ふたりきり惑星再生   作:小沼高希

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042: 似姿像は深淵に手を伸ばす

ピオが悩みを自分の中で整理することも重要だろう、と考えながらエッフィは工作機械から取り出された部品を確認する。ピオに頼らない設計は苦心し、失敗も繰り返されたがなんとかそれは形をなしつつあった。

 

多数のリンク機構と歯車、幾何学的に彫られた目盛りとそれを指す針たち。巨大な円が三次元的に重なって作られる同心球状の枠組みの中には、伸びる棒によって示される惑星たちが存在する。

 

読者の知識にあるもので近いものと言えば、太陽系儀や立体天体観測儀、渾天儀や射撃盤のようなものだろうか。ただ、それ以上に複雑で繊細な機構であった。

 

最終的な大きさは直径3メートルほどの球体が土台に乗った形になる。基本的に機械部品で構成されており、ピオのような電子処理が入っていない。

 

「あとは組み立てるだけか……」

 

この機構はピオの処理系経由では難しいある種の記号処理を行う装置であり、これ自体が宇宙の縮図のような形で対応する記号を持っている。膨大な人工天体を直接表すことは難しいため、それらは挿入される鑽孔金属板によって表現される。

 

その部品数は膨大なものだ。十万近い部品は記号的にそれらの相互作用を意味した設計がされているが、実際の組み立てはエッフィがやらなくては意味がない。

 

「こればっかりは、ピオにも頼めないしね」

 

そういってエッフィは背を伸ばす。この機構には相当な量の「遊び」に相当する部分がある。これによって結果が大きく変動するため、記号的技術によるカオス的影響を示すことができるのだ。このせいでピオの処理系を用いることができなかったのだ。

 

今エッフィが取り組んでいるのは外の動きを増幅させ、それぞれの星々の動きに反映させる機構だ。絡まるように編み合わされた糸のように細い金属線がアームの穴同士を結び、複雑な反映を形にしている。

 

「……あれ、合わない」

 

部品が上手く噛み合わないのを確認して、エッフィは溜息を吐く。何が原因だろうか。

 

組立自体が世界を反映している都合上、その原因は設計や加工の過程にあるというよりもむしろエッフィにあると考えるのが妥当だった。上手く行かなった場所は、天球に存在すると仮定される星々と大地の影響を考慮する部分。

 

「比喩的に言えば私とピオだけど、直接的すぎるかな」

 

そう思い、エッフィは後頭部の端末経由でピオの方に意識を向ける。が、次の瞬間に立ち上がって無塵室を飛び出す。

 

「なにやってるのさ、ピオは」

 

エッフィが感じたのは、広がって散らばっていくピオの形。それはあくまで分散した状態の情報から受け取られる印象に過ぎないが、ピオに碌でもないなにかが起こっていることぐらいは判断できた。

 

空はもう日が昇っていた。もし昨日からずっとピオが考え込んでいたとしたら、それ自体が厄介な記号を持ってしまう可能性がある。なにせエッフィと同じくピオも信仰される対象なのだ。場合によっては同一視されるエッフィとピオは、互いに影響を与えすぎてしまいかねない。

 

「実在はしているけど……ここにはいない?」

 

黄灰色に足を汚しながら、エッフィは虚ろな目をするピオの前に立つ。

 

「ええと、まずは、中を見ないと」

 

後頭部の端末に触れて錨として、あるいはブイとしての役割を持たせながらエッフィはピオの前髪を持ち上げて額を合わせる。

 

黒。その奥も黒。本来ならあるはずのピオの心に相当するものがない。前に見た処理系の反応もない。どこかに消えた、迷い込んだ、そういった可能性がエッフィの脳裏をよぎる。

 

「ねえ、ピオ。私はここにいるよ」

 

声を出すが、代わりに重くて得体の知れない何かが肺に入ってくる感覚がある。もちろんこれは幻覚で、ピオの処理系における負荷をエッフィが理解できるような馴染みのある形に変換しているだけなのだが。

 

「私がたぶん、ピオのことをちゃんと見てなかったのが悪いと思う」

 

そう呟いて、エッフィは自分の失敗に気がつく。観測されたければ、それだけ相手の存在を確保しなければならない。ピオに言わせれば、帰還(フィードバック)が切れていたということになるのだろう。

 

それは傲慢によって生まれたもので、欲望が根源となったものだ。負の方向に伸びた感情がピオに写ったのかもしれない。二人は照応する存在だ。

 

「ピオがどう思ってくれているかは、私のほうは受け取れているから」

 

思慕と呼ばれる感情。誰かを特別に認めるもの。ピオの中にあるものは人間が抱くものともエッフィが抱くものとも形が違うかも知れないけれども、そう名付けるのが適切なものだ。

 

「もしわからないなら、私がそれを呼んであげるから」

 

エッフィの眼前に底に相当するものが目に入る。エッフィは自分の勘違いに気がついた。

 

ピオは自分を閉ざしていたわけでも、そこにいなかったわけでもない。処理系を駆使して、より深く潜るように考えていただけだった。

 

幾何学的に走る光の線に、逆さまに手を伸ばしたエッフィが触れる。次の瞬間には、底に走っていた光がピオに向けて急速に集まってきていた。

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