黒い刺客なんですけどなんで♀︎……あとサイボーグさんや、その5本目の脚をしまいたまえ(汗) 作:何でもいいでしょ?
俺氏誕生する
その日も、いつもと変わらない何の変哲もない一日の筈だった。
高校時代からの親友から毎日毎日L〇NEで送られてくるリアルに充実した生活の写真に対し、内心中指を立てながら無難にせっかくのいい奥さんなんだから逃がすなよ〜と心にもな――くもない言葉を返し、そのまま布団を被って就寝……した筈なのだが……
『どうして……』
目が覚めたら馬でした。
……いや、これでは語弊があるか。正確には目が覚めたら母の胎内にいたのである。
布団とは違う生暖かさに思わず目を開き、視界に入った
何も考えられないままパニックに陥り、意志という制御を離れた体が暴れ出そうとしたその時、ズルッという音が聞こえて来そうになるほどに気持ちのいい滑るような感覚を全身で味わい―――
『目がァ!?目ガァ!!』
――よくある暗闇から急に明るい場所に出た時に感じる目が焼かれるアレを体感した。
「よし、産まれたぞ!」
「よくやったラック!」
「あとは立つかだが……」
む、何やら見られている気配が……
明らかに複数の、見なくてもわかるほど謎の液体まみれた我が体を見ているのであろう視線が突き刺さるのをヒシヒシと五感とは違うであろうまた別の新しい感覚で感じながら、さっき反射的に閉じてしまった目を再び開く。
そこには……
『大丈夫?』
心配そうにこちらを見つめる馬がいた。
『』
『あら?』
ゼロ距離で覗き込んできている馬というさっきまでとは比にならないレベルの衝撃の光景に、俺は神速のインパルスでバックステップを踏んだ。
っていったァ!?なにこれ壁!?
『え、なにここ……』
『どうしたの?お腹すいたの?』
お馬さんが一歩一歩、ゆっくりと近づいてくる。僅かながらも地面を揺らす振動が伝わり、恐怖心に支配された俺は背中に走る鈍痛とまるで別の体に作り替えられたかのようにも思える体への違和感と不快感を振り切り駆け出した。
……駆け出そうとした。
『っ!?』
『危ない!』
「大丈夫か!?」
「…あの感じ、もう少しで立つな」
駆け出そうとした俺だったが、体を押し付けていた恐らく壁であろう物体から背中を離した途端、バランスを崩して倒れ込んでしまった。
それだけでもダサすぎて死にそうになるというのに、それに加えて体に対する違和感から上手く立ち上がれないどころかバランスすら取れない始末。
はァァァ!?どうなってんのこれ!?ちょ、バランス全然取れな―――は?
その時の受けた衝撃は今でも忘れないだろう。ついでに前世と今世だけでなく、三度目の生となるあの世界での日常も含めて尚衝撃ランキングトップに堂々ランクインしていることも明記しておく。
『な、なんで俺…馬になってんだよ……』
半ば半ギレに近い心境のまま自分の体を見下ろしたことに後悔したのは、後にも先にもこれ一回きりだろう。
黒い体にこれまた黒い蹄、チラッと見た限りではケツの辺りから生えている尻尾もまた漆黒色であり、さっき苦しめられた何かの光に反射し鈍い輝きを放っている。
『……馬の蹄ってこんな風になってるのか』
なんか一周回って冷静になり、すっと
「な!?早すぎだろ!?」
「まだ五分も経ってないんだが……」
「やっぱりか」
「ラックに気づいてやってくれー!心做しか悲しそうにしてっからさー!」
耳をすませて辺りを見渡せば、あれま見知らぬおっちゃん達が密集しているではありませんか。オマケにおっちゃん達の視線は一人を除けば全員俺に集中しています。
何故かめちゃくちゃ見られていることに首を傾げていると、今度は体全体が影に覆われ、さっきも見た馬の顔がドアップで視界に入ってきた。
『っ!?』
『良かった…お乳飲むかしら?』
思わずビクッと震えた俺だったが、目の前の馬が発したこれでもかと優しい声を聞き理解したのだ。
この
『飲む』
『おっと、あらあら』
『ウマー…馬だけに』
『たっくさん飲んで大きくなるのよ』
迷わず母さんの腹目掛けて突撃し、母乳を貪る。不思議な味わいの母乳はいくら飲みづけても飽きることなく、恐らく止められなければ延々と飲んでいられるに違いないと確信した。
……まあ実際のほどはダ〇ソンが誇る掃除機並の力でチューチュー吸いまくっていたら割とすぐに腹一杯になった訳だが。
『けぷっ』
『満足した?』
「良かったな。見た感じ元気そうだ」
「最初暴れかけた時はどうかと思ったけどな……」
母さんからの問いに食い気味に頷くと、母さんは俺からの返答に満足したように体を舐め始めた。少しくすぐったいが、普通に気持ちいいからそのまま続けてもらう。
あ、そこそこ〜はぁ〜気持ちええんじゃ〜って待て待て……いや待って!?なんか普通に順応しちゃってたけどおかしいよねこれェ!?
普段通りの何の変哲もない一日を終え就寝したかと思えば馬になって母さんのお腹から誕生しましたってそれどういうことなんだよ…訳わかんねぇよ…
夢にしてはリアル過ぎるし、何よりもさっき痛みを感じた以上夢であることはまずまず有り得ない。
……なら、なんだ?最近ピークが過ぎ始めた輪廻転生ってやつなのか?それも人から馬に?
それって、それって………!!
『畜生道じゃねぇか!!』
『ど、どうしたの!?』
「うおなんだ急に!?」
なんでだよ!!俺毎日一生懸命働いてたじゃんか!あんまり頻度高くないけど汗水垂らして稼いだ金で親孝行もちゃんとするような模範的息子だったじゃんか!なんで畜生に落ちなきゃならんのじゃボケぇ!
『落ち着きなさい!はしたないですよ!!』
『ぴっ』
「あ、大人しくなった」
「母は強しってやつか……」
「戦績としちゃあ残念だったが、母ちゃんとしては結構世話焼きな部類だもんな、ライラックポイント」
こ、怖ぁ…なんかよく分かんない威圧みたいなもの出てたし、怖ぁ……というか今なんか聞き覚えがあるようでないような名前が聞こえたような……
ライラックポイント…うーん、わかんねぇ……なんか知ってる筈なんだけど思い出せん……
『落ち着いた?』
『うん…』
『そんな顔してないで、こっちにいらっしゃい』
母の有難いお言葉に従い、母さんに体を擦り寄らせる。……生命の尊さを感じる温かさである。
あまりの心地良さに、なんか今だけは畜生道に落ちてよかったななんて思ってしまった。まあそれはそれとして納得はしてないけど。
……畜生道以外の可能性だと寝てる間に幽体離脱した我が魂が産まれる前の仔馬に憑依して定着してしまったって可能性もあるか。今はもうそんなに感じなくなってきたけど、最初に体動かした時は違和感やばかったし。……あれ?そういえばもう違和感感じないってことは、詰みか?
「めっちゃ甘えてんな」
「だな、ま、見てて癒されっからいいんだが」
自分でも分かるくらいひゅんひゅんと甘えるような声を出しまくっていると、さっきまで緊張混じりで俺と母さんを見ていたおっちゃん達が、今度はどこかホッコリした様子で眺めていることに気づいた。
「問題はコイツが走るかだが……」
「走らないと困るんだよな、コイツもそうだし俺らもさ」
ん?なんか若干表情が険しくなった?なぜに?
「俺はコイツが肉になるとこなんて見たかねぇよ」
待って今聞き捨てならない単語聞こえたんだが!?肉ってどういうことなの!?もしかして俺成長したら殺されんの!?そんな殺生な!
死にたくないという一心で体をバタバタと暴れさせていると、母さんが自慢の舌で頭を撫でて落ち着かせてくれた。
『落ち着きなさい、何に怯えてるのか分からないけどあの人間達なら大丈夫よ』
でも母さんや、今あの人達俺見て肉って言ってたんだが?どこが大丈夫な訳?
『厳しい時も勿論あったけど、ちゃんと愛情を持って接してくれたのよ?私が勝てなくて悔しい思いをしてたらちゃんと慰めてくれたわ』
『勝てなくても?ってどういうこと?』
なんか嫌か予感がしてきたんだけど……
『まだ教えるには早いと思うけど……走って競い合うの』
『それで負けたら肉に…?』
『最初はそんなことも言ってたけど、今も私がこうして生きてるんだし大丈夫よ』
それ繁殖牝馬としてでしょ絶対……あーもう思い出しちゃったよ……ついでに色々わかっちゃったっし……
ライラックポイントって言えばあれよ…あの黒い刺客なんて呼ばれてミホノブルボンを初めとする数々の競走馬の偉業を止めるという更なる偉業を成し遂げたライスシャワー号の母親で、気になって調べたら産駒の比率がめっちゃ牝よりだったという記憶がある繁殖牝馬。
……ん?ってことは俺、もしかして…いや違うよな〜そんなご都合主義ある訳ねぇわな〜つか俺だったらあんなブーイング食らったら心ペッキリ折れちまうしな〜
だからここでチラッと確認――ヨシ!牝馬!
『牝馬ぁぁぁぁぁ!?』
拝啓前世の父ちゃんと母ちゃんよ、あなた方の息子は――牝の――馬になりました。
建物中に響き渡る嘶きを上げながら、俺は前世の両親達に対しそうメッセージを送った。
史実の競走馬の記録が下がったりしますので、念の為アンチヘイトのタグを付けさせていただきます。
戸山さん(ミホノブルボンの調教師)モデルの登場人物を生存させるか、させないか
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させる
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させない