質量投射機の建築は、決して容易な計画ではなかった。
「結局、私たちはあまり動かなかったんじゃない?」
エッフィは双眼鏡を目に当てて合成食料バーをかじりながら呟く。
「アニモたちの活動がここまで効率的だとは思いませんでした。いつでも驚かされてばかりです」
そう言いながらピオはアニモたちの制御系と接続する。やり取りされている高密度の情報を直接触ることはできないが、打ち上げの瞬間を待ちわびていることがわかる。
ある程度機体の数を増やし、電力を確保した後にアニモたちは物理的実体を増やすことを始めた。化学反応の複雑な組合せは、二次元準結晶上の
そのため、培養槽の拡大も効率化のためには重要なのだ。というわけで増やされた。
「というかアニモって、一つなのかな」
「多数決のような決定を取ってはいるようですが、我々のような個に近い状態を取っているわけではないようです」
「まあ私たちも臓腑が集まったものだけど、臓腑一つ一つが意識を持っているわけじゃないしね」
「おそらくそのような形なのでしょう。だからこそ全体と並行した情報生命としての存在や、複数の群を個別に存在させることが可能なのかと推察します」
「私は慣れない記号は扱いにくいから、そうやって分析できるピオはすごいよ」
「ありがとうございます」
ピオは微笑んで、改めて眼前の投射機を確認する。斜めに設置された直線の中では、二種類の加速装置が組み合わされている。打ち上げられるのは鉄を中心とした装置だ。
「最初の衛星は、もうあの中にあるの?」
「はい。既に最終確認を終えています」
エッフィによって流星であるとみなされ、吉兆となるように打ち上げ時間が調整された試射は数回行われていた。飛ばされた物体は弾道軌道を描き、修正の末に目標地点にきちんと落下することができるようになっていた。
「ただ、ここまではピオの中に答えがあったわけだけどここからは私たちも知らない領域になるわけだよね」
「貴方の中の知識にも助けられました」
「とはいえここからが難題への挑戦だよ。……ところで、いい?」
「何でしょうか」
「いつになったら射たれるの?」
「まだあとしばらくかかるはずです」
「暇だぁ」
エッフィは後ろに倒れ込んだ。
「……星が増えるって、いいことなのかな」
「それにどういう意味を見出すかは、貴方が決めることなのではないでしょうか」
「それはそうだけどさ、もしそれが本質的に良くないことなら多少捻じ曲げようとも跳ね返りがどこかで来るんだよ」
「……そういうものなのですね」
「それでもさ、私は関わったことが正しかったって信じたいの」
「誤りを早期に検知することは長期的な問題発生の防止の測点から重要であり、認知的偏見はこれを妨げる可能性があることを忠告します」
「わかってるってそのくらい!わかってるけど、実行できるかは別でしょ?」
「本官は貴方をそれが可能なほどに合理的で、冷静な相手であると評価しています」
「……ピオからそうあるように望まれたら、そうあるしかないじゃん」
エッフィは息を吐く。
「さて、私はこの打ち上げが成功することを願うしかできませんけど、できるだけ願っておきますか」
そう言ってエッフィは空に両腕を伸ばし、五本の指の先を触れるか触れないかの距離に合わせる。繋がっていないはずなのに繋がったような流れを輪のようになった腕に通し、ゆっくりと息を吐く。
「……私たちの頼もしき子らよ。星に向かい、星を作らんとする息たちよ」
アニモたちの使う記号を言葉に混ぜながら、エッフィは小さく言葉を紡ぐ。
「願わくば、成功と繁栄があらんことを」
エッフィの言葉が終わると共に、ピオはアニモの制御系における処理情報の質が変わったことを検知する。
非常に雑に、いい加減なアナロジーで例えるのであれば、それは神託を受けたことに対する歓喜の声であった。
「……聞こえた?」
エッフィは自慢げな顔をピオに向ける。
「本官ができるのは、失敗時の対策を用意することだけです」
そう言って冷たい横顔を見せるピオ。
「……不器用だね」
アニモたちはまだ失敗をあまり知らない。推論によって学ぶことはできても、修正から更に学ぶ経験が少ない。これは成功の道をエッフィとピオが整えてしまったからだ。
実際の経験の欠如は、それ以外のものをいくら揃えようがやはり無視できない。そういう意味では、もし失敗したとしても必ず得るものがあるはずだった。
「まもなくです」
「やっと?やっとだ!」
上体を起こし、エッフィは息を吐いて親指と中指の腹を重ねる。
天文的に定められた時が来る。エッフィが指を鳴らす。超伝導素材で作られた
加速された弾頭は加熱によって超伝導性を失った
薄い大気をも圧縮させて音を出すほどの速度で飛び出した最初の衛星は、瞬く間に空の彼方へと光の筋を描いて消えていった。