アイリスから手紙が届いた。
その手紙の内容を要約すると「アクアさんと一緒にいます。これから魔王を倒しにいくので一緒に行きませんか?」
もちろんカズマはこれに対して行かないとのこと。
まあ、レベルが1の勇者には荷が重すぎるので仕方ない。
と思っていた矢先、レベル上げの常識を覆す新情報が!
<カズマ>
第1階層
「ふはははは! 失せろ失せろゴブリンども! 貴様らまとめて従業員の経験値となれ! 本当なら貴様らのような経験値効率の悪い雑魚モンには用はないのだが、新入りは17歳にして赤子並のステータス! 野菜やモンスターの肉、とにかく食料を口にしていればその年で何もせずともレベル3はあるはずなのに、そこら騒いでおるはな垂れ小僧にも負けるレベル1の卵冒険者にはちょうどよい離乳食である!」
「おい、せめてひよっこ冒険者だろ、卵冒険者じゃ生まれてないじゃん! それとことあるごとに俺のレベルをいじるんじゃねぇ! 赤ちゃんレベルなのはわかったが、そこらのガキに負けるみたいな言い方はやめてもらおうか! 負けてるのはレベルだけだかんな! ……だよな?」
というわけで俺は地獄の公爵を引き連れてダンジョンへ。
目的はもちろん俺のスキルポイントとレベル上げのため。
ちなみにどこのダンジョンかって思うだろ?
普通この前まで勤務してたセレナのダンジョンだと思うよな。
近いし、そこだと思ってたんだ俺は。
「実はここ、バニルさんと初めて会ったダンジョンなんです! あのときは私も負けず嫌いで、バニルさんに勝つまで何度もテレポートを繰り返して……って私の思い出話はいいですよね! つまり何が言いたかったかと言いますと、私もバニルさんもこのダンジョンの経験者ですし、こんな格好ですが単純な物理攻撃も低威力の魔法攻撃も無効化しますので安心してくださいってことです!」
「おう……」
どうしてこんな辺鄙なところに来てしまったんだろう。
いや、普通こういうところって魔王を討伐してから訪れる高難易度コンテンツだろ。
魔王を倒す前に訪れる場所じゃないと思うんだ。
「いやぁ、それにしてもカズマさんパーティーとバニルさんという珍しい組み合わせでダンジョンに来る日が来るなんて思ってもみませんでした! 今日は私が先行して、いい感じの敵を凍りづけにしていきますので思う存分レベルを上げていってくださいね! いつもはへなちょこ店主とかいわれてますが今日だけはしっかり者の店長です!」
「うっす、よろしくお願いします店長」
「私、頼られてる! これはもっと本気を出すべきですね! これでもかつては名を馳せた大魔道士……カズマさんは魔法の基礎は他の冒険者の比ではないほどできていますので、私の魔法も自分のものに昇華できると思います! 余すことなく実力を見せようと思いますので、存分に吸収していってくださいね!」
いつもよりテンションが高いウィズ。
それもそのはず、ダンジョンといえば暗くてジメジメしてるナメクジの生息地(Byアクア)。
同じ生態をしてるというのはちょっと違う気がするが、アンデッドなら直射日光ジリジリの場所よりこういう日陰で、魔力が充満してて、魔法の神髄を究められそうな雰囲気のダンジョンの方が好みだろう。
ウィズがどんどんと敵を凍らせていく圧巻の様子を目の当たりにして、何の参考にもならなそうだなと思いながらも、一応は頑張って魔法の詠唱とかをまねしてみたりする。
……レベルも魔法ももっと簡単にアップしないかなぁなんて思っていると。
「ふはははは! 実に、実に人間らしい浅はかな思いを持つ小僧よ、簡単にレベル上げできると思っていては素人同然! このダンジョンマイスターである我が輩からいわせれば甘すぎる考えである。どうせ我が輩たちが手伝うのだから世界一難攻なダンジョンでなければつまらないであろうに」
「本音は?」
「高難易度ダンジョンであればあるほど高レベルの冒険者が集う。そして傷を負わされた場合そこらのプリースト程度ではどうにもならない場合がある。そこで我が輩たちがダンジョン出張すればぼった……健全な人道的事業であるからして訴えられずウハウハのウハである!」
「どこが人道的だよこんの鬼畜悪魔! 困ってるやつにぼったくるなよ!」
「ただのWIN-WINな関係である。そもそも、ダンジョンでの需要と供給のバランスを鑑みて、適切な価格設定を行ってるつもりだ。鬼畜だのという称号は返品してやろう」
ダンジョンを先行しているのは元高レベル冒険者、元魔王軍幹部、現貧乏店を経営する店長兼不死王のウィズ。
隣にいらっしゃるボディーガードはダンジョンのスペシャリストを自称するぼったくり悪魔バニル。
こんなにも頼もしいメンバーなんだが……
その悪魔はかなりハイセンスな装いで――具体的に言うとステテコにサンダル、肌シャツという、時代の最先端。
最先端過ぎて超絶ダンジョンに似合わない格好なのだ。
というか奥さんからもらったとか言って自慢してたその服装のまま世界最果てのダンジョンに潜ろうとするか普通!
ダンジョンでそんな奇抜な格好をする仮面に稀少モンスター味を感じて訝しげな視線を送っていると。
「本当にダンジョンを舐めきってますねこの元魔王軍幹部どもは……。普通エプロン姿で入るのもおかしいですが、ステテコはいろいろと雰囲気ぶち壊しです。……こんなパーティーでレベル1のザコカズマの養殖をできるのか不安でたまりませんよ」
「私としては爆裂魔法しか使えない魔法使いが一緒についてきていることのほうが不安でたまらないのだが……。なあめぐみん、本当に爆裂魔法は撃たないのだろうな! 誓って撃たないと言い切れるのだろうな!」
「くっくっく、私を誰だと心得ているのです?」
「そ、そうだよな、私が悪かった、先ほどの言葉は忘れてほし……」
「紅魔族たるもの、格好の獲物を見つけて魔法を撃たずにいられようか! まあドラゴンレベル以上のが出てきたならそのときは一撃で仕留めて見せましょう!」
「一撃で仕留めて見せましょう! ではない! やっぱりめぐみんは頭のおかしい紅魔族の娘と言われているだけある! 私は生き埋めになっても地中遊泳をして自力で脱出できる自信があるがカズマはどうするのだ!」
「大丈夫大丈夫ですよダクネス。この前も我慢できずにゆんゆんとアイリスとクリスの4人と一緒の時にダンジョンでぶちかましちゃいましたがダンジョン自体はびくともしませんでしたし……」
「あ、アイリス様を連れて、一体何をやっているのだ! もしそれでアイリス様がけがでも負って帰ってきたら……!」
「でもあの娘、ウィズの爆裂魔法と同じくらいの威力の物理攻撃をバンバン使ってましたし、なんなら全力で床に攻撃してダンジョンの間違った攻略方法を実践してましたし……」
……何でこいつらいるんだよ。
いや、俺が「ダンジョンいって修行してくるわ」っつったんだ。
そしたらめぐみんが「私もダンジョンでレベル上げしたいです! まだ50レベルなんですよ、そろそろ大魔法使いとして100くらいには……」とか言い出して。
最終的にダクネスも「二人ともいくのに私だけ仲間はずれはひどいではないか。私が一番パーティーの中でレベルが低いというのに……ああっ、レベル1のカズマのことを馬鹿にしたわけじゃないからそんな顔をしないでくれ!」とか言い出して今にいたる。
ほんと、どうしてこんなことになったのだろうか。
第5階層
「絶好調も絶好調! 今日の我が輩は満月の夜でもないのに絶好調である! やはりこのダンジョン、魔力で満ち満ちておる! 我が輩の力の源で充満しているこのダンジョンでは強靱、無敵、最強! 加えて懐かしきバフの感覚!」
「バニルさーん! ここの階層はエネミーサーチに引っかかるモンスターがもういません! 少々物足りないですが早めに下の階層に行きませんかー?」
「ふむ、それはそれは残念だがしかたあるまい。爆裂卿、頼んだ」
「任されました! 『エクスプロージョン』ッ!!」
わー、なにこれぇ。
そんな様子で俺とダクネスは大穴を開けためぐみんを虚無の表情で見ていた。
だってしょうがないじゃん。
俺はさ、普通のダンジョン攻略すると思ってたんだよ。
それがなんだ、爆裂魔法を洞窟で撃つという、崩落の危険性があるから禁忌だっつてることを連発するうちの爆裂狂。
しかしウィズとバニルはその様子にご満悦。
バニルは大規模な破壊能力はないし、ウィズはモンスターとの戦闘のためにある程度余力を残したい。
そんな状況でナナシ考案「
たぶんダンジョンマスターが大粒の涙流してると思うからやめないか?
そんなことを思いつつ、めぐみんに俺の魔力を流し込む。
ダンジョンで出てきたモンスターは大体俺がドレインタッチで吸い殺してるから、その魔力をお裾分けって感じだ。
「ほあぁ……やはりカズマのドレインタッチは五臓六腑に染み渡りますねぇ」
「なあ、モンスターの魔力ってそんなにおいしくないってか、体調崩しそうな気がするんだ。道中お腹崩したらダクネスに付き添ってもらえよ?」
「お、乙女に向かってなんということを! そもそも以前にも言いましたが紅魔族はトイレになんか行きませんよ! だからそう言うデリカシーのないことをいうのはやめてください」
「はい、ごめんなさい」
「よろしいのです。反省したのならもっと私に魔力を! カズマの魔力を!」
あれだ、こいつ一日一回だった爆裂魔法が今日だけで4回も放ててるからテンションがハイになっちまったんだ。
これには真性のド変態であるうちのクルセイダーもドン引きである。
「しっかし本当にモンスター少ないのな? 普通ラスダンって行ったらモンスターがバンバン出てくるだろうに……」
「ふむ、ド素人であるのによいところに気づくな小僧。このダンジョン自体は汝が言うとおりモンスターが跋扈する素晴らしいレベル上げスポットのはずなのだ、が。我が輩たちより先に進んでいる娘が全ての敵を殲滅していっている。さながら殲滅卿とでも呼称しようか」
「あれ、もしかしてバニルさんと同格の方ですか? 見通せないんですよね、その言い方は」
「うむ……まあ、我が輩とウィズがいれば何とかなるだろうが」
そんな、元とは言え、全盛期と同じ戦闘力を持つ魔王軍幹部二人がかりでもなんとかなのか!?
もしかしてこの先にいるのってナナシとかナンシなんじゃないか?
それともナナシじゃないんだったらナニガシなんだ!
本当に強大な敵だったら帰りたいんだが……
そんなことを思っていると。
「安心するといい臆病で女クルセイダーを瞬時に盾にする情けない小僧。この先にいる敵を捕獲して、汝の経験値にするのが難しいだけである。単純に戦うだけであれば我ら二人に敵うまい」
「そ、そっか。そうだよな! この世にナナシみたいな意味不明なやつが二人もいてたまるかってな! ウィズ、次の階層に行く前にレベルドレインお願いしまーす! そろそろ10レベルだし、早め早めでレベルリセットしていこうぜ!」
「は、はいただいまー!」
くっくっく、もしかしてこの二人がいればどんな敵が相手でも楽勝か?
勝ったな、ガハハ!
次回予告
フラグ回収乙。
そんな感じで始まる第10階層攻略。
そこにいたのは一人の強者――打倒ナナシを掲げる頭のおかしい娘。
カズマ「どうしてダンジョンのモンスターを刈り尽くすようなまねをしたんだ!」
???「むしゃくしゃしたからやった。反省も後悔はしてない」