ミツルギ、カズマの話を聞かずに魔王の手先と認定して猪突猛進。
結果、ミツルギは目潰しされ、眠らされ、呆気なく退場。
なお、生きているよう。
<カズマ>
ミツルギを倒した後。
俺はさっきナナシが使っていた魔法陣目指して歩を進めていた。
その後ろをひょっこりついてくるアクアはピクニックでも楽しむかのようにやけにご機嫌な様子。
「ねえカズマさん」
「どうしたんだいアクア?」
「どうしてもしかして迷っちゃった?」
「……」
「迷っちゃったのよね? 私のことを迎えに来てくれたのが嬉しかったけど、まさか家でした私を連れ帰る過程で……ぷーくすくす!」
「冗談でもそんなこというもんじゃない。ありがたいと思ったらそれだけ伝えればいいんだ。でないと俺はお前をおいて帰り道を探すことになる。そうなれば人の家で遭難して餓死したお亡くなりになった憐れすぎて何も言えない女神として後世に伝わることになr」
「か、カズマさんってばちょっと肉付きよくなったんじゃないかしら! 心なしかそこはかとなくいい感じに見えるんですけど!」
「……太ったんだよ。アイリスとお茶会してたからんまいクッキーとかがどっさり用意されてて食ったらこうなっただけ。……じゃ」
「カ、カズマさん? 冗談きついんだからもぉ……ね、ねえカズマさん、冗談よね? 私、こんな薄気味悪い他人の家で野垂れ死にたくないんですけど! カズマさん? カズマさんお願いよ! 助けてかじゅましゃああああんっっ!」
さあどうしよう。
認めたくはないが実際俺は迷っている。
……いや、アクアをおいていくかどうかじゃなくて!
「うわあああああああっ! ああ゛ぁ……うぐっ……えぐっ……ぐずっ……」
「なあ、いい加減泣き止めよ。冗談だって言っただろ? おい、アクア! 冗談、冗談だからあんまり大きな声出すなよ! じゃないと警備兵がやってくr」
「おい、今こっちから女の声がしたぞ!」
「ほんとっすかマモン隊長? 俺には癇癪を起こした魔王様の声にしか聞こえなかったんすけど」
(ほらいわんこっちゃない!)
(ええっ! これ私のせいなの!? 確かに私が騒いだせいで寄ってきたんだと思うけどその原因を作ったカズマさんのせいだと思うんですけど!)
(しょうがないから隠れてやり過ごすぞ!)
(わかったわ! いつも通りカズマさんお得意のこざかしい手を使うのね! さっきは急に強い技を使ってたからびっくりしちゃったけどそれでこそカズマよね!)
(小賢しいとか言うなよ……潜伏)
魔王城ってのは非常に厄介だ。
ダンジョンと違って個としての強さもさることながら群としての強さが光る。
見つかったら最後、この迷路のような城で粘着質に追い回され追い詰められるなんてことがあり得かねない……
ナナシが直接教育したわけじゃないだろうからそこまで極端な怯えはないが、めんどくさいことになる前にずらかろう。
(よし、アクア、どっちの扉が正解だと思う?)
(もちろんこっちだわ! こっちからはかすかに香ばしい炒め物の香りがするもの!)
(よし、食欲に負けた駄女神はこっちついてこい!)
(なんでよぉ! 何で私に選ばせておいて別の方向選ぶのよ!)
そりゃ、幸運値低いおまえが選んだ方に行ったらひどく悪い目にしか遭わないだろうと思って。
そもそも俺と逆選ぶんだもん、100%最悪を選んでくれるこのアクアに選ばせてやることで最後に残ったやつが当たりという安定の信頼感。
この魔王城、ドアを開けた先が前開けたところと別のところにつながっているクッパ城の上位互換仕様らしい……
いくら勇者の気力をそぐトラップだからって、ここで生活してる魔族の職員の皆さんは不便してないんだろうか。
もしかして、社員証を持ってたらどこでも扉のように自分の目的の場所に直通か?
だから想像してた魔王城より配置されてる警備が少ないのか……
「ふいー。なんとか乗り切ったな」
「本当によかったわ……。前にキールのダンジョンで私のことおいていったじゃない? そのときの記憶がちらついて……冗談でもたちが悪いと思うんですけど」
「悪かったって。でも流石に魔王城においてくわけないだろ。一体人様の家でどんな迷惑やらかすか気が気じゃないしな」
「あの、私の心配じゃなくて魔王の心配をしてるように聞こえたんだけど」
「そうだよ? 魔王って意外と常識枠なんじゃないかって最近気づいたんだ……娘の話がないと。貴重な常識人仲間を守りたいと思うのは当然だろ?」
「ツンデレってやつよね? これってカズマさんなりのツンデレよね? そもそも異世界の常識が全然なってないカズマさんが自分のことを常識人枠だって思ってるだなんて、それこそウケるんですけど!」
やっぱりおいて行こうかな。
正直俺の幸運値があれば適当に扉開けただけで戻れそうな気がしなくもないし。
逆に疫病神アクアの幸運値が俺の幸運値を相殺してループを抜け出せないようにしてる気しかしない。
やっぱおいていこうか迷っているとアクアがじっと分かれ道の片方を見ていた。
「おい、そっちの方見てどうしたんだよ? うちの屋敷にいる幽霊みたいに変な霊でもいたのか?」
「いや、そうじゃないんだけどね……ねえカズマさん、私、こっちの方からなんとなく父性を感じるんですけど。たぶんこっちの方には娘の帰りを待つ父親がいる気がするの。ずっと歩いても人一人いないし向こうの方にいる人に聞きに行きましょうよ!」
「父性を感じるって何!? もしそれが本当だとして、魔王だろそれ。いやだよ、誰が好きで魔王のところになんか行くか、絶対めんどくさいことになるに決まってるてなわけでそっちには行かないからこっちいくぞー」
「なんで魔王に父性を感じるのよ。単純にへりくつこねて私のいうこと信じたくないだけでしょ。世の中には悪い人間がいるようにいい魔族の人だっているはずよ、こんなところで迷ってるより人に道を聞いた方が効率的なはずよ!」
「おい馬鹿! 一人で突っ走るんじゃない! 本当にそっちはやばい気がする! だって敵感知スキルビンビンに反応するんだ……!」
アクアが俺の忠告も聞かずに一人で突っ走る。
見るからに重厚で禍々しい扉……暗闇を見通すとかいってたけどこの禍々しい装飾が施された扉には何も思わないのだろうかこの駄女神。
そうして案の定、ドアの前には……
「よォこそ、魔王陛下が御前まで、ご案内いたしますよォ勇者と女神のお二方?」
「……なあ、ミツルギのことは送り届けてくれたんだよな? どうして……なんて意味のない質問はしないが、魔王城にいるときのお前ってどうも生き生きしてるよな」
「そうかのう? 単純に魔王の世話を押しつけられる人材がやってきたから喜んでるだけだと思うが」
「その押しつけられる人材ってもしかしなくても……」
「お前たちのことかな」
「なんで俺に魔王のこと任せようとしてんの? 確かにそういう名目で転生したけどさ、別に魔王の娘の話聞いたら別に敵対するほど凶悪な人って訳でもなさそうだし最終決戦する気はないぞ?」
「ちょ、カズマさん? 何言ってるの? 過去一番驚愕な言葉が聞こえてきたんですけど! 魔王を倒してくれないと私天界に帰れないんですけど!」
「別にいいじゃんか、魔王なんて倒さなくても。天界に帰りたかったらナナシにつれてってもらえよ」
「……確かにそれもそうね! やっぱり世界は平和が一番よ、争いは何も生まないわ!」
「というわけで俺らは今日のところは引き上げたいと思ってるんで、さっき俺を送ってくれた転送の魔法陣で送ってくれないですかね? もしかしたらめぐみんとかアイリスが俺のこと心配してあの魔法陣を使ってこっちに来るかもしれないし」
「その心配には及ばん」
「なんで?」
「某がお嬢様方に『サトウカズマは平和のために魔王と対談される道を選んだのだ。我が弟子が暴走しそうになったらよろしく頼むぞ?』と伝言をしたのでな」
「いや、そんな気さらさらないんですが!? なんでアクアを連れ帰るだけだったのにいつのまに俺は魔王と対談しなきゃいけないことに!?」
「まあまあ、彼も真面目で苦労人な面白魔人だ。気楽に話してみて、今後人類とどのような形で共栄していくかを話し合うといい。意外に面白いことになるやもしれんぞ?」
「俺は今まったくおもしろくないんですが!」
「では入るぞ」
「人の話を聞け!」
俺がそうナナシに言ったそのとき。
強大なオーラと言えばいいのか、部屋を包み込んでいた非常に息苦しい空気がこちらへ浸食してきた。
思わず喉をゴクリと鳴らし、そのオーラの発生源の方へ目をやる。
そこには絵に描いたような魔王。
人の形をした、しかし異形の角を頭部にはやした、王の風格が俺のことを鷹の目で睨み付けていた。
「おや、お客人か、それも人の」
「魔王様、先ほども言ったでしょう、私の弟子と女神友達が魔王城の見学をすると」
「ああ、確かにそうだったかな? して、名前はなんていったか……男、名乗ってみよ」
「カ、カズマです……」
「ああ、カズマ。思い出した、サトウカズマだ!」
「……何で魔王が俺の名前を知ってるんだ、ですか」
「なぜ? 愚問だな。娘の身辺情報をアップデートするのは父親としての責務だ。なあ、最近娘と距離感が近いようなサトウカズマくん?」
エリス様。
俺、平和な対談だって聞いてたんですよ。
ですが……もしかしたら久しぶりにお世話になるかもしれません。
次回?
ザ・プリンセシズ襲来。
魔王か、国王か、姫君か。
魔族か、人類か、共栄か。