子供たちがコロリン病に感染したけれど、段取りが素晴らしい主人公ちゃんのおかげでサクサクと素材が集まる。
最後に残った高位の悪魔の爪を手に入れるために旅へ出ることになったのだが……
<カズマ>
馬車に乗った俺とダクネス、そしてナナシさんを心配そうな目で見つめてくるアクアとめぐみん。
いや、ナナシさんがいれば何ということないだろうに、とついこの前のエルロード旅行を思い出して呆れていると。
「食べ物は大丈夫? お水は魔法で作ったやつ以外は飲んじゃダメだからね? ……あとは枕! 変わったら眠れないらしいし、持ったかしら? あとあと……!」
「ハンカチもちり紙も持った。テントは……さっきナナシに勧められて圧縮式木造建築32号買ったから大丈夫だ。使い方もその時教えてくれるだろうし、オカンでもないアクアがベテラン冒険者の俺の心配すんじゃねぇ!」
「ものは言い様ね、反抗期の万年最弱職なのに」
「誰が反抗期だ! それに万年最弱職なんて、そんなこと言ったら万年最弱職のプロが隣にいるだろ」
「呼んだか? この道数十年の某のことを呼んだじゃろ?」
「……カズマさんがベテラン冒険者って言うとイキって失敗する典型的な噛ませ犬っぽいのに、のじゃロリちゃんのことをベテラン冒険者って言うと物凄く頼り甲斐のある先生に見えるんですけど」
「オイ」
帰ったらいかに俺が活躍したかをたっぷり教えて、ベテラン冒険者の力を思い知らせてやろう。
密かにそんな誓いを立てていると、今度はめぐみんが。
「師匠、しっかり頼みましたよ? 師匠だからこそ、本来なら自分が旅に着いていくところを譲ったのですから」
「無論、二人のことは守ってみせる。任せてくれ」
「なんだ二人でこそこそと……。聞こえていたから言わせてもらうが、私は襲われることを生き甲斐……じゃなく、生業としているクルセイダーだ。そうそうやられはしないから安心すると……」
「違います! カズマのことです!」
「ならなおさらだ。カズマのことは私が守る!」
何と男前な事を言ってくれるんだダクネスさん!
心の支えにめぐみんがいる俺じゃなきゃ堕ちてたね。
何て思っていたら。
「それも違います! そこんところは師匠がいるから心配してませんし」
「で、では何を……」
「貞操の話ですよ! 年中発情してる人に襲われないようにですね……」
「わ、私はカズマより力が強いし、いざとなったら殴ってでもとめ……」
「誰がダクネスの心配なんてしますか! 私が心配してるのはカズマの貞操の方ですよ!」
「ええっ!?」
「何をええっなんて素っ頓狂な声を出して……惚けるつもりですか! 人の男の唇をねぶり、私の目の前で色仕掛けし出すエロネスがカズマを襲わないか心配で心配で気が気じゃないんですよこっちは!」
「え、エロネス!? そこまで私は発情してるように見られてるのか!?」
「何ですか、冬も近いのにスケスケのネグリジェでカズマの部屋の前をうろちょろと徘徊し出すのが……」
「わー! わわーっ!」
ダクネスが恥ずかしさのあまり大声を出してめぐみんの話を聞こえないように遮る。
俺は思わず「その、『冬も近いのにスケスケのネグリジェでカズマの部屋の前をうろちょろと徘徊し出す』って話について詳しく!」と前のめりで食いつきかけ、めぐみんの冷たい視線が刺さった。
それはまるで浮気しまくる最低な男を見る目だった。
ま、まあ俺はダクネスの告白を振ったし、浮気性でもない一途なできた男だが、何となく正座しておきますね。
めぐみんがナナシさんに「決して二人を二人っきりにさせないでくださいね!」と念を押す中、俺は簡易式携帯便所の説明書を読む。
本来なら防犯ブザー代わりに「携帯トイレ~用を足すときの音が気にならないように大音量で歌ってくれる音姫付き~」を持たせる手はずだったらしいが、そんなことしたら魔物よってきて襲われるし危ないところだった。
そんなこんなで異色の3人旅が幕を開けたのだった。
****
……つまらない。
いや、つまらないというのは語弊がある気がする。
ただ単純に平和な旅路というだけだ。
「しかし、こうもアクアがいないだけでアクシデントの一つもないとは」
「よいではないか、ヘイワが一番よ」
「常時修羅の道を歩み続けてるお前が言うと言葉の重みが違うな……。アイツの幸運値と知力が振り切っているせいで散々苦しめられてたことが身にしみてわかるいい機会だった……っと」
「なあカズマ? そのメモ帳は一体……」
「某の愛弟子もよく自伝を書いておるが、その類いか」
「ああ、これか? ここ出る前にアクアに散々オカン面されたからな、帰ったらいかに俺が活躍したかをたっぷり教えて、ベテラン冒険者の力を思い知らせてやるために俺の活動の記録をまとめてる。これを聞かせて、ぐーたらな生活を俺のような生活に直してもらうためにだな」
「そんなバカなことをしてたのか……。大体、お前の日頃の行いはアクアと大差ないだろう」
「バカとは何だ! 冒険者、嘗められたらお終いなんだぞ! それに俺は毎日ぐーたら食ったら寝る生活だけじゃなく、冒険者ギルドに行って親睦を深めるために飲みに行ったり……」
「……ふむ、同じであるな」
こいつらは言ってはいけないことを言った。
俺があの駄女神様と同じなわけ……
でもこれ以上俺の口からいうのは勘弁してやる。
っと、そんなことを思って、目の前で俺たちのことを引っ張ってくれている馬に目を向け。
「俺が日本にいた頃はこんなにかわいい馬に出会ったことはなかったよ。強いて言えば擬人化された奴らばかりだった」
「おい、急に話をそらすな! 都合が悪かったらすぐに目をそらすところとか、嘗められたら終わりと言うところとか、あの二人に似てきてるんじゃなかろうか……」
「んなことどうでもいいんだよ。みんな違ってみんないい。それでいいんだ」
「くれない みすゞの『蟲と雀とそれからあたい』の一節か。名作だな」
「あれ、そいつってホンミリンって名前じゃなかったか?」
「一体誰の話をしているんだ。そう言えば二人とアクアの話の内容には時たま理解が及ばないことがあるが、どこの異国の話なんだ?」
俺とナナシの「永遠の謎、紅美鈴の正式な呼び名は何か」談義に興味を持ったのかダクネスが話に食らいつく。
というか俺の故郷について興味があるだけかもしれない。
「日本だよ、わかるだろ? お前らが黒髪黒目で変わった名前の連中って呼ぶのが大体日本人だ」
「そうだ、思い出した! お前のような髪色の妙な名前の連中は……」
「俺の名前にケチつけるんなら全国のカズマさんたちが黙ってないぞ? これでも俺の名前は結構一般的だ、そこらの紅魔族みたいな扱いすんじゃねえ」
俺は怒るときにはしっかり怒れる男、カズマさんだぞ!
ぶっころりーとカズマって言ったら絶対俺の方が普通の響きだろうそうだろう!
俺の剣幕にダクネスがタジタジになりつつも、咳払いをして話の続きを始める。
「こほん……そう、ミツロギとかいう冒険者にしても、皆何かしら凄まじい力を持っている。それではお前は……と私は思っているのだが、実際どうなのだ? こう、物語に出てくる王子様みたいな、かっこいい才覚みたいなのはあるのか?」
「なーに俺に期待してんだよファンシー好きのお嬢様? 俺にはそういうのは何一つない。強いていえば生まれ持った幸運値と知力、そしてほんの少しの勇気と有り余る冒険心を持つってところかな」
「ちなみに某も日本出身である」
俺が決め顔で髪をかき上げたことがどうでもよくなるほどの爆弾発言が飛び出した。
いや、俺は薄々ナナシさんが異世界出身なんじゃないかってことは察してたけど、流石に日本出身じゃないだろ!
カツラギみたいに髪染めてるわけでもないのにずっと金髪じゃねーか!
……いや、盗賊稼業してるときはいっつも銀髪になってるし、そういう特殊魔法があるだけなのかもしれないけど。
「この頭の結い上げがそのサムライの印よ」
「おおー! まさかあのサムライがナナシだったとは! なあ、カズマが言うには頭上に髪を結い上げて相手を威嚇する首狩り族とのことだったが本当なのか!?」
「おい、俺のかっこいい決め台詞を無視するなよ、しょげるぞ」
「今私の目の前にサムライがいるのだぞ! お前のような落胆すべき平凡な男より優先すべきものがある!」
「おい、俺のことを勝手に期待する分にはいいが、勝手に落胆するなよ! 傷つくんで本当にやめてくださいお願いします! じゃないと泣いちゃうよ? 泣いちゃうぞ!」
「悪い! 私が悪かったから本気で泣きそうな顔をしないでくれ! 私が悪者みたいじゃないか」
ダクネスが馬の御者をナナシさんに代わってもらい、俺の頭をなでてくれる。
膝枕をして、ガタゴトとわずかに感じる馬車の揺れ。
そして空を見上げると空が半分も見えず、それで母性を感じた。
そんな間にもサムライの話は続く。
「サムライは髪を結うが、それは威嚇以外に、潔く死ぬことを良しとする風潮を体現しているのだ」
「というと?」
「うむ、サムライは盾を持たず、金属の鎧なしに、他の剣の追随を許さないほどの鋭利さを持つKATANA片手に敵地へ特攻する。死に場所を求め、死を受け入れることを美徳とし、死こそが救済と考える諸行無常の種族なのだが」
「そのような狂った民族は聞いたこともないぞ!? まだ紅魔族の方がましなのでは?」
「それで、サムライは敵将の首級を挙げることで階級を上げていくのだが、そのときに髷を取っ手代わりにな……」
「まさに死にゆくために戦へ向かうのか!? 紅魔族がアークウィザードなら、サムライはバーサーカーの血族なのでは!? 敵対したくもないな……」
「ちなみにこれが某が鍛えた刀だ。アダマンタイトでも何でも切ろうと思えば切れる。意思さえあればな」
急に精神論を持ち出したナナシに胡散臭い目を向けるダクネス。
きっとこれは意思の力とかそんなの関係なしに、ナナシの技量がえげつないから何でも切れるだけなのではなかろうかっていう目だ。
うん、俺もそう思う。
「それじゃあニンジャ、ニンジャとは何なのだ? カズマも絵本に出てくるイガグリニンジャの話は知ってるだろう? 伝説の存在だが、確か……そう、旧帝国の人造兵器だという仮説が有力らしい」
「伊賀のニンジャなら知ってるがなんだよそのイガグリニンジャって?」
「説明しよう。イガグリニンジャとは、紅魔の里周辺に生息しているとされる爆裂魔の仮称である。囲炉裏に放り込むと爆裂する様子から連想され、最近はその事象の出現頻度が増えてきているが、原因は不明のようだ」
「……めぐみんのことなんじゃないか? だって紅魔族に縁があって爆裂魔なんてめぐみん以外に考えられn」
「原因は、不明のようだ。別に某が情報を隠蔽しようとしてるとかではない。いいか? 原因の特定を急いではいるが、原因は、未だ不明だ」
「アッハイ」
ナナシさん……爆裂愉快犯を甘やかさないでくださいよ。
最近爆裂の規模がエスカレートしてきて、それでも感覚が麻痺って全然ふつーだって思い込んでいる自分が恐ろしく怖いんですから!
きっとめぐみんはたまにナナシさんと一緒に実家の夕食を確保するついでにレベリングしてるに違いない、ずるい、俺だって強くなりたい!
二人が、
「では仮面ライダーの噂についても、あれの中身は人造人間で、中身は黒髪黒目だっていう目撃証言が……」
「最近はその力を悪用しているものも出てきて、善と悪の仮面ライダー対決が……」なんて会話を進めている中そんなこと思っていると。
「今、レベリングしたいと思ったか?」
「思ってないです」
「いいや、でもさっき心を覗いたら……」
「人の心勝手に覗かないでください。思ってないです」
「でも強くなりたいっては思っただろう?」
「……俺、急に腹痛が」
「ほれ、きちんと消臭してくれる某の魔改造商品ならここに」
「た、助かりました…………じゃ、じゃあ俺はちょっとそこで。……し、しょうがないだろ平原だし隠れようもないだろ! 後ろ向いてろ!」
ダクネスが「こんなところで大胆な!」みたいな顔をしてたがしょうがないだろと声を張り上げた。
そして俺はうまーく話題をそらせたことに安堵し、思考を放棄してしまった。
一応旅の再出発前だ、出るもんは出しておこう思ってトイレの蓋を開けようとした時にナナシの術中に嵌まっていたことに気づいたが時すでに遅しだった。
蓋を開けると大音量でせせらぎの音が。
慌てて閉じると音は収まったが。
「……なあ、これ、欠陥商品の方だろ」
「アアー、スマナイ、ソレガシトシタコトガマチガエテシモウタワー。……しかし、意図せずしてレベリングの要望は叶ってしまったな! ならば戦うしかあるまい!」
「そ、そうだな! さっき私にはしっかり消音消臭の素晴らしい魔道具を貸してくれたが、間違ってしまったものはしょうがないな、サムライの血が騒いで仕方なかったんだろう、うん! 私が前に出るので後衛の仕事は二人に任せたぞ!」
「こんのバーサーカーどもが! サムライを馬鹿にすんのも大概にしろよ!? 俺だって日本男児なら刀に憧れがある! そして佐藤家は国内一位の家名だ、サムライの血をきっと引き継いでるはずの俺が侍ってのは何かを見せてやる!」
「ちゅんちゅん丸」
「そこ黙れ!」
敵を休みなしに倒していたら、俺はついに大台の50レベル間近となった。
そこで戦ったモンスターと言えば、ネギガナイトを主将としたカモネギの群れ、直立二足歩行しながら死の歌をまき散らすマンドラゴラ。
そして何故か旅の途中に涙もろいゴーストに出会い、涙を頂戴した。
……これで薬の不足は絶対ないな、うん!
もともと足りそうだったけど。
次回
最後の特効薬作成に必要な成分を貰いに残虐公のもとへ。
ペンギンとアクマというギャップを見てSAN値ピンチにならずにすむのか!?