黒い刺客なんですけどなんで♀︎……あとサイボーグさんや、その5本目の脚をしまいたまえ(汗)   作:何でもいいでしょ?

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早くもたくさんのお気に入りに加え五人もの方に評価頂けただけでなく三つも感想を書いて頂けてめっちゃびっくりしております((((;゚Д゚))))


離乳後の俺氏

時の流れは経つのが早いという言葉はよく聞くが、こんなにも早いとは思いもしなかった。人生ならぬ馬生を経験しているからこそ、ヒトの一日というものがどれだけ濃いものだったのかを思い知らされた。

 

正直前世では毎日普通に生きていることに対して一度も感謝なんてしなかったし、しようとも思わなかった。だが、今になって自分がどれだけ恵まれていたのかを自覚すると前世の両親達に頭を下げずには居られない。

今まで本当にありがとうございました。あなた方の息子は娘になりましたが、これから頑張って歴史に名を残しに行きたいと思います。まだ競走馬としての名前知らないけど。

 

「ヒヒーン……」

 

前世の両親達に思いを馳せていると、つい口から寂しげな声が漏れてしまった。…いけないいけない、これから競走馬としてまだ見ぬ強敵達と戦っていくんだし気を引き締めねば……それはそれとして寂しいよぉ!オカアチャーン!

 

繁殖牝馬の次の出産の為だったり、とか色々理由があるのは知ってるんだけど…やっぱりいきなり引き剥がされると寂しいんだよな……最初の三日間くらいはずっと俺呼んでたし……

 

諦めて辺りを見回すと、俺と同じ当歳馬と呼ばれる0歳の仔馬達が集団で集まって過ごしているのが見て取れる。

初めは俺も仲間に入れてもらおうと思い近付いたのだが、結果はご覧の有様……野生の勘的な何かで中身が人間だということを勘づかれたのか、集団の暴力で省かれ今に至る。

 

「……」

 

相手は純正のお馬さんだから仕方ないと諦めてはいるのだが、やっぱり名残惜しい部分はあるのである。暇潰しにと走っていても放牧場から出て行けとかは言われないのが幸いなんだが、なんかね……俺の味方は母さんと人間達しかいないのか!

 

人間達の方もようやく声も安定して聞き取れるようになって来たんだけど……時々聞こえてくる血統がどうたらこうたらとか、購買がなんたらかんたらで怖いんだよな……俺まだ母さんから――もう既に離されてるけど――離れたくないしさ。

 

『まあ馬の都合なんて人からしたら関係ないか……』

 

俺達競走馬は人間達からすればただの金儲けの道具なのである。もしくは体のいい玩具。勿論ちゃんと愛情を持って接してくれる人もいるっちゃいるんだけど、大半は馬券握って勝つことだけを求めてたりするんだろう。

 

そうじゃなけりゃライスシャワー号のブーイングの嵐とかヒール扱いとか無かっただろうしな。仮にも生きてる馬とその相棒にやる仕打ちじゃないよ、全く……でも、まあだからこそライスシャワーと纏葉騎手に憧れたとも言えるけど。

 

悪役(ヒール)呼ばわりされた競走馬が英雄(ヒーロー)になるって言うと聞こえはいいけど、実際やってることって手の平ドリルと同じだもんな……』

 

前世に見た二種類のネット記事を思い出しながら、柵に沿って走り始める。正直な話、一つ目として見た記事ははっきり言って気分が一瞬で最低まで落ちるほど胸糞悪い言い草であり、これを纏葉騎手や馬主の栗森さんと言ったライスシャワーに関わった人達も見たと考えると悲しい気持ちになった。

 

愛情込めて育て上げた愛馬をヒール扱いされた伊志塚さん達はどう思ったのか。当事者ではない俺には到底理解できないほどの葛藤を胸に抱えていた筈だ。

 

そんな心境で今度はヒーローとして持ち上げる記事を読んだとしても気分は晴れなかったし、それどころか簡単に手の平返しするマスコミに不快感を抱いたくらいである。マスゴミなんて呼ばれる悪辣さは伊達ではなかった。

 

「おお、おめーか」

 

「ブル?」

 

一度頭をブルブルと横に向けて振り、嫌な記憶を振り払う。やめだやめ、本人ならぬ本馬もまだこの世に生まれてない以上、どうせ今考えたってしょうがないんだから。

そう思い直し、なるべく脚に負担を溜めないようゆっくりと走っていると、突然誰かから声をかけられた。

 

「相変わらずおめーは元気だべな」

 

『あ、誰かと思ったら近所のじいちゃんじゃん』

 

「ちっせえから病気でもしねえか心配だったんだけんどよ、そんな心配いらねえな」

 

「トンのやつ、いっつも走ってるかボーッとしてるかの二択ですからねぇ」

 

誰かと思えば近所に住んでるじいちゃんであり、横にはこのユートピア牧場で働く職員であり、俺の世話係を任されているお兄さんの姿もある。

ちなみだがトンというのは俺の幼名。"トンボーイ”という英語を略したそうなのだが、その時はまだ人の言葉を上手く聞き取れなかったから言葉の由来は分からない。

 

「うぉっとと、はは!おめーは相変わらず甘えん坊だべ!」

 

「ラックにもベッタリでしたもんね」

 

まあ別にどうでもいいっちゃどうでもいいし、それはそれこれはこれとしてじいちゃんに甘える。

顔を擦り寄せると、じいちゃんは笑いながらその巧みな指捌きで俺の頭を撫でてくれる。

 

「フーン」

 

「そうかそうか」

 

「やっぱり繁正さんって撫でるのめっちゃ上手いですね」

 

あ〜気持ちええんじゃ〜

絶妙に指全部違う動きでわしゃわしゃしてくれるからこれめっちゃ癖になるんだよな。じいちゃんもじいちゃんで楽しそうだし満更でもなさそうだからな。

 

「ま…昔はあいつもいたもんな、トンみたいに甘えん坊で人懐っこくて、可愛いやつだったべ……」

 

「あ、ああ……」

 

「?」

 

なんか急に雰囲気暗くなったけど、なんかあったん?あいつって一体誰なんだ?

 

「ハッ、おめーが気にすることねぇべ。あいつはあいつで、おめーはおめーなんだもんな」

 

「そうですね…」

 

『……こりゃ絶対なんか事情あるやつ』

 

あいつ、かぁ……この感じ多分もう逝っちゃってるんだろうけど、誰なのか気になるな……っし、駄目元でちょっと聞いてみるか。

 

『なあなあじいちゃん、そのあいつって誰なのか教えてくれよ』

 

「ん?どした?」

 

「おい、どうした急に?」

 

『だからさ、そのあいつが誰なのか知りてぇんだよ』

 

「……もうとっくに乗り越えたって思ってたんだがなぁ……いくらトンが賢いからってあいつの話聞きたがるなんて有り得ねえっつーのに」

 

「繁正さん……」

 

あらァなんかもっと沈む方向にシフトチェンジしちゃった!えっと、えーっととりあえずもう一回顔擦り寄せたらなんとか……ならんよね!

 

「お、慰めてくれんのか…?」

 

『おうとも!』

 

これが慰めになってるのかは分からんけどな!

とりあえずスリスリしたり顔をペロペロ舐めたりしていると、意を決したといった表情でじいちゃんが口を開いた。

 

「……あいつもな、おめーと同じ競走馬で名前はバンライカッサイつったよ」

 

――俺ぁあいつの馬主でな、今思えば安直過ぎる名前付けちまったなっとは時々思ったよ。ま、でもあいつに万雷の喝采を浴びて欲しいって思いでつけたんだし、後悔はしてねぇべ。

 

最初はせっかく買うんだから勝ってほしいとは思ってたけどよ、甘えん坊なあいつと触れ合っていくとな、やっぱ結果は二の次で良いから怪我なく走ってくれたらそれが一番いいって思うようになってったんだよ。

 

だから友人のツテ使って怪我対策に力入れてしっかり鍛え上げて貰ってな、レースに出したべ。

まあ掲示板取れたら後の字だなってくらいで応援してたんだけどよ、まさかあいつそのまま勝っちまうんだから驚いたよ。

精一杯褒めてやって、大好物だった人参もテキが許す限界までくれてやったよ。お前は凄いやつだ、賢いな!ってな。

 

……ま、思い返すとここで欲を出しちまったのが間違いだったな。こいつならもしかしたら、って思っちまったべ。

 

……長くなっから詳しいこと省くが、あいつは無敗二冠を達成したってもおめーにはわからねえか。ま、とにかくあいつはすげーことを成し遂げたのさ。

 

三冠っつう偉業も成し遂げられるんじゃ…!なんて思ってた矢先にソレ(・・)は起きちまった……

多分まだわかんねえと思うけどな、骨折しちまったのさ…明らかにいつものあいつの走りじゃねえとは走り始めから思ってたが、ありゃあ俺達の期待に応えようとして無理したんだろうよ。

なんたって、あいつは賢かったもんな。

 

結局あいつは予後不良を診断されて安楽死、陣営のやつら全員泣いてたよ。勿論俺もだけどな。

 

だから、おめーも怪我で人生ならぬ馬生を終わらせるなんて勿体ないことしちゃだめだべ。所詮人間の勝手な都合でおめーらの命削ってんだからよ―――

 

「――っておい!?どして泣いてんだべ!?」

 

「あー、そういやトンもトンで頭いいの次元超えてますからね…多分雰囲気で泣いちゃったんじゃないかと」

 

雰囲気じゃねえよ!そんなかつての愛馬の話なんて聞かされたら泣くしかねえじゃん!俺氏号泣だよ!

バンライカッサイっていう競走馬は知らないけど、また今度調べてもらえる機会があったら知りたいな、そう思った。




これからも感想等送っていただければ大変励みになります!

「」で鳴き声
『』で馬語
で行きます!

ということで、架空馬タグ追加しました!
バンライカッサイの掘り下げ等は少し先にやります!

誤字報告ありがとうございました!7/5

戸山さん(ミホノブルボンの調教師)モデルの登場人物を生存させるか、させないか

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