どういうわけかマジで意気投合したアイリスと八坂娘。
一方で父親同士はバッチバチのバチ。
そこで娘二人はこう考えました「戦争? 恋バナしてる方が楽しくね?」。
めぐみん協力の下妨害工作を毎日しているのでした。
<カズマ>
ダクネスとクレアは魔王の娘をどうするかについての会議をしているので、この場にはいない。
というわけで今いるのは俺とめぐみん、アイリス、八坂娘、ナナシである。
見た目か精神年齢がもれなくロリの4人+俺である。
正直、殺伐とした戦地に咲く花は俺にとっての癒やし。
紅茶と相まって俺の心は穏やかなのだ。
香しいかほり、ズズッと啜るとその香りが口腔に、そして鼻腔へと広がる。
そしてお茶のほのかな渋み、後から感じる柔らかな甘み。
「うんむ、非常においしいお紅茶だ。セバス、非常にエクセレントだよ」
「それは痛み入ります」
「……ねえアイリスさん、もしかしてこの二人は突っ込み待ちなのかしら? どうしてナナシは自らのことをセバスと呼ばせているのかとか……」
「いえ、八坂さんこの二人のことは静かに見守っておくのがいいかと思います」
「で、でも……」
「ふっふっふ、これだから師匠検定すら持っていない素人は。いいですか、あちらにおわしますセバス……もといナナシ師匠はいくつもの人格を持ち……」
めぐみんが何か語り始めたが、これは単純に演技的でのりがいいだけのあれだ。
そもそもどうして人格を複数持ってるとかいう話になるんだろうか。
中二病だからか。
「セバス、紅茶もいいが、そろそろジャパニーズティーを飲みたくなってきたよ」
「はっ、こちらにそろえさせていただきました」
「パーフェクトだ、セバス」
「至極光栄の極み」
俺は香りを存分に楽しんだ後、ティーカップから口を外し、おいしい緑茶を舌の上で転がしながらセレブを感じつつ、再度めぐみんがいっていた「ナナシ師匠はいくつもの人格を持ち」という言葉についても吟味する。
……そもそも、普通に考えて。
いろんな方面で活躍してるが、普通、こんな過剰労働1人の人間じゃ耐えられない。
少なくとも俺は耐えられない。
というわけで、俺は勝手に『ナナシ、実は複数人説』を推していきたいところだが、それをめぐみんにきかれたら面倒くさい討論会を開催しなくちゃいけない羽目になる。
開かぬ口に災いなし。
俺はそっと口をティーカップにつけた。
「そう言えばアクアの姿が見当たりませんね? アイリス、貴方のところにいると手紙をいただいたのですが、アクアは一体どちらに?」
「そういえばここ最近見ませんね……ナナシさんと一緒に行動してたので一緒にいるものかと勝手に思っていましたが……ナナシさん、アクアさんは一体どちらに?」
「今はアルカンレティアのアクシズ教会所属のアクシズ教の面々とともにだ」
「おや、ということはきっとそこでアクシズ教として生き生きしてやってることでしょうね」
「……いや、実は先日アルカンレティアからアクシズ教総力を挙げて魔王城へ突撃すると連絡が。戦女神として何が何だかわからないまま祭り上げられ、現在引きこもり魔王の元に直進進行中よ」
「ブーーッ」
アクシズ教の連中と魔王の城へ突撃中だって!?
あんの駄女神一体何をやってるんだよおぉおっ!
思わず紅茶を吹き出すと、ナナシが俺が吹き出した液が床に落ちる前に瞬時に布で受け止める。
そんな意味不明な動体視力と反射能力を有する怪物に。
「ナナシ! 俺らのトラブルメーカーを勝手に連れ出したあげく、目を離した隙に面倒なことになってるんじゃねぇ!」
「誤解だ。もともとこれは計画のうち……なのだが、予想より進行スピードが速いな。魔剣の勇者のせいで道中がサクサクなせいだ……ところでサクサクで思い出したんだがクッキーは如何か?」
「いただきます! それはそれとして本当にどうするんだよ! アクアがこのままじゃ魔王を討伐しに行っちまうぞ!」
「別によいではないか。子供は元気が一番、そのくらいのやんちゃ、好きにさせておけば……」
「年齢不詳のババァだろうが! 何でそんなに余裕ぶってんだよナナシ!」
「まあまあ、そう慌てなさるな。平常心こそ成功の秘訣よ。お茶をもう一杯飲んだら迎えに行くとしようかのう……」
どうも冗談には聞こえないナナシの発言。
どうしてそんなに余裕なのだろうか。
大人だろうと何だろうとさすがにあり得ない落ち着きっぷり……
それこそ「計画通り」とか「想定の範囲内」というやつなのだろうか。
俺ももう一口クッキーを頬張り、口の中の水分を奪い、茶で失われた水分を補充する。
んまい。
「どうだ、茶はリラックス効果があると言われているが、気分は落ち着いただろうか」
「……正直お茶のせいというか、お前のあり得ない落ち着きっぷりを見てるとどうとでもなりそうだなって思って」
「ふふふ、それは買いかぶりすぎよのう」
「でも実際、何かしらの手段はあるんだろ? ほら、今から魔王城に向けて走ってもアクアたちよりつくのが遅れるだろうし、空飛ぶ魔法とか、何かあるんじゃ……」
「ご明察。魔王城の入り口の近くに転移できるように術を刻んでおいた」
「用意周到というか何というか。……まあ、そこに転移すればアクアたちより早くつくって訳だ、よろしく頼むわ」
「ちなみに、何人で行こうか」
「……別に、アクアを連れ戻すだけだし、俺とナナシだけでいいと思う。めぐみんとかダクネス連れてったら……ろくなことが起きないだろうしな」
めぐみんは魔王城に魅せられて「今日からここが我らが屋敷とします! 先住人にはご退去いただきましょう!」とか言い出しそう。
ダクネスに関しては言わずもがな「ここのさきにいるのが魔王! ああ、一体どんな屈強な男が待ち構えているのだろう……連れ去られた騎士は拷問され、心を屈さずに保とうとしてもついには仲間を人質に出され、自らを差し出し、仲間の命だけはと魔王の前で下げたくもない頭を下げ、ついには体を許してしまう……だが心だけは屈さない! ああ、いい、いいぞこのシチュエーション!」とか言い出して最終的に魔王城に突っ込むのがオチだ。
「ずるい! ずるいですよカズマ! 私はのけ者ですか!」
「ほれみたことか、のけ者とかそんなんじゃないのにそんなこと言い出して! 絶対魔王城を見に行きたいだけだ!」
「そそそ、そんなことありません! 私は魔王城を見たことがありますよ! 何せ紅魔の里を出発する前に師匠に連れられて外観を見ましたから! ……ああ、あのまがまがしい感じは……素晴らしいです! 一度カズマも見学しにいくべきです……私も連れて!」
「やっぱアクアを迎えに行くっていう目的忘れて暴走しそうだからなしで」
「んなぁっ!?」
「ナナシさん、テレポートおねがいしゃーす」
驚き口をパクパクさせていためぐみんのことを放っておいて、俺はナナシの元に。
いつの間にかナナシがいる床には魔法陣が描かれた一枚の紙が。
そこに俺が乗ると床に敷かれた魔法陣が淡く光り出し……
目の前の景色が一変。
俺の目に飛び込んできたのは魔王城……ではなく、ただの暗闇。
千里眼スキルで暗視すると、どうやらどこかの室内で、石のような材質のそこそこ狭い部屋。
……いや、部屋と言っていいのだろうか、それこそ掃除用具入れのロッカーのように狭い。
「……なあ、ナナシさん」
「なんだ」
「これって転移成功したんですかね? もしかして転移は失敗で、壁と壁の隙間に挟まり込んじゃったとかじゃないですよね? 俺、このまま餓死して死ぬのなんてごめんなんだが……」
「大丈夫じゃ、しっかり転移は成功しとる。ここでは狭かろう、外に出ようではないか」
そう言ってナナシは部屋の扉を開ける。
…………いや、部屋だと思っていたのは実は部屋じゃなく、結構大きめのロッカーだった。
不思議なことに、女性と二人きりで狭い場所に閉じ込められてるってシチュエーションなのにまったくドキドキしない。
普通、漫画的な展開では恋愛フラグが立つレベルで重大イベントなはずなんだがなぁ……
「……質問。なんで魔法陣をロッカーの中に設置した?」
「回答。神出鬼没を演出するには意外なところから登場するのが鉄則。また、意外なので誰にも出入りを目視されにくいというのが重要ポイント。……ちなみに、ここは私の使っているロッカーだ、が、物は基本的に亜空間に収納できる故に使ってはいない」
「……今度、俺にもその収納の魔法教えてくださいよ。四次元ポケットとかアイテムボックスっていうのほしかったんだよ」
「空間魔法と念動力の混合技術故に習得が結構難しいが無事帰宅したら教えよう」
「おおっ、俺の知らないよさげな魔法も追加で覚えられるってことか! スキルポイントは有り余ってるんで是非!」
そう言いながらナナシの後をついて行く。
ロッカーも石材みたいに見えたが、通路も同じ材質で構成されている。
アクアみたいに暗闇でも全部はっきりと見えたらどんな感じかしっかりわかるんだが……
そもそも電気も何も明るさがないこの場所はどこなんだろうか。
魔王城のすぐ近くなんだろうが、ずいぶんと長い通路だ。
「そろそろこの暗闇も終わりか」
「おお、ようやく明かりが見えてきたな! 外に通じてるのか?」
「いや、あれは照明の明かり。外はもう少し先だ」
「……なあ。結構長い通路だったが、一体ここは魔王城の入り口からどれくらいの距離なんだよ? あんまりもたもたしてるとアクアがアクシズ教の連中とミララギと一緒に魔王城に入っちまうぞ……」
「大丈夫だ、何も心配はいらんよ」
「で、でもそんなこといったって……もしもう中に入ってるとか言ったらどうするんだよ!」
俺がそんな懸念を言うと、ナナシは何がおかしいのかクックックと笑い出す。
そんな笑いを見て何か嫌な感じが背筋をぞわりと伝う。
ナナシが笑うのをやめ、真面目そうな顔で俺の方を見て。
「なあ、カズマ」
「何だよ……まさかこの通路は魔王城の方になんか繋がってません! トラップをくぐり抜けたその先にある魔法陣を踏むと目的地に……とかいうんじゃないだろうな」
「……それは、アリだな」
「やべっ、余計なこといっちまったか!? お願いだから早くアクアのところに行かせてくれよ!?」
「今回はこの先の……あの門を開けばすぐ目と鼻の先につく。故に、アクア様のことは心配せずとも……」
「べ、別にアクアのことなんて心配じゃないし! 人様の迷惑になってないか心配なだけ……だし」
「そうか。そうだな。カズマはそう言うやつだ。何だかんだ、仲間を見捨てない、勇者の素養がある男だ。これから先も、その心を忘れるな」
「? 一体どういうことだ?」
「何、一番大切なものは何か、何を犠牲にすべきか、何を救い出すべきか……。利口な貴様ならわかる」
ナナシが言うことがますますわからない。
いきなりそんな堅苦しい話題……まるでこれから戦場へ行くみたいな。
俺はただ単にアクアを迎えに行こうとしてるだけなんだが?
ナナシが扉の前で立ち止まる。
非常に大きく、禍々しく……あのダンジョンの最終階層で見た扉と同じだ。
その重厚で、人一人で押して開くかわからないようなソレにナナシの手が置かれ、いとも簡単に吹き飛ばす。
「さて、私はこれから魔王城におこしくださった方々に丁重なおもてなしをさせていただきますが……貴方はどうします?」
手をこきこきと鳴らしながら、朗らかな声でそんなことを言い出たナナシ。
その声を聞くとビリビリと、魔力がこもっているのか重圧を感じる。
ナナシから目を離し、吹き飛ばされた扉の先を見ると、そこにはアクアの姿。
結界らしき壁に穴を開け、魔剣の勇者が中に入ってくる。
「あなたは……どうして私たちより先にここに? いえ、貴方なら不思議なことでもありませんが」
「くくっ、先に来た、というのは少々間違えかな? 魔剣の勇者くん。ここは私の根城。もともとここで職務を全うしている私。対して、人の家の柵をこじ開け不法侵入をしてきた君たち。わかるかな?」
「……つまり、あなたは魔王の手先、ということですか」
「そうとも言えるしそうとも言えない、私は君たち人類を試すためにある……試練だよ」
「……ッ」
「さあ勇者ども、かかってこい! まずは私の部下が相手だ!」
俺はいつの間に選択を誤ったのだろう。
次回かもしれない予告
敵同士ながら結託する娘。
籠城し始める耐久に出た魔王。
家臣に裏切られたと錯覚する国王。
どうして女神と女神が戦ってるのか。
何が正義で何が悪か……戦の勝敗は如何に。