ふたりきり惑星再生   作:小沼高希

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041: 先駆者は意志を向ける

「思ったより速いな……」

 

ピオの隣でエッフィは夜空を走る光の点を見る。

 

「見えるのですか?」

 

衛星の塗装とサイズから割り出される明るさは見かけの等級に換算して5.2ほど。通信用の衛星であるため比較的反射面が多いが、裸眼で見るとなると星々に紛れ込んでしまいかねない程度だ。

 

「いや、星を見るっていうのは最も基本的な観察の一つだから……」

 

そう言ってエッフィは頭の中にある星図と見比べて、動いていく星をしっかりと確認する。一方ピオは増設した専用の観測光学機器経由で情報を確認していた。

 

「これでこの惑星を囲んで、目であり耳であり口であるようにする。神話としては面白いよね」

 

「……本官には、文芸を楽しむ感覚が一般的な人間と比べて欠落しています」

 

「ふーん、残念」

 

エッフィは呟いて、また空を見る。ピオの特徴ぐらい、エッフィはもうだいたい理解していた。人間の特定の面を重点的に模した存在。たまに融通が利かなくて、それがまた愛おしくもある。

 

それはそれとして、エッフィが感じるような楽しさや期待というものがピオにはないことが少し悲しくもあった。合理的ではあるのだろうけれども、ピオから見れば不合理の塊のようなエッフィはどうしても不満を覚えてしまう。

 

「ピオはさ、どうして動いているの?」

 

「貴方との契約ゆえですが」

 

「……うん。いや、嬉しいんだけどね?」

 

「そもそも、一般的な人間にはそのようなものは存在しない場合がほとんどです。外的な理由の存在が行動に大きく影響することは認めますが、本官にとってそれに相当するものは法規や義務であり、能動的な行動を促進するものであるとは言えません」

 

「……そうだよね」

 

つまりはピオのほうからは何もしない、と。いやもちろんそういう解釈は多分誤りなのだろうし、ピオがそういう意味で言ったのではないだろうことぐらいは理解できる。

 

とはいえ、エッフィにとっての理解は階層的で、矛盾しうるものだった。だからこそ苦しむし、ピオとは違って楽しみを強く感じることのできるのだが。

 

「精神的な問題を抱えていますか?」

 

「……そういう時は、何か悩んでいるのか聞いたほうがいいんじゃない?」

 

「本官には適切な精神分析対応について基礎的な知識しかないため、不適切な対応となっていたのですね」

 

「そう。……まあ、そうだね。私はさ、どうしても色々と観測とか崇拝とかを受け取る事を前提に作られているから欲しがりなんだよ」

 

欲望を原動力とするのは、エッフィの記号的技術においても比較的一般的な手法である。そのためにエッフィは苦しみを覚えるように作られた。

 

苦しみ、怖れ、恨み、絶望する。そういった過程で生まれる力は形而上学的存在に対してある種の宥めを与えることがある。生贄とされるというのは、そういうことなのだ。

 

「本官に希望する行動はありますか?」

 

「……誘導された行動は、効果を減ずるってわかる?」

 

「記号的技術の法則でしょうか。もしそうであるとすれば、本官は自らの処理によって貴方に対する適切な対応を探り出す必要がありますね」

 

エッフィにとってはその過程自体が十分意味あるものなのだが、たぶんピオはそれに気がつくことがないだろうと思ってエッフィは息を吐く。新しい星は既に地平線へと沈んでいて、東の空が青ばみ始めていた。

 

「そう。帰る?」

 

エッフィは立ち上がり、ピオに手を伸ばして言う。

 

「……もう少し、貴方のために何ができるか考えさせてください」

 

「わかった。じゃあ工房をちょっと使わせてもらうね」

 

「構いません」

 

去っていくエッフィを見送って、ピオは処理系を駆動する。

 

自身の行動になんらかの方向性があるかどうかを自省すると、明らかに存在するという結論が出る。統計処理を必要としないほどあからさまに、ピオはエッフィに対して特別な扱いをしている。

 

「唯一の相手であるから、でしょうか」

 

あえてピオは口を動かす。しかし、その後に仮説をピオは否定する。重要な協力者であったからというだけで、法規の怪しい点を突いて自己正当化を行う必要に駆られるほどではない。

 

自分の中にある規則や倫理規定と同じ程に強い何かが、ピオの行動に影響を与えている。その影響を分析すれば、エッフィが抱える不満を解決できるかもしれないとピオは二つの事象を結びつけた。

 

「心理学的な問題が多いですが、本官はこの水準の内省系を処理できるほどの能力が……」

 

そこまで言って、ピオは拡張された処理系の存在に気がつく。アニモたちによって増設された処理系には今まで依頼をするように情報をやり取りしていたが、自己の拡張という形で用いたことはなかった。

 

もちろん、リスクはある。ピオの処理系はピオのスペックに最適化されて作られたものだ。読者にわかるように例えるのであれば、エンジンと車体の関係に似ている。

 

車の大きさと重量、そして用途に合わせてエンジンのサイズや馬力は決定する。同じエンジンを別の車体に乗せれば、本来出せるはずだった能力が発揮できないことは十分に有り得る。

 

とはいえ、今のままでは新しい発想が浮かぶとも限らない。ピオはいくつかの警告を無視して、自身の処理系が用いることのできる範囲を広げた。

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