ふたりきり惑星再生   作:小沼高希

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048: 先駆者は上進を選ぶ

『決セシカ?』

 

通信が再び繋がり、五本脚の像が映る。

 

「私はピオと進むことにした。どうせだったら、二人で最も面白いものを見たい」

 

「本官は協力者であるエッフィと共に進むことを選択します」

 

『解セリ』

 

アニモがそう言うと、通信量が増大する。ピオが使っている処理系に上書きされるように送り込まれるのは様々な設計図や理論。

 

「はいはい、これを組み立てればいいと」

 

全体のデータ構造はエッフィ仕込みの記号的技術に基づいている。アニモたちも徐々にではあるが、ピオの世界にはなかったような観測による実存への干渉を実現できるようになっていた。

 

エッフィに渡されたのは、脳機械接続のより発展させたもの。ピオの脳細胞を培養し、それをもとに意識を潜らせることで自己を改変するというもの。

 

「本官のほうは、ある種の保護符号化処理に関するものですね」

 

ピオのフィードバック機構を模した系を作成し、そこにピオの根幹システムを丸ごとアップロードする。もともとピオの制御はある種の人格にも似た統一性のあるシステムによって行われていたが、外界との接続によって変化し続けるようになっていた。

 

その外界を模倣した上で、ピオを丸ごと情報処理として再現しようというものである。

 

「……貴方は、怖くないのですか?」

 

「ああ、これをしたら私が私じゃなくなるんじゃないかってこと?」

 

「その通りです」

 

「大丈夫だよ。私の知識からしても意図的にもとの構造に流れを与えたならともかく、その源流が私だけだから外乱は最小限になるはず」

 

「そういうものなのですね」

 

「でも、それだけじゃないよ」

 

話を切ろうとしたピオをエッフィはつなぎとめる。

 

「私はピオと一緒にいられるなら、自分だって変えてみせる」

 

「……変わった先にいるのは、本官ではないかもしれませんよ」

 

「それを言ったら私の認識がなければ全てが幻想になるから。私がそれをピオだって定義して、それが私をエッフィだって言ってくれたら、それはピオになるし、私はエッフィでいられるの」

 

「自己参照定義による概念の撞着的特定ですか」

 

「んー、詳しい意味はちょっとわからないけどたぶんそう。じゃあ、準備をしますか」

 

「アニモの案はある程度精査されてはいますが、実際の組み立てや実行には我々の知識や技術が多く必要となるでしょうね」

 

「全部を教えたってわけじゃないしね。最初の流れの時に繋がったのはあくまで表面の薄いところだけだから」

 

そう言ってエッフィは計画の全体構造を提示する。ピオの知識に基づいた細胞工学とアニモが作り出すことができるある種の万能有機組立て機構を用いて培養槽を丸まる一つ、ピオが入るために用意する。

 

「……ところで、この身体はどうしよう」

 

「必要であれば保存しますが」

 

「できるの?」

 

「再生には特殊な条件が必要となりますが、複数の薬剤と極低温によって生命活動を復活できる状態で長期間保存することができます」

 

「あー、氷漬けか。なら私の身体自体を記号的に再構築して、そういうのでも変化を抑えるようにするか」

 

ピオが提示する人体冷凍保存(クライオニクス)は、かつてピオがいた世界では確立された技術であった。寿命を延長することもできず、コストが高いためにほとんど使われることがなかったもののこういう場合では有用だ。

 

さらに保存と変化の防止という記号を多重に組み込むことで、混沌を運命づける熱力学第二法則に対してある程度まで抗うことができる。

 

「ピオの方は大丈夫?私には記号的な側面からしか手伝えないと思うけど」

 

「むしろその方面での援助をお願いしたいと思います」

 

予測不能な情報入力がピオに多く流れ込んでくるため、それを適切に既存の入力モデルに組み込まなければ受け取れるものにはなれない。

 

さらに適切な外界からの入力がなければ、ピオの処理系は徐々に怠けるように機能を落としていく。これは本来不要な方面で処理を増大させないためのものだが、入力を整形をする際の制約ともなってしまった。

 

これを解決するために、ピオは自身の処理構造自体を書き換えする。任意子(エニオン)処理は環境が安定していないと破綻する可能性が高くなるが、それを上手く利用することで誤接続を制御して新しい処理が可能な構造を作り上げる。

 

その誘導と全体構造の決定は、ピオの還元的技術では限界がある。エッフィがするように上の方から形を決めてから細かいところを作っていく方法のほうが適切なのだ。

 

「ところで、これってかなり色々な素材が必要にならない?」

 

ところどころに要求されるのは、ピオやエッフィが知識としてしらない素材や現象。アニモたちも研究を進めてはいるものの、未だ体系化しきれていない領域だ。

 

「……アニモの全面協力があれば、そして貴方がいれば、十分可能です」

 

そう言ってピオは素材の一つを作るための全体の流れを、指先ほどの文字の羅列が二人の背丈ほどに連なった樹状として示す。

 

「そうだね。あとこれピオのいた世界のやり方でしょ?たぶん今のピオならここは省略できるかな」

 

枝が刈り取られるように削られて、流れが短くなる。最終的にそれはピオの手の上に乗る程度のサイズに落ち着いた。

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