ふたりきり惑星再生   作:小沼高希

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044: 似姿像は構造を賜わす

「ある程度巫覡(かんなぎ)になってくれるのがいればいいんだけどね」

 

数の増えつつあるアニモはいくつかの資源地帯を開発し、五本足の機体に適した文明と呼ぶにふさわしいものを築きつつあった。

 

「組織化された宗教ですか」

 

「そうそう。ってそうか、ピオのほうには私のところよりしっかりしたのありそうだものね」

 

そういう会話をしながら二人が見下ろすのは最大の機体工場。二人がいる場所はある種の神棚のようなもので、ピオとエッフィのために用意された工場の中で一番見晴らしがいい場所である。

 

「確かに本官の知る体系化された信仰においては、信徒の中にある種の階層構造が存在しました」

 

「そう。たぶん神を誰もが感じられないから、私が神と繋がったって主張する人を中心に集団ができていったんじゃないかな」

 

「……いえ、異なります」

 

「それとどうすれば違えるのさ」

 

「自ら神であると主張したもの、神が幻想であるという理論を構築したもの、あるいは神に至るための方法を主張するもの。信仰の始祖たる人物が、常に神との繋がりを主張したわけではありません」

 

「そっか、神との繋がりがないとそういう主張を否定できないのか」

 

「ただ、形成される組織構造は類似しています」

 

「わかる。結局神の方針を伝えるためには誰かを強くさせないと意味がないからね」

 

「ただ、アニモがそのような構造を有することができない可能性は高いと考えられます」

 

ピオは眼下で作業する肢たちを眺める。この工場では、文字通り全てがアニモに制御されている。部品を組み立てる一つ一つの肢は独立しておらず、繋がりを持っている。

 

読者の多くは腕を組むとき、右腕と左腕に対して個別に動かそうという意識を持たないだろう。ある種の流れがあり、それに沿って二つの腕が絡まりあうはずだ。

 

この工場で起こっていることもほぼ同じである。組み立てという流れに沿って、個別の肢が動いている。もちろんここだけではない。他の施設も、五本足の機体の全ても、一つの流れに沿って動いているのだ。

 

「だよね。あれは一人に近いんだけど大きすぎる」

 

エッフィにとっては、アニモの構造は内部に自然を包括できる程度に大きく、複雑なものだった。ガイア仮説にも似た、しかしエッフィにとっては観測によって自明として理解されるその考え方に基づくとアニモの中に階層を作ることはなかなか困難なように思えた。

 

「役割の分担ではどうでしょうか?」

 

「たぶんよくない。私たちが与える影響と本来の流れが分断されちゃう」

 

「個別の指示」

 

「それ自体が独立した個を持ってしまっても、すぐに全体の流れに飲まれちゃうんじゃないかな」

 

「……困難ですね」

 

「簡単にはいかないね。構造自体への介入をするのもありだけど、ここまで広がっていると……」

 

そう言ってエッフィは最近確認した様子を思い出す。億に届こうかという機体と、万を超すアニモのための培養槽と処理機構。化学反応と任意子(エニオン)でそれぞれ情報が扱われるため、ピオのような還元的な方法で構造を理解することはほぼ不可能となっていた。

 

かといってエッフィのように記号的に全体を扱おうとしても、全体の流れが一つにまとまり過ぎていることが問題となる。文章の書かれた紙の上にいくつか書き加えれば意味を書き換えることが可能であったとしても、白紙に同じような事をしても汚れが新たに生まれる程度である。

 

アニモという、ピオが扱えないほどに複雑で、エッフィが干渉できないほどに統一されている存在は二人にとってかなり手を出しにくいものであった。

 

「本官たちの接続ができる以上、介入は困難でも同調は可能なのではないでしょうか?」

 

「ああなるほど、ってことは私たちが入るときに生まれる構造を利用すればそれ自体をある種のお告げみたいに扱えないかな……」

 

そう言ってエッフィはぶつぶつと言葉を紡ぐ。ピオが自身の処理系をフル稼働させて並列で解読を試みると、圧縮された祈りの言葉にもプログラムのソースコードにも似たものだった。

 

「だから、相手が一緒のまま流れ自体を細かくしていけばいいはず」

 

流れの速さによって層流が乱流へ変わるように、内部構造に起こる相転移を用いて構造を形成するというもの。

 

「……可能なのですか?」

 

エッフィの案をピオは計算する。未知数が大量であり、適切なモデルを構築することができていないが、悪くないアイデアであるとは判断できた。もちろん良いと判断できるだけの根拠もなかったのだが。

 

「やってみる。向こうの条件も揃える必要もあるだろうから、準備はいるね」

 

「前兆を用意するべきでしょうか?」

 

「……いや、向こうに揃えよう。ピオは今後アニモに起こる大きな出来事がないか確認してもらえる?」

 

「その時に合わせる、ということですか」

 

「場合によっては向こうから呼んでくるかも。まだ信仰は残っているはずだから」

 

そう言ってエッフィは足元を見る。隣には監視用のセンサーがあったが、それでもここは二人のために作られた場所だった。

 

 

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