魔王城の中で遭難したカズマとアクア。
なんと魔王城の扉は転移の術式が組み込まれている、一度使用したら出ることが叶わない極悪トラップだったのだ。
しかし持ち前の幸運値によって最短ルートで帰るための扉を選択。
……そして、なぜか魔王の前に到着したのだった。
<めぐみん>
「何をする! 君たちは紅魔族随一の魔法の使い手にしてナナシ師匠の一番弟子であり、大盗賊団の団長を務めるこの私を前にしているのだ! 礼節を弁えたまえ!」
「ならば私は下の者としてご乱心の団長を諫めるのが務め! 落ち着いてくださいめぐみんさん!」
「いや、紅魔族随一とナナシの一番弟子と盗賊団団長を加味しても私たちの方が立場が上なのでは? 確かにどうしようもなく厄介そうな人物ではございますがそれでも一国の王の立場を揺るがすなどありえ…………ナナシの弟子ならありえますか?」
くっ、なんですかこの王女様たち!
どうして高レベルである私より筋力ステータスが高いのでしょうか!
今行かねばきっと後悔する……そう、私の直感が訴えているのです。
具体的にいえば魔王を討伐した勇者の称号が奪われかけてるような。
「いくら師匠に言いつけられてるからといって、我が熱き心は止められない! 震えるぞハート、燃え尽きるほどヒート! おおおおっ 刻むぞ血液のビート!」
「この精密に操作された魔力……まさか、小規模の爆裂魔法を放つ気ですか!?」
「今更気づいても遅いですよ! 食らうがいい、我が新たなる必殺技、スカーレットオーバードライブッッ!!」
私のはったりに騙されたお嬢様たちが私から離れる。
かかった!
私はこの瞬間を待ち望んでいた!
解放された私を止められるものは何もいない!
待っていてくださいねカズマ、私が次なる魔王になるためにもトドメは待っていてくださいよ!
私は師匠の魔法陣の上に意気揚々と……
<カズマ>
「だぁかぁらぁ! 確かに魔王さんの娘さんはかわいいと思いますよ! でも結婚する気はないんですって!」
「つまりそれは結婚詐欺か! 我が娘を弄ぶなど言語道断! 今すぐに殺して……」
「流石、アクセル随一の鬼畜と悪名高いカズマさん! よっ、鬼畜の極み!」
「だああぁぁああ!! なんでアンタはそう娘のことになると話通じなくなるんだよ! あとアクア、そのアクセル随一の鬼畜と悪名高いカズマさんって呼んでた奴らは誰だ! 後でお前諸共ぶん殴ってやる!」
「本当に男の隅にも置けない狭量なやつめ……お前のような悪の極みに娘はやれん!」
「悪の代名詞な魔王様に言われたら俺はおしまいなのよ」
というか俺が別に付き合う気ないって言ったら『娘に魅力がないのか』って言うし。
魅力的な女性ですよって言ったら『やはり結婚したいと言うことだろう! 娘にふさわしいか……俺を倒して証明してみろ! 絶対負けん!』って臨戦状態に入るし。
もう、一体どうすりゃいいんだよ……
おい、そこの隅で面白そうにこっちを見てるナナシ、お前に言ってるんだぞ?
「……何だ、こちらに熱い視線を向けて? ……まさか、ぽっ///」
「ぽっ、じゃねーよ! 無表情で顔だけ赤く染めるその技術どうやってんだよ! 誤解されるからやめ」
「我が娘を差し置いて浮気か!」
「ほーらみたことか」
ナナシをジト目で見ると「くくっ、計画通り」と言いたげな表情……
謀られたか!?
まさかここまですべてナナシの台本通りだったってか!?
なんでそこまでして俺に魔王と関わらせたがるんだよ!
……とりあえず面倒くさいしアクセルの街にテレポートするか?
王都にテレポートの登録してなかったのが悔やまれるが、きっとウィズか誰かテレポートの伝手をたどれば王都に着くだろ。
まあ出費がかさむのは仕方ない。
「ちなみに、魔王城では転移の術式は使用しない方がいい。腕や足とお別れしたくなかったらな」
「……」
「ちなみに、ドアには鍵かかかっていないが、重量は片方で1トン。常人には開けない」
いや、アンタめちゃくちゃ軽々と開けてただろ。
もしかして某世界のように空気にプロテインが含まれてる系の世界線だったんですかね?
もしかしてこの扉はゾルディック家から拝借してたり?
逃げ道がないことに絶望して現実逃避しているとナナシが。
「さあ勇者よ! 魔王を倒して面倒くさい世話から私を解放するのだ! さすれば世界の半分をお前にくれてやろう」
「いや、魔王討伐したら世界の半分って、普通逆だろ。そこは魔王が『仲間になれば世界の半分を……』って言うべきところで、それで勇者が葛藤する様子を楽しむ嫌らしい遊びであって、どうして魔王を討伐したらもらえるんだよ。迷う余地ないだろ」
「いや、でも今のカズマをみてると全然魔王討伐に乗り気じゃない気がするんですけど。どちらかっていうと『世界の半分は多すぎるし、領地経営とかダクネス見てると大変そうだし、責任を負いたくないし、メリットよりデメリットの方が勝っちゃってるし、もう魔王サイドについた方がいいのでは?』って、そんな顔してるわよ?」
「ちょっと一回黙ってようかアクア。俺はテンプレにとらわれない男、サトウカズマ。正直今の魔王軍ってホワイトらしいし、殺しあいするより就職した方がいいんじゃねってなるのは普通だろ」
「就職先が悪の組織ってところに疑問を持ってほしいんですけど」
「何を持って悪とするか。人間は無垢な豚さんや鳥さんを殺戮して、その血肉を食い荒らし、食べれなくなれば廃棄する、食物連鎖という自然の摂理を破壊した傲慢な生物。しかし魔族は違う! そんな人間を諫めるために立ち上がった集団なんだ!」
「ものは言い様ね」
決めた、俺、魔王軍に就職するわ。
アクアに『今日から魔王さんと一緒に異文化交流的な名目で一緒に働かせもらう』って王都の連中に伝えてもらおう。
そうすればここは誰も攻め込まない安泰の地。
異形の美しいモンスター娘とキャッキャうふふ……という妄想はあるも、下手に死人が出ることもないで人魔大戦(仮)が終結するかもしれない。
妹を戦地に出さないためにも、これは必要なことなんだ。
決して俺が魔王軍に寝返ったわけじゃなく、あくまで人類にとって、よりよい解決の仕方を模索しているだけだ。
俺がここで立ち上がらなければ……
~以降、スーパー言い訳タイムにつきカット~
「というわけで、俺、魔王と一緒に酒を酌み交わそうと思うんだ」
「どういうわけか全くわからないんだけど。のじゃロリちゃん、カズマが壊れたわ」
「壊れたのう。闇落ちの勇者爆誕じゃな」
「いや、俺は何も壊れても闇落ちでも勇者でもないわ! 俺、気づいたんだ。魔王と戦うのはいいだろう。だが、何もその戦いの形式は殺しあいじゃなくてもいいってことに気づいたんだ」
女神二人が俺のことを何言ってんだこいつみたいな視線で見てくる。
ナナシさん……俺のことを魔王と命をかけて戦わせたかったみたいだがその手には乗ってやるもんか。
俺は、博愛主義者のカズマさんだ。
無駄な争いを避けて目的を成し遂げようとする俺はどうしたらわかりあえるかを考え……そして決断した。
「というわけで魔王! 同じ保護者ポジ同士、家族の愛について語り合おう!」
「魔王相手に一体何を言ってるのかしら、とうとう恐怖でカズマさんが狂ったわ」
「鮮血を狂い咲かせてほしかった。どうしてそろそろ最終巻のはずなのに運命の流れに逆らった動きをするのか……」
名付けて『
略してTKB!
ナナシが何か意味深なことを言っていたが、そんなことは気にせずに俺は魔王に目を合わせる。
さすが誰よりも娘を愛していると豪語する魔王様、俺の言葉の真意に秒で気づきやがった!
「俺の切り札はアイリス! マイシスターに決めた! さあ、お前の手札を見せてみろ!」
「……何を言うかと思えば。面白い。お前は同じ家族を愛するものとして譲れぬものがあるというところだろうが、だからといって俺に勝てる道理はない。想いが強くとも、そこに確かな積み重ねでしか手に入らないものがある。先攻は譲ってやろう」
魔王に促され、いざ俺が魔王に妹の素晴らしさを語ろうとしていたとき……
『エクスプロージョン』――ッッ!!
聞き覚えのある詠唱が聞こえた気がした。
どうして妹のことを話そうとしていたのにアイツの声が脳裏によぎるのかと、頭をぶんぶんと振り雑念を払い話そうとしたその瞬間だった。
1トンあるらしい重厚な扉が一つの魔法によって消し飛ばされ、それどころか俺たちの方まで向かってきて、その赤い熱風の嵐が爆ぜたのだった。
俺は幸運値のおかげでなんとか直撃はしなかったようだが、爆風は肌を焦がす感触と頭を打ち付ける堅い感触により視界はフェードアウト。
気づけばいつもの光景が目に広がっていた。
「……あの、カズマさん」
「何も言わないでください。まさか仲間に魔王もろとも消し積みにされるとは思ってなかったんです。いや、多分消し炭にはされてないですけど」
きっと今頃めぐみんは『あーっはっはっは! 我が爆裂魔法は世界一! 闇落ちした勇者と魔王を吹き飛ばしてやりましたよ!』とか言ってることだろう。
蘇生し終わったら泣き叫びながら許しを請うようなすんごい目に遭わせてやる!
次回
魔王めぐみんと勇者ゆんゆん。
かつてのライバルが雌雄を決するために戦いを繰り広げる……
なんてことがあったら面白いかも。