その組立ては、アニモが並行して進めていたいくつかの計画と比較すればささやかなものだった。とはいえ、それらの計画のいくつかは二人をより高みへと引き上げるためのものだったのだが。
惑星の重力圏を脱したいくつかの機体は、新しい惑星としての意味を付与されて解釈の微調整に重要な役割を果たしていた。
極地と地下水脈の採掘は、必要となる微量金属を手に入れるために不可欠であった。
簡易的であるが稼働を始めた重力特異点製造用の設備は、作業に必要な電力を賄う助けとなった。
「……ねえ、ピオ」
エッフィの身体にはいくつかの管が繋がれている。血液の中に糖の量を増やすとともに、いくつかの遺伝子発現を引き起こすことで冷凍での損傷を最小限にする。
周囲の物理法則すら捻じ曲げるエッフィだが、こういった細かな操作は苦手だ。特に意識を失った場合、自己の観測が困難となるために制御は一気に難しくなる。そのために外部からの介入が必要なのだった。
「どうしましたか?」
ピオは横たわるエッフィの腕に触れる。棺桶にも似たその容器は、肉体の長期保存のためのものだった。精神を移し替えるという作業において、下手に肉体を目覚めさせたままにすると悪影響が残ることがある。もちろん凍らせることでも負担はかかるのだが、もしそうなっても意識を戻して目を覚ましさえすればエッフィが自己を再定義できる。
「これについて、ピオとアニモがかなり苦労して色々と試したのは知ってる。それを疑うつもりはないよ」
「……ええ」
確かにそうだが、エッフィは確率を無視するような因果を引き寄せることも可能である。わずかに残る、あるいは想定されなかった問題を当ててしまう可能性は否定できていない。
「でもさ、怖いんだよ。冷たくて、沈んで、消えてしまいそうになる」
「貴方が自己をそう定義したいのであれば、本官はその意志を尊重します」
「いやその、待って。ここはこう、頑張ってとか心配しないでって励ますべきじゃないの?」
「それは貴方の選択に介入を加えることを意味します。本官はそのようなことを実行する動機も手法もありますが、それ以上に貴方の選択が優先されます」
「はいはいわかったわかった。弱気になってる私が悪かった」
ピオは融通が利かないわけではない。ただ、エッフィの選択を信じているだけなのだ。それはそれとしてエッフィは不満なのであるが、その不満も楽しむことができる程度には余裕があった。
「じゃあ、約束。先に行って、待ってるから」
その言葉をトリガーとして、エッフィは自分の肉体の制御を始める。ある種の眠りや死にも似た状態に、自らを持っていくのだ。
「ちゃんと来てよ」
エッフィの言葉とともに冷却機の駆動音が響く。本来であればもっと時間をかけて温度を下げていくのだが、星の状態とエッフィの自己制御を考えれば素早くやる方が効率的だった。
外部の冷却系を循環している血液は、高鳴るエッフィの心臓によって身体から熱を奪ってゆく。エッフィは自分の思考がぼんやりとするのを感じながら、後頭部の方に意識を集中する。
目を閉じ、落ちていくような感覚に身を任せる。手足の先端から自分を引いていって、冷たくなるままにあるべき認識の形を頭の方に集めていく。
外側で見ているピオは、身体の機能が急速に落ちていくのを観測していた。深い眠りのように脳の活動が収まっていく。鼓動ほどの周期は徐々に遅くなってゆき、波が打ち付けるような頻度に落ち、そして感知できないほどに消えていった。
所定手続の完了を確認
話す相手がしばし去ってしまったピオは、冷凍保存がきちんと機能し始めた事を確認して隣にある台に横たわる。
ピオの内部に組み込まれた情報を引き出すためには、本来であれば専用の鍵に相当するものが必要だった。複雑な暗号によって外部からの干渉を防ぎ、機密を守るための扉を構成するためだ。
しかし、エッフィはそれを扉だという理由で開けられる。たとえ隠そうとも、そこに答えがあるなら記号的技術はたどり着くことができるのだ。
先に行ったはずのエッフィは、向こうでアニモの援助を受けてピオの解読に挑む。そうなっているはずだ。
【後頸部接続端子遮蔽部開放】
うなじの部分が開き、複雑なコネクタが刺さるための穴が除く。寝台の適切な場所に置かれた端子と繋がる時、ピオは長らく感じていなかったくすぐったさのような感覚を思い出した。
【接続検出開始】
試験信号送受信完了
互換性確認完了
通信状況問題なし
規格書に沿って作った端子がきちんと機能したことに安堵しながら、ピオは予備計画を記憶から削除していくとともに外部からやってくるものに注意を向ける。
【解錠処理開始】
鍵情報受信完了
超越的論理情報です
認証が完了しました
接続先の権限を承認します
【引込開始】
「いたいた。こっちに引き込むよ」
すっかり馴染んだ、落ち着く声が声が聞こえるまでに、そう時間はかからなかった。内部処理系に響く言葉に従ってピオは目蓋を閉じ、自分を呼ぶ声にゆるやかについていった。