ふたりきり惑星再生   作:小沼高希

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039: 似姿像は影響を設ける

「最近、アニモたちは思ったより増えてないよね」

 

ピオの駆る多脚の上で抱きしめられながらエッフィは言う。

 

「拡張の限界だと考えます」

 

「どういうこと?」

 

「機体数がたとえある期間で倍に増えるとしても、必要な設備を設営する面積や一部の特殊な部品の製造などの点で問題が発生し、拡張が阻害される可能性があります」

 

「なるほどね」

 

そう返すエッフィの視線には南に向いて斜めに置かれた大量の黒いパネルが映る。

 

「あれが太陽からの光を電気に変換しているわけか」

 

「貴方は呼吸を無視していますし、本官にも不要なものですが、我々の知る生物の多くは酸素を必要とします」

 

「そうだね」

 

「しかしながら、アニモの物理的実体は酸素に対して非常に脆弱です」

 

「ええと、内部で食べたものを燃やすだけの熱に身を焦がしてしまうみたいなやつだっけ」

 

「……ええ」

 

酸素の反応性の高さとそこから発生する遊離基がどのようにアニモたちの化学処理を阻害するかはいまだ未知数であるが、予備実験のほとんどは嫌気性を示していた。

 

「アニモたちは代わりに電気を食べる事を覚えました」

 

「たぶんピオのせいだよ」

 

「本官は内部電位差を測定していたのみです。むしろ『流れ』を与えたのはエッフィ、貴方ではないでしょうか?」

 

「……そうかも」

 

そう言って進んでゆく間に並んだ光発電板は姿を消していく。まだここからはアニモが到達していない領域だ。ピオもエッフィも足を踏み入れるのは初めてになる。

 

拠点から南に2メガメートル(2000キロメートル)ちょっと行った場所にあるそこは、赤道地帯だ。

 

「建設予定地点はそろそろ?」

 

「まもなく到着します」

 

衛星軌道に乗せる際、惑星の自転速度を乗せることで必要な加速を数パーセント減らすことができる。もちろん軌道傾斜角がほぼ0の人工衛星のみしか使えないが、まずは下見をすることが重要だった。

 

「空を飛んで見れればいいのにね」

 

「本官の上昇できる高度では限界がありますから、専用の機材を打ち上げるべきです」

 

「わかってるって、ごめん。これは愚痴だった」

 

「かしこまりました」

 

ピオは特異点制御を用い、重力場を釘刺(ピンニング)することで浮かび上がることはできる。しかしながら自転による速度ベクトルの変化や惑星の重力異常などによって発生する摩擦が大きくなり、制御が困難となる。ただ速度を殺すだけならともかく、精密な撮影や地上分析には向いていない。

 

「……打ち上げる時期とか場所とかは、私がかなり制約を加えるけどいい?」

 

「必要なのであれば、もちろんです。しかしながら、できれば理由を説明していただけると幸いです」

 

「私たちは、新しい星を作ろうとしているんだよね」

 

すっかり暗くなっていた空を見上げてエッフィは呟く。

 

「ええ。ただ、恒星というわけではありませんが」

 

「太陽の光を反射して、それは遠い星々を騙ってしまう……ってわかる?」

 

「観測における障害となる、ということでしょうか?」

 

「観測と言うか、影響かな。動かない星と、惑う星に、さらに追加されるわけで。それをどう意味づけるかは、ある程度試しながらじゃないとわからない」

 

エッフィは動かない星という言葉を使ったが、もちろん彼女も星々にも一生があり、その場に留まるわけではないことを知っている。ただ、それは非常に緩やかで時間のかかる過程だ。

 

「新しい分類の星の追加、ですか」

 

「そうだね。それに、そういった新しい星が月と同じような特徴を持って、さらに規則的に並ぶとかなるとかなり星からの影響が強くなる」

 

星座も惑星も本来はそこにあるだけで、観測者はそこから解釈によって運命を受け取るのみ。厳密に言えば観測されるために存在するとも言う事ができるが、エッフィにとってそれらは表裏一体にすぎない。そしてわざわざ使いにくい裏を扱う必要もない。

 

「たぶん、アニモたちは私たち以上に影響を受ける。多分、その存在すら星々の在り方に縛られてしまう」

 

「……それだけの制約を持たせるだけの理由があるのですか?必要であればかつて本官のように、そもそも繋がりを持たせないこともできるのではないでしょうか」

 

「今から切るのはできなくはないけど、それ以上に恩恵を与えられれば折り合いはつくはず」

 

そのためには、準備が必要だ。アニマたちにはまだ感じ取れない、高位の存在であると定義されたからこそできる備えがピオとエッフィなら可能である。

 

「到着しました」

 

「場所の誤差は?」

 

エッフィの質問にピオは地図を投影することで返す。繰り返していた天文観測や自転時間の測定、そして加速度と歩幅に基づく移動距離の推定はどれもほぼ赤道直下にいることを示していた。

 

「……これ、一旦衛星を打ち上げてから細かく決めたほうがいいのでは?」

 

「打ち上げに必要な資材は、投射機構の構築に必要な資材と比較して決して少ないものではありません」

 

「今の時点でできるだけの準備をしたほうがあとあと楽できる、か。怠けるのはよくないね」

 

エッフィはひょいとピオの腕から抜け出し、身長の数倍ある高さから地面に軽く着陸する。信仰を得たことで、エッフィの身体が今まで以上に軽くなっていた。とはいえ、それは課せられた責任がそれだけ重くなっていたことも意味しているのだが。

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