだけの力を持ちます」

 

そう言って、ピオは惑星に触れるように指を伸ばす。現れた黒い点に引きずり込まれるように、指で押されたように、惑星が少しだけ軌道をずらしていく。

 

「……それを乱すための、対価は?」

 

エッフィは記号的な意味を考えながら質問をする。

 

「質量です」

 

「……重さ。なにか星を捧げないと、星を動かせない。それなら辻褄が合う」

 

エッフィはピオから権限を取り戻し、記号を再度構築していく。

 

「星を渡り、黒洞を並べ、廻りを歪め、そしてこの惑星を安定へと導く。……確かにこれができれば、そうとう調整された場所にできる。大地じゃなくてもっと大きな流れすらも扱えるようになる」

 

爆発していくような文字と記号の羅列を、エッフィは片端から整理していく。エッフィは確かに記号を記号として捉えることに長けているが、計算や処理のような記号同士の操作についてはピオの方が得意なのだ。

 

「ねえピオ、アニモたちの助けは必要?」

 

「不可欠です。必要なものは莫大で、多くの労働力が必要となります」

 

「私の方でも、アニモがいればそうとう考えるのが楽になる。こっち側の記号を調整できるから」

 

「それで、この件についてはどれほどの重要度を置きますか?」

 

「……最終目標ぐらいでもいいんじゃないかな。まだここまで到達する前にできることもやらなくちゃいけないことも多いし」

 

「では、改めて計画を策定します。ただ、これはアニモの完全な協力を求めてはいけないのですよね?」

 

「そうだね、場合によっては彼ら主導になるかも」

 

そう言いながらエッフィは惑星を並べていき、暫定的な目標状態を作り上げた。

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