「アニモたちによって大量の処理系が構築されつつあります」
そう言ってピオが投影するのは周辺の地図。
「増えているね」
動く機体の位置情報に対し、エッフィの寝ぼけ眼が次第に複雑な構造に焦点を合わせていく。
「生産体制が整ったので、これからはしばらく自己複製段階に入るようです」
「一回できてしまえば、どんどん増えていくのか……」
「電力も太陽光から手に入れるように改良しています」
「独立して歩めているね、えらい」
「それと暫定的なものですが、素案が完成しました」
ピオは地図を消し、かわりに計画全体の流れを映し出す。
「速くない?」
エッフィは身を乗り出した。前に星を並べ替える話をしてからまだ日はほんの数巡りしかしていない。
「基本的な計画は本官の記憶にあったものを流用しています」
「……何をしようとしたの?」
それが相当な影響を与えるであろうことは、エッフィでも理解できた。そしてそれを記号に意味を見出さないピオの世界が計画したのならば、もっと直接的な目的のはずだということも。
「小惑星を兵器として使うものです」
エッフィが示すのは資料の一つ。図の下部には決して短くない警告文が示されていた。
「……私に対して、秘密を守るように制約をかけるの?」
重要軍機。承認された関係者以外閲覧禁止。
「本官以外の人間にこの内容を話すことを禁ずるものです」
「……実質、自由に話せるか」
エッフィはそう言って内容を確認していく。どれだけの小惑星が存在するか。どのように制御すれば、目的の惑星と衝突させることができるか。回避するためには何が必要か。予兆はあるか。それだけの準備にはどれだけの資材が必要か。
「……ねえ、ピオ」
「なんでしょうか」
「結論部に、『仮想敵は高い確度で本対象を兵器として運用可能であると判断される』って書かれてるよね」
「ありますね」
「……結局、やられたの?」
「申し訳ございませんが、本官はその件について知識がありません」
「結果が出る前にこっち来ちゃったか」
「その通りです」
「碌でもないね。でも、これなら可能なのか」
「ええ。必要資材は推定でこちらになります」
表示されるのは惑星系上の点。
「……例の加速器だっけ。それがこれ?」
ピオは空中に浮かぶ加速ユニットの連続体を指で触れる。宇宙が真空であることを利用し、骨組みだけで作られた加速器だ。一つ一つのユニットは
そして十分なエネルギーを持った粒子群が衝突することによって小惑星を喰らう重力特異点を作り出す、というわけだ。
「その通りです」
そして複数の重力特異点が同時に発生することで、本来ならば急速に余剰次元へ拡散するはずの重力子を迷わせ、重力特異点が蒸発するまでに対象に十分な重力を与える。付記された特異点物理学のモデルを記号として理解しながら、エッフィは小さい頷きを繰り返していた。
「で、こっちがそれをどう作るか」
落ちるよりも速く廻ることで落ち続けるというピオらしからぬ詭弁で安定する惑星を回る人工の月々。
「って、アニモたちを宇宙に連れて行くの?」
「自己複製の理論において、彼らは本官以上の専門家です。最小限の資材投入で最大限の成果を得るためには必要であると判断します」
「なるほどね……」
星々をわしゃわしゃと埋め尽くす五本脚を想像して、エッフィはそこまでやるのは制約に入っていないよなと思い出す。
「で、これが今のところの本題でしょう?」
エッフィが指を鳴らすと、巨大な棒状の物体が映し出された。
「二つの異なる方法を組み合わせることで、物体を十分な速度まで加速する機構です」
「……実現可能なの?」
「基幹技術は成功例があります。また、この惑星の希薄な大気であれば地表離脱時の速度を高めることができます」
「でも、このままだと落ちてくるよね?」
「そのため、さらなる加速を宇宙空間で行います。これについてはいくつか方法がありますが、酸化金属と単体金属を用いた推進機構を想定しています」
テルミットエンジンの構造を示すピオ。
「……まだ、計画が甘いと思う。それぞれの要素は良くても、全体でどう動くかがかなりわからない。そういう組み合わせによって生まれるものって、還元的なピオのやり方では見落とされがちでしょ?」
「実際のところ、複合的な要因によって発生する問題については未だ評価が完了していません」
「だよね。でも大まかな方針はこれで行こう」
「よろしいのですか?」
「ピオは私みたいな素人がやめようって言ったらやめるの?」
「貴方の協力なくして、この計画は成功しませんから」
「それを言うならピオの方が果たす役割は大きいでしょ」
エッフィはそう言って立ち上がり、ピオの胸を自信付けるように叩いた。