親馬鹿魔王と戦う勇者カズマ。
最後まで対話を試みようとしていたがそれは叶わず。
激しい爆裂魔法の嵐とともに表れた悪い魔法使いの横やりでカズマははかなく散ったのだった。
<カズマ>
「おおサトウカズマ! 死んでしまうとは何事だ! 仕方のないやつだな。お前にもう一度機会を与えよう! 再びこのようなことが起こらぬことをわしは祈っている!」
「いや、蘇生してくれたのはありがたいんですけど、あんたが何の準備もなしに魔王と一騎打ちさせようとしたのは事の発端で。そもそもめぐみんのことをしっかり管理してくれればこんな事にはならなかったんだが?」
「すまないことをした。某が弟子は想定の範囲を超えて知恵と実力を兼ね備えてしまっていたのが原因……実に誇らしい」
「本当にすまないことをしたって思ってるやつの言葉か!」
「いや、本当に想定外だった。まさかこんな形で運命が回収されるとは思わず」
実に反省の色が見えない言葉だ。
いや、表情を見ると割と真剣な顔つきだし、反省してるように見えなくもないけど……
でも運命が回収されるってどういうことだよ。
まーた中二病が再発した的ななんかか?
そんなことを思っているとナナシが。
「もともと、汝は魔王の背後をとろうと潜伏スキルを用い、猛毒の魔剣を突き刺しとどめを刺そうとしていた」
「何その暗殺者! 絶対俺じゃない!」
「そうよそうよ! カズマは確かにゴキブリみたいにこそこそと気配を消して活動することに長けてるけど、魔剣とか猛毒とか暗殺とか、そんな危ないことしようとするはずないじゃない!」
「そうだそう……だ……? いや、そうだっけ!? 俺ってそんなゴキブリみたいな悍ましい生き物に例えられるほど仲間からの印象が悪いんだっけ!?」
ここで同意しないと俺がそんな暗殺者のようなことをするとナナシのことを否定できなくなるから同意せざるを得ないんだが……
なんかアクアに言われた言葉がクリティカルヒット。
非常に傷ついた、おうち帰りたい。
「仲間にゴキブリと言われて傷ついているところ申し訳ないが、これには続きがあっての。潜伏スキルで背後に行こうとしたんだが、アンデッドに潜伏スキルが無効だということを失念していた汝はいたたまれないほどに、それはもうあっさりと殺害されてしまったのだ」
「なるほど! 確かにそれはカズマさんね! 普段はあくどい知恵が回るのに、いざ物事がうまくいってるときに痛いしっぺ返しを食らうのはカズマで間違いないわ!」
「おい、俺のことを何と思ってるんだよ。一回普段から痛いしっぺ返しをくらいまくりのアクアさん? 博愛主義者の俺に暴力を振るわせないように今の話を説明してもらおうか?」
散々言ってくれるアクアに指を鳴らしながら近づく。
俺の圧に若干びびったのかナナシの背後に隠れるアクア。
どうしてくれようかと距離を詰めながら考えようとして……ナナシの視線が俺ではなく別の方に向いているのに気づく。
一体何を見ているのか一瞬気になりチラリと視線を向けると……
「ふははははは! 我が名はめぐみん! 魔王としてこの世のすべてを爆裂せし者!」
「させません! 私は勇者の血を引いた王族……人類の希望としてめぐみんさんのことを止めないといけないのです!」
「己……お父様の敵!」
「かっこいいぞ! さすが俺の娘! その調子で俺の敵をとってくれ!」
……なんというかカオスである。
魔王を討伐し、次なる魔王として玉座に座り頬杖をつき、高笑いをしてるめぐみん、
めぐみんの前に抜剣し立ちはだかるアイリス、
家族を殺され復讐の炎を燃やすがごとく恐ろしい雰囲気を醸し出す魔王の娘、
そして娘の活躍を眼に焼き付けんとしている、ほとんど回復している魔王。
一体どこから突っ込めばいいんだ?
「……アクアを殴る前に聞いておきたいんだが、いいか?」
「よいとも」
後ろから「良くないわよ! 私がカズマの拳を受けるのは決定事項なの!? いやよぉぉおおっ!」とやかましい雑音が聞こえてくるがそれを無視して話を続ける。
「じゃあ……どうして魔王さん元気なんですかね?」
「それはもちろん某が回復させたからだ」
「なんで回復したの!」
「横やりで相打ちなど、某が求めていた結果ではない。某はもっと熱く繰り広げられる勇者と魔王の、世界の命運を別ける戦いを望んでいたのだ」
「いや、確かに俺も不本意だとは思うよ、ただの爆裂魔法一発で勇者と魔王の両方が倒されたなんて……。でもさすがに回復させる必要あったかな!」
「これでも形式美を重んずる邪神故」
「……もしかして、これ、俺がもう一回魔王と戦わないといけない感じっすか」
「もう一回というか、開戦前に両方戦闘不能になってしまったからの。やり直しの機会を設けるのが重要ではないだろうか」
「重要じゃないと思う」
そもそもどうしてこのナナシは俺と魔王をこうしてまで戦わせたがるんだろうか。
俺のことを勇者とか言うし……転成特典で自分を強化できるアイテムとか魔法なんて一切もらってない俺が、特殊で、奇異に見えて、特別に見えるだけなんじゃないか。
だとしたら本当に迷惑なんだが。
そんなことを思っていたら、急にナナシの様子が変わる。
怖いとか、恐ろしいとか、そういうものではない。
むしろ表情やら行動やら外見は何一つ変化がなく、いつもどおり。
ただ、なんというか、真剣さというか、言葉の重み。
それらが今まで以上に淀みなく、その一線が俺を見透かすように貫く。
「カズマ。佐藤和真。私は、原典の筋道をなぞらず己が自由のままに振る舞ってきた」
「お、おう、それはいつも見てるし、知ってるが……」
「しかし世界の強制力は物語の転機を歪みない方へと矯正する。物語の結末は勇者が魔王を討伐することで一点へと収束するのだ」
「物語の結末……勇者は魔王を討伐しましたって、そりゃまたラノベのテンプレみたいな展開だな」
「……なあ、和真。君は常人とは違う。王道より邪道を、真正面より搦め手を選ぶ」
「いや、選んでるっていうか、より簡単な方法があるならそっちを選ぶし、弱いからそういう手を使わざるを得ない状況がほとんどなだけで別に好きで搦め手が多いわけじゃ……」
「邪道とは人とは異なる視点で物事を見たかどうか、機転の結果であり、搦め手とは知恵の結晶である。……我々は常に世界に選択を迫られているとも言えよう。そして、その選択は無意識下で幸運値によって御されている」
「……物語とか、搦め手とか、選択とか、まるで統一性がない。なあ、結局何が言いたいんだ?」
俺はナナシにそう問いかける。
わからない概念だらけの語り口はめぐみんのようにただ単に中二病なだけじゃない。
そこには確かに何かを伝えたいという意思があって、でも一つ一つのピースがバラバラで何を言っているのかさっぱりだ。
「……つまり。私は思うのだ。今があるのは奇跡の連続であると。そんな奇跡の中心に位置するのは君だ、和真」
「もしかして、俺のことを褒め殺しにして何かしても許してもらえるように企んでるのか?」
俺が奇跡の中心にいるとか、正直言ってわかんないが、なんとなくそう言われて悪い気がしない。
でも、自覚もない自分がいきなりそう言われたってどう反応すればいいのかもわからず、茶化してみるがその顔は変わらず。
俺の瞳を射貫くその視線。
吸い込まれそうな青空の瞳に見つめられ、思わず硬直して息をのむ。
しばらくしてナナシさんがこう口を開けたんだ。
「今まで選択を違えなかった者よ…………
次回予告
人類魔族共通の敵。その敵の名はナナシ。
どっち!
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討伐
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共栄