もう疲れたよパトラッシュ……という感じで燃え尽きたセレナさん。
仕事したい……でも休まないと……
そんな矛盾を抱えても生きるためにカズマの家でお世話になるセレナさん。
気晴らしの爆裂散歩に突っ込みを入れ、借金をこさえてくる破戒僧に突っ込みを入れ、溜まったストレスをドエムにぶつけていたらいつの間にか直っていたのでした。
<カズマ>
「はぁ、寂しくなるな……」
「アタシは清々してるよ……まあ、お前は嫌いじゃないが」
「SとMは磁石のように惹かれ合う。いつでも会いに来てくれ」
聞き間違えだな、SとNって言ったんだろ?
エムとエヌは似てるしそうに違いない。
まあ、何が何だろうと、セレナとダクネスの相性が意外にもよかったってことだ。
魔王軍への闇落ちルートは遠ざかったことだろう。
むしろ口調が荒っぽくてもダクネスという友人ができた以上光落ちしてくれるはずだ。
「アンタには誰よりも世話になったよ、仕事が安定したら少しくらい顔を見せにくるからな。首を洗って待っておけよ?」
「……なあ、一応聞いておくが魔王軍幹部への復帰を狙ってるんじゃないだろうな? 噂によるとウィズも幹部やめたらしいし、相当重労働だぞ?」
「ハハハ、何ヲ言ウカト思エバ、私ハ正義ノ聖女デスヨー」
「いいわね! やる気のあるセレナちゃんならアクシズ教徒の未来を背負ってくれるかもしれないわ! しっかり休んでしっかり食べて、余裕があるときにちょっぴり布教してね!」
「すごくホワイトで魅力的だけど、一応レジーナ教徒だぞアタシ。まあ恩がないわけじゃないし、手に職つけたらほどほどに考えておくよ。んじゃ、世話になったな」
この子、絶対復職する気だ!
確かに魔王軍幹部は今んところウィズと魔王の娘しかいないし、実質ウィズと入れ替わる形でナナシが入るから空きはかなりあるかもしれないが、仕事が絶対大変だ!
だって8人中2人しか残ってないから単純に仕事量4人前だぞ?
そもそも、魔王軍って労働環境ホワイトなの?
ブラックじゃないのか?
……まあ、ナナシのせいで完璧ホワイト体制のクリーンな組織になってる気がするが。
俺嫌だよ?
魔王と決戦ってときに『ピンポンパンポーン⤴ 17時の放送です 皆様、本日の業務お疲れ様でした。定時になりましたので速やかに帰宅しましょう ピンポンパンポーン⤵』とかアナウンスが挟まるんだぞ?
それで収まればいいものの、魔王が『勇者さんすみません、本日の営業はここまでなので、我、帰らせていただきますね? 上司が早く帰らないと部下たちも帰りにくいんで……この続きは明日の10……じは早すぎますよねぇ? お昼過ぎの好きな時間にいらしてください、明日もよろしくお願いします。では、テレポート』とか言って消えやがったらこの行き場のない気持ちはどうしろって言うんだよ!
俺は、こんな悪の組織嫌だトップ10に入りそうな職場に復職する意思を見せる彼女の気持ちを変えるために急いで後を追いかけたのだった。
「で、何か知らない間に入社してしまった訳だが」
「どういう訳よ?」
いやわかるよ?
魔王城に行くにもお金がいるから冒険者ギルドでバイトの斡旋してもらおうって。
それはわかるんだけど、どうしてまたウィズ魔道具店に?
そして、どうしてズタボロの雑巾みたいな風貌になってナナシに背負われて?
「いやぁ、実は最近ダンジョン支店計画を社内で打ち出そうとしておってな。支部店の店長を誰にしようか考えていたらピーンときたのだ。新たな人材を募集しようとな」
「週休3日、一月の基本給は30万エリス、支部店長は固定手当そして10万エリスに惹かれて試験会場に足を踏み入れたことこそ一生の不覚だ」
「しかし嘘偽りない募集要項であったぞ? そこにいろいろ手当が付いて、冒険者補正で税金はないから……月々60万くらいか。まあ、商売をダンジョンで行うわけで、それなりに自衛の手段はなければならないのでな。入社試験の実技は……ご覧の通りだ」
「アタシはホワイト企業だと勘違いして手を出してしまった浅はかな者です……」
「某との模擬戦に唯一ついてこられた強者よ。正直あそこまでやるとは思わなんだ。肉体強化に加え、傀儡の術を自らに施し、自動戦闘状態へ移行するとは一本とられた」
「とかなんとか言って一本も取らせてくれない化け物め……」
「心を虚にするのには驚いだが、某相手には悪手よのう。戦闘の一瞬の隙に使うことを勧める」
「できるかぁっ!」
「なるほど、狭き門を突破したに相応しい、ボロボロな様子で」
意外にも戦闘ができるらしいプリースト様。
まあ腰のごついこん棒みたいな武器を見れば納得も納得か。
「くそぉ……本当にどうしてアタシだけがこんな酷い目に! こうなったら不幸をお裾分けしてやらぁ! 街の人を傀儡にしてうちの商品買わせてやるぅ……!」
「つまり、何かいい事したお返しに物を売りつけるのだな?」
「マッチポンプはすんなよ? 後からばれるとエラい目に遭うからな」
「と、経験者は語る」
「け、経験者じゃねぇし! アクセルハーツの件は意図せずしてだし!」
思い当たることは結構あるが、人助けの代わりにものを買ってもらう……
それってつまり、回復魔法かけて「感謝の気もちを」って言ってお布施をもらう的なあれじゃん。
そう考えると思ってたより真っ当な方法で商売しようとしてるだけじゃないのかこいつ。
「まあ、何にせよ。コヤツは内面よし、上っ面よし、戦闘力よしだったので正式に雇用することになっての。ダンジョンにはトイレを設置したり、転移ポータルを設置したり、寝室を整備したり……共に下見しながら環境整備を行う予定だ」
「ダンジョンに家具の設置って……って今ポータルとかいったか?」
「言ったが? オフィスから会社の外に出るのに半日もかけるなど、あってはならない。きちんとアクセスの良さも考えとるわ」
「ダンジョンのことをオフィスとか言うなよ、あれはダンジョンマスターとかいうヤツのものなんだからな一応」
「いいではないか。どうせ某が支配人だ。そろそろ不動産の使い道を決めるべきだと思っていたからして」
「ダンジョンって不動産扱いなのか? というかお前がダンジョンマスターかよ!」
「だ、だって、某がダンジョンに潜ると『すいません、ここ初心者用なんです。勘弁してください……ダンジョンコアあげますから』と、最深部の到達する前に献上されるのだもの、正直地脈から魔力を引っ張ってるから経営しなくとも存続できているが」
「お前、自重してダンジョンに潜るのやめろよ。かわいそうだろ」
「そんなダンジョンで働くはめになったアタシ、かわいそう……」
「本気で手応えのあるダンジョンを真剣に攻略したいのにそれができない某の方がかわいそうだとは思わないか? ……忘れてくれ、何でもない」
セレナはかわいそうだと思うが……
何でだろう、この人が自分のことをかわいそうとか言うとただ単に嘘泣きしてる胡散臭い人にしか見えない。
「ちなみに、カズマもダンジョン経営に興味はないか? 後輩店員はかわいそうなことに店主との契約に縛られているおかげで、契約を破棄しなければ経営できないが、そんなダンジョンマイスターからはご好評いただいている物件の数々、如何かな?」
「ダンジョンマイスターって何だよ。爆裂ソムリエとかいう謎称号を持ってる俺ですら意味不明だって思う役職に勧められても……そもそもダンジョン経営って何すんだ?」
「そこからか……いや何、すべきことは「命や装備やらが奪われることもあるなどのリスク」と「宝箱や貴重な素材が手に入るなどのリターン」による収益設定。それからその指針に基ずく罠やモンスターの配置だ。人気のダンジョンで言うと、すでにサキュバスが経営してもらってるダンジョンがあるが、男性冒険者専用ダンジョンがある。まあ、うまくいってる要因はリスクとリターンの一致とでも」
「……この街のサキュバスと同じことしてるやつがいるんだな」
「某がアドバイスしてやった」
「やっぱりお前は全ての諸悪の根源だろ。男性冒険者を代表してお礼申し上げます」
「う、うむ……? 怒られたかと思えば褒められたんだが?」
いや、正直全男性はサキュバスのお姉さんのサービスを一回は知るべきだと思うんだ。
現にアクセルの街で発生した性被害の件数はベルゼルグ王国の中で最も少ないらしい。
このことを踏まえて、世の中には「エッチなのはよくないと思います!」とかいう阿呆がいるが、俺は、いや、俺たち(アクセルの街の冒険者一同)は断固反対させてもらう!
「それで、ダンジョン経営は……」
「お断りします」
「セレナも一人で支部店長するのは心細いと思うのと、幸運値が高い汝がついて行けばお給料アップ間違いなしなのだが……」
「あれ? 本店の誰かは同伴してくれないのか? アタシ一人で、研修期間ほとんどなしでいかせられるのか? というかそんな一生働くつもりはないんだが? 支部の店長になんかなりたくねぇんだが?」
「研修はしっかり行うつもりだ。しかし残念ながら後数ヶ月程度で魔王軍幹部制度は撤廃されるのでここらで真面目な職業に就いておいたほうがよいと思うのだ。軍で下っ端扱いは嫌であろう?」
ああ、このナナシ、徹底的に魔王軍幹部を光り落ちさせるつもりだ……
本人の気持ちとか関係なく外から復職しないように制度ごと変えてきやがった。
おかげで俺が敵対する理由はほとんど潰れたようなもんだからありがたいっちゃありがたいけど、セレナからしたらショック極まりないだろう。
次回
ウィズ魔道具店ダンジョン支部店長のセレナ
ダンジョンアドバイザーのサトウカズマ